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仮面の男(ちびキャラ)を微修正しました。↓微修正
2016/01/23
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(※微修正)名前:不詳年齢:不詳種族:ミュミュ補足:ミュミュの長老吾輩はミュミュである。名前はまだ無い。どこで生まれたとか とんと見当がつかぬ。なぜなら なんとなく描いちゃったからである(;^ω^)■お絵描き.■ファンタジー.■オリジナル. ■ちびキャラ.
2016/01/20
初稿:2016.01.13編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-11【祟神】 十数年前、ウェルティス・フォン=バレル三世の宗教改革によって教会令が編纂された。 変革の波は教会全体に及び、綱紀粛正と倹約が図られて、既得権益の温床だった修道会は解体されることになった。 教会財産の透明化の促進に伴い、封建領主層の聖職特権は剥奪されて俗世との癒着の構造は改革されようとしていた。 この一連の粛清により元老院の発言力は著しく低下した。 窮した古老たちは神の御名を以って、嘗ての特恵を取り戻そうと禁忌に触れたのだろう。「メナディエルの魂のカケラは、長い時間をかけて躯となった器に蓄積していった。 ―――そしてわたしは目覚めた」「其方はメナディエルなのかや?」 ミュークの息が荒い。 冷気が氷のように心身に染みこみ過呼吸になる。「この魂はメナディエルのものですが、記憶や感情はエレシアムという一個体から受け継がれています。 断片化された魂に付随した女神の自我は、時間の経過と共に薄れて、わたしという憎悪の器に呑みこまれたのです。 だから、わたしはメナディエルでありエレシアムでもある」「古老たちはどうしたのじゃ?」 精神が思考することを拒んでいた。 だが、知りたいことは山ほどあった。「身体機能の再生に彼らの手が不要になった時点でご退場願いました」 婉曲な言い回しだったが、意味するところは明らかだった。 古老たちは錬金術を試行して不老不死を探究していた。 重度熱傷で損なわれたエレシアムの肉体の欠損を補うため、生体精錬を試みていたのだろう。 延命を渇望した古老たちは、己が欲望を触媒に死神を招き寄せてしまった。 皮肉な話である。「なぜ殺したのじゃ? 邪な存在とはいえ、古老たちは其方を甦らせた恩人ではないのかや?」「元老院は聖アルジャベータ公会と示し合わせて、シャルロットを殺すつもりだった。 だから排除したの。 これ以上、無駄で無意味な慣習や伝統に罪のない子供が巻き込まれる姿はみたくなかった」「そうか、シャルロットが脱環の儀を終える前に、聖女の血統を嫡女の血筋に返す必要があったわけじゃな」 聖女の資質は代々リュズレイ家の嫡女にのみ受け継がれる。 一般大衆にとって形骸化された因習であっても、聖アルジャベータ公会の信奉者にとっては絶対の真理である。 シャルロットの名が聖女の序列に刻まれることは、教義に背反するばかりか、信仰そのものの否定を意味する。 アルフォンヌが商王ヘリソンを通じてミュークに聖女の誘拐を頼んだのも、シャルロットの身の保全が目的だったのかもしれない。 様々な思惑が絡み合った結果、真実はシャルロット本人の口から公表されたのだから、ある意味丸く収まったともいえる。 ただ事実をひた隠しにしていた聖アルジャベータ公会は苦しい。 下賤な憶測を避けるために、教会の正式釈明として真の御子は死産であったと後付されたが、未だ空席となった聖女の継ぎ目に関する発表はない。 その資格者であるプルミエールが行方不明となっているのだから当たり前だ。「シャルロット姫の話なら俺も混ぜて欲しいものだな」 茶化すような声には聞き覚えがあった。 振り向いた先にエドゥアルトの姿があった。 