のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2005.02.09
XML
鏡姉妹の飛ぶ教室
佐藤友哉『鏡姉妹の飛ぶ教室』
~講談社ノベルス~

 2005年6月6日。いつものように蒼葉中学校2年5組で、友達とお話をしていた鏡佐奈。しかし、とつぜん大きな地震が起こり、校舎は地中に沈んでしまう。激しい衝撃。教室中のものが、人も含めて宙に浮いた。天井に激突。机や椅子などにぶつかって。多くの死者。教室の中で生きているのは、佐奈だけだった。
 廊下に出る。土砂が襲ってくる。そのとき、兵藤に声をかけられた。
   *
 祁答院浩之は、「闘牛」を狩るために、双子の姉、唯香とともに、蒼葉中学校に潜入していた。しかし、大きな地震に襲われる…。
   *
 江崎彰一は、痛みを感じない男だった。痛みというのがどんなものか、「実験」もしていた。
 そんな彼のもとに現れた、地震で命を失わなかった女性、鏡那緒美。饒舌をふるう彼女は、江崎に「憑く」と言う。
   *

 地震で滅茶苦茶になった「馬鹿げた世界」で彼らは出会う。

 キーワードは、「本気」。
 やる前から自分にはできっこないと言い聞かせて何もしない人間。努力など無駄で、人間は生まれた瞬間から優れた人間と駄目な人間の二者にはっきり分けられるのだと考える人間。努力は全てを可能にすると信じる人間。彼らの論争。
 私は、宇沙里さんの思想に惹かれるものを感じた。
 妙子さんの発言は、真実を射抜いているところもある。どんなに頑張っていても報われない(ように見える)人もたしかにいる(と思う)。かっこ書きにしたのは、やっぱり頑張ったら、結果は出なくても、その人の生き方の中ではたしかに何か得られるものがあって、報われないなんてことはない、とも思う(信じたい)から。
 唯香さんの発言(180頁)は、だから胸にとどめておきたい。いつからか、私はそういう考え方をしながら生きてきているけれど。
 さて、本書は、まず佐奈さんの一人称からはじまる。浩之さんたちの視点で語られていく節もある。それらが混在していて、三つか四つほどの視点からなっている。
 スプラッタ色が強い。江崎さんの「実験」は、最初の一例を見ただけで、「ああもうこれは読めない」と、数行だけと読み飛ばした。そこも強烈だったけれど、自然災害や人為的なもので、大量に人が死に、しかも内蔵えぐりだされたり脳が飛び出したりと、惨憺たる描写。
 なのに、なのに、11章は、「良い」方向に話が向かっていくのだもの!なんだかじーんとした。
   *
 なにってかにって佐藤友哉さんの新作です。とても楽しみにしていた。とても楽しめた。唯香さんの授業、そしてその後の「夏休み」、それに疑問を抱き始める村木くんといったあたりは、いろいろと考えさせられた。私は決して自分が強い人間だとは思っていない。むしろ、弱いと思っている。「強い」人間、「弱い」人間、それってなに?という議論が展開される。最終的な結論はともかくとして、やっぱり唯香さんの言葉には頷いた。

   *
 追記。66頁の、「もーしもーし、ベンチで囁くお二人さん」の元ネタが分からない。分かる方、教えてください。

ここ最近、吉本ばななさんの文庫や、200頁程度の新書を読みあさっていたので、二段組332頁の『鏡姉妹の飛ぶ教室』を読むのには思いの外時間がかかった。1頁1分弱、といったところか。まあ、いつもの読書スピードだけれど、一気に読むのが久しぶりだから、余計にそう感じたのだろう。

昨日書いた『色彩』について、指摘をいただきました。オングストロームというのは長さの単位で、100億分の1mだそう。なぜ波長が長さの単位で表されるの?と思ったのだけれど、そのあたりも説明してもらった。光というのは、波で、振動している。で、光が一回振動するときにどれだけ進むかが光の波長、だと。(一時ここに思ったことを書いたのですが、誤解を招くおそれがあるとの指摘を受けたので消しました)
というので、また一つ賢くなりました。久しく理系の知識にふれていないので、『色彩』を読んだのはなかなかよい経験だったととらえることにします。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.10.15 18:05:58
コメントを書く
[本の感想(さ行の作家)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 第2部第…
のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 脳科学に…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: