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2008.10.14
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dans Pierre Boglioni et.al. ed., Le petit peuple dans l'Occident medieval. Terminologies, perceptions, realites , Paris, 2003, pp. 19-39.

 今回は、『西欧中世の下層民―その用語、知覚、現実』より、ニコル・ベリウ「13世紀の『身分別説教集』における下層民」を紹介します。
 ベリウは13世紀の説教を専門に研究している方で、本稿では、13世紀に記された「身分別説教集」を手掛かりに、その中に描かれた下層民の多様な姿を示しています。
 では、本稿の構成に従いながら、内容紹介をしていきます。

[序]
 6世紀のグレゴリウス大教皇は、その『司牧規定書』の中で、聴衆の質にしたがった説教をするように述べています。ただ彼は、喜んでいる者、傲慢な者、正直者などなど、個人の内的状況に重点を置いていて、社会的境遇による分類はあまりありません。
 それから6世紀後の12世紀には、説教師の手引きの中で、聴衆を社会的身分で区分する書物が現れます。ホノリウス・アウグストドゥネンシスによる『教会の鏡』に収録された説教素材と、アラン・ド・リールによる『説教術大全』の二つです。
 本書の対象は、この流れの中に位置づけられる、13世紀に書かれた、次の3つの「身分別説教集」です。
・ジャック・ド・ヴィトリ『俗人向け説教集』…74説教。聴衆を約30に分類。
・ギベール・ド・トゥルネー『教義の初歩』( Rudimentum doctrine )…96説教。聴衆を35に分類。大部分はジャックの剽窃。
・アンベール・ド・ロマン『説教大全』…その内、あらゆる状況・聴衆を前にした説教師への助言、100章。
 これら3つの著作の中で、下層民はどのように知覚されているか―それを示すのが、本稿の目的です。

 なお、ちょっと付け加えておきますと、中世の説教集の大部分は、典礼暦にしたがった構成をとっていました。どの日曜日はどのテーマ、どの祝日はどのテーマといった風な構成ですね。一方、聴衆の身分にしたがって構成された「身分別説教集」の数は少なく、上に挙げた12世紀の2つと、13世紀の3つ、あわせて5つの著作というのが定説になっています。その一方で、アランたちの著作は厳密には「説教集」じゃない、説教師が説教するときの理論的なマニュアルだという説もあり、そう考えると厳密な「身分別説教集」はもっと少なくなることになります(私は、こうした先行研究を受けて、厳密な「身分別説教集」はジャックとギベールのだけだとさえ考えていますが、ホノリウスとアンベールのは原典にあたっていないので、保留もしておかなければなりません)。

<下層民の呼称>
 この節では、下層民を示すいろいろなラテン語の語彙が紹介されていますが、細かいので省略します。

<3つの史料における[社会的身分の]分類>
 まず、箇条書きにして、いくつかの社会的身分の分類方法を示しておきます。
・聖職者/俗人の二分法
・霊的尺度による区分…既婚者/寡婦/処女など
・3機能論(祈る者/戦う者/働く者)
 それでは、下層民はどのように位置づけられるのでしょうか。ここでも細かくは書きませんが、大きく二つのポイントがあります。一つは、なんらかの形で権力者の監督(保護)の下にある人々、ということ。もう一つは、しかし彼らは救済の観点からは積極的に評価されるということです。

<概念の断片>
 この節では、具体的にいくつかの下層民について、3人の説教師たちがどのような目を向けていたかが論じられるので、興味深かったです。
 まずアンベールは、都市の貧しい女性を厳しく非難します。彼女たちは自分のためや子どもを守るためなどに魔術を使い、貧乏だからといって隣の人の土地で家畜に食べさせたりと、けしからんと言うのですね。
 ジャックは、下層民がある種の犠牲者だという視点も示していて、無茶をする権力者を非難します。
 下男・下女というカテゴリも明確に考えられるようになり、ここでは彼らに対する説教師の批判が紹介されています(主人が貧者にする施しを横領する、などなど…)。
 批判を紹介する部分の最後には、様々な労働者が挙げられています。農民は土地の境界線をごまかしたり十分の一税を払わない、職人はだましたり盗んだり、商人はお客さんをだまし、船乗りは海賊するなどなど…。

 といって、彼らには批判的な目ばかりが向けられたわけではありません。「手の労働」は、救済につながるという、上でいえば「労働者」の立場を肯定する言葉もありました。

<結論>
 結論の部分では、これらの「身分別説教集」で示された思想が後にどんな影響を与えたか、それを測るのは難しいとしながらも、少し例が示されています(ここでは略)。
 ここでは、説教師の使命として、3つが指摘されているのが興味深かったです。それは、権力者の行きすぎを非難すること、下層民も救済されるということを彼らに教えること、そして、各々の身分には固有の悪い行いがあるので、それらを矯正すること、です。

   *   *   *

 本稿の著者Nicole Beriouについても、その経歴は分かりませんが、その著作はいくつか読んできています。
 一番お世話になった文献は(マイナーな方ですが)、
・Nicole Beriou et Francoise-Olivier Touati, Voluntate Dei Leprosus. Les Lepreux entre conversion et exclusion aux XII eme et XIII eme siecles , Spoleto, 1991.

 割といろんなところで引かれている文献は、
L’avenement des maitres de la Parole. La predication a Paris au XIII e siecle , Paris, Institut d’Etudes augustiniennes, 1998, 2 vol. (these de doctorat d’Etat, publication integrale du tome II, 954 p.). Prix Gobert, 2000.
 こちらは部分的にコピーしたのですが、ほとんど読めていません…。

 なお、ヤフーでNicole Beriouで検索すると、現在の所属や著作リストを紹介しているサイトにたどり着けました。

(参考文献)
 中世説教に関する研究文献を挙げると煩雑になるので、上で紹介した中でも持っている史料についてだけ挙げておきます。
・Alan of Lille, (trans. by Gillian R. Evans), The Art of Preaching , Kalamazoo, 1981
 →上に挙げたアラン・ド・リールの『説教術大全』の英訳。
・St. Gregory the Great, (translated and annoted by Hanry Davis), Pastral Care , Newman Press, 1950
 →上に挙げたグレゴリウス大教皇の『司牧規定書』の英訳。

 ただ、1冊、ブログでも紹介したことのある説教関連の文献はこちら。
・D. L. d'Avray, The Preaching of the Friars. Sermons diffused from Paris before 1300 , Oxford, 1985 (reprinted 2002)





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Last updated  2008.10.14 07:19:35
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