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日々の診療のなか、患者さんからきついことを言われることも、やさしい言葉をかけられることもあります。外来でいつまでも印象に残るうれしい一言はこんな感じです。「先生お休みあるの?私2時間待っていたけど一回も外に出てこなかったから仕事しっぱなしでしょ?」と、めまいで通院中の67歳女性。「先生にやめられちゃ困るよ。」と、中咽頭癌の術後でフォロー中の52歳男性。「おかげで3年寿命が延びたよ」と、副鼻腔癌術後の69歳女性。「せんせいありがとうよくねむれるようになったよ」とアデノイド術後の5歳男児の手紙。「うれしいなあ、鼻がなおった」と、蓄膿術後の49歳男性。「先生に任せてよかった」と甲状腺癌術後6年、妊娠された37歳女性 その他にも、たくさんの患者さんの言葉をおぼえています。 こんな何気ない一言が、我々医師が崩壊する医療現場から逃げ出さずに踏みとどまっている原動力となるのです。崇めて欲しいと思って医師をやっているわけではありませんが、患者さんの感謝には、それ以上の情熱と注意力をもって答えるべきだと思っています。それは、医師としてというよりは、一人の人間として当たり前のことです。 明日は腫瘍専門外来。またがんばってしまうのでした。
2007.11.28
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さて、前回のお話では、混合診療が導入されると良いのか悪いのか、どちらが正しいか判断に迷うというところでした。新聞や医療系ブログ、その他いろんなところでこの問題は議論されています。医師の中にも賛成派、反対派がいて、専門家の見地からも意見が分かれていることが判ります。 head&neckの立場は、一部分で賛成ですが、政府の諮問機関が導入しようとしている混合診療には反対です。その理由を以下に述べます。 医療を産業として捕らえるなら、非常に専門性の高い産業です。その内容は、医療を生業として初めて理解できるもので、一般の方の知識と、専門家の知識にこれほど隔たりのある分野はそうはありません。さらに、その結果が人の命に直結することもあり、生半可な知識はかえって有害なことさえあります。 現在、日本の保険医療は政府の定めた「保険点数」というもので厳密に管理されています。皆さんが医療の値段を気にせずに病院にかかれるのはこの制度のおかげで、治療が終わった後には少なくとも決まった額の請求のみで、法外な治療費をとられることはありません。つまり日本では、治療という商品を購入するにあたって、それが正しい値段かどうかを考えずに済むシステムになっています。 技術というものに、値段をつけるのは非常に難しいことです。その盲点を突いて、国は医療者の技術料を不当に低く抑え、目に見える薬価や器械は値段が高いという構造になっています。30兆円を超える日本の医療費のかなりの部分が、こうした理由で製薬会社や医療機器メーカーに流れているのです。まずは、この構造を改善しないと、国民医療費は下がりません。それに、混合診療を導入すると、もともと不当に抑えられている技術料が上がることが予想されるだけでなく、高価な材料や器械を使えば、その分の請求が患者負担になることが考えられます。すでに歯科の分野ではそうなっており、例えば保険の利く金属の歯は安いが、金歯やセラミックの見栄えのよい歯は高いといった現実はご存知だと思います。概算ですが、保険で使える前歯は5000円、セラミック製で普通の歯のように見えるものは5万円超です。それぐらいならと思うかもしれません。ところが、心筋梗塞のさいに使うステントや、脳動脈瘤につかうコイルは、高いものだと50万円以上するものもあります。head&neckの分野でも、人工の骨パテは一回の手術で使用する量を値段にすると30万円を超えます。こういった高価な材料を使わずに治療をするというのは、現在の医療水準から10年も20年もさかのぼることになり、当然治療成績は落ちます。ですから、いますぐ混合診療を導入して、患者さんに選んでいただくといっても、自分の命がかかっている以上は高いものを選ばざるを得ない状況が生まれます。 さらには、手術などの治療の値段についても、妥当かどうか判断する材料が、患者さんの側には極端に少ないのです。これは情報開示以前の問題で、医師と同等に判断するためには医師と同じか、それに近い専門知識が必要なのですから、当たり前のことです。