Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2017/07/21
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 61.ミスター・マンハッタン(Mr. Manhattan)

【現代の標準的なレシピ】 【スタイル】 シェイク  

 「ミスター・マンハッタン」という名前から、有名なカクテル「マンハッタン」と何か関係があるのかと思う方も多いかもしれませんが、何の関係もありません。しかし、1920年代後半に誕生したクラシック・カクテルの一つで、あの有名な『サヴォイ・カクテルブック(The Savoy Cocktail Book)』にも収録されています。

 レシピはシンプル。味わいは、柑橘系(オレンジ&レモン)ジュースと生ミントのコラボが絶妙なカクテルです。甘さと酸味のバランスも抜群で、実に爽やかな後味です。しかし残念ながら、日本での知名度はそう高くなく、バーの現場で注文されることも少ないためか、あまり知られていません。かなりベテランのバーテンダーの方でも、その存在やレシピを知らないという人に時々出会います。

 欧米のカクテルブックで初めて登場するのは、現時点で確認できた限りでは、前述した『サヴォイ・カクテルブック』(1930年刊、ハリー・クラドック<Harry Craddock 1876~1963>著)です。「ミスター・マンハッタン」誕生の経緯や名前の由来については、これまでまったく謎でした。クラドック自身も同著では一切何も触れていませんでした。

 しかし、2013年に出版された『The DEANS Of DRINK』(Anistatia Miller & Jared Brown共著 ※ハリー・ジョンソン、ハリー・クラドックというカクテル界の2人の巨人の伝記)が貴重な手掛かり(根拠資料)を示してくれました。

 同著によれば、このカクテルの考案者は間違いなく、著者のクラドック自身であり、クラドックが働いていたロンドンのサヴォイホテル「アメリカン・バー」の顧客でもあった米国人のコラムニスト、カール・キッチン(Karl Kitchen 1885~1935)のために考案したことを裏付けるエピソードや、「ミスター・マンハッタン」とは、ニューヨーク・マンハッタンで長くバーテンダーとして脚光を浴びてきたクラドックに、キッチンが付けた「あだ名」であったことも紹介されています。

 キッチンは米国の新聞での連載コラムにこう綴っています。「昨日、(アメリカン・バーで)ハリーに私のためのオリジナルカクテルをつくってほしいと頼んだ。そしてきょう、彼は3種類の『ミスター・マンハッタン』をつくってきて、どれが一番美味しいと思ったかを教えてほしいと私に言った。しかし、どれも素晴らしすぎて(私は選べなかった)。米国でも簡単に手に入る材料でつくられているのがとてもいい。新しもの好きな米国の人たちにも、このレシピをぜひ教えてあげたい」。

 キッチンがコラムで紹介した「ミスター・マンハッタン」が、米国の”もぐり酒場”(米国は禁酒法時代の最中)でどの程度広まったのかは分かりませんが、ジンさえ手に入れば、後は一般家庭でも簡単につくれるレシピなので(禁酒法時代でも家庭内の飲酒は合法だった)、案外隠れた人気を得ていたのかもしれません。

 ちなみに、クラドックがつくった3種類の「ミスター・マンハッタン」とは、冒頭に紹介したジン・ベースのNo.1のほか、No.2「密造(Hooch)ウイスキー3分の2、スイート・ベルモット3分の1、ラズベリー・シロップまたはグレナディン・シロップ、角砂糖」、No.3「スコッチ・ウイスキー4分の3、グレープ・ジュース4分の1、グレナディン・シロップ4dash」というものでしたが、自著のカクテルブックには結局、No.1のジン・ベースのものを収録しました。

 残念ながら、クラドックがこの「ミスター・マンハッタン」を考案した時期は正確には分かりませんが、おそらくは、クラドックがアメリカン・バーのチーフ・バーテンダーに昇格した1925年以降で、1927~28年頃ではないかと推察されます。

 クラドックは英国人ですが、1897年に若干22歳で米国へ渡り、1920年に禁酒法が施行されるまでは、ニューヨークなど米国内の大都市でバーテンダーの仕事をしていました。しかし、禁酒法で仕事の場を奪われ、やむなく英国へ戻ります。そして翌年、ロンドン・サヴォイホテルでバーで職を得ました。カクテルブックを著すのは帰英して10年後です。

 なお、クラドックのレシピは、「ジン1Glass、オレンジ・ジュース4dash、レモン・ジュース1dash、角砂糖1個、ミントの葉数枚(シェイク)」となっています(この「1Glass」の容量は不明ですが、この当時のカクテル・レシピでの表記基準を考えると、おそらく90ml前後ではなかったかと思われます)。

