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(※高画質verに差し替えました)線画補正後、人物部分を彩色致しました。今回は挿絵ですが、壁紙仕様のヌリヌリです。見えない部分のヌリ方をちょっぴり変えてあります(笑)
2011/01/31

小説モドキ内でプルミエール嬢が新コスになるので、挿絵用途で描きました。暇見てヌリヌリします。
2011/01/27

※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-05【語部】月ノ章 3-05【語部】―プルミエールSIDE― 何事も無かったように、たっぷりと夜は更けていた。 「うにゅ、スッキリしたです」 幼い肌を薄桃色に紅潮させたプルミエールが一言。 湯浴みの後らしく、薄絹一枚を幼い肢体に巻き付けたあられもない姿である。 「それはようございました。 ところで、本当にアレで宜しかったのですか?」 工房内では、ラヴリーポウが水上艇の整備点検に取り掛かっていた。 前大会から三年もの間、納屋の奥で眠っていた艇体は、所々塗装が剥げ落ちて、赤茶けた強化木材の下地が覗いている。 「なんのことですか?」 「レムリアさんのことですよ。 見たところ、とても嫌がっていたように思えましたので……」 「うにゅ、レムレムの死はムダにはしません」 プルミエールのなかでは、既に故人と化しているようだ。 レムリアを売り渡して、身の保全を確約した負い目など、まるで感じていない。 「そ、そうですか」 ラヴリーポウが口篭る。 主従の間に過分に立ち入るべきかどうか迷っているようだ。 百歩譲って良心的に解釈すれば、それだけユイリーンを信頼しているのかもしれない。 「そんなことより、“すぺしゃるデンジャラス号”はだいじょぶですか?」 しかし、当のプルミエールは周囲の葛藤など何処吹く風、過ぎてしまったことは気にしない性格だ。 亡き者にされたレムリアが知ったら化けて出そうである。 無論、生霊としてだ。 「はい、錆付いた部品を交換すれば、問題ない筈です。 ときにプルミエールさまは、三年前、初めてこの工房を訪れた時のことを覚えていらっしゃいますか?」 ラヴリーポウも深く考えることは止めたようで、昔を懐かしむように微笑んだ。 「うにゅ、リナリナといっしょでした」 「わたしはプルミエールさまのお姿を拝見して、一目で確信しました。 因果は巡り、再び贖罪の機会が与えられたのだと……」 ラヴリーポウはプルミエールの双眼に宿る特異な色相に、魅入られたように呟く。 「むむ、ラヴラヴは美味しいのですか?」 プルミエールが真顔で尋ね返す。 “贖罪”と“食材”―――大方、脳内辞書に存在しない単語を安易に取違えたのだろう。 口を開くと高確率で話の腰が粉砕骨折するので、対話相手はたまったものではない。 「え、え~と……、食される前に、ちょっとした昔話にお付き合い願えますか?」 ラヴリーポウは困ったように頬を掻いていたが、改めて意を決するとプルミエールの元へ歩み寄る。 「うにゅ、くるしゅーない」 プルミエールは寝椅子に腰を落として偉そうに促した。 「これは天地創造と原初のお話です」 少女の了承を得たラヴリーポウが、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。 「神様は生命の源たる世界樹が実らせた四つの実を地上に撒きました。 そして、その実から誕生した四体の聖獣に知恵と不滅の魂を授け、この世界の統治を任せたのです」 天窓から差し込む月明かりが、ラヴリーポウに優しく降り注いでいた。 「まず最初に聖獣たちは、己の血肉から獣人と呼ばれる眷族を生み出しました」 「“せいじゅう”に“じゅうじん”?」 聞きなれ無い単語にプルミエールが鸚鵡返しに尋ね返す。 「はい、豊穣と多産を司る“緑眼の聖母メナディエル”は【有角族】、常闇に生き、冥府の支配者たる“死せざる王グラトリエル”は【屍鬼族】、カラクリと称される機械技術を大成した“森の賢者ノルド”は【巨人族】、精霊と交感し、それらを使役した“無銘の小さき女王”は【妖精族】、四大聖獣は同眷属の王として、地上に至高の楽園を築き上げたのです。 ちなみに、“獣人”とは聖獣から生まれたヒト型に綽名された総称であり、必ずしも半獣の姿を指しているわけではありません」 ラヴリーポウは漆黒の双眼を閉じると、間断なく物語を綴る。 「悠久なる時が流れ、地上の実質的な支配者となっていた“森の賢者”は神の御許に還ることを切望するようになります」 「里ごころがついたのですね」 プルミエールが身も蓋もない感想を洩らした。 言葉を飾り立てしないのは、この少女の美点でもあり欠点でもある。 「うふふ、聖獣とは元々神界の生物ですから、その通りかもしれません。 そして、“森の賢者”は他の三聖獣に協力を求めました。 誘いに応じた“死せざる王”と“小さき女王”は巨人たちに破壊と再生のチカラを与えて、天への道を拓く手助けをしました。 しかし、“緑眼の聖母”だけは一向に動こうとはしませんでした」 「プルもだんたいこうどうはニガテです」 どうやら、“緑眼の聖母”に妙な親近感を抱いているようだ。 「“緑眼の聖母”は生命の恵みを司っていましたから、望郷心よりも新たな命が宿る地上への愛着が強かったのかもしれません。 