逆に言うと、皆が医師の技術料を正しく評価できるなら、皆医者になれます。結局のところ、医師や医療の技術の評価を適正に行えるのは、医療者以外にないのです。それに加えて、日本の医師数は諸外国に比べて極端に少ないので、腕のよい医師に患者が集中すると、否応なしに医師の奪い合いになり、その医師の手術料が高騰する可能性があります。 混合医療を導入する前に、まずは、ばかばかしいほど高い医療機器の値段を適正に下げ、諸外国よりも高価な薬価を抑えなければなりませんが、こういった会社には天下りの職員がいますから、なかなか切り崩すことが出来ないということを、一般の皆さんは知っていおいたほうがよいと思います。 現在の医療制度が限界であることは明白です。以前、head&neckがまだ研修医の頃、ある会社の社長さんが入院され、こんなことを言っていました。「わしが若い頃から苦労してお金を溜めたのは、病気になったときに良い医者にかかっていい治療を受けたいためだ。なにも他の人のが治療を受けるのを邪魔しようなんて思っちゃいない。なのに、なんでそれが許されないんだ?」確かに一理あるとは思っています。しかし、現在の日本の医療の構造は、それを許してなおかつ皆が平均の医療を受けれるような制度になっていないのです。 混合診療を無理なく導入するためには、上に述べたような問題を解決してからでないと、アメリカ医療のような、金持ちだけが医療の恩恵を受けられる社会になってしまうと思うのでした。
2007.11.26
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最近、肝炎の治療法についての混合診療を認めなかった厚労省を違法とした判決が出てから、混合診療についての意見は医療系ブログのみならず、新聞などでも話題に上っています。医療関係者でない人は、そもそも混合診療ということ自体がよくわかっていない方もいて、先日入院されていた若い患者さんは、「日本の医療って保険が利くんですよね?なのにこの病院を退院するときに明細書に{自己負担金}ってあるのは何ですか?これって混合診療を勝手にやってるんじゃないですか?」とおっしゃいます。・・・それは寝間着代とか、個室代とか、病気に関係のないところでの請求ですよと言ってもどうにも納得いかないようです。 一般の方にわかりやすく説明すると、基本的に医療費というのは、現在では高度先進医療等の例外を除いて、公的負担が7割、自己負担が3割です。ただし、医療と関わりのない食費、部屋代、テレビ代、電話代等は別に請求することが認められているのです。 …話しが逸れました。混合診療についての意見はいろいろあるというところです。大きく賛成派と反対派があります。ごく大雑把に整理すると、反対の方の大きな声は ○混合診療になると高度な医療が民間保険会社に良いようにされるからだめだ。 ○貧富の差による医療の質の差はいけない。 賛成の声は ○民間保険など使わず患者の自費ですれば問題ない。必要なことがお金を足してできるのなら結構じゃないの。 といったところになるでしょう。さて、どちらの意見が正しいのでしょうか? 次回に続きますが、head&neckの意見をふまえて記事を書くつもりです。よく考えて欲しいのでした。
2007.11.23
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医療現場の厳しい現状はあちこちで話題になっていますが、最近、とある医師が亡くなりました。これがすぐさま過労死であるということにはなりませんが、30代の働き盛りの医師が仕事場で逝き、その前後の労務環境が苛酷であったことは事実であると思います。「犠牲」http://blog.m3.com/nana/20071120/1以下、全文を引用いたします。身近な医者を、2人亡くしています。一人は約10年前。当時30代の、先輩医師です。研究に、臨床に、非常に忙しくなさっていました。たまにご連絡を下さる時は、決まって深夜2時3時のメールでした。学生時代は体育会でご活躍された先生で、人間?と思いたくなるようなタフさと、ひょうひょうとした笑顔を併せ持った爽やかな先生でした。大学病院勤務時代の夏、当時研修医だった私たちを集めてナイター見物に連れて行って下さったことがありました。