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2024年01月29日
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 ダイハツは不正発覚の連続により生産を全面停止。
 不正の内容には検査基準クリアのために不正を犯す必要のないものが多数含まれているという。
 トップの意識と企業風土が相まって生み出された「不正」の構造を分析したリポートが下記。

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ダイハツの国内全工場が停止に
プレジデントオンライン  2023年12月27日
■「不正期間30年以上」という衝撃
 ダイハツ工業の認証申請に関する数々の不正行為(品質不正)が明らかになった。12月20日の記者会見に、トヨタ自動車(ダイハツの親会社)で製造技術を統括する中嶋裕樹副社長が同席したことは事態の深刻さを物語っている。不正発覚を受け、ダイハツは26日までに国内4つの全工場で生産を停止した。
 12月21日、22日、トヨタの株価は下落した。ダイハツの生産停止によって、わが国の自動車産業全体が受けるマイナスの影響は小さくはない。ダイハツの不正に関連して、同社から委託生産を受注しているスバルとマツダも新規受注を停止した。トヨタも一部車種の出荷を一時停止した。
 第三者委員会の報告書によると、30年以上にわたりダイハツは品質不正を続けていた。特に、2014年以降に不正行為の件数が増加した。その背景として、親会社であるトヨタの効率性を重視する姿勢が不正の一因になったとの見方もある。
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■日野、ホンダ、豊田自動織機でも相次ぐ
 ここに至るまで、品質不正などが発覚したのはダイハツだけではない。日野自動車ではエンジン認証不正問題が明らかになった。ホンダでは、自動車部品大手デンソー製の燃料ポンプの不具合によるエンスト発生の恐れが顕在化した。ホンダのリコール規模は全世界で約450万台に上る。トヨタグループでは、豊田自動織機にてフォークリフト向けエンジンの不正が発覚した。
 一連の不正問題は、わが国経済を支えた自動車産業の信用にかかわる問題とみるべきだ。今回の問題を機にわが国の企業は、一人一人の役職員が常識と良識に基づいて、社会的責任を確実に果たす組織風土の醸成を急ぐ必要がある。それができないと、わが国の自動車産業の信用は地に落ちることになりかねない。
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■日本の生産現場は「警笛を吹く人」が少なくなっている
 12月20日、ダイハツの品質不正問題の調査を担当した、第三者委員会は『調査報告書』を公表した。それによると、これまでに発覚したものに加え、新たに174件の不正行為が明らかになった。多くの品質不正には、現場を監督する係長級の役職が関与した。その結果、普通の従業員がやむにやまれぬ状況に追い込まれ、不正、不適切な行為が発生したと第三者委員会は指摘した。
 不正行為が明るみに出たのは自動車業界にとどまらない。電機業界では、不適切会計処理問題をきっかけに東芝の業績が悪化した。最終的に東芝は自力での経営再建に行き詰まり、投資ファンドを軸とする国内企業連合に買収された。残念だが、わが国の企業は、そうした教訓を活かすことができなかった。
 そこで共通するのは、実際の現場では、是々非々の考え方に基づいた行動を実践することが難しいことだ。わが国の企業は、常識と良識に基づき不正行為を指摘する人(警笛を吹く人、ホイッスル・ブローワー)が少なくなっているように見える。それが、「発覚しなければ続ける」という隠蔽(いんぺい)姿勢は強めたといえるかもしれない。
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■品質試験はあまりにも形骸化していた
 ダイハツの品質不正は、あらためて問題の深刻さを突つけたといえる。報告書の内容を見ると、不正は、本来では考えられないくらい多発し、しかも長く続いたとみられる。
 その代表例に“エアバッグのタイマー着火”がある。本来、エアバッグの作動制御は電子制御装置が行う。しかし、ダイハツは、装置が開発されていない段階で衝突試験を実施した。現場の担当者は、それをクリアするためタイマーを使って試験を実施し、認証申請を行った。試験速度の改竄、タイヤ空気圧の虚偽記載、試験データの書き換えなども行った。
 一連の品質不正の調査を進める中で、第三者委員会は3696人の役職員に対するアンケート調査を実施した。回答者は、問題が発生した原因を何と考えるか、15の選択肢から選んだ(複数の選択可)。回答の回収率は98.54%だった。かなり広範囲の調査を行い、その結果を公表した。
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■背景にダイハツとトヨタの「企業文化」の違いか
 公表結果によると、『開発スケジュールが過度にタイトになる傾向(計画の問題性)』との回答が2886人と最多だった。『公表された発売時期や開発日程遵守(延期不可)のプレッシャー』は2515人。『人員不足』は2074人、『社風・組織風土』が1734人だ。ダイハツの生産や試験などを担当する現場の対応力を超えるスピードで、新車供給が目指されたと解釈できる。
 なぜそうなったか、要因は多く思い当たる。見逃せないのは、ダイハツとトヨタ自動車の企業文化の違いかもしれない。
 トヨタは“ジャスト・イン・タイム”の生産を徹底することによって、事業運営の効率性を常に引き上げた。顧客が注文した自動車を、より早く供給するために、最短時間で効率的に生産する。ムダ、ムリ、ムラを徹底的に排除し、コストは可能な限り減らす。その生産方法は、生産ラインの省人化、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化などわが国経済の成長に寄与した。
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■「トヨタについていけない」という焦りがあったか