しかし、有角族からは不満の声があがりました。 配下の眷属は、創造主である聖獣の意志には逆らえませんから、有角族だけが地上に取り残されることを危惧したのでしょう」 「ウダウダ言わずにかかってこいです!」 プルミエールが何様的な見地から意見を述べる。 「結果、“緑眼の聖母”は、我が子にも等しい有角族の手によって首を落とされてしまいました」 「やっぱり、こなくていいです」 が、現実を知って、前言は敢え無く撤回された。 「それは、民草の声に耳を傾けなかった報いだったのかもしれません。 しかし、誤算は弑逆した側にも生じました、“緑眼の聖母”が物質的に滅びたことにより、有角族たちは“獣”としての特性の全てを失ってしまったのです」 ラヴリーポウはそこで言葉を区切ると、プルミエールの顔を正面から見つめる。 「“じゅーじん”じゃなくなったのですか?」 「ええ、その時、この地上に“ヒト”と呼ばれる存在が生まれたのです。 でも、それは有角族にとっては幸運だったのかもしれません。 天を目指す聖獣たちの試みは、神様の怒りを買い、それに加担した巨人族は“ヒト”としての姿を奪われ、一介の“ケモノ”に成り下がりました。 生き残った三体の聖獣も、魂を奪われ、この世界の何処かに呪縛されています。 そして、聖獣の加護を失った屍族と妖精族は、次第にその個体数を減らし、種の滅亡を迎えつつある。 その全てが、賢者などと褒め称えられ、増長した愚か者が招いた因果……」 深い余韻を残して、ラヴリーポウは口を閉ざす。 まるで悔いるように俯いていた。 「むぅー、ココロがせまい神サマですね」 何かを感じ取ったのか、プルミエールが憤慨する。 ラヴリーポウの語った内容は、それが真実であれば、人族と古種族との関係を解き明かす途方も無い話であるのだが、そちらの重要性に気づいていないようだ。 「ウフフ……、お優しいのですね。 流石はミュミュに主人として認められただけのことはあります」 「えっへん。 でも、ムズカシくてよくわかりませんでした」 お馬鹿だが、同時に嘘がつけない素直な性格である。 「今はわからなくても大丈夫です。 ただ、この世界に存在している獣達は全て、“森の賢者ノルド”の眷属であった巨人族の末裔だということだけは覚えておいてください」 ラヴリーポウの目的は史実を正確に伝えることではなく、プルミエールに世界の理を知ってもらうことにあるようだ。 「ニャニャーもですか?」 「はい」 「じゃ、じゃあ、ワンワンも?」 「勿論」 「そ、それじゃミュミュも?」 立て続けの問答の末、プルミエールはこれが最後とばかりに、床上に転がっていたミュミュを両手で抱えあげた。 「この子には少し特殊な理由がありますが、似たようなものですね」 ラヴリーポウがミュミュの頭を撫でる。 「ちっちゃいけど、ほんとうはでっかいのですね♪」 プルミエールも獣たちが巨人族の成れの果てだと理解したのだろう。 満足したように何度も頷いていた。 「今の人族は間違った伝承に縛られ、本来の姿を見失っています。 ですが、わたしは信じています。 今度こそ、闇に堕ちた“緑眼の聖母”は救われると。 そして、世界を覆う霧を晴らすことができると。 その時が来たならば、どのような助力も惜しむつもりはありません」 ラヴリーポウはプルミエールを腕のなかに掻き抱く。 その抱擁は優しく、それでいて力強いものであった。 「うにゅ、ど~んとプルにまかせるです!」 何は無くとも、根拠のない自信だけは持ち合わせるプルミエールであった。 ==============================================“天地戦争”と“聖剣戦争”の真実の姿を描写する為の布石回です。
2011/01/23
昨年も、尊敬できる人、素晴らしい作品との出会いがありました。でも、それが必然であったと断言する為には、自分自身がよき創作者で在らないといけません。あの人の影響を受けて自分はこんな作品を創っていますと、堂々と言える自分になりたいです。まぁ、深く考えると、自分の才能の無さにガッカリしますけどね(笑)
2011/01/19

※続きです※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-04【天敵】月ノ章 3-04【天敵】―レムリアSIDE― 「ユ、ユユユユユユユ……ユイユイ。 な、なぜここに!?」 一方、清楚さとは無縁のプルミエールは、あからさまに狼狽していた。 「あら、お忘れですか、此度の水霊祭にはアダマストルの失われた技術(ロストテクノロジー)学術探査機関も技術提供致しておりますのよ。 副所長兼、実施責任者、加えてアルル=モア王家とも縁戚であるわたくし―――ユイリーン・リュズレイが、両国の友好の証としてここにいるのは当然でございますわ」 ユイリーンは手の甲を口元に当てて、優雅に笑う。 この人物がアダマストルの第三王女であるのなら、齢十歳にも満たぬ少女である筈だが、その物腰は姉姫であるプルミエールよりも遥かに大人びていた。 「ぐぬぬ……、まちぶせとはヒキョーな」 プルミエールが奥歯をギリギリと噛み締めて、腹違いの妹を睨みつける。 目の前のユイリーンは、父親は同じだが、母親が違っている。 プルミエールの実母であるエレシアムの死後、父ルクサーが後妻として迎えた、エレシアムの双子の妹ソフィアの吾子であった。 