教授のおすすめ!セレクトショップ

教授のおすすめ!セレクトショップ

PR

Profile

釈迦楽

釈迦楽

Keyword Search

▼キーワード検索

Shopping List

お買いものレビューがまだ書かれていません。
July 2, 2023
XML
カテゴリ: 今日もいい日だ
一昨日は雑誌の取材を受け、その日は実家に泊った私、昨日は大学院時代の恩師・山本晶(やまもと・しょう)先生の追悼学会に参加してきました。

 もともと私は山本晶先生の直接の教え子(=ゼミ生)というわけではないのですが、私の師匠が、私が大学院の後期博士課程に進んだ時に他大学に移籍されたので、私はなんとなく梯子を外されてしまったような感じになり、仕方なくというか、便宜的に博士課程の3年間だけ、山本先生の研究室に預けられたような感じになったんですね。その意味で、私は山本先生の教え子としては、外様も外様。

 しかし、そこが山本先生の偉いところというか、懐の深さというか、そんな外様の私を、外様と思わせないように、何かと気を使っていただいたところがある。大学院を出て、名古屋の大学に就職した時も、「いいですねえ、国立大学なんて親方日の丸だ。羨ましいようなもんだ」と喜んでくださって、東京を離れることに一抹の寂しさを感じていた私を励ましてくださった。ああいう気遣いを、ごく自然になさるところが、山本先生の山本先生たる所以なんですけどね。

 で、その後も私が学会の全国大会などで発表する時は、必ず聞きに来てくださって、面白かったと感想を伝えてくださった。それは私だけでなく、先生は自分が育てたすべての教え子に対して、学会発表の時に応援に駆けつけて下さるのでした。昨日の追悼学会でも、そうした思い出を語られる人がいたのですが、山本先生は、教え子が初めて学会の全国大会で研究発表をする際には、事前に学会会場近くの美術館に赴き、そこで買った記念品を、慰労の意味もこめて発表を終えて下段した教え子に手渡すのが常であったとか。

 またある方の思い出によると、その人は学会発表当時まだ所属が決まっておらず、肩書がなかったそうなのですが、そういう時、山本先生は、発表の前に司会者の先生の所へ行ってご自身の名刺を手渡されて、「この人は私の教え子なんです」と、一言、口添えして下さったとのこと。先程も言ったように、そういうことをされるのが山本先生なんですな。

 昨日の追悼学会では、その他に、山本先生の教えについて語る人が多かったのですが、それによると、山本先生は、机上の空論のようなものが大嫌いで、まず原典に当たって、そこにある事実を明らかにすること、論を発する時は常に事実に基づいた論であることに留意せよと、非常に厳しく教えられた。それは先生ご自身のご研究の大方針でもあって、たとえば先生はエマソンやソローのご研究がご専門でしたけれど、エマソンの自筆の手紙を何と神保町で発掘され、その本物の書簡をもとに、本国アメリカのエマソン書簡集にあった不備を正されたことがある。こういう形で、まごう方なき文学的事実を確立することこそ学問の基本だ、というのが山本先生の学問なんですね。

 またもう一つ、山本先生の教育方針として顕著なのは、学問上の形式を重視されたこと。先生はMLAが定めた論文の形式を遵守することについても、細かく教えられたそうで。

 で、教え子たちは、そんな山本先生の形式重視の教え方に、若い頃から納得していたのではなく、学生時代・院生時代は、「形式より中身だろ」と思って反発したようなところもあったそうですが、研究者として長じるにつれ、山本先生のご指導がいかに正しいものであったかを思い知ることになったと。例えば外国に留学した際、向こうの指導教授から論文形式の正しさを褒められ、それが自信につながった、などと思い出を語る教え子もいました。



 昨日の学会でもそういう例を語る方(女性)がおられましたが、その方は一度社会人になられてから大学院に進学したので、その時には既に結婚しており、修士2年の時には懐妊・出産ということになった。

 で、当時夫の仕事の関係で名古屋に住んでおられたその方は、身重の身体で毎週東京の大学に通うのは辛いということで、月2回の通学で指導していただけないかと山本先生に相談されたと。

 すると山本先生は「子どもが出来たので、月2回にしてくれというのは良くない。それは生まれてくる(きた)子供に、自分の責任を負わせることになる。そうではなくて、名古屋からの通学は遠距離で大変だから、という理由なら、認めましょう」と仰られたとのこと。

 ああ! いかにも山本先生らしい! 先生の正論は、正論であると同時に、優しい論でもあるのでした。先生は、そういう意味で、優しい先生でしたなあ。でまた、そういう風に優しい先生だったからこそ、先生のことを慕う教え子というのは大勢いて、だからこそ、昨日の追悼学会も催されたのでありましょう。

 また、それで気づけば、現在、私の母校には、山本先生の元ゼミ生が大勢、教授として在籍し、山本先生の学問を継承している。

 一方、私の師匠の大橋吉之輔先生は、弟子を作らなかった人でありまして、先生の元ゼミ生で、大学でアメリカ文学研究を続けている人はそれほど多くないし、少なくとも母校には一人も残っていない。

 そのことに気づいて、ううむと唸りましたね、ワタクシは。そうとなれば、私もますます奮起して、山本先生の弟子たちに負けない業績を出さねば! 

 昨日の追悼学会、中にはTPOを弁えず、山本先生のことを話すというよりは、自分の自慢だけして、まったく論にもならないことを軽薄にしゃべって終わったならず者もいましたが、総じて気持ちの良い学会になったのでした。


 で、この学会がはねた後、私は同じくこの学会に参加していた大学時代のゼミ仲間と久闊を恕することにいたしまして、久しぶりに会ったM君と差しで飲み、そして名古屋への帰路についたのでございます。

 この週末は、インタビューと学会、そして旧友との楽しい一席と盛り沢山でした。今日は一日身体を休めて、明日からの新しい週に備えることにいたしましょう。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  July 2, 2023 01:29:21 PM
コメント(4) | コメントを書く
[今日もいい日だ] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Favorite Blog

朝食を摂りながら六句 New! AZURE702さん

季節の変わり目に ゆりんいたりあさん

YAMAKOのアサ… YAMAKO(NAOKO)さん
まるとるっちのマル… まるとるっちさん
Professor Rokku の… Rokkuさん

Comments

ハッパフミフミ@ Re:「断トツ」は何の略?(11/24) 関係ないですが、オッパイをパイオツと言…
誰も知らないCoffeeWorld@ Re:46年ぶりに、テレビ越しに、同級生と会う(11/04) O教授殿 ご無沙汰ですね。 この業界、世…
nwo69 @ Re:野崎訳 vs 村上訳 さて軍配はどちらに?!(12/30) 非常に激しく同意、しかも美味しい翻訳を…
釈迦楽@ Re[1]:母を喪う(10/21) ゆりさんへ  ありがとうございます。今…
ゆりんいたりあ @ Re:母を喪う(10/21) 季節の変わり目はなんだか亡くなる方が 多…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: