草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年10月05日
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第 三百七十九 回 目


    映画シナリオ  『 ビッグチャレンジ! 』  ―― その六


  (82) 或るオフィスビルの入口付近(数日後)

  人待ち顔で誰かを待ち設けている一太郎の姿がある。すると、帰り支度を済ませた顔馴染みの受付嬢

が、足早に横の出入口から出て来た。

 一太郎「あの、日本です。お疲れ様です」

 受付嬢「(ニッコリとして)あら、お疲れさまです」

 一太郎「ちょっとお話を伺いたいのですが。お疲れの所を恐縮ですが…」

 受付嬢「はい、どうぞ。どうせ家へ帰るだけですから」と、フランクで打ち解けた態度である。



  窓際の席に向き合って話す一太郎と受付嬢。

 受付嬢「日本さん、よくいらっしゃるのですか、この種のお店。とても素敵」

 一太郎「よかった、気に入って頂けて。実は初めてなのです」

 受付嬢「初めてなんですか…」

 一太郎「貴女をお誘いするのに何処がよいか、色々と研究したのです。立ち話もなんですから」

 受付嬢「嬉しいわ。で、どんなお話でしょうか、私に訊きたい事って」と、すこし改まった態度であ

る。

 一太郎「私に貴女と同じ年頃の娘がいるのですが、その娘が真剣に悩んでいたことを、私も妻も気づか

なかった」

 受付嬢「そうですか」

 一太郎「貴女はいつも笑顔を湛えて来客に応対されています。でも、もしかしたら心の中には人には言



  何を質問されるのかと緊張していた相手の様子が楽になった。

 受付嬢「私も多感な年頃の娘ですから、色々と気になる事、将来への不安などあります。私、いま親元

を離れて一人で暮らしていますから。女性のルームメイトはいますがお家賃を折半にするのが目的で、お

互いの私生活には干渉しない関係です。寂しかったり、孤独を感じたり、時には素敵な恋人が欲しいなと

願う。でも――」



 受付嬢「でも、そんな悩み事が全部なくなってしまったら」

 一太郎「そしたら?」

 受付嬢「私が 生きている っていう意味が、無くなってしまう。(ホッホと笑い声を発しながら)可

笑しいかしら、こんな言い方は」

 一太郎「(首を横に振って)いいえ、決して……」

 受付嬢「私、以前に座禅を体験した時に、そう感じたのです」

 一太郎「座禅ですか」

 受付嬢「本式のではないのです。会社の研修の一環として、ほんの略式で三日ほどでした、鎌倉の禅寺

で」

  一太郎は感心して頷いている。

 受付嬢「お給料、もう少し上がらないかな。そんな小さな、けれど切実な悩みを悩んでいる。それが私

という人間の本質なので、それ以外に私と言う存在は何処にもないのだ。それが私流の悟りです…、お恥

ずかしい限りですが」

 一太郎「いえ、そんな」

  一太郎は深い感銘を受けて、言葉が出ないのであった。

 一太郎のモノローグ「自分の若い頃と比べて、何と今の若い人は堅実で、しっかりした考え方を持ち、

生きていることか――」

  (84) ×× 山の山頂付近

  一太郎が得意先の一つである E 社の新人と、祝日にハイキングに来ている。

 一太郎「素晴らしい眺めですね」

