愛媛県宇和島市中心部の工事現場でこのほど、鉄筋コンクリート造り 2 階建てビルを支えていた松製のくい約 300 本が姿を現した。松くいは長さが7.5mで末口が 26 cmとされているが事務所の撤去工事で建物を取り壊した跡の、約274㎡の敷地に300本以上撃ち込まれていたそうなのだ。コンクリート柱を支えていた基礎コンクリートの下の地下2mくらいから発見されたそうなのだ。私も若いころに宇和島で仕事をしていたので土地勘はあるのだが、現場は近くに辰野川が流れている地下水の高い地域で1.5mくらい掘削すると地下水が出てくるという湿地帯だというのだ。この取り壊された事務所は約 90 年前に施工されたものとみられ、当時の設計、建築技術を伝えるものとして関係者の注目を集めているそうなのだ。
この事務所が築っていたのは中世には海だったそうで軟弱地盤だったというのだが、更地にするために杭を引き抜いたところ健全な状態を保っていたという。この取り壊された建物は宇和島郵便局の電話分室として昭和5年に建てられたそうだが、電話交換方式の協電化により鉄筋コンクリート造り2階建てで施工業者によると構造計算書に7.5mの杭が使われたとあり今回の松くいと合致するというのだ。当時の逓信建築は逓信省において郵便・電信・電話・電気事業の局舎等の施設を、逓信省営繕課の官僚である技術集団らによって設計された建造物とされており、合理主義の建築という逓信建築は堅実で質高い標準設計・建築を数多く生み出し個性溢れる建築家を多く擁していたとされているのだ。
建物の杭基礎とは主に軟弱な地盤における構造物の建設において浅い基礎では構造物を支えることができない地盤の場合に、深く杭を打ち込んで構造物を支える基礎なのだが、支持方式によって支持杭と摩擦杭に分けられるのだ。支持杭では先端を地盤の支持層に到達させ主として杭の先端に上向きに働く先端支持力によって荷重を支えるのだが、一方で摩擦杭では先端を支持層まで到達させず主として杭の側面と地盤との間に働く周面摩擦力によって荷重を支える奉仕になのだ。摩擦杭は支持層がかなり深い場合に採用されることが多いことから今回発見された松くいは長さが7. 5 mということなので支持杭だと思われている。丸太杭を用いた工法は軟弱な地盤に丸太杭を打設することで構造物の沈下を防ぐ工法なのだ。
丸太杭による地盤補強は地盤を乱すことが少なくとてもシンプルな補強工法のひとつで、現在の地盤補強の中では低コスト工事に分類される工法といえるのだが、歴史的には古く紀元前 5000 年とされる杭上住居が確認されていて世界遺産として登録されているものもあるという。 またヴェネツィアも木杭を使用した歴史ある街として有名で、一般に木材は金属や石材に比べて腐食に弱いイメージがあるが地下水の水面より下層に埋まっている遺跡から、古代の木製品が比較的良い状態で発掘される例は珍しくないという。これは木材腐敗菌が好気性で生存や活動に酸素を必要とするためであるといわれているのだ。基礎としての木杭も適切に使用することにより十分な耐久性を発揮することが歴史的にも証明されている。
木杭を使用する場合には地下水面以下の位置に打ち込み杭が地下水の中に水没している常時湿潤状態を維持することが肝要なのだが、現在では常時湿潤状態が期待できない場合にはクレオソートの含浸など防腐処理をすることが望ましいとされている。現場で見つかった松くいが唯一の選択肢というわけではなく、腐りにくさという点で言えば松以外の材のほうが優れている場合もあるが木杭は地盤中に打撃によって貫入設置されるものであり、松は他の針葉樹と比較して密度が大きく硬いという施工上の利点があることから多用されているのだ。今回の建物の関係者によると空襲にも持ちこたえ公社化や民営化後も改修を重ねながら使われ続けていた建築物なので、土地の歴史に思いを感じると語っているそうなのだ。
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