 参考までに、1930~50年代のカクテルブックで「ミスター・マンハッタン」がどのように紹介されていたのか、ざっと見てみましょう(不思議なことに、欧米のカクテルブックでも、「ミスター・マンハッタン」を取り上げているところはあまり多くありませんでした。私が所蔵しているこの時代の文献での掲載率は約3割でした)。

・「The Official Mixer's Manual」(Patrick Gavin Duffy著、1934年刊)米
 ジン2jiggers(約90ml)、オレンジ・ジュース4dash、レモン・ジュース1dash、生ミントの葉4枚、角砂糖1個(シェイク)

・「The Old Mr. Boston Official Bartender's Guide」(1935年初版刊=以降現在でも不定期で発刊中)米 /「Trader Vic's Bartender's Guide」(Victor Bergeron著、1947年刊)米
 ジン1.5オンス(45ml)、オレンジ・ジュース1tsp、レモン・ジュース4分の1tsp、生ミント4本、角砂糖1個(シェイク)

・「Esquire Drink Book」(Frederic Birmingham編、1956年刊)米
 ジン2jiggers、オレンジ・ジュース4dash、レモン・ジュース1dash、生ミントの葉4枚、角砂糖1個(シェイク)

 「ミスター・マンハッタン」はその後、忘れ去られたような存在になります。欧米でも1960年代以降、近年に至るまでカクテルブックに登場することは、数えるほどでした。日本でも1950年代のカクテルブックに初めて紹介されましたが、80年代末までは、生のミントはコストがかかり過ぎることもあって、国内のオーセンティック・バーではなかなか普及しませんでした。しかし、そんな状況の中、思わぬところから、このカクテルが陽の目を見ることになります。

 2003年春から全日空(ANA)の機内誌「翼の王国」で連載されていたオキ・シロー氏のカクテル・ショートストーリーで、この「ミスター・マンハッタン」が取り上げられたのです(2004年1月号誌上)。そのストーリーと言えばーー。

 マンハッタンのバーのカウンターで、一人寂しく飲む男。ある時、カウンターで隣に座った女性をナンパしようと、「ミスター・マンハッタン」を1杯、ご馳走する。しかし、その女性はカクテルを飲み干すと、男の誘いを無視して一人店を後にした。男の願いは潰れてしまったかに見えたが…。物語の最後に、絶妙な”オチ”が用意されています。

 このストーリーとカクテルのレシピが、口コミで日本のバー業界にも広がり、オーセンティック・バーの現場でブレイクしたのです。そしてその後、海外でも、昨今のクラシック・カクテル再評価の流れに乗って、再び注目を集めるようになりました(※このショート・ストーリーは、後に「パリの酒 モンマルトル」というタイトルの単行本=2008年、扶桑社刊=に収録されています。現在絶版ですが、アマゾンでは今でも中古で購入可能なようです)。

 日本でのブレークがきっかけとなったのかどうかは定かではありませんが、海外のカクテル専門サイトでは、現在、「Cocktail Mr Manhattan」で検索すると、実にたくさんのサイトにヒットします。昨今のトレンドとしては、ただ単純に昔のレシピのままつくるのではなく、現代風にアレンジ(ツイスト)することのも、ごく普通なことです。例えば(ほぼ同じレシピで)ミントジュレップ風のスタイルで提供するのも人気だとか。

 日本でも90年代以降は、生ミントも使いやすい価格となり、このカクテルの良さを再認識するバーテンダーも次々に現れてきました。そして前述の「翼の王国」の記事がきっかけとなり、国内に広く知られるようになりました。今では、おそらくプロのバーテンダーなら約8割は知っているカクテルになっているのではないでしょうか。

 レシピはとてもシンプルなのに、甘味と酸味と清涼さのバランスが最高な「ミスター・マンハッタン」。個人的には、もっともっと多くの方に味わって頂きたいカクテルの一つと思っています。

【確認できる日本初出資料】 「世界コクテール飲物辞典」(佐藤紅霞著、1954年刊)。そのレシピは(原文通り記すと)「少量の水を加えて角砂糖1個を潰し、新鮮な薄荷(はっか)の葉芽4枚をその中で潰し、レモン・ジュース1ダッシ、オレンジ・ジュース4ダッシ、ジン1を加えて振蕩し、コクテールグラスに漉し移す」です。この「薄荷」が西洋ミントなのか国産の薄荷なのかが気になるところです。



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kopn0822 @ 1929年当時のカポネの年収 (1929年当時) 1ドル=2.5円 10ドル=25円 10…
汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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