外野席で、ビールを飲みながらハンバーガーとポテトをほお張ってみんなでひゃあひゃあ言っていたら、先輩だけ眠ってしまったのを、今でも覚えています。その日も、病院で夜遅くまでお仕事をなさっていました。術後の患者さんが落ち着くのを見届けた後、0時過ぎから論文の添削を始めたところまでは、他の医師が見ていました。翌朝、出勤してきた同僚医師が、医局で倒れている先生を見つけた時には既にお亡くなりになっていたそうです。葬儀には、婚約者の女性は出て来ることができなかったと、後で聞きました。今度は、友人医師を亡くしました。彼女も、30代です。同じ職場の上級医師が、過労でその病院に入院中でした。元々、一人が過労になるような労働環境ですから、多くをお話しする必要はないでしょう。一人が入院・休職しても、現在の医療事情では代替要員は派遣されませんので、残ったドクターたちは、目も当てられない忙しさでした。緊急opeのある科の医師で、毎日遅くまでopeをした上に、夜中も容赦なく呼び出されていました。「過労だけは気をつけようね。壊れる前に、逃げようね」と、お互い言い合っていたのに・・・その日、彼女は当直でした。翌朝、交代で当直に来た若い先生が当直室に入ると彼女は机にうつ伏せになった状態で、亡くなっていたそうです。大きな悲鳴を聞いて、一番に駆けつけた人が何と過労で入院中の、彼女の上級医師でした。その先生は、自分が休職したからだと自分を激しく責め、入院先も変えた上に、退職されてしまいました。残った同じ科の先生たちも、全員がご自分を責め続けています。このブログの主催であるなな先生は、「二度と犠牲者を出したくありません」と締めくくっておられます。 言葉もありません。 でも、次はわが身かと感じることもある今日この頃でした。
2007.11.21
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2007.8.4のエントリー(http://plaza.rakuten.co.jp/otohkmd/diary/200708040000/)で、「ブランド医師結集で再生 新院長が人脈をフル活用」 というニュースを取り上げました。内容を要約すると、以下の通りです。佐野市民病院は、年間八億-十億円の赤字。二十九人いた常勤医は一方的に減り続け、今年三月には残っていた常勤医師八人が全員退職するという異常事態に陥った。四月に就任した福光正行院長は、人脈を最大限駆使し医師勧誘作戦で、知名度の高い非常勤医師を集め、経営改善、患者の呼び戻しを図った。 経営危機が続いている佐野市民病院に患者が戻り始めた。 これに対するhead&neckの意見は、 いわゆる診察費や医師の待遇等の経済の問題がごっそり抜け落ちているということです。日本の保険制度では、新米医師が診察しても、カリスマ医師が診察しても値段に変わりはありません。さらには、一日に診察できる患者数は限られていますから、この方向性は病院の赤字回復に直結していないどころか、予約制を導入することによって、さらなる赤字を抱える可能性もあるのです。院長先生の人脈と説得で有名医師が集まっても、十分な待遇と設備を提供できなければ医師は去っていきます。常勤ではなく非常勤医師に有名な医師が名前を連ねるところにからくりがありそうですが、長続きするかどうかを見守りたいところです。 もし、この病院が今の方向性で失敗したときにマスコミに記事にして欲しいのは、こういったすばらしい医師を確保し続けることの困難さ、そしてそれが出来ない日本の制度の矛盾です。しかしながら、これまであまりそこのところを掘り下げた報道にほとんどお目にかかったことはありません。 逆に、この病院の方式が成功して、病院が黒字に転換したならば、やはり医師確保の秘訣、内情等を、色眼鏡のかかっていない正確な情報として報道していただきたい。 というものでした。さて、毎日新聞 2007年11月9日より。佐野市民病院の経営問題:指定管理移行、市が条例提案見送り /栃木 ◇決算2億5884万円損失報告 佐野市は8日、同市民病院の今年度医業収益が予算を大きく下回り、2億5884万円の損失が見込まれることを市議会全員協議会に報告した。同市は今年度当初予算で、過去最大の9億2500万円の運営費補助金を赤字補てんのために計上したが、さらに損失相当額を12月補正予算に追加する。同病院は指定管理者制度への移行による経営立て直しを目指しているが、制度導入のための条例改正案の12月定例会への提出は、9月定例会に続き見送られることになった。 