 新人「埼玉県内や東京からも日帰り出来るハイキングコースの N O .1 です」、普段とは打って変わっ

た清々しい表情である。

 一太郎「お陰様で生命の洗濯が出来ます。有難う、本当に有難う」

 新人「いえ、そんな。お礼を言わなければならないのは、私の方です。貴重な休みの日を犠牲にして、

私の詰まらない愚痴を聞いて下さるなんて、日本さんでなくては出来ない事です」

 一太郎「この辺りでお昼にしませんか、ちょっと早いのですが」

 新人「そうですね。今朝は早起きしましたからお腹がペコペコです」

 一太郎「家内が作った粗末な弁当なのですが、独身で一人暮らしの方なら、コンビニなどの出来合いの

物より喜ばれるかも知れないって…」

 新人「実を言いますと、昨日からこれが一番の愉しみだったのです。何しろ家庭料理の味に飢えてます

から」

  一太郎がリュックサックから取り出し、広げた手料理に早速手を付けた。

 新人「美味しいです。愛情が一杯に詰まっているって感じです」と、心の底から堪能している。一太郎

も海苔を巻いたお握りなどを、美味しそうにパクついている。

  (85) 林道

  楽し気に語らいながら、一太郎と新人の若者の二人が行く。

 一太郎のモノローグ「入社して三年目になり、会社を辞めようかと迷っている青年は、傍目には何の屈

託もないように見える、明るい性格の持主」

  (86) 坂道

  ハイキングコースの終わり近くの道を降りて来る一太郎と新人。

 一太郎「時間があっという間に過ぎて行くようです」

 新人「本当にそうですね」

 一太郎「貴重な体験をさせて頂きました。有難う」

  立ち止まってお辞儀をする。

 新人「とんでもありません。私の方こそ、何と言ってお礼の気持ちを表現したらよいのか……。兎に角

不思議なのですが、世界が昨日までとはまるで違って見えるような、そんな新鮮な気持ちなのです」

 一太郎のモノローグ「山歩きを一緒にしたこの日は、我々二人に、目には見えないけれども、何か確か

な何物かを齎したのでした」

  (87) 或る絵画教室

  元の小学校の教室を利用した室内で、アートセラピーを応用した絵画教室の実習が行われている。

講師と生徒四人が居る。外資系の F 社の重役秘書に誘われて、一太郎も初めての出席で、幾分緊張気味で

ある。

 一太郎「クレヨンを手にするのは何十年振りでしょうか」と、一太郎を気遣って席を立って来た秘書に

小声で話し掛けた。

 秘書「何だか小学生に戻ったような気分になりますでしょ、場所が場所だけに」

 一太郎「そうですね」と改めて室内を見廻す。机も椅子も黒板も、古い小学校の物がそのまま利用され

ている。

 講師「それでは本日のメインの作品の制作にはいりましょうか」

  講師の指示に従って、机の前に前以って準備されていた画材類を使って、作品の制作を始める生徒達

四人。それぞれが真剣に目の前の画用紙に意識を集中させている。教室の中には、静寂と、くつろぎの

楽しい時間が流れる――。

 一太郎のモノローグ「出来上がるのは、我ながらも稚拙な絵……。色も形も、思った物とはまるで違っ

てしまう。しかし、何もかも、憂き世の事を一切忘れ去って、絵の世界に没頭するこの忘我の時間は、全

く想像以上に素晴らしかった。また、何物にも代えがたいとも感じた」

  (88) ネオンが瞬く街(宵の口)