「相変わらず他人の話を聞かないですわね。 わたくしは一月も前からアンディーンに滞在しておりますわ。 此度は別件で、ラヴリーさまにお話があっただけです」 「ええ、ユイリーンさまには先日、ロアの湖底で発見されたノルドの遺産に関して、いろいろとお知恵を拝借しております」 ユイリーンの言葉をラヴリー・ポウが裏付ける。 「ノルドの遺産が発見されたのですか!?」 と、その会話に真っ先に反応したのはレムリアであった。 ノルドとは、神代から連なる黎明期にこの地を支配していた巨人族の王の尊称である。 先程、ユイリーンが話したロストテクノロジーも、ノルドの遺跡から発掘された遺産のひとつに数えられている。 「はい、先日、水霊祭に即してロア湖の水質調査が行なわれたのですが、その際、湖底に地滑りの跡と、巨大な建造物が確認されたと報告がありました」 ラヴリー・ポウが詳細を説明する。 加えて、この発見が、近年、アルル=モア一帯で多発した小規模地震が齎した偶然の産物であることも付け加えた。 「ラヴリー・ポウ、お口が軽いですわ」 ユイリーンが眉を顰めて苦言を呈する。 「アダマストルの姫様方は、アルル=モアの王室とも血縁でいらっしゃいます。 国家の秘密を知る権利はあるでしょう。 それに水霊祭後に公式に発表される事柄ですから、大きな問題はありません」 現アルル=モア公主であるカタリナ・アヴィスは、プルミエールの実父ルクサー・アヴィスの実姉に当たる人物だ。 世襲制度であるアルル=モア王室において、未婚であるカタリナが明確に後継者を定めていない以上、プルミエールは有力な王位継承者のひとりだった。 「でも、ノルドの遺産が湖底で見つかるなんて意外です」 もっとも、この件に関して多大なる興味を示しているのはレムリアである。 「確かに、テトラモルフ大灯台然り、空中都市ニクネベェン然り、巨人族の技術の大半は天を目指す為に、築き上げられたといっても過言ではありませんわ」 ユイリーンが己が領分とばかりに、熱弁を振るう。 「ちょっと待ってください。 大灯台と空中都市を建造したのは屍族です。 ヤガ=カルプフェルトに現存する天地戦争に関する文献がそれを証明しています」 だが、この手の議題では、レムリアも譲らない。 「ノルドの遺産に関する第一人者であるわたくしに意見するとは、生意気ですわね。 古代グリーニアル期の文献の大半は焼失しておりますし、情報の断片だけを取り繕って、安易に曲解すればそういった愚説も成り立つでしょう。 ですが、現実に今の屍族たちが、ノルドに匹敵するほどの科学技術を持ち合わせているでしょうか?」 「そ、それは……、きっと何か理由があって……。 そ、それに、テトラモルフ大灯台には、グリムデンの血統アルカナが存在していましたし……」 ユイリーンの合理的推論に、レムリアは苦し紛れの反論を試みるが、それが不味かった。 「随分とテトラモルフ大灯台についてお詳しそうですわね。 まるで直に見てきたように聞こえますわ」 ユイリーンの双眼がすぅーと細まる。 ノルドの遺産を研究する者たちにとって、テトラモルフ大灯台は垂涎の調査対象である。 しかし、遺跡を所有するサリナハーム公国は世情不安を理由に、他国からの共同調査隊の申し入れを拒絶しているのだ。 「い、いえ……、噂で小耳に挟んだ程度です」 レムリアが失言を誤魔化すように、口笛を吹く。 「むぅ、レムレムはなにを言ってるですか、プルのだいかつやくをわすれたですか? そもそもアソコで―――モガ」 「アハハ、何を言ってるんですかねー」 レムリアが火に油を注ぎ捲くるプルミエールの口を背後から塞ぐ。 「まぁ、いいです。 アナタが何者であるのかは後程精査致しましょう。 ですが、天地戦争の内実がどのようなものであったにしろ、そこで用いられた技術は、ノルドのものであったとわたくしは仮説していますわ」 「き、きっと、そうです。 そうに違いありません」 あっさり手の平を返すレムリア。 早々にこの話を切り上げたいようだ。 それも仕方が無い、様々な問題をすっ飛ばして、盗掘者疑惑が急浮上中なのだ。 「とはいえ、わたくしとここまで議論できる存在も久方ぶりですわ。 プルミエールお姉さま、此方の“見慣れぬ”従者の方をわたくしにお譲りくださいませ」 ユイリーンはいきなりとんでもないことを口にする。 この姉にしてこの妹ありか、如何に表層を取り繕うと、血は争えないらしい。 「レムレムはプルの下僕なのでダメです」 プルミエールが拒絶する。 「無論、タダでとは言いません。 どうせ、また無断でお城を飛び出されたのでしょう?」 「な、なぜ、それを!?」 ユイリーンに耳元で囁かれてプルミエールが鼻白む。 喋れば喋るほど墓穴を掘ることになりそうだ。 「だと、思いましたわ。 先程の条件を受け入れてくだされば、見逃して差し上げてもよくってよ。 それにアナタもプルミエールお姉さまの下で奴隷生活を続けるよりは、知的で有意義な毎日を送りたいのではなくって?」 前者はプルミエールに、後者はレムリアへと向けられた言葉である。 「ボクはプルミエールさま個人に忠誠を誓っていますので、その質問にはお答えできません」 多少、心が揺れたがレムリアは忠臣を装って矛先を回避する。 アダマストル王家に仕える従者と名乗った以上、下手に拒絶して、怪しまれるわけにもいかない。 よって、意志の決定を主人役に委ねたのだ。 このプルミエールという少女は、“自分のモノは自分のモノ”どころか“他人のモノまで自分のモノ”というぶっ飛んだ発想の持ち主なので、そう易々と譲歩するわけもないだろうと高を括っていたのだが、 「うにゅ、よきにはからいなさい」 が、呆気なく了承される。 こうして、レムリアはユイリーンの従者へと配置転換する破目に陥ったのであった。 ==============================================
2011/01/17

※文字数制限を超えたので二つに分けます※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-04【天敵】月ノ章 3-04【天敵】―レムリアSIDE― 「とは言ったものの、アテもないしどうしようか……」 残されたレムリアが思案顔で腕を組む。 ミュークの判断を仰げぬ以上、目立つ行動は出来るだけ避けたかった。 屍族特有の白蝋の肌は化粧で誤魔化してはいるが、勘の鋭い者なら違和感程度は抱くからである。 「まったく、お舟レースにでたいとは、ミュクミュクもお子さまですね」 プルミエールが肩を竦めてやれやれと溜息をつく。 「ミュークさまの目的はお金のほうですけどね」 レムリアがその場に居ないミュークを擁護したいのか、貶めたいのか、微妙な発言をした。 「びんぼーさんなのですね」 「その点は、残念ながら否定できません。 というか、プルプルさん水上艇レースに詳しそうですね?」 レムリアも随分とプルミエールとの意思疎通のコツを掴んだようだ。 舌足らずな台詞から欠損箇所を補って会話の成立を見事に図っていた。 「うにゅ、よいところに気づきました。 プルはお舟レースでイチバンになったことがあるのです♪」 にんまり微笑んだプルミエールが誇らしげに胸を張る。 今回は珍しく内容を伴っていた。 もしかしたら、ずっと訊かれるのを待っていたのかもしれない。 「それは凄いですね。 それで、その時の水上艇ってまだこの街にあったりしますか?」 レムリアは少女の機嫌を損ねぬように一定の賛辞を送った後、本題に入る。 受付で確認した限り、水上艇レースで使用されるのは二人乗り小型船である。 無論、小さいとはいっても容易に持ち運べるものではない。 破棄されていないのなら、この街の何処かに保管されている可能性があった。 「うにゅ、ついてくるです」 プルミエールはレムリアの返事を待たずにズカズカと歩き出す。 どうやら、水上艇の在り処まで案内するつもりのようだ。 「あー、待ってください」 人混みに不慣れなレムリアは、プルミエールの背中を見失わないよう必死に後を追う。 鐘や銅鑼の音が鳴り響き、祭り一色に染まる街中を走り抜け、行き止まりの防水堤をよじ登り、複雑に入り組んだ水路脇の側道を進むと、やがて、通行人の疎らな郊外地へと辿り着く。 「ここです」 と、程なくしてプルミエールが立ち止まる。 「本当にここでいいのですか……」 レムリアは目前に聳え立つ謎の構造体を見上げて絶句する。 無理矢理言語化するなら、頭に二本のニンジンを生やした巨大なカボチャ。 くり貫かれた両目の部分に窓枠が嵌っていることから、かろうじて建造物の類だと認識できる。 門柱代わりに地面に突き立った橙色の物体―――恐らくこれもニンジンだろう、には“ラヴリー・ポウ技術工房”と表記された看板が吊り下がっていた。 「うにゅ、ここでお舟をつくってもらいました」 「へ、へぇ、そうなんですか」 他愛の無い会話をしつつ、前衛的な造形芸術が所狭しと立ち並ぶ前庭を横切ると、かぼちゃ屋敷の正面に辿り着く。 「ラヴラヴ、あけるです!」 プルミエールが巨大カボチャから突き出たラッパ型の器具に話しかける。 どうやら、外部と室内を繋ぐ通話装置となっているようだ。 「はっ!? あわわ……」 と、レムリアが急に狼狽しだす。 ここまで来て、ひとつの可能性に思い至ったようだ。 経緯はどうあれ、一国の第二王女を誘拐したのである。 安穏な旅路が続いた為に、追っ手が掛かっている可能性を喪失していたのだ。 見ず知らずの者なら巡礼者に扮装するだけで、誤魔化せるかもしれないが、個人的に面識があるとなれば、話は全く違ってくる。 「は、早く逃げないと……」 「レムレム、なにしてるですか」 慌てて踵を返したレムリアの首根っこを、プルミエールが両手で掴まえる。 「放してください。 こんなところで死ぬのはイヤですぅ~」 王族の拐取はまず間違いなく国家反逆罪にあたる。 おまけに屍族だと正体が知れれば、斬首は免れないだろう。 「死なばもろともです」 プルミエールが意味をわかって使っているのか、微妙な言い回しで開き直りを要求する。 暫くすると、外の騒動を聞きつけたのか、カボチャの家壁に波型の切れ目が走り、まるで生きているように口を開いた。 「何方ですか?」 誰何の声と共にのそっと巨大な影が姿を現す。 工房の外観も奇抜だったが、家主は輪をかけて型破りであった。 「ウ、ウサギ!?」 暴れていたレムリアの身体が硬直する。 声質からうら若い人族の女性と思いきや、現れたのは巨大なウサギだった。 着ぐるみの類かと目を凝らしても、釦や務歯の類は確認できない。 「ひさしぶりですね」 一方、プルミエールはこの奇妙な生物を見慣れているようで、驚いた様子は無い。 