ここは仙台市青葉区国分町の「炉ばた」(加藤潔店長)。「炉ばた焼きじゃなくて、炉ばただでば」と、かすりのもんぺをつけた奥さんの加藤和子さん。「ここは人のぬぐもりがあんでねえの」
この「炉ばた」、造り酒屋「天賞」の会長だった天江富弥さん(五十九年死去)が昭和二十五年に開いた。”天賞”の売り上げを伸ばすために富弥さんが考えたアイデアだった。囲炉裏の周りを木のカウンターで囲む店内は、広さ約三十平方メートルで十八人が座れる。満員になるとちょっと窮屈だが、「そごは”そですり合うも他生の縁”て言うじゃない」と和子さんは笑う。
酒や料理は、囲炉裏の前に座った和子さんが、約一メートルの柄のついた、スプーンを大きくしたような「ぼっけべら」(ドジョウをすくうへらで他店では使っていない)で、「はいよ」とよこしてくれる。このスタイルをまねして全国に広まったのが「炉ばた焼き」だ。”炉ばた”は商標登録されてあるため、よその店では「炉ばた」の名称は使えない。
当時囲炉裏の前に座って客の相手をしていた富弥さんは、お客さんから”おんちゃん”と呼ばれて親しまれていた。おんちゃんはしゃれ者。京都の造り酒屋で修業している時も、花柳界に顔が利く粋人だった。そんなおんちゃんの話を聞きたくて、お客さんは「炉ばた」に足を運んだ。
今、囲炉裏に座っている和子さんも負けてはいない。「東京弁で”そうですね”は、津軽・南部・仙台弁で”んだっきゃ、ほだへ、そっしゃ”と言うのよ。私は四カ国語をしゃべれるよ」などと言っては客を喜ばせる。ある常連客は「酒はうまいし、料理も珍しいけど、何か言うとポンポン返事を返すおかみさんの話が面白い」と言う。
料理もいろいろある。そばの実を雑炊にした酒田の「むきそば」。ハタハタの入った汁「しょっつる」「きりたんぽ」は秋田名物だ。壁には、みの、輪かんじきが掛かっており、雪国の昔風の家を思い浮かばせる。「炉ばたは東北の博物館だ」という客もいた。
出店当時からのスタイルを踏襲している加藤夫妻にも一つだけ気掛かりなことがある。「この辺も家賃が高くなって、店を続けるのが大変になっている人もいるようです」
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