佐野市民病院の今年度病院事業決算見込みによると、医業収益が予算を3億4659万円割り込み、医業外収益を加えた事業収益全体でも予算を3億5181万円下回ることが確実となった。これに対し、事業費用は対予算比9296万円の減で、純損失は2億5884万円と見込まれる。 最大の誤算は、医師不足による入院収益の落ち込み。予算では1日平均の入院患者数を130人と見込んだが、上半期実績は68人にとどまり、通期の収入は予算を3億1219万円下回る見通し。 一方、条例改正案の提出見送りは、指定管理者候補の都内の医療法人との事前協議が整っていないため。佐野市は当初、来年4月の同制度への移行という目標から逆算し、9月定例会での関連条例改正、12月定例会での指定管理者の議決--との移行行程を示していた。 この日の全協で、市側は法人側との交渉状況について「細部を詰めており、話せる段階ではない」(総合政策部)と述べ、なお合意に達していないことを明らかにした。赤字拡大に加え、作業スケジュールの遅れで、議会内には移行目標の実現を不安視する見方も浮上している。 ・・・予想通り、更に2.5億円の赤字増大ですね。皆さんはどう思われますか? 常識で考えると、入院治療を担う常勤医師の待遇を良くせずに、外来診療のみを行う非常勤医師を増やしてうわべのブランドを装っても、病院の経営がよくなるわけは無いのです。 この病院の行く末を注意深く見守るべきだと思うのでした。
2007.11.20
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head&neckは大きな病院に勤めていますから、よその病院で手術を勧められたものの、不安になって受診される患者さんが結構大勢お見えになります。元の病院から紹介状を持って来る方、内緒で受診される方様々です。話を聞いていくと、「出来れば手術せずに治したいので・・」とおっしゃる方がかなりの高率で見受けられます。 確かに、医学の進歩により、昔は手術しか方法が無かったものが、薬やその他の治療法で治まるようになった病気もあります。それでも、手術でしか治らない病気は今なおたくさん存在しています。誰だって手術なぞ受けたくないことは百も承知です。それでも手術を勧められるのは、それを行うメリットがリスクを上回るからに他なりません。さらに付け加えておくと、手術をせずに治るというデメリットは意外にたくさんあるのです。どちらがいいか、患者さん自身で決めてくださいというのがインフォームドコンセントのあり方ですが、上に述べたようなことが背景にあり、予想外の危険をはらんでいます。 病気は患者さんにとって、自分自身のことですから、自分で決めたいとおっしゃる考え方は否定しませんが、ある日いきなりやってきた病気について、付け焼刃で学んでも、毎日その病気と向き合う専門家である医師の知識にかなうわけはありません。head&neck自身は、説明をするとき、一般的なメリットとデメリットを明確に述べた上、「もしあなたが自分の母だったら、父だったら、子供だったらこうする」という意見を必ず真剣に考えて述べます。そこには臨床医としての誇りと医者としての矜持を持っています。 こういう話し方は、おそらくエビデンス重視の一部の医師には受け入れられないことも判っていますが、結局のところ、信頼の気づけない医師‐患者関係では良い治療は出来ないと思うのでした。
2007.11.19
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前回出したような案を制度に反映させる場は、現在、医療側は持っていません。医師会とは、建前は医師全員の会であっても、実質は開業医の利権団体で、医療全体を見据えた意見を集約する能力も意志もありません。経済界や建設業界には諮問会議、農家には協同組合があり、それなりに機能していますが、医師が現場の窮状を訴えるための団体は無いのです。 医師の側から忙しさや現場の厳しさ、待遇の悪さについての意見を述べると、「それでも医者か」「税金で賄ってもらっているからやるのはあたりまえだ」「じゃあなぜ医者になったんだ」「庶民はもっと忙しくて貧乏だ」という反論が必ずといっていいほど出てきます。いちいちご尤もで、我々自身、そう思っているからこそここまでの悪待遇に文句を言わずに頑張ってきました。