「これは、プルミエールさまではありませんか。 狭苦しいところですが、どうぞ中にお入りください」 巨大ウサギは、思わぬ訪問者に驚いていたようだが、直ぐに歓待の意を示した。 「うにゅ、よきにはからになさい」 プルミエールはど肝を抜かれて虚脱状態のレムリアを家内に蹴り入れると、自分も招きに応じる。 かぼちゃ屋敷の内部は、内装の興趣は別にして、想定外に快適な空間だった。 外観からは、わからなかったが、二階建てらしく、部屋の中央に上層に続く螺旋階段があった。 「先程から気になっていたのですが、其方の殿方は?」 巨大ウサギが足元で這い蹲っているレムリアに視線を向ける。 「ひっ……、あ、あのボクは……その……」 引き攣るような悲鳴と共に、レムリアの両眼に動揺の色彩が滲む。 巨大ウサギの反応から、プルミエールの誘拐騒ぎが、公になっていないことは理解できたが、別の意味で怯えているようだ。 「これはレムレム。 プルの下僕です」 プルミエールがふかふかの寝椅子に飛び乗って代弁する。 少女が無造作に脱ぎ捨てた外套の頭巾の中から、モゾモゾとミュミュが這い出してきた。 どうやら、ずっと隠れていたらしい。 「ああ、新しい従者の方でしたのね。 これは失礼致しました。 わたしはこの技術工房の主、ラヴリー・ポウです」 レムリアの立場を考慮したわけではなさそうだが、上手い具合に会話が噛み合っていた。 「あ、はい、ボクはレムリア・グリンハルトと申します」 外見はともかく、中身はまともそうなので、レムリアもほっと一息をついた。 真逆の性質を持つ人物が身近に多いので、それよりは幾分マシだと感じたようだ。 「立派なお名前ね。 貴族のご出自でいらっしゃるのかしら?」 巨大ウサギこと、ラヴリー・ポウは慎重に言葉を選び尋ねる。 西大陸の大半の国家では市民階級は姓、つまり家名を名乗ることを許されていないのである。 「え~と、そのようなものです」 レムリアが言葉を濁す。 流石に屍族だと正体を明かせるわけもない。 この時代、王族が貴族の妾腹を従者とすることはさほど珍しくはなかった。 王家への忠誠、そして、跡目争いの火種を処理する為である。 「立派にお勤めを果たしなさいませ、延いてはそれがアナタの、そして民の幸福に繋がります」 ラヴリー・ポウは王侯貴族間の慣例にも通じているようで、深くは追求しなかった。 「は、はい、頑張ります」 「それで、此度はどのようなご用件でございましょうか?」 レムリアの素直な反応に満足したようで、ラヴリー・ポウは閑談なく切り出した。 「うにゅ、“すぺしゃるデンジャラス号”はありますか?」 プルミエールが謎の単語を口にする。 それが求める水上艇の船名なら限りなく不吉であった。 「あら、水上艇レースの件でいらしたのですか、それは丁度よかった。 今、二階に打って付けのお客様を迎えていたのですよ」 ラヴリー・ポウが大きな頭部を上方に傾ける。 すると、 「シャルロットお姉さまの安否が気遣われる有事に、随分と暢気なことですわね」 咎めるような声と、規則正しい靴音が二階から響く。 一同が見上げると、銀髪をリボンで結った少女が、流れるような足取りで螺旋階段を降りてきた。 「プルミエールお姉さま、お久しぶりでございます」 銀髪の少女は、大きな双眼と同じ翠玉色基調としたドレスの裾を持ち上げて一礼する。 一挙一動から清楚な雰囲気が滲み出ていた。 ==============================================ユイリーンが表の顔で初登場です(笑)
2011/01/17

昨年は、オフで漫画(※同人)の方もちょっぴり取り組んだのですが、デジタル移行化の波は別ネーム活動の方も例外ではなく、(※5年以上前に買い溜めたトーンさん達)↑全く使わなくなりました。正直、トーン貼りは苦手だったので、デジタルで済むのは有難いことなのですが、「前髪の細い部分がぐにょん」↓(ノ≧∇≦)ノ ミ ┸┸ ムキーーーー!!!とか、「削り欠片をピンッ」↓(つд⊂)ゴシゴシ→(;゚ Д゚)ツナガッテタ…!?など、思い出したくもない悲劇の数々も、なければないでちょっぴりセツナイ(´・ω・`)・・・でも、ポテチの悪夢は帰って来なくていいです。
2011/01/13

※短いですが区切りがよいところで〆ました※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-03【水都】月ノ章 3-03【水都】―ミュークSIDE― 温和な気候と肥沃な大地に恵まれたアルル=モア公国は、芸術を尊ぶ気質に富んだ国家である。 なかでも、ロア湖に浮かぶ王都アンディーンには、公立の大博物館と学術天文所に加え、円形劇場や水上闘技場など、享楽的な大衆文化の象徴が建ち並び、貴族の保養地としても名を馳せている。 そして、この芸術の都は目下、三年に一度催される水霊大祭の真っ只中にあった。 開催期間中に齎された教皇フォン=バレル三世の突然の不幸に、一時は中止も危ぶまれたが、規模の縮小と、公営及び個人商店に到るまで、弔旗の店頭掲揚を義務付けることで、一定の体裁を保ちつつ祭事の継続を図っている。 どちらにしても、大多数の富者や庶民にとっては、教会の大事よりも、目先の娯楽余興を謳歌するほうが現実的であるようで、白大理石を基調とした壮麗な街並みは活気に溢れていた。 