その隣ではユイリーンが驚愕の様相で立ち尽くしている。 落盤に巻き込まれたミュークたちを追って、ここまで降りてきたのだろう。「お母さま……?」 歩み寄ろうとしたユイリーンをエドゥアルトが押しとどめる。 エレシアムはユイリーンの実母ソフィアの双子の姉である。 見間違えても仕方がないだろう。 それに比べて、青年の方はある程度状況を理解しているようだった。 こちらは抜け目なく聞き耳を立てていた可能性もある。「なにより、このエドゥアルトを差しおいて美女と密会とは戴けない」「本当にそう思うなら交代してやってもよいぞ」 ミュークが皮肉を込めてエドゥアルトに代役を提言する。 できれば本気で受け入れて欲しいと考えていた。「いやいや遠慮しておこう。 種族を超えた逢瀬の邪魔をするほど無粋ではないからな」「アホか。 与太話をしておる場合ではないわ。 まったく、一癖も二癖もある輩ばかり集いおる」 エドゥアルトの口車にのせられたミュークだが、不安や恐怖から己の心を糊塗するには十分だった。 軽口序に内心で「どうせ助けに来るなら、教皇庁を守護する一個騎士団辺りを引き連れてこい」と毒づいた。 もっとも相手が相手だ。 焼け石に水かもしれない。 両者の背後でバルバロトとユイリーンがしたり顔で頷いていたりもしたが、誰もツッコむことはなかった。「お話しは終わりまして?」 エレシアムは気分を害した風もなく、悪戯っぽく微笑していた。「騒がしくなってすまぬな」「いいえ、お礼をしたいぐらい。 こんな賑やかな空気は久しぶりです。 地上にでる喜びが増しましたわ」「其方の目的はなんじゃ? 教会への復讐かや?」 ミュークの視線が鋭利な刃となりその切っ先をエレシアムへと突き付ける。 紅眼に冥い燐光が宿り、闇の深遠を覗きこもうとしているようだった。「わたしの役割は古き因習から世界を解き放つこと。 教会がその妨げとなるのなら、そうなるのでしょうね。 そしてそれはアナタ方も同様です」「故に邪魔をするなと?」「ええ、その為なら、どのような犠牲も厭いません。 わたしがそうであったように、いくらでもアナタたちの代わりは現れる」 エレシアムはアダマストル王家、強いてはメナディエル正教に纏わる旧態依然とした価値観を廃絶するつもりなのだろう。 そして彼女が選ぶのは最も端的で確実な手段だ。 現体制と対立することは明白である。 教会の改革を望むシャルロットとて、多大な犠牲を伴う急激な変化は望まないだろう。 描いた未来が同じでも、その過程において流れる血の量が違いすぎる。「なるほど、これはとんだ食わせ者じゃな。 元老院の古老たちのように、不要になった駒は消せばよいか?」「なにか誤解をされているようですが、あれはシャルロットの命を救う為に致し方なく―――」「いいや、其方は目的を果たす為、どのような犠牲も厭わぬと云った。 だが一方で罪のない子供を救いたいなどと嘯いて、シャルロット・リュズレイに味方した。 結果的に教会内の聖アルジャベータ公会の影響力は増大することになった。 傍目にも、其方は宿願から遠ざかったようにみえる。 はて、どちらが本当の顔じゃろうか?」 ミュークは顎をあげてエレシアムを見据える。「どちらも嘘偽りないわたしですわ」「ワチキの目に映る其方はひとりじゃ。 なぜならこれらは矛盾しておるようで、実は一貫しておる。 正教にとって聖アルジャベータ公会と白十字教は陰と陽の関係じゃ。 どちらか一方が衰退すれば、もう一方が繁栄する。 だが過去、この天秤が振り切れることはなかった。 その中心にいる教皇が中立を保ち、均衡を図ってきたからじゃ。 其方が目的を果たすには甚だ不都合な体系といえよう。 そこにシャルロット・リュズレイの登場じゃ」 ミュークが意味ありげにエドゥアルトを見る。 当事者の青年は軽く肩をすくめて言葉を継いだ。「俺たちはまんまと利用されたというわけか。 聖座の世襲権を独占していたフォン家が排斥されて、教会史で初めて特定教派に所属する教皇が誕生した。 