Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2017/04/02
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 43.ジャパニーズ・カクテル(Japanese Cocktail)/ミカド(Mikado)

【現代標準的なレシピ】 ブランデー(またはコニャック)(40)、ライム・ジュース(10)、オルジェート(「オルゲート」と表記する場合も)・シロップ(10) 【注1】 、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、レモン・ツイスト 氷(ロング・スタイルの時) ※ライム・ジュースを入れないレシピもある 【スタイル】 シェイクまたはステア

 “カクテルの父”とも言われる、かのジェリー・トーマス(Jerry Thomas)が1860年頃に考案し、世界初の体系的カクテルブック「How To Mix Drinks」(1862年初版刊)にも登場する歴史的かつ由緒あるカクテルです。国の名前がついたカクテルの中でも、最も歴史が古いカクテルと言われています。

 トーマスが考案したオリジナル・レシピは、「ブランデー1Wineglass、オルジェート・シロップ1tsp、ビターズ2分の1tsp、レモン・ピール→タンブラーに注いでステア」となっています。

 1860年と言えば、日本はまだ開国まもない混乱期で、攘夷の嵐が吹き荒れていた時代。そんな頃、なぜ米国で「日本の」という名が付いたカクテルが誕生したのでしょうか--。この理由については、洋酒研究家・石倉一雄氏が、近年まで「謎」に包まれていたその由来を解き明かしてくれています(石倉氏の玉稿「日本人の知らないジャパニーズ・カクテル/ミカド」をご参照。→ Webサイト「Food Watch Japan」= http://www.foodwatch.jp/column/ =で連載)。

 石倉氏によれば、1860年当時、ニューヨークのマンハッタンにあった「パレス・バー」でチーフ・バーテンダーとして働いていたトーマスが考案し、名前の由来には、なんと徳川幕府が1860年(安政7年、3月に「万延」元年に改元)に派遣した訪米使節団が大きく関係していているということです。トーマス自身、ニューヨークを訪れたサムライ姿の使節団の姿を目撃し、インスピレーションを得たとも言われています。

 しかし、カクテルはブランデーがベースで、他の材料にも日本的なものは一つもないのに、なぜ「ジャパニーズ・カクテル」なのでしょうか? 石倉氏は、トーマスは、このカクテルの材料の一つ「オルジェート・シロップ」に使われている杏(あんず)の核(仁)の香りに、「オリエンタルなイメージ」を強く抱いたのではないか、そして、1850年代から米国西海岸に増え始めた中国人移民が持ち込んだ紹興酒の味わいに「ジャパニーズ」的なイメージを感じ、紹興酒に似た味わいのカクテルを西洋の酒で再現しようとしたのではないかと推察しています。

 もちろん、「紹興酒は中国の酒じゃないのか?」と思われる方も多いでしょう。しかし、この当時の一般的な米国人は、中国と日本の区別はほとんどつかず、日本は中国の一部だと考えていた人がほとんどでした。なので、トーマスが紹興酒を日本の酒と考えたとしても不思議ではありません(詳しくはぜひ、石倉氏による渾身の論考をお読みください)。

 ジャパニーズ・カクテルはその後欧州へも伝わり、当初は「ジャパニーズ・カクテル」の名で紹介されていました。しかし1885年、日本を舞台にした「ミカド(Mikado)」というオペレッタが、ロンドンの「サヴォイ・シアター」で上演され大ヒットすると、「ジャパニーズ→ミカド」という連想から、いつしか「ミカド・カクテル」と呼ばれることが多くなったということです。「ミカド」はその後、米国でも上演されるなど欧米でロングランの大ヒットとなりました。

 ご参考までに、トーマスの本以降に出版されたカクテルブックでの「ジャパニーズ・カクテル」の扱いを見ておきましょう。

・「Bartender’s Manual」(ハリー・ジョンソン著、1882年初版、1934年再版、2008年復刻版刊)米 ブランデー1グラス、ボウカーズ・ビター 【注2】 2~3dash、オルゲート・シロップ2~3dash、マラスキーノ2dash、レモン・ピール

・「American Bartender」(ウィリアム・T・ブースビー著、1891年初版、2009年復刻再刊)米 コニャック1グラス、アンゴスチュラ・ビターズ3dash、オルゲート・シロップ4分の1tsp、レモン・ピール

・「Modern American Drinks」(ジョージ・J ・カペラー著、1895年初版、2008年復刻版刊)米 ※Japanese Cocktailの名での収録はないが、Japanese Punch(ブランデー2分の1、アラック 【注3】 2分の1、ライム・ジュース半個分、シュガー1tsp、紅茶適量)、Mikado Punch(セント・クロワ・ラム 【注4】 2分の1、ブランデー2分の1、レモン・ジュース半個分、シュガー1tsp)という2種類が掲載されている。

・「World Drinks and How To Mix Them」(ウィリアム・T・ブースビー著 1908年刊行、1934年再版)米(ジャパニーズ・カクテル、ミカドの双方が登場)
 ★ジャパニーズ・カクテル → ブランデー1ジガー、オレンジ・ビターズ2dash、オルゲート・シロップ1tsp、(アンゴスチュラ?・)ビターズ2drops、レモン・ピール(同書では、ジン・ベース=3分の2ジガー=に替えた「ジャパニーズNo.2」というカクテルも収録されている)
 ★ミカド → ブランデー3分の2ジガー、キュラソー2dash、オルゲート・シロップ2dash、クレーム・ド・ノワヨー 【注5】 2dash、ビターズ2drops、レモン・ピール

