池上俊一『少女は、なぜフランスを救えたのか―ジャンヌ・ダルクのオルレアン解放―』
~NHK出版、 2023
年~
NHK出版から刊行が始まった新しいシリーズ「世界史のリテラシー」の幕開けとして刊行された1冊である本書は、西洋中世史家・池上俊一先生による、ジャンヌ・ダルクの評価・意義を解説する1冊です。
160
頁弱と、とても読みやすいつくりとなっています。
本書の構成は次のとおりです。
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はじめに
ジャンヌ・ダルク略年譜
第1章 事件の全容―ジャンヌ・ダルクはいかにしてオルレアンを解放したか?
第2章 歴史的・宗教的背景―なぜ「辺境の乙女」にカリスマが与えられたのか?
第3章 同時代へのインパクト―ジャンヌの奇跡は時の権力者たちに言い知れぬ「動揺」を与えた
第4章 後世に与えた影響―政治、宗教、文学、芸術。フランス国民の記憶に深く刻み込まれた理由
おわりに
参考文献
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各章のタイトルが、短い見出しとやや長い副題となっていますが、本論の小見出しも同様のつくりになっていて、見出しだけ辿っても内容のイメージがわきやすいです。
なので、この記事ではごく簡単にメモ。
第1章はオルレアン解放・シャルル7世戴冠までの百年戦争の流れをたどります。
第2章は、あらためてジャンヌの生い立ちを確認したうえで、本書の主題である、なぜ、普通の農家の少女に、不利にあったフランスをイギリスに対する勝利に導くことができたのか、を考察します。本書の中でもっとも興味深い章でした。
第3章は、シャルル7世戴冠後、ジャンヌの助言を聞かなくなり、彼女が裁判にかけられ処刑されるまでの流れと、その後の「復権裁判」についてみていきます。
第4章は、表題通り、叙事詩、舞台などで描かれたジャンヌや、 1920
年の列聖など、後世への影響をたどります。
本書は、あえていえば百年戦争を勝利に導いたジャンヌに関する「事件史」ですが、池上先生による方法論による著作 『歴史学の作法』(東京大学出版会、 2022
年)
で強調される文化史・社会史の視座も大切にされています。単にジャンヌ個人の資質を強調するのではなく、同時代の女性の役割、騎士道文化などをたどりながら、彼女がカリスマ性を得た理由を考察する第2章に、それは顕著だと感じましたし、また事件史もここまで面白く叙述できるという好例だと思います。
面白い1冊でした。
(2023.07.06 読了 )
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