これにより教派間の均衡は著しく損なわれる」 溜息をついたエドゥアルトを一瞥してミュークは満足気に頷いた。 併せてシャルロットが初代聖女に神剣アンネシュティフを託されたという噂が本当なら、諸教派の代表も現教皇の声を無視できないだろう。 和解を進めて融和を図ることも夢ではないのかもしれない。 教会に蔓延る腐敗を根絶するには教派を統一するのが一番の近道だ。 そして、全てが果たされた上で聖アルジャベータ公会の虚構に彩られた醜悪な姿が世に露見すれば、嘗ての名声は容易に汚名へと転じる。 いつの世も人心とは移ろいやすく不確かなものであるからだ。「恐らく、ゲティス・フォンの聖座継承の世襲権を失効させて、インドブルクス家の幼子を聖座に据えようと画策したのは古老たちじゃろう。 その過程で元老院と聖アルジャベータ公会の利害が一致して、古老たちもシャルロット・リュズイレの抹殺に本腰をいれた。 そこから先は其方が話した通りじゃな」 全てを語り終えてミュークは待った。 短くも長くもない沈黙の末、「血は争えませんね。 アナタは出会った頃の、アルフォンヌさまにそっくり。 最初は現ウィズイッド家当主の人と成りを見極める目的でした。 人族と同盟を結ぶような風変わりな屍族が、ルドルフさまとアルフォンヌさま以外に存在するなんて信じられませんでしたから」「変わり者で悪かったの」 口から飛び出た不平とは裏腹に、ミュークの表情は心なしか嬉しそうにみえた。「蛍輝石を必要とするのなら、ここまで鉱脈を辿ってくるのはわかっていました。 そして再認識いたしました。 ウィズイッド家はわたしの前に立ちはだかる壁となる。 障害の芽は早いうちに摘み取っておくことにします」 エレシアムが幽鬼のように覚束ない足取りで近づいてくる。 どうやら“女教皇”の能力を駆使して会話を引き出していたことが見破られていたようだ。 神による死刑宣言など不吉極まりないが、インクル・ノス・クルンに忠告された通りの現実が訪れたのだと考えれば想定内ともいえた。「早計に失するぞ。 神が一度口にしたことを違えては、信者に示しがつかんじゃろう」「アナタはわたしの信奉者ではありませんわ」 痛いところを突く。 一部、古き信仰を貫く者たちを除けば、屍族の大半は無神論者である。「初志貫徹するなら宗旨替えも考えるが?」「それなら再誕したわたしの最初の信者として、その身を捧げてください。 神事に生贄はつきものですから」 どう転んでも結果は同じらしい。 あどけない口調とは裏腹に死の気配が漂う。 エレシアムの毒気にあてられて、ミュークの毛穴のひとつひとつが凄まじい悪寒に泡立っていた。 圧迫感に大気が振動しているようだ。 視線の先で、腰を抜かしたユイリーンをエドゥアルトが抱き上げていた。 生憎、今は他者を気遣う余裕はない。 上手く逃げ延びてくれることを願うしかなかった。「こいつはやべぇな」 傍観者を放棄したバルバロトが腰の曲刀を抜いて、ミュークを庇うようにエレシアムと対峙した。 巨漢のうなじの毛が逆立っているのがわかる。「逃げるのじゃ。 あの者の標的はワチキだけじゃ」 ここで雁首揃えて無駄死にする必要はない。 まだ希望はある筈だ。 エレシアムの心は完全に闇に染まりきってはいない。 故に心裡を覗かれることを恐れたのだ。 直接闇を照らす光にはなれなくても、生き延びて、その可能性をもった者たちを導いて欲しかった。 などと、慣れない台詞で恰好をつけたミュークの頭部が鷲掴みにされて、強制的に髭面と向かい合わせになる。 見るからに不機嫌なバルバロトがそこにいた。「な、なんじゃ?」「それ以上言ったら殴るぞ。 アンタは俺様の相棒だ。 地獄の底までだってつきあうぜ」「すま……いや、バルバロト、ワチキに命を預けてくれるかや?」 ミュークは、はじめてバルバロトを名で呼んだ。 この巨漢の心意気に応えるのに、それがもっとも適当だと感じたからだ。「おう。 命のひとつやふたつ幾らでもくれてやる」 片目を瞑ってみせたバルバロトに力強く頷くミューク。 