しかして、ここは都市名所のひとつにも数えられるテーベ・ミトラ噴水広場。 「こちらが出場者仮登録証となります。 尚、公正を規す為、ご搭乗する水上艇は騎竜共々、競技開催の前日までに、大会本部が運営する竜舎への入厩が義務付けられております。 そこで、書類審査と艇体検査を通過した後、本登録となる運びです」 「相分かった。 説明ご苦労じゃったな」 ミュークは水竜艇レース出場受付を済ませると、満面の笑みで振り返る。 「―――と、いうわけじゃ。 本大会は四日後、つまり三日の内に、水上艇と首長竜を調達する必要がある」 それはアンディーンに到着するや否やの急展開であった。 ちなみに、ミュークの言う水上艇とは竜亜種であるシーサーペントの背に、御者台と巨大な二つの車輪を設置した小型の竜車である。 水上都市であるアンディーンでは、ごく一般的な水上移動手段で観光用に公国が設備しているほどだ。 「何が『と、いうわけ』ですか!? まさか、金欠病の打開策ってコレのことじゃないでしょうね?」 案の定というか、当然のようにレムリアが抗議に詰め寄る。 「レムはいつからそのように物分りが悪くなったのじゃ? アルドンテで人族の酔漢から聞いた話では、水上艇レースの優勝者には貴族の称号と、ウリクス金貨五千枚という多額の報酬が約束されておるそうじゃ。 コレを狙わぬ手はないじゃろう」 「道理が通らないのは、目に見える現実が世迷言と同列に落ちぶれているからです。 世の中、急がば回れ、ボクは地道に働いたほうがよいと思います」 レムリアが譲れない一線とばかりに決然と意見する。 若くして老獪過ぎる思考形態なのは、この手の話で碌な目に遭っていないからであろう。 「モガ、モグ……、レムレムの言うとおりでモガ」 と、ルムファムと屋台巡りをしていたプルミエールが戻ってくる。 蜂蜜漬けの林檎飴を口一杯に頬張っている為、少し聞き取りづらいが、珍しくレムリアの肩を持っているようだ。 「ほら、プルプルさんもこう仰っています」 「プルはこっちにでたいです」 プルミエールは受付横に貼ってある羊皮紙をバンと叩く。 そこには、水竜艇レースと同時開催される武闘大会の詳細が記載されていた。 「そうそう武闘大会の方が地道で確実な手段……、んなわけないでしょうが!!」 見事なノリツッコミ。 最近、ボケが供給過多で、レムリアの気苦労は募るばかりである。 「ほう、そちらの優勝賞金もなかなかのものじゃな」 などとミュークも満更でもないように、武闘大会に関する記事を読み耽っている。 「絶対ダメです。 武闘大会なんかに出場したら一発で屍族だとバレちゃいますよ。 それなら水上艇レースのほうがまだマシです」 声を荒げるレムリアだったが、流石に“屍族”という単語だけは小声になる。 アルル=モアがメナディエル正教圏に属することを意識しているのだろう。 「なるほど一理あるの。 ここはレムの意見を採って水上艇レースへの参加を決定事項としよう。 然らば、ワチキとルムは野生の首長竜の捕獲に向かう故、その間、レムには水艇の確保とプルミエール嬢の世話を一任する」 ミュークは、物珍しげに人族の屋台を物色していたルムファムを手招きしつつ、一気に捲くし立てる。 「ちょっと待ってください。 ボクはどちらがより悪いかの判断をしただけです」 「なんじゃ、レムはワチキと首長竜の捕縛が良いのか?」 ミュークはさも驚いたように尋ね返す。 野生の竜亜種と野生のお馬鹿、どちらも倦厭したい相手である。 言い換えれば、肉体と精神、どちらをより危険に晒すかという究極の選択であった。 「い、いえ、それは流石に……、まだプルプルさんの方がいいかも」 流石に命の危険は避けたかったのか、レムリアは後者を選択する。 残念ながら、安易な論点のすり替えに、懲りもなく引っ掛かっていた。 「そうじゃろう。 ワチキはレムのことを何よりも大切に想っておる。 故に、首長竜の捕獲などという危険な仕事をさせたくはないのじゃ。 そして、誰よりも信頼しておるからこそ、プルミエール嬢の護衛役といった重要な責務を与えられる」 ミュークはレムリアの両頬に手を添えると、潤んだ瞳で語りかける。 傍から見ると、かなり胡散臭い。 「そ、そこまでボクのことを……。 わかりました、不肖このレムリア・グリンハルト、謹んで大任承ります」 もっとも、当のレムリアはコロっと騙されて感涙に咽んでいた。 冷静になって考えれば、人型災厄発生器を体裁よく押し付けられただけなのだが、まったく気づく様子はない。 「それでは後のことは任せたぞよ」 ミュークはしゅたっと片手を挙げると、名残惜しそうに屋台村を眺めるルムファムを引きずって、そそくさとテーベ・ミトラ噴水広場を後にした。 ==============================================最近、書くことが楽しいという奇病に(笑)
2011/01/12

闘技場編の構想を固めて、ある程度書いていたのですが、どうも、 との描写が多くなりすぎて、視点を血ノ章側にまわす事に相成りました。月ノ章は、同時開催の水竜艇レース視点に変更します。一から練り直しなので、かなり四苦八苦してます(汗)ただ、闘技大会には、月ノ章からの参加組みもいるので、全く関係なくなったわけではありません。一次創作の醍醐味?