・「Bartenders Guide: How To Mix Drinks」(ウェーマン・ブラザーズ編、1912年初版、2008年復刻版刊)米 & ・「173 Pre-Prohibition Cocktails」 &「The Ideal Bartender」(トム・ブロック著、1917年刊、2001年&2006年再刊)米 → 収録なし

・「ABC of Mixing Cocktails」(ハリー・マッケルホーン著、1919年刊)英
 ブランデー1グラス、アンゴスチュラ・ビターズ2dash、オルゲート・シロップ1tsp(ティー・スプーン)、シェイクしてカクテルグラスに注ぎ、チェリーを飾る

・「The Savoy Cocktail Book」(ハリー・クラドック著 1930年刊)英 Mikado(ミカド)の名で登場 → ブランデー2分の1グラス、キュラソー2dash、オルゲート・シロップ2dash、クレーム・ド・ノワヨー2dash、アンゴスチュラ・ビターズ2dash

・「Mr Boston Bartender’s Guide」(1935年刊)米 Mikado(ミカド)の名で登場 → ブランデー2オンス、クレーム・ド・カカオ2分の1tsp、キュラソー2分の1tsp、アンゴスチュラ・ビターズ2dash  
 ※「ジャパニーズ・フィズの名で以下のレシピのカクテルも登場 → ライ・ウイスキーまたはバーボン・ウイスキー1.5オンス、ポート・ワイン2分の1オンス、レモン・ジュース半個分、パウダー・シュガー1tsp、卵白1個分、ソーダ適量

・「The Artistry Of Mixing Drinks」(フランク・マイアー著 1934年刊)仏  → 収録なし

・「The Old Waldorf-Astoria Bar Book」(A.S.クロケット著 1935年刊)米
ブランデー1ジガー、オルゲート・シロップ2dash、ボウカーズ・ビターズ1dash、レモン・ピール

・「Café Royal Cocktail Book」(W.J.ターリング著 1937年刊)英
ブランデー4分の3、オルゲート・シロップ4分の1、ボウカーズ・ビターズ2dash、レモン・ピール

・「Trader Vic’s Bartender’s Guide」(ビクター・バージェロン著 1947年刊)米  → 収録なし

 「ジャパニーズ・カクテル」は日本には、少なくとも1920年代前半までには伝わり、日本初のカクテルブックと言われる、「カクテル(混合酒調合法)」(秋山徳蔵著、1924年刊)や「コクテール」(前田米吉著、1924年刊)=に登場します。※同時期に出版された両著ですが、レシピはかなり異なっています。秋山氏のレシピはトーマスの本にルーツを持ち、前田氏のレシピは、サヴォイ・カクテルブックとほぼ同じです。

 その後、30年代以降に日本で出版された幾つかのカクテルブックにも「ジャパニーズ・カクテル」または「ミカド」の名で登場します。ただし、せっかく「日本」にちなむカクテルなのに、現代の日本のバーでは残念ながらほとんど知られていません(「オルジェート・シロップ」という若干ややこしい材料のせいでしょうか?)。カクテル名も、現代のカクテルブックやWeb専門サイトにおいてもなお、「ジャパニーズ・カクテル」「ミカド」の両方が混在しています。

 なお、「ジャパニーズ・カクテル」には、その後さまざまなバーテンダーによって、多くのバリエーション(20種類近くも!)が生み出されています(代表的なバリエーションの一つは、「ブランデー50ml、クレーム・ド・カカオ1tsp、オレンジ・キュラソー1tsp、シロップ0.5tsp、アロマチック・ビターズ1dash」です)。
 また、「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著、1954年刊)にはウイスキー・ベースの、さらに「JBAカクテルブック」(1963年刊)と「すてきな夜にはカクテル」(木村与三男著、1983年刊)にはジン・ベースの「ジャパニーズ・カクテル」がそれぞれ収録されていますが、そのルーツはよく分かっていません。

【注1】 「オルジェート(Orgeat)・シロップ」:ナッツの香りが特徴のビター・アーモンド・シロップのこと。19世紀後半から20世紀初頭の欧米のカクテルにはしばしば使用された。Orgeatとは仏語で「アーモンド」の意だが、このOrgeatは普通のアーモンドではなく、杏仁(杏の核)のことを指す。現在でも「MONIN(モナン)」社のシロップ・シリーズで入手可能だが、原材料に杏仁がどの程度使われているかどうかは不明。
【注2】 「ボウカーズ・ビター(Boker's Bitter)」は、1828年にドイツ系米国人のジョン(ヨハン)・ボウカーが製造・販売を始めたビターの銘柄。かのジェリー・トーマスもいくつかのカクテルで使用している。1920年代に一時製造中止となったが、近年、その味わいを再現した製品が再発売されている。
【注3】 アラック(Arrack)とは、中近東からアジアにかけて、現在でも幅広く造られている蒸留酒。原料は米やサトウキビ、ナツメヤシ、ジャガイモ、ヤシの花穂など。
【注4】 カリブ海の米領ヴァージン諸島の「セント・クロワ(St.Croix)島」産のラムのこと。
【注5】 「クレーム・ド・ノワヨー(Crème de Noyaux)」=ノワイヨーとも表記される=は、桃や杏の核を主成分とするリキュール。アーモンドの風味を持つ。

【確認できる日本初出資料】 カクテル(混合酒調合法)(秋山徳蔵著、1924年刊)、コクテール(前田米吉著、1924年刊)。








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Comments

kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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