医師という職業はやりがいがあり、患者さんが感謝さえしてくれさえすれば、かなり厳しい状況でも耐えられるのです。しかしながら、耐え切れなくなった医師が出始めている事自体が、現在の現場が医療崩壊の一歩手前であることを暗示しているのです。 あなたがサラリーマンなら、良い仕事が出来たとき、まわりに「出来て当たり前」といわれてうれしいですか? あなたが専業主婦なら、「養ってもらっているから、子育てと家事は完璧にこなせて文句なぞ言うな」と言われて当然ですか? あなたが公務員なら、「税金で養ってもらっているから、24時間働け」といわれてできますか? あなたが自営業なら、「お金がもうかるのはけしからん。悪徳商人だ」と言われて納得いきますか? あなたが職人なら、いい仕事でも悪い仕事でも値段が同じでやる気がでますか? 医師は、「成功して当たり前で、完璧にこなせて文句を言うことは許されず、保険診療は税金から賄われるため、勤務医なぞは24時間利用することを求められ、開業して少しでも余裕ができると悪徳医師と呼ばれ、仕事に対する料金は上手下手に関わらず同じ」なのです。 そういったことを、よく考えて欲しいのです。医療現場の忙しさは、明らかに医師の数が少なすぎることが原因です。そのせいで医師、看護師はぎりぎりまで働き、それでも患者さんに満足のいく治療が行き渡らない。その責任を、目の前にいる医療者にぶつけることは厳に控えていただきたい。諸悪の根源は医師数を抑制し、医療費を抑制し続けている厚労省、財務省、国にあるのです。 本来、医師と患者は、共に病気と闘う仲間であるべきです。我々医療者は患者さんを大事にする精神を持っています。ただし、無尽蔵ではありません。不足している医療資源を、もっとも困っている患者さんから順に注入せざるを得ない状況を、一人でも多くの人に知っておいて欲しいと思うのでした。
2007.11.17
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さて、先日までのお話では、医療側からの意見をあえて差し控えていました。なにも意識して控えたわけではなく、実際に医療者の意見は政府、社会に黙殺されて来ているのです。個人的な考えとしては、例えば泥棒が泥棒を取り締まる法律を作ってもろくなものが出来ないのと同じで、医療に携わるものが医療の制度を作ると、どうしても医療者に有利な仕組みになってしまうと思われます。この考え方は、少なくとも多くの医師に共通していて、我々は学生の頃から、「医師、医療は患者のことのみを優先し、その他のことは度外視すべき」という理念を叩き込まれているのです。 このような良心を持った人間が大勢をしめる日本の医師たちは、社会的な動きをすることに慣れていません。そして、医療という職業は不確実性の塊で、信念に基づいて独走することは失敗につながるという性質がありますから、医師たちが陣頭に立って制度を改革するという動きは極めて起こりにくいのです。 しかし、現在のような状況になって、医療者側も、ただ黙って耐えているだけでは誰も助けてくれないことに気づき始めています。多数の医師がブログ等、インターネットで自分の意見を主張し始めているし、逆に現場から逃散する医師もいます。私自身は、現場の医師の主張として、これまでなされなかった医療制度についての提言をするべきではないかと思っています。 以前、このブログのエントリーで、「診療報酬改定に関する私案」を書きました。現在、それに多少の変更を加えた考え方を持っていますので、以前のものに書き加え、掲示しておきます。(あくまで総論的なもの。各論は議論、加筆の必要があります) 1.国民皆保険は基本的に維持。ただし各医師の裁量権を拡大する。・現行の医師技術料は一律で、医師の技量による差はない。これを改める。手術、GIF CF等の内視鏡検査、心臓カテーテル検査等、医師の技術により差がでるものは、 術者の裁量により規定点数の50%~200%の範囲で点数を決めることができる。ただしこの権利を有するのは各学会が定めた専門医に限る。保険で賄うのは規定点数の7割(現行の値段)・外来初診料、再診料についても、現行の規定点数の50%~200%の幅で裁量を持たせる。裁量権は各医師に帰する。手術料、外来基本料のうち、ある一定の割合をドクターフィーとして各医師に還元する。ただし、一律に高率の点数を付ける医師については手術、外来についての監査が必要。