術師としては未熟だが、稀代の天才屍霊術師と謳われたアルフォンヌの血を引いているのだ。 己が天分を授かっていると信じて意識を集中する。 小細工はない。 中途半端な屍霊術では鉱脈に届く前に掻き消されてしまう。 できることはひとつだけだった。 全身全霊で体内に眠る負の霊的原水を活性化させていく。 並行して滅茶苦茶な構成で繋ぎ止めた屍霊を左腕に誘引して、限界まで練り上げる。 暴発寸前の歪な蒼炎の塊が収束して、外衣の袖がはじけ散った。 黒煙が立ち上り肉の焼ける臭いが漂うが、怯むことはない。 ミュークは最後のチカラを振り絞って押し出すように左腕を振り上げる。 渦巻くように霊熱の塊は蛍輝石の鉱脈に吸い込まれて消滅した。 否―――岩壁に蒼白い閃光が帯状に走り、凄まじい質量が溢れだしていく。「あわわ……変換器もなしにそんなことをしたら」 遠くでユイリーンの慌てふためく声が聞こえた。「(それが狙いじゃ)」 転瞬、飽和したチカラの奔流がマグマのように膨れ上がり破砕した。 以前、ユイリーンが高説をたれていた対消滅の作用を利用したのだ。 落盤に巻き込めば、満足に動けないエレシアムに逃れる術はない。 たとえ魂は不滅であっても、器である人族の肉体を破壊することは可能だろう。 ―――轟くような大爆音「レムの不幸癖が本格的にうつったらしいの」 足場が崩落して、宙に投げだされる。 次からは不幸避け、もとい不幸請負人の少年も必ず同行させようと、ミュークは心に誓った。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル.
2016/01/13
初稿:2016.01.09編集:0000.00.00<< 前の話 次の話 >>※月ノ章の本編です4-10【祟神】「アナタがアルフォンヌさまのご息女ね」 凛と澄んだ声が語りかけてきた。 喉の渇きを覚えて、ミュークは何度も唾をのみ込んだ。 舌が張りついて言葉がでない。 吸血衝動にも似た感情に囚われる。 それほどに女の姿は美しかった。 淡い紅色のドレスを纏い、腰までかかる明るい金髪は上等な絹糸のようである。 少しつり上がった目元、整った鼻筋、愛らしくふくらむ口唇。 伝え聞く通りに目の覚めるような美姫である。 だがそれは十七年前の話である。 目前の女が件の人物であるのならば、とうに30歳を超えている筈だ。 しかしその容姿に衰えは微塵もなかった。「わたしは……、エレシアム・リュズレイ。 “女教皇”の血統アルカナの継承者さまに自己紹介は不要だったかしら?」「(どういうことじゃ……)」 抱いていた違和感が膨らんでいく。 混濁した脳内でミュークはその正体を見極めようと試みた。 名乗る瞬間、僅かだが考えるような素振りがあった。 通常なら気にも留めないほど小さな歪みが引っかかる。「そんなに緊張なさらないで。 ただ、この目で見ておきたかった。 わたしには訪れなかった可能性を……」 端整な顔がミュークの隣に向けられていた。 そこにバルバロトの姿があった。 異変を察知して追いかけてきたようだ。「この別嬪さんはアンタの知り合いか?」「い、いや、既知ではあるが初対面じゃ」 能天気な物言いに、ミュークは喪失した現実感を取り戻しつつあった。 場を支配していた圧迫感が嘘のように消え失せている。 状況を説明しろと耳打ちしてきた巨漢にプルミエールの母親だと告げて目配せする。 意図が通じたのか、バルバロトは一歩退いて成り行きを見守る傍観者となった。 大雑把な性格だが、ところかまわず我を張るほど愚かではないらしい。「其方はとうの昔に死んだものと聞いておったよ。 人伝の噂など、とんと当てにならぬようじゃな」 アルフォンヌの存在がなければ、ミュークも直面している現実を安易に受け入れはしなかっただろう。 母の手紙がエレシアム生存の決定的な証左となった。「そうとも限りません。 実際、その噂は当たらずも遠からず。 いえ、遠からず当たっているというべきでしょうか?」 