2011/01/10

※続きです※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-02【思惑】月ノ章 3-02【思惑】―ミュークSIDE― 「あ、あの……どうかしたのですか?」 レムリアは背中越しに伝わる不可解な挙動に、恐る恐る尋ね返した。 先を行くミュークも異変を察知して立ち止まっている。 「ア、アリアリがいません! ミュクミュク、どーゆーことですか!?」 プルミエールがミュークを問い詰める。 教会船アメナディル号を脱出する際、気絶したアリエッタの運搬をミュークに一任したことを、奇跡的に覚えていたらしい。 「今頃気づいたんかいっ!!」 斯く言うミュークもすっかり喪失していた出来事である。 それが証拠に、こめかみの辺りを一筋二筋と汗が伝っていた。 「くっ、まぁ、いいです。 そーゆーことなので、レムレムはアリアリの分までしっかりはたらくのですよ!」 プルミエールは思いの外あっさり引き下がると、矛先をレムリアへと向けた。 幼馴染の従者の存在を十日間近く忘れていた事実は、プルミエールにとっても痛いところだったらしい。 「あ、あれっ、もしかして……また、ボクだけ不幸に?」 結果、レムリア一人だけが、痛み分けの恩恵にありつけなかった。 「ゴホン、話を教会の件に戻すぞよ。 通例なら最たる寄進者であり、政治的にも教会と密接な関係を持つ特権階級に矛先を向けはしまい。 しかし、今回は事が事だけに過信は禁物。 このようなキナ臭い話には必ず“奴ら”が絡んでおる筈じゃからの」 脱線を繰り返す問答をミュークが是正する。 「奴らとは何者ですか?」 先程までの悲壮感はどこ吹く風、レムリアの碧眼に好奇心が宿る。 知識の探求には、死肉を漁るハイエナよりも貪欲であった。 「元老院の古老共じゃよ。 教皇暗殺の首謀者がアダマストル王家とも縁深いグラドユニオン家の人間であるならば、捕縛の理由など幾らでも偽証できる。 故に聖女シャルロットも姿を隠しておると考えて間違いなかろう」 ミュークも証左に乏しいことは承知の上で断じる。 行動の指針を定める為には必要不可欠な処置と割り切っているようだ。 「元老院は教皇庁の政務を司る部門だと聞き及んでいます。 教会の法務に立ち入る権限は無いと思いますが?」 レムリアが控えめに意見する。 「表向きではな。 嘗て一度だけ母上と共に古老共と対座したことがあるが、アレはヒトであってヒトではない。 もっと別の……いや、どちらにしても、元老院の権威は教会内に遍く蔓延っていると考えて間違いなかろう」 「元老院は、教会を支配下に置いているのですか?」 質問攻めのレムリアに、ミュークは口元を綻ばせる。 「ふふ、教会とて一枚岩ではない。 枢機卿各位を長とする七聖省や司教評議会の反発は必至。 なにより、如何に傀儡の教皇を擁立しようとも、教会の胎内に対抗軸となり得る存在―――つまり、聖女を抱えたままで、全実権を掌握することなど、到底不可能じゃろう」 聖女の存在は、権威の集中を阻む抑止力でもあり、祝福の象徴でもある。 偶像崇拝を禁ずる白十字教ですら、アルジャベータの血統に関しては否定していない。 そして、賢聖と讃えられた前教皇が亡き今、元老院にとって最大の障害であろう。 「そうなると、元老院と対立する機関に接触を図ることが、聖女を見つけ出す近道になりそうですね」 レムリアの言葉は敵の敵は味方といった発想だ。 確かに、元老院の台頭を快く思わぬ者が、姿を消した聖女を匿っている可能性は無視できない。 「安易に人族との接触を図るのは得策とは云えぬな。 それに、ワチキらには切り札がある。 有効利用すれば、元老院を出し抜くことも可能じゃろう」 ミュークは“切り札”という部分で、プルミエールに向けて顎をしゃくった。 「なるほど、プルがその下郎院とやらをコテンパンにすればいいのですね♪」 だが、当のプルミエールは見当違いを引っ提げて会話に割り込んでくる。 「いや、有難い申し出だが、方向性が真逆じゃ」 ミュークがゲンナリと返す。 「むぅー、けっきょくミュクミュクはどうしたいのですか?」 プルミエールが珍しくまともな反論を述べる。 「機が熟するのを待つ。 教会が公々然と聖女シャルロットを処断すれば、アルジャベータの血統を神格化する聖アルジャベータ公会が黙っている筈がない。 元老院の立ち位置によっては、宗派間による宗教戦争が勃発する恐れもある。 古老共の目的が権威の掌握なら、教会そのものの弱体化は望まないじゃろう。 ワチキ等は教会の内情を探り、誰がどのような思惑で動いているのかを見極める必要がある。 ま、先だっては金銭問題からどうにかせねばなるまい」 白み始めた地平線の彼方にアルル=モアの王都アンディーンの街並みが浮かび上がっていた。 ==============================================
2011/01/06

※文字数制限を超えたので二つに分けます※推敲はフリーページ内で致します『†Princesse du sang†』 月ノ章 3-02【思惑】月ノ章 3-02【思惑】―ミュークSIDE― 淡い角灯の光のなかに四つの人影が浮かんでいた。 自由都市ザクルフォルドを出立して大陸行路を北上するミュークたち一行である。 「しゃきしゃき歩くです」 頭部に包帯を巻いたプルミエールが、レムリアの頭髪を騎馬の手綱に見立てて引っ張り上げる。 「イタタ、暴れないでください」 レムリアは背中におぶさった人族の少女を御しようと、無駄な努力を続けていた。 廃庭での一件から、ずっとこの調子であった。 「プルミエール嬢は病み上りじゃ。 大事を取るに越したことはない。 それに、男子たるもの女子の一人や二人担いだ程度で、泣き言を云うでない」 先頭を歩くミュークがもっともらしい見識を披露する。 