(これは第三者機関を設置)1年間の請求点数のうち、6割は規定点数でなければならないものとする。6割を超えるものに付いては、やはり監査が必要。不適当と思われる場合には罰則を設ける。(特殊な疾患ばかり来る施設があるという意見に対しては、疾患に対しての点数上の優遇でもって対応し、施設として特例を認めることはしないのが望ましい)・入院に対する診療報酬については、医療の部分で現行の制度を維持。2.各医師の治療成績、診療報酬の公表・専門医制度は現在ほぼ有名無実の肩書きであるが、これを改める。専門医を称するためにはある程度の治療成績、自分の技量にたいする評価が必要である。一般に判りやすくこれを数年に一度公表することを義務付ける。治癒率等は対象疾患によりバイアスがでるため、一案として、上記の制度が施行された場合、自身の手術料金、検査料金、専門外来基本料金を数年ごとに公表する。 3.救急に関しては、時間外料金は原則として患者自己負担。ただし入院が必要な疾患や、救急対応が必要と医師が認定した疾患に関しては保険診療が適応される。(これらには一応のガイドラインというか、適応疾患をあらかじめ規定する必要があろう)4.医師法にある応召義務を改める(正当な理由があれば診療を拒否することができる)これらの基本路線に、いわゆる悪徳医師を排除する罰則を適宜設けて行くことが必要 上の案には、先に述べた官僚、政治家、患者の3者に対して、それぞれメリットがあります。 まず官僚にとっては、保険診療の枠組みを確保しつつ、罰則規定により医療全体の流れをコントロールできるシステムです。(もちろん極端な罰則はつつしむべきですが)さらに、予算の投入は現状どおりです。 政治家にとっては、フリーアクセスを禁ずることなく、アクセス制限を達成できます。つまり、アクセス禁止ではなく、民衆(患者)にアクセスを控えることを無理なく提言し、悪い言い方ですが、更にその責任を医師に転嫁できます。 患者にとっては、医師の技量の透明化という大きなメリットがあります。これまでは、どの医師にかかっても値段が一緒だけに、技量の判断が出来なくなり、それが医療不信の原因であったことは否めません。国が、責任を持って値段の管理をすれば、患者は、値段だけで医師の技量、経験を判断でき、非常にわかりやすいのです。医療費の自己負担が増えると思われがちですが、癌が心配なら値段の高い医者に。ただの風邪や腰痛なら安い医者にかかるというふうに、医療機関の使い方を工夫することで、出費を抑えることは出来るはずです。 もちろん、案としての欠点もあるでしょう。ですから、更なる議論は必要です。 もうちょっとだけ続くのでした。
2007.11.15
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昨日に引き続き、日本の医療現場の問題を考えています。他国に比べて少ない医師を有効に利用し、かつ医療の質を保つためにはアクセス制限の考え方が浮上してくるというところまではお話しました。 さて、この国の医療は、「いつでも誰でも医者にかかれて、すべて保険で賄う」ことを建前としてここまで来ました。日本医師会や厚労省が言うように、世界でも類を見ない、患者さんのためにはすばらしい制度と思います。ところが、ここ10年ほどの間に、この建前を重視しすぎたために現場と理想が激しくかけ離れたものになってしまいました。そろそろ抜本的に構造を変えなければ早暁、医療は崩壊しかねないところまで現場の医師、コメディカルが疲労し、厳しい現場から労働力が逃げ始めているのが現在の姿です。 医療行政のあり方について、官僚、政治家、民衆という3つの立場を考えてみました。 まず、官僚というのは、以前にもこのブログで少し述べましたが、現状制度の維持に頭を使うもので、枠組みを外して組み替えることは思考の外にあります。もっと言えば、彼らにとって制度こそが正義であり、人道的であれ制度の枠に入らないものはすべて悪で、時に罰則さえ作ろうとします。昨今の混合診療をめぐる裁判でもわかるように、新しい知識や方法を速やかに吸収することに極めて腰が重いのです。制度が正しければ、これを遂行する官僚の厳正さは歓迎すべきものですが、時代遅れと思われる制度の中にあっては自覚なき悪障害になると思うのです。 次に、政治家は選挙で選ばれますから、世論に弱いという弱点を持っています。ここでいう世論というのは、患者と置き換えても良いでしょう。