草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2016年10月06日
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第 九十二 回 目


 佐々木法子の幼くあどけない顔を前にしていると、不純異性交遊とか、情事・ラブホテル

などの言葉を口にするさえ憚られる雰囲気になり、結局はあやふやな説諭に終わっている。

従って、あの夜、非行の名に値する行為が、彼女たちにあったとは、言い難い。しかし、どうにも

腑に落ちない点があるので、なお詳しく調査してみると、法子の母親が頻繁にそのホテルを

利用している事実が、明らかになった。しかも、売春常習の嫌疑を掛けて、掛けられない

ことはない状況だと言う。そういう次第で、警察としては娘の法子に関しては、一応学校の

方に事の経緯を連絡しておいた方が良いと、判断したのだと言う。

 これは、厄介な事になったぞ ―― 眞木は警察の説明を聴き終えた時、そう思った。



ないか…。今の段階では、法子に非行の事実があるとは言えないし、母親の問題に至っては、

警察すら介入できないことかも、知れない。今が最盛期であるらしい 自由恋愛 とかは、

法律で取り扱う対象ではなく、専ら道徳やモラルの範疇に属する事柄だから。

 つまるところ結局は、家庭、乃至、夫婦の間の問題に帰着することなる。そうなる公算が

大なのだ。そこまで学校の教師が介入しなければならない必要はない。が、さればと言って

事態を全然傍観する訳にもいかないだろうし…。理屈の上では、その様な具合であるようだ。

最大の問題は、法子には非行に走る可能性があり、その虞れが大いにあることなのだ…。

 それにしても、自分はあの少女に就いて、知るところがほとんどない。教室その他での、

全部合わせても高々数時間の、それも甚だ断片的で曖昧な、印象しか持たない。しかも

その程度の印象の上に成り立った少女像に、恋心さえ抱いている。果たして、この様な自分に

校長が期待する任務が、正しく遂行できるものか、眞木は自分のことながらも、心もとなく



 眞木が学校に戻った二時過ぎには、校長は所用で出掛けてしまっていた。校長の指示を仰ぐ

と言っても、妙案を期待していた訳ではなく、これから具体的に動く自分の行動に関して、

一応の了解が校長との間についている、形を取りたかったまでの話で、大してがっかりもしなかった。

こうなれば、毒を喰らわば皿までの、蛮勇を奮い起こして、行ける所まで大胆に踏み込んで、

みるまでだ。要は、事を運ぶ段取りだけ。佐々木法子に話を聞くのが先か、それとも、母親に



 そんな風に心の中で思案を巡らしながら眞木は、職員室の前の廊下を、行ったり来たりした。

その時、授業終了のベルが鳴り始めた。眞木は反射的に腹を決めて、小走りに佐々木法子のいる

教室に、急いだ。法子はまだ自分の席にいた。少女の帰り支度をしている姿を認めると、眞木

の心臓は異様に高鳴っている。

 「佐々木さん、一寸お話があるので、職員室まで来て呉れませんか」

 出来るだけ、平静を装って言ったのだが、何だか喉がかすれて、自分の声では無い様に感じた。

少女は驚いたように、少し眼を見開いて教頭を見たが、それでも素直に「ハイ」と答えて

頷いた。

 放課後の校長室には、クラブ活動の生徒達が発する掛け声などが、時々聞こえてきた。法子は

背の低いテーブルを挟んで向かい合っている、眞木の胸元辺りへ、稍伏目勝ちに視線を落としている。

眞木は気持ちを落ち着ける目的で、さっきから頻りに、咳払いを続けている。

 「二日前の事に関して、警察の方からちょっとした注意が、学校の方にありましてね」

 上擦った調子で、眞木がそう言ったのも、やっとの事であった。

 ところが、法子は、何だそんな事だったのかと言わぬばかりに、顔を上げて、まともに眞木の

顔を覗き込んだ。で、眞木は内心益々慌ててしまったが、上辺は極力教頭の威厳を取り繕い、

言葉を継いで行った。― 法子は最初、眞木の真意を計りかねていた様であったが、やがて

いともすらすらと、説明を開始したのである。

 あの日、法子と義兄の春彦は或る目的の為に、あのホテルに行ったが、それは決して大人の

人たちが考えるような「ふしだら」な行為を、するためではなかった。あのホテルがどの様な

場所であり、大人達によってどの様な目的に、利用されているかは、心得ているつもりだし、

むしろ、それだからこそ、あのホテルに二人して行くことになったのだ、とも言える。

しかし、自分たちの目的が何であったのかは、自分たち兄妹のプライバシーに属する事で、

たとえ相手がお巡りさんでも、教頭先生でも、話す訳にはいかない。しかし、最初にも言った

様に、法律的にも道徳的にも、決して悪いことをしようとしていたのではない。それは断言

出来る。どうか、信用してください。法子は澄んだ瞳を真っ直ぐ眞木に向けた儘、そう言うのだ。

 眞木はいささか気抜けがして、一種の虚脱感を、覚えていた。こんな調子で法子との会話が、

進行するとは、想像も出来なかったから。これでは既に、話は終わったも同然であった。これ以上

何を言って、この少女を諭したら良いのか?そもそも教師の自分が、説諭しなければならないような

行為・行動は、全く存在していなかった、のかも知れないのだから。

 「教頭先生は、尾崎先生の様に、母のふしだらで、不道徳な行動を仰らないのですか…。そして、

娘の私がその悪い影響を受けて、非行に走る危険があるとか、ないとか…、そんな事を」

 少女は黙っている眞木の態度を、詰るような調子を籠めて、そう言った。眞木は愈々困惑し、

窮地に追い込まれた自分を、強く恥じた。何もかもが、相手に見透かされている、のではないかと

恐怖さえ覚えた………



 ……… 西行の夢である。宏壮な閻魔の廳を出発してから、既にどれほどの時間が経過して

いたであろうか、やがて、漆黒の闇の彼方に、天を焦がす巨大な火焔が、姿を現した。ただ、

黙々として歩を運んでいる罪人たちに、獄卒共が叫んだ、「あれが、汝等を焼く、地獄の火だ!」と。

その言葉が、西行の胸にもズンと、堪えた。此処までは半ば無意識に、この者達と同行して来て

しまったが、果たして自分も重罪人の一人に、数えられて居るのであろうか?

 この期に及んで、斯かる疑問が、西行の胸に生じていた。しかし直ぐまた、地獄へ通じる道を

極悪人達と一緒に、トボトボとたどっている自分は、やはり罪人の一人に相違無いではないかと、

自身を窘めた。

 しかし、考えてみれば出家して以来、様々に努力して修業を重ねてきたが、その甲斐もなく

遂にこうして、地獄に堕ちて行くのである。― 雑然とした想念が、無意味に浮かんでは消え、

浮かんでは消えした。自分は、短い人生の間に何を為し、何事を成そうとしたのであるか?

唯、わけもなく苦しみ、踠(もが)き、懊悩したに過ぎないではないか…。他人を傷つけ、裏切り、

悲しませた想い出だけが、涌き上がってくる。取り返しのつかない、苦い悔恨だけが、無二の

親友の如き存在だ…。





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最終更新日  2016年10月06日 06時59分58秒
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