まるで謎かけのような返答だった。「それはどういう意味じゃ?」「この世には死よりも苦痛を伴う生が存在するということです」 エレシアムはぞっとするほど冷たい声で語りだした。「ウィズイッドの血族であらせられるアナタならご存知かもしれませんが、わたしは17年前に屍族の子を身籠りました。 ルドルフさまに出逢って、他種族でも理解し尊重することができれば、平和的に共存することができると感じた。 わたしとあの人の子供は、教会を……いえ世界を導く存在になると思いました」「絵空事じゃな。 声高く教理を掲げはするが、宗教の本質は拒絶と差別で満たされておる。 さながら閉鎖的世界に築かれた見せかけの平穏じゃな」 ミュークが自嘲気に嗤った。 優れた理念や理想は尊きものだ。 だが道理そのものに価値があるわけではない。 例えそれが嘘や方便、打算的な偽りであっても、救われる人間はいる。 嘗てアルフォンヌは、必要なのは不変の真理などではなく、不偏の意思なのだと語っていた。「ええ、彼らが掲げる平和とは排他的で利己主義に塗れていた。 教会に不都合な嘆願は見向きもされませんでした。 わたしは異端者としてイス家管轄のアンジェスチン修道院に拘引されました。 その後、生まれた赤子は修道院内の別の施設に送られたとだけ伝えられた。 でも、怖くはなかった。 それがルドルフさまと共に歩む未来であるのならば、どのような運命でも受け入れるつもりだった。 ただルドルフさまとの絆―――あの子の命だけは守りたかった。 そんなわたしの気持ちを見越した上で、聖アルジャベータ公会は交換条件を突きつけてきました」 エレシアムは悄然と押し黙る。 幾許かの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。「アルル=モア王弟との間に次代の聖女となる赤子を産むことで、全ての罪は赦されるだろうと」「それがプルミエール嬢かや」 ミュークは歯噛みするように唇を噛んだ。 ウィズイッド家の屍族として、アダマストル王家とオルカザード家の因縁は知悉していた。 記憶の精査を怠らなければ、もっと別の未来を選び取ることもできた筈である。 過去の自分と向き合うことを拒んだ結果、両家に更なる悪種を植えつけてしまった。 今にして思えば、片腕を失ったことも因果応報なのだろう。 エレシアムの語る内容は次第に血生臭さを増していった。 月日が過ぎ、要求通りエレシアムはプルミエールを出産する。 だが約定が果たされることはなかった。 修道院が大火に巻き込まれたからである。 記録では修道士や巡礼者も含め、生存者はひとりもいない。「聖アルジャベータ公会の奸詐であることは疑いようがないの」 ミュークは断言した。 用済みとなった聖女共々、忌み子を闇に葬り去ろうと画策したのだろう。 目に余る非道な行為だが、聖アルジャベータ公会は聖女を神格化して崇拝の対象としている。 エレシアムの犯した不義を隠匿することは、教派の存続にも関わる大事だ。「四肢が焼け落ち、最期の瞬間を迎えるまで、わたしはあの子を探しました。 そして死の淵で願った。 ルドルフさまが助けに来てくださることを……」 エレシアムの両眼が紅色から冥く濁った碧色に変色しつつあった。 体温が刻々と低下していくのがわかる。 加えて足元から地響きのような振動が伝わっていた。 いつぞやのような度重なる地震の影響で、地盤が緩んでいるのかもしれない。 この地を訪れて以来何度か経験した揺れだが、ここも崩壊する恐れがありそうだ。「でもあの人はこなかった……。 わたしとあの子は見捨てられた」 エレシアムが嗤う。 そこには明確に負の感情が宿っていた。「……それは違う筈じゃ」 ミュークの言葉は弱い。 ルドルフ=オルカザードと面識はあったが、知己の間柄ではなかった。 それでもルドルフを弁護したのは、アルフォンヌが認めた人物であるからだ。「それならなぜ、あの人は助けてくれなかったの? 