医療者にくらべ、患者が圧倒的多数であることは言うまでもありませんから、多数におもねる判断をしがちです。患者にとってみれば、いつでもどこでも病院にかかれたほうが良いに決まっていますから、なかなか患者の耳に痛い政策はだせません。現場の疲労を無視した夜間救急の命令が出たりするのはこのためです。真の政治家とは、先を見極め、国のこれからを考えて発言をするはずですが、なかなか選挙というハードルが怖くて踏み込めない人間が多いようです。 最期に、患者ですが、これは自身の命がかかっていますからその要求は切実です。健康と命に対する欲求は生物の本能で、本能の赴くままに医療機関を利用できる現状の制度は便利なものです。それをマスコミが助長し、不可能を可能にするかのような医療万能の幻想を書きたて、無理な要求をするモンスターペイシェントまで散見されるようになってきつつあります。 こうして考えてゆくと、上の3者のエゴイズムをすべて医療現場に押し付けてきた結果、現場が今のように殺人的な忙しさに陥ったと考えることが出来るでしょう。さらに、次回に続くのでした。
2007.11.13
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学会が終わり、またいつもの一週間が始まります。 head&neckの専門は腫瘍ですが、そればかり診ているわけではなく、週のうち1回は初診外来、2回は一般外来、そして腫瘍専門は一日だけです。つまり、外来の3/4は一般患者さんを診察しているわです。むしろ、自分の専門分野のみを診ていればいい医者は少数派で、ある程度の幅をもって外来診療をすることは日本では普通のことです。制度としては諸外国から遅れていますし、医療資源の無駄遣いであるのは明白ですが、悲しいかな現場のマンパワー不足と、国の無策のせいで一向に改善されません。 とにもかくにも、月曜日は朝から初診外来を始めます。一応大病院なので、それなりに紹介患者さんも多く、病院でないと対応できない患者さんが大勢受診されるのです。・・・が、実際、「なんで?」と首を傾げざるを得ない患者さんも大勢お見えになります。ここで、head&neckが診察した本日の患者さんの内訳をごらんいただきましょう。総初診患者数:38名 そのうち、紹介状を持参された患者さん18名 その18名のうち、 CT、MRI等、病院でないとなかなか難しい検査を予約した患者さんは10名。 処置が必要であった緊急疾患(鼻出血など)1名。 入院の適応1名。 手術目的の患者さん4名。つまり、18名のうち16名、89%の方が病院での医療を必要としたと考えられます。一方、紹介状を持たず、いきなり外来に来られた患者さんは20名。 このうち診察のみで次回予約なしの疾患(のどの違和感、前からの耳鳴り、難聴等)6名。 軽い処置のみ(耳垢清掃、鼻清掃等)3名。 処方は近医で充分可能なもの(風邪、アレルギー性鼻炎、軽度中耳炎、湿疹等)9名。 近医通院中だが不安になって来院されたもの2名。入院、検査の適応は、なんと一人もいませんでした。 もちろん、紹介状なしでも病院でしか対応できない疾患や、重症患者さんがお見えになることもあり、本日はそれが無かっただけなのですが、今日のような外来患者構成になる日は多く、このことは、開業医の先生がいかに真面目であるか、また、きつい言い方ですが素人とプロの判断がいかにかけ離れているかを証明しています。 「だからこそより良い検査機器のある病院にかかって安心したい」という言い分も理解は出来ますし、そういう不安を解消するために医療がある一面は否定しません。しかし、医療の高度化に伴う現場の業務量の増大に反する、国際的に見ても証明された日本の医師数の少なさはそれを許容できないところまで来ています。 限られた医療資源を有効に使うためには、「不安の解消」よりも、「疾病の解消」に投資しなければなりません。この考え方を突き詰めていくと医療機関へのアクセスの制限となります。アクセス制限をいかに実現するか・・ここに現場、政治のジレンマがあります。 次回に続くのでした。
2007.11.12
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3日間、学会で東京に行っている間に、10000アクセスを超えました。貧弱ブログではありますが、なんとなく嬉しく感じます。 他の先生の医療系ブログは、この数十倍のアクセス数を誇るものもありますし、もちろん情報量もこことは桁違いです。日々つれづれに気ままに書き綴っているだけなので、一貫性の無い記事がならんでいるとは自覚していますが、それでもたくさんの人が見てくれたなあと思います。 皆様、これからも宜しくお願いいたします。
