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February 3, 2025
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カテゴリ: 教授の読書日記
常盤新平さんの『そうではあるけれど、上を向いて』というエッセイ集を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。

 これ、1987年1月から2年間、『NEXT』という月刊誌に掲載された同名のエッセイを元に、1985年から1988年にかけて様々な媒体に掲載された諸々のエッセイを加えて一冊に編んだエッセイ集。

 内容は、例によって常盤さんの身辺雑記的なもので、酒場で出来た飲み友達との淡い交流とか、仕事場との往復に使う電車の車内で見た光景とか、NYに行ったときの話とか、10年間務めたサラリーマン時代の思い出とか、そんな感じ。

 NYに行った話の中では、例によって常盤さんのお上りさん体質についての一節がある。ちょっと引用してみましょう。


 二十代のころ、東京のどこを歩いても、無縁のように思われた。歩いている本人がその場にふさわしくないのである。誰にお相手にされないのが腹立たしくもあり、しかし、嗤われても当然だという諦めもあった。(中略)
 けれども、ヴィレッジのはずれあたりをひとり歩きしていると、惨めな気持と誇らしい気持が交錯する。あんなに憶病なのに、こんなに大胆なことをしているという気分、若いころは旅行嫌いだったのに、いまは時差が半日もある遠い、遠いくにへ来てしまったという頼りない気持。
 これは東京にはじめて出てきたときに味わった、恥ずかしい、気持である。この年齢になって、若いときと同じ気分になるとは、ああ、有難いと思う。
 歩いていて、思いがけず古本屋でも見つければ、そこに飛びこんで、ポケットからあわてて老眼鏡を出し、もどかしそうに書棚にぎっしりと並んだ本の背文字を読む。そのとき、俺は老眼鏡こそかけているけれども、若い人に負けないほどに好奇心があるんだ、向学心があるんだとうれしくなる。(88-89頁)




 あと、印象的だったのは(他のエッセイでも既に読んだことがあるような気もするけど)二人の娘さんたちが小さかった時に、荒川の土手を一緒に自転車をこいだ時の思い出とか。なにせW不倫の末のことだから、最初は娘さんたちは不倫相手の姓を名乗っていたのだけれど、協議離婚が成立したことに伴って娘さんたちも途中から常盤姓を名乗るようになり、といった事情を綴ったものとか。

 でも、やっぱり一番面白かったのは、翻訳家業の傍ら、担当編集者に勧められて小説を書き始めた頃の話を書いたエッセイかなあ。なかなか書き上げられなくて、難儀したこととか、書き上げた後はなんだか恥ずかしくて、書き上げた途端にNYに(仕事ついでに)高跳びしたとか。あと、翻訳家をしていた頃、女流作家に「たかが翻訳家風情が」とののしられたことや、小林信彦に『1960年代日記』の中であしざまにののしられたりしたことがあって、それを機に「だったら小説を書いてみよう」という気になった、なんていう話は、この本を読んで初めて知りました。その辺りはちょっと面白かったですなあ。

 それにしても、小林信彦は一体どういう理由で常盤新平を毛嫌いしたのだろう? 二人は同年代のはずですけどね。早速『1960年代日記』(絶版)をポチしたので、これが手元に届くのがちょっと楽しみ。

 というわけで、この本、常盤さんのエッセイ集の中では上質な方ではないかと。私は割と好き。教授のおすすめ、と言っておきましょうかね。


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Last updated  February 3, 2025 01:00:08 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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