 ただ、アンケート結果などを見る限り、トヨタの持つ効率化のノウハウに、子会社であるダイハツの組織全体が本当に習熟したとは考えづらい。この点は、記者会見での発言からも読みとれる。トヨタ自動車の副社長は「現場の負担を大きくした可能性があると認識できていなかった」と述べた。
 自動車メーカーという同じ産業界に属する企業であっても、モノづくりの考え方の違いは大きいのかもしれない。トヨタはダイハツを完全子会社した。組織を傘下に収めはしたものの、そこで働く人々の基本的な価値観、行動様式を均質化し、高めることは難しかったということだろう。
 結果的に、ダイハツの現場では、「開発の遅れは許されない」という心理が先走ったとみられる。焦りを解消するため、一部で試験データの書き換えなどが起き始め、徐々に組織に広がった。行動経済学の理論にある“集団心理のわな(同じ考えの人が集まると、反対意見を言いづらくなる)”などの心理は高まり、不正に異を唱えることは難しくなった。
 特に、2014年以降、トヨタ自動車の世界戦略の加速に対応するため、現場では事業運営のスピードを高める焦りが高まっただろう。結果的に、コンプライアンス体制は機能せず、品質不正は常態化したと考えられる。
  ―  引用終わり  ―
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 上司からの命令をまじめに実行しようとするあまり、不正に走ったとしたら、東芝の会計不正にも通じる企業文化の悪弊といえる。
 上司は過去より高い目標を設定するのが当然であり、部下はそれを実現する手法を含め考えて実行するのが当然であるとする考え方だ。
 どうにも実行する方策がない場合、上司との約束を守るために不正を犯すという構造だ。
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…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ
「情報は上司自ら取りに行きましょう」
PRESIDENT Online
野地 秩嘉
ノンフィクション作家
トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」は、工場で常態化していた「7つのムダ」をなくすことから生まれた。その考え方は生産現場だけでなく、会議や資料作りが多い事務職の現場でも徹底されている。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第1回は「事務職にひそむ7つのムダ」――。
「トヨタの会議は30分で終わる」は本当か
 ある幹部に「トヨタの会議は30分なのですか?」と聞いたら、次の答えが返ってきました。
 「30分とはわれわれはまったく意識してなくて、15分で終わるものもあれば2時間かけるものもあります。
 大切なのは『この会議は何のための会議か』を明確にすること、会議の準備を綿密にすることです。参加者全員にテーマを徹底してから会議を設定します。例えば、情報開示、情報シェアのための会議なら長時間は要りません。ビジネスの今後を決定する重要な会議であれば、1時間みっちりやることもあります。
 トヨタの会議では、こんな成果が上がったと長々と話す人は見たことありません。逆に、こんなに困っていると話をすると、活性化しますね」
  ―  引用終わり  ―
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 困っていることを話題にすると活性化する企業文化であればトヨタ方式は成立する。
 困っていることを話題にすると、「それはあなたが考えること」とする企業文化で、納期と成果を厳守とすると、コンプライアンスが破綻する。
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「開発スケジュールが過度にタイト」
「責任者を置かず、現場に責任を……」
「週刊文春」編集部
2023年12月29日 文春オンライン
  …  (略)  …
社員が語った「不正が生まれるきっかけ」
 こうした組織的風土について、ダイハツの現役社員が「週刊文春」の取材に応じ、「“天皇”が作った体制こそが、不正が生まれるきっかけになったのだと思います」などと語った。
 “天皇”とは一体誰なのか。このダイハツ社員が語る。
 「トヨタの副社長を務めた後に2005年に“天下り”でダイハツに会長としてやってきた白水宏典(しらみず・こうすけ)氏。彼の影響が大きいのです」
「部署ごとの“タテ割り”がまかり通る事態に」
 白水氏は、会長在任中に軽自動車販売台数で30年以上トップランナーだったライバルのスズキを抜き去り、ダイハツを業界1位に導くなど功績ある経営者として知られた存在だ。2011年に会長職を退いた後も、2016年まで「相談役技監」という肩書きを持ち、事実上のトップとして同社に君臨していた。
 白水氏による“独裁”がダイハツの組織を歪ませ、不正の温床を作ったと前出の社員は語る。
 「白水元会長は生産技術部門を優遇する独裁政治を敷いてきたため、設計や実験部門を含み横断的に管理させる“プロジェクトリーダー”を事実上、存在させてこなかった。そのため、ダイハツでは部署ごとの“タテ割り”がまかり通る事態になってしまったのです。大きなプロジェクトなのに全体のとりまとめ役がいないというのは異常なこと。責任者を置かないということは上層部が現場に責任を押し付ける以外の何物でもありません」
  ―  引用終わり  ―
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 剛腕経営者ほど、企業体はコンプライアンス・リスクが高まるという構造が浮かび上がる。
 ダイハツの経営者、管理職諸氏は「やらねばならぬの精神」が招いた危機を、企業存続の危機として風土改革に取り組まなければ、不正体質は一掃されない。










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最終更新日  2024年01月29日 06時00分12秒
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