2007.11.09
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近年、あちこちの病院に癌の全身検査のためのPETという診断機器が導入されています。head&neckの病院にもPET-CTがありますが、癌と診断された患者さんの全身をくまなく診て、病期を決めるのに重宝しています。上の写真は、ある術後患者さんの肺尖部転移です。(さすがにそのまま使うのはいけないので、多少細工してあります) 医療関係者でない方には、具体的にはよくわからないと思いますので、簡単に説明しましょう。たとえば、10年前。舌癌の患者さんが受診されたとします。舌の病巣から組織を採取して、それが癌とわかったならば、治療のために癌がどのくらい進行して、転移があるかどうかを調べる必要があります。肺や肝臓に転移があれば手術はできませんし、頚部に転移があるかどうかで手術方法が変わってきます。そんなわけで、その頃必要な検査は、ざっと並べるだけで頚部胸部CT、ガリウムシンチ、胃カメラ、大腸カメラ、腹部エコー・・・。患者さんも大変です。 PET-CTは全身をCTでスキャンし、それにPETでの画像を重ね合わせます。PETは、簡単に言うと癌に集まりやすい薬を注射して、それを撮影する技術ですから、コンピューターでCTと組み合わせることによって直感的にわかりやすい画像ができあがります。肉体的にも、経済的にも患者、医療者ともに負担が少ないのです。 どんな検査でも落とし穴はあります。検出できない小さな癌も存在するのです。そういうものに対しては、やはりターゲットを絞った別の検査が必要に成ってきます。それでも、やはりPET-CTの出現は劇的で、思わぬ病巣を見つけたことは何度もありました。 テクノロジーの発展は、確かに医療に貢献すると感じるのでした。
2007.11.06
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前回にひきつづき、厚労省の発表から彼らのやりたいことを探ってみました。診療報酬改定:軽度のやけど処置など加算せず 厚労省方針 毎日新聞 2007年10月31日終末期の治療法、意思確認に診療報酬・厚労省方針 日本経済新聞 2007年10月27日医療機関、連携すれば報酬 脳卒中の治療期間短縮へ 東京新聞 2007年10月31日75歳以上の再診料下げ 08年度診療報酬改定で 東京新聞 2007年11月2日診療報酬改定:病院勤務医の負担軽減策を提示 厚労省 毎日新聞 2007年11月2日夜間延長で診療報酬加算 厚労省が方針 中日新聞 2007年11月3日 昔から、厚労省の唯一かつ絶対的(と彼らが思い込んでいる)武器である「診療報酬」をいじくることによって、なんとかお上の思う方向に医療現場をうごかそうという手法は全く変化していません。2008年度の改定で厚労省が目指していることは、「軽い怪我の患者や慢性の病気を抱えた老人は開業医で診てもらっているが、開業医は稼ぎすぎ。よってここからお金を取り上げよう。開業医は5時で終わらずもっと夜遅くまで働け。そしたらちょっとだけ稼がしてやる。搾り取りやすい病院から締め付けたのは名案だったがやりすぎて潰れかけているから、少し餌を与えるぞ。勤務医は大変だってのはちゃんと考えているからな。安易に開業に走るんじゃないぞ。でも終末期とか、卒中とか、医療費がかかるところにはある程度横槍入れておくか。」といったところでしょうか。 インターネットが発達した今、省庁の発表を時系列で追いかけるのはたやすいことです。そうして官僚の思考経路を予想することができます。上に述べたニュースに、一般の国民が安心するような発表はひとつもありませんね。厚労省の方針には、国民の健康を守り不安を解消するという理念は全く無いことがお分かりになるでしょうか。 抜本的な改革は官僚には不可能です。今の制度のまま、イギリスのように完全に崩壊へ向かうのか、と不安に思うこのごろでした。
2007.11.03
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