修道院に軟禁されて、望まぬ婚姻を結ばされた。 それでもいつかこの地獄のような鳥篭から救い出してくれると信じていた。 だからどのような苦痛も受け入れてきました」 それは魂の叫びだった。 言葉を重ねるごとに、血涙が滲み出てくるようだ。 純然たる憎悪に触れてミュークの脚が震えていた。 その時、ふと両肩に力強い圧力を感じた。 振り返るとバルバロトと視線があった。 ミュークは、大きな両手に背中を押されて怯みかけた心を奮い立たせる。「ルドルフにも退っ引きならない理由があったのじゃろう」「理由……そうね、理由があれば、仕方ない……。 だから今のわたしが在ることも仕方がない」 エレシアムが憎しみを繋ぎとめるように咀嚼する。 細指が胸元で鈍い輝きを放つ雪儚華を象った首飾りに添えられていた。 雪儚華は星型の白い花弁が美しい高山植物である。 西大陸北方の白竜の峰が生息地として有名であり、同地区を支配下に置くオルカザード家の表紋にも用いられていた。 ミュークも己の言葉がエレシアムの心に届かないことは理解していた。 今はまだ足りない。 それが何なのかはわからない。 だが見つけなければならなかった。 そしてその為には核心に触れる必要があった。「其方を甦らせたのは何者じゃ?」 疑う余地はなかった。 エレシアムは一度死んでいる。 そしてなんらかの方法で生き返っていた。「元老院の古老たちです。 彼らは回収したわたしの亡骸に反魂の秘法を試みた」「なぜ、そのようなことを? 元老院のなかにも聖アルジャベータ公会の息のかかった者がおったであろう。 彼奴らにしてみれば、其方が生きていて不都合なことはあっても、得るものなどなにもない筈じゃ」 ミュークは納得できないといった風に首を横に振った。 間接的にしろ、教会の面子を保つために害した人間を再び甦らせるなど馬鹿げている。 エレシアムが聖アルジャベータ公会の悪行を公に証言すれば、メナディエル正教全体に激震が走ることだろう。 対立教派の白十字教とて、教会の権威に傷をつけてまで勢力の拡大を図るとは考え難い。 現実的に起こり得る可能性でもっとも濃厚なのは、オルカザード家の介入である。 元老院は古くからオルカザード家と密接な繋がりがあった。 同家の千年蟲毒の秘術が、古老たちの悲願である不死の探究に必要不可欠なものであったからだ。 だが実情、その線も薄いだろう。 ルドルフの一存でオルカザード家が動くとは思えない。 それが可能ならこのような悲劇は回避されていた筈である。「いや、そもそもそのようなことが可能なのかや?」 どのような霊薬も術法も世の理を捻じ曲げることはできない。 人智を超えた神の御業を以ってすれば或いは可能かもしれないが、それは奇跡に属するものだろう。「死人を甦らせることはできなくても、ヒトならざる魂を霊障させることは可能だった。 聖伝承にその記録が残っていたそうです」「まさか……それは―――」 ようやく気付いた。 ずっと感じていた違和感の正体について。 エレシアムの碧眼から視線を外すことができなかった。 吸い込まれるような深さに耳鳴りがやまず頭が酷く痛んだ。「女神メナディエル。 それが古老たちが呼び戻した存在です」 ミュークは絶句した。 心臓がすさまじいはやさで脈打っているのがわかる。 ヒトの手で神を来臨させることなど本当に可能なのか? いや聖剣戦争時、初代聖女アルジャベータはその身に女神メナディエルを降臨させて人族を勝利へと導いたとされている。 リュズレイ家はアルジャベータの血統を受け継ぐ一族であるのだから、あり得ないことではない。 だが話があまりに大それている。 俄かに信じられるものではなかった。<< 前の話 次の話 >>※気まぐれに推敲致します。推敲後の文章はフリーページorHPの方で反映されます。■小説.■ファンタジー.■オリジナル.
2016/01/09
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