表層が正論で取り繕われているので、甚だ性質が悪い。 「だったら、せめて行き先ぐらい教えてください」 レムリアの唇を尖らせて意見する。 無理もない、理由も聞かされず、旅支度を迫られて、既に二日目の夜刻を迎えているのだ。 愚痴のひとつやふたつ零れて当然であった。 「男子たるもの細かいことを気にするでない」 都合が悪い時は、コレ一辺倒である。 「プルプルさん、もう十分元気そうだし、ご自分で歩かれても……」 諦めたレムリアは、もうひとつの頭痛の種の除外措置に取り掛かった。 ミュークと違い理論武装は無いが、非常識の壁が立ち塞がっているので、懐柔難易度は同等である。 「ムム、プルをキズモノにしておいて、その言いぐさはなんですか」 「あ、あれは不可抗力です」 レムリアが言い淀む。 嵌められた感は拭えないが、過失の一端を担っている分、旗色は甚だ悪い。 「レム、言い逃れは見苦しいぞよ」 ミュークが面白半分にはやし立てる。 「道徳的責任」 最後尾を歩くルムファムからも難詰される。 こんな時だけ、団結力を発揮する女性陣であった。 「後生ですから、その言い方だけは、やめて欲しいです」 事情を知らぬ者が聞いたら、いろいろと勘ぐられ兼ねない表現法である。 極度の潔癖症であるレムリアにとって、この手の下世話な陰口を叩かれることだけは我慢ならなかった。 無論、私心を度外視した上での問題である。 「確かに、男女間の揉め事は当事者同士で片付ければよい話。 それより、体中がザラザラして不快極まりない。 レム、なんとかするのじゃ」 ミュークが首筋を掻くと、白い粉がポロポロと剥げ落ち、赤みを帯びた地肌が現れる。 「全然よくないです。 それと、誰のせいで、こんな安物の肌粉しか買えなかったとお考えですか?」 レムリアの苦言は宿酒場アルドンテの一件を指しているのだろう。 ザクルフォルド周辺が、甘汞や鉛など鉱物顔料の産出地だったことが幸いし、安価で軽粉や鉛白を入手したのだが、ミュークの肌質とは相性が悪かったようで、皮膚炎を引き起こしているようだ。 「ワチキの高貴で清らかな雪肌は、このような安物は受け付けぬ」 「お倒れになられてから、急に文句が多くなりましたね」 溜息をついたレムリアが、現実から逃避するように視線を街道脇に傾ける。 屍族の少年の碧眼に、静かなせせらぎを奏でる黒々とした川面が映りこむ。 ここ数日、糧食の供給源となっているエウドール大河である。 アルル=モア公国の王都アンディーンを抱くロア湖を源流として、ラウル平原を抜け、サリナハームの砂漠地帯を縦断した後、南の大海に注がれる西大陸最長の清流である。 「あ、そうか。 もしかして、水都アンディーンへ向かうおつもりなのですか?」 レムリアが紙上の知識と現実との近似値を導き出す。 「むー、また寄り道するつもりですか? プルはいっこくもはやくシャル姉さまに会いたいです」 と、このやり取りを真っ先に聞き咎めたのはプルミエールであった。 肉親が行方不明であるのだ、消息が途絶えた現地に駆けつけたい衝動は当然かもしれない。 「船賃さえ儘ならぬ懐具合では、物理的に不可能だと何度も云っておろう」 教皇庁があるルブリス島への渡航は、厳しく制限されており、教会に認可された船舶以外の出入港は原則、禁じられている。 一般人が聖地を訪れる為には、法外な乗賃を支払い、巡礼者用の定期船を利用するしか選択肢がないのが現状だ。 「でも、あのまま働いていれば一人分の船賃ぐらいは稼げていましたけどね」 レムリアのささやかな反撃。 「我、フォルトゥナの剣なり」 静かな声音に呼応して、ミュークの右手に白銀の奇剣が具現化する。 そして振り向き様、レムリアの頭上へと時を断つ刃を振り下ろした。 「うひゃあ」 間一髪、レムリアは身を捩って不意の斬撃をやり過ごす。 「事後確認で恐縮じゃが、レムは不幸な事故で強制的に記憶を失うのと、他言無用の誓いを立てるのと、どちらが好みじゃ?」 肩で息をしたミュークが不敵な笑みと共に訊ねる。 先日、血統アルカナの能力を使い過ぎて、倒れたばかりなのに全く懲りていない。 「ボ、ボクの口はミュークさまの財布の紐よりも堅いので、あ、安心してくださ―――ぐぎゃん」 コチラはコチラで特赦を願い出たつもりが、例えを間違えたようだ。 レムリアの顔面にミュークの肘鉄がめり込んでいた。 「アホ共」 一部始終を見ていたルムファムから痛烈なツッコミ。 ミュークはひとつ咳払いをすると、 「聖女の件に関しては、不用意に動けぬ故、暫し成り行きを見守る必要があるじゃろうな」 「ぶー」 プルミエールが桜色の頬を膨らませて仏頂面を形成した。 二の句を継がないのは、無理強いして、これ以上、生活水準が低下しても困るからであろう。 「それに件の噂が事実ならば、今の教皇庁にアダマストルの王族が勇んで乗り込んでも、罪人として投獄されるのがオチじゃな」 ミュークは顎先に指を添えて情報を精査しているようだ。 「さすがに、理由も無く一国の王族を拘束するなんてしないと思いますけど……」 レムリアがおずおずと進言する。 「いーこと言いました。 レムレムは下僕二号にショーカクです♪」 ぱっと表情を明るくしたプルミエールが、レムリアの頭をナデナデした。 「は、はぁ、ありがとうございます」 曖昧に頷くレムリア。 下僕以前の格付けも気になったが、精神衛生上、深く考えずに感受したようだ。 賢い選択である。 転じて、奴隷根性が染み付いたともいう。 「これからは下僕一号のアリアリとも仲良く―――はっ!?」 と、プルミエールが両眼を見開き硬直した。 ==============================================
2011/01/06
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