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July 4, 2007
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カテゴリ: 教授の読書日記



 後でまた言及するかも知れませんが、四方田さんの「先生」たる由良君美氏について、私はその著作の上でしか知りません。ましてや彼の出自・経歴などもこの『先生とわたし』を読むまで知らなかったのですが、この本によると、由良さんのお父さん、すなわち由良哲次という人は、三木清や林達夫といった人たちと同世代の、かなり有名な哲学者だったのだそうですね。

 この本の後半で、由良君美さんが父親の影響をかなり色々な面で受けていることが指摘されていますが、とにかく由良さんはこの厳父の影響もあって学習院大学で哲学を専攻することになります。が、そこで一応父親への義理を果たした彼は、その後文学部に学士入学し直し、そこから慶應義塾の大学院に進んで、本来彼がやりたかった学問、つまり英文学研究へ邁進し始めるわけ。

 で慶應の大学院に入った由良さんは、かの西脇順三郎の薫陶を受けるのですが、西脇さんには随分可愛がられたのだそうですね。逆に西脇は由良さんと同じ頃に慶應の大学院に在籍していた江藤淳(漱石論などで知られる後の著名な評論家)を極端に嫌い、「今日は江頭(えがしら・江藤淳の本名)君が出席しているから、教室には行かない」と言って授業を放棄してしまうこともあったのだとか。

 凄い話ですよね・・・。嫌いな学生がいるから、教室に行かないなんて・・・私にはとてもそんなこと出来ない・・・。

 しかし、西脇と由良君美との最初の出会いというのも相当面白いんです。由良さんとしては、血気盛んな学徒として、色々な質問を胸に大西脇の研究室に勇んで乗り込んでいくんですが、その研究室で西脇はなんと、イーゼルに立てかけた50号のキャンバスを前に、悠々と油絵を描いていたってんですから、さすがの若き由良氏もさぞ拍子抜けしたことでしょう。で、あっけにとられている由良さんに対し、西脇は「きみ、イギリスの風景画についてどう思う?」なんて質問を向けたというのだから、西脇順三郎も相当なもんです。

 ま、それはともかく、そんな調子で西脇の指導の下、慶應で研鑽を積んだ由良さんは、そのまま慶應で教えるようになるのですが、そんな中、彼はある学会のシンポジウムで東京大学の新々気鋭の研究者・高橋康也と同席することになる。で、この時、由良の非凡な才能を見抜いた高橋の引きで、由良さんは東大・駒場(教養部)の専任に引っ張られるんですな。

 ちなみに、ここで登場する高橋康也さんというのは、これまた由良さんに勝るとも劣らない凄い学者さんなんですけど、同じ英文学の道を辿ることになった彼の息子さんと私は、大学院が同期なんです。ですから、普通であればあまりにも遠い存在である「あの」高橋康也さんも、私にすれば「友人のお父さん」という感じがする。昨日、私は、四方田さんの『先生とわたし』に出てくる登場人物の大半を直接・間接に知っている、と書きましたが、こういうところも含めての話なんですな。

 ま、それはともかく、こうして東大で教鞭を執ることになった若き由良君美は、従来の狭苦しい学問領域の壁なんぞ皆ぶち壊すような研究・学問を展開し始めます。で、その恐らくは由良さんにとって一番幸福な時代に彼の教え子となり、薫陶を受けたのが、本書の著者である四方田犬彦その人であった、と。



 ところが、こういう幸福な時代というのは、長くは続かないもののようでして、由良さんの場合もしかり。もちろん、売れっ子の学者として幾つもの雑誌に連載を抱えるようになった由良さんは、相変わらず「英文学」の範疇を遙かに飛び越えるような、学際的で啓蒙的な文をじゃんじゃん量産し続けるのですが、その一方、勤務先の東大では学生運動が激しくなり、その対処で余計な奮闘をさせられることになったり、また父親の死に伴い、その残務整理に追われたりと、公私にわたって疲弊させられるようになってしまうんです。

 しかし、中でも最も由良さんを疲弊させたのが、東大の内部事情なんですな。

 ご存じのように東大は、専門課程のある「本郷」と、教養課程のある「駒場」にキャンパスが分かれているわけですが、この二つのキャンパスの間には深い溝がある。要するに本郷の教官達が駒場の教官達を馬鹿にしているところがあるわけですよ。でまた、さらに当時の東大では、その教官のほとんどが東大卒。つまり、由良さんのように私学出の東大の先生というのは極端に例外的な存在で、それ故に意図したものであるとないとにかかわらず、事ある毎に差別的な待遇を受けることになる。そうした東大内部のヒエラルキーが、由良さんにとっては非常に大きなストレスとなっていくんです。

 ま、先取りして言うならば、結局この種のストレスが溜まり溜まって由良さんをアルコール依存の度を高まらせ、人格崩壊(というと言い過ぎですが・・・)の方向へと駆り立てて、それが最終的な四方田さんとの訣別を演出することになるわけですよ。

 それでも由良さんは、この居心地の悪い東大・駒場での生活を定年まで勤め上げ、その退官時には、錚々たる顔ぶれの学者たちが記念論文集を編んだそうなんですが、教養部時代には由良さんの薫陶を受けながら、その後本郷の英文科に進んで研究者となった「本道」の人たちは、都立大の高山宏氏ただ一人の例外を除いて、由良さんの退官記念論集に寄稿した人はいなかったのだとか。

 ひゃー、イヤラシー! 

 ちなみに、由良さんが定年退官した後、そのポストに座ったのが、アメリカ文学の翻訳などでも名高い柴田元幸さんなんですってね。知らなかったー! そういえばワタクシ、たまたま今週末にその柴田さんにお目に掛かる機会があるんですけど、その辺りのこと、聞いちゃおうかしら。

 ま、それはともかく、『先生とわたし』では、このようなストレスに満ちた東大での生活の中でアルコール依存症になってしまった由良さんが、いかにして四方田氏と訣別するに至ったか、という話に移っていくわけですけど、もうここまで書くのに随分長くなってしまったので、その辺のことはまた明日にでも書きましょう。それでは、今日はこの辺で!





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Last updated  July 4, 2007 03:09:17 PM コメント(2) | コメントを書く


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ゆりんいたりあ @ Re:スペイン優勝、そして早くもW杯ロス(07/20) 釈迦楽さん、 ご無沙汰しております。 お…
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