  教室帰りの秘書と一太郎が並んで歩く。その表情は普段の日には絶えて見られない、すがすがしさで

輝いている。

 秘書「何だか、この儘ではお別れし難い気分です」

 一太郎「私もです」

  二人が同時に、「軽くいきますか」と顔を見合わせた。

 秘書「奥様に叱られませんか?」と、イタズラっぽい表情。

 一太郎「大丈夫です。今日のお礼に、私が御馳走します」

 秘書「ヤッタぁ」と子供の如く喜んでいる。

  (89) 渓流釣りの穴場

  G 物産の守衛さんの一人と一緒に、生まれて初めての沢釣りに興じる一太郎。

 守衛の中村「どうです、当たりは来ませんか?」

 一太郎「ビギナーズラックと言うのは、釣りの場合には無いようです」と答えたが、何やら楽し気な

表情である。

 中村「そうですね。試しに、竿を替えてみましょうか…」

  愛用の竿の中から選んだ別のを、一太郎に手渡し、餌をつけるなど甲斐甲斐しく一太郎の世話を焼

く。根っからの釣好きであるらしい。  ―― 時間経過

  一向に手応えの無い一太郎に対して、中村の方は次々と山女魚(やまめ)を釣り上げ、上々の釣果

なのである。

 一太郎「さすがは名人と呼ばれるだけのことはありますね」と、感心すること頻りであるが、一太郎

自身も満足げなのだ。

 中村「いや、今日は特別です。きっと日本さんがツキを呼んでくれたのです」

一太郎「これは参りました。殺し文句のセールストークまで、まるっきり、私のお株まで奪われてしまっ

ては形無しです」と、頭を掻いて見せたが、気分爽快の晴れ晴れした表情である。

 一太郎のモノローグ「子供の頃から釣が好きで、趣味の釣に生き甲斐を見出している、釣り名人こと

守衛の中村さんは、いま子供のように無邪気で、穢れのない表情で渓流に向かっている。中村さんは言

う。僕のは、魚を釣ることが目的ではない。自然と対話する為に山に来るのだ、と。その精神だけでも、

私は見習いたいと、この日は強く心に刻んだ。とにかく愉快で、疲れが心地よい記念すべき日となった」

  (90) 旧日光街道沿いの民家

  重役付のお抱え運転士・佐藤が蕎麦打ちの手ほどきを、一太郎に対して行っている。道具類一式は

本職の蕎麦職人が使用する本格的なものばかり。また、そば粉も国産の極めて上質な品である。

  師匠役の佐藤は、普段の顔つきとはガラリと変わり、態度も貫禄十分。一方の一太郎は、顔のあちこ

ちに打ち粉の白と、噴き出す汗とで先ほどからの奮闘ぶりを如実に、示している。彼の目の表情は真剣

そのものだ。

 一太郎「仰る通りに奥が深いです」

 佐藤「食べるのはいとも簡単ですが、作るのは、上等なソバに仕上げるのには、年季が要ります」

 一太郎「済みません。一息吐いても宜しいでしょうか?」

 佐藤「あっ、これは気が付きませんでした。どうぞどうぞ」

  いつもの物腰の柔らかな佐藤に戻っている。

 一太郎「(フ~っと大きな息を吐いて)体力には多少自信があったのですが…」

 佐藤「体力だけではなく、胆力・気力と言うのでしょうか、本物の精神力も必要なのですよ。正直の

所は…」

 一太郎「精神力ですね、大切なのは」

佐藤「たかがソバ、されどソバ。関心の無い人には全く理解できない境地が、実は存在するのです。その

辺がソバ打ちの、真の醍醐味とでも、いうのでしょうか。面白くて嵌る所です」

  頷いてから立ち上がった一太郎。先程より更に真剣な表情になった。佐藤の指導で蕎麦打ちの実習が

続く。  ―― 時間経過

  出来上がった蕎麦を試食する二人。

 一太郎「格別の味です、これは」

 佐藤「お世辞抜きで、最初にしては上出来です。きっと筋がよいのでしょう」と褒められて、満更でも

ない一太郎である。

  (91) 郊外の畑地

  H 社の窓際族の課長・山田の日曜菜園に来て、一緒に畑仕事を手伝ったり、周囲の景色に見惚れたり

してのんびりとした時間を過ごしている一太郎。

 一太郎「空気と土の匂いが、何とも新鮮そのものですね」

  そう、山田課長にしみじみとした口調で、語り掛けた。

 山田「今では、此処での畑仕事だけが、僕の生き甲斐になっているのです」

 一太郎「そうですか……」

  傍らの雑草を抜いたりしながら、

 山田「畑仕事と言っても、プロではありませんから、手抜きばかりの、遊び半分の作業です」

 一太郎「息ぬきでしょうから」

 山田「いわば、来る事自体に意義があるのですが、それでも土を耕して種を蒔いて、肥料をやったりし

ていると、可愛らしく感じたりもするのです、野菜たちが」

 一太郎「手塩にかける訳ですからね」

 山田「ええ、ですから途中から段々、本気になって来るのです」

 一太郎「遊び半分ではなくなる」

 山田「そうなのです。手間暇掛ければ掛ける程、相手はそれに応えてくれる。いや、応えてくれるよう

な気がするのです」

 一太郎「成程、そうですか…」

 山田「僕は御存知の通りに世渡りが下手と言うか、世間からスポイルされて、会社でも 窓際の山ちゃ

ん などと陰で蔑まれている男です。でも、変な話ですが、畑の土や野菜を相手にしていると、心が自然

に和んで自信が湧くような、自由な心境になれるのです。妙な劣等感からも、解放されている…」

 一太郎「そうですか」

 山田「実はですね……、日本さんだから今日は洗い浚い本心を申し上げますが、此処はいわば僕だけの

秘密の聖なる土地でして、家族さえ連れて来たことはなかった。そういう特別な場所だったのです、僕に

はですね。ここでの時間は、この僕が生きて行く上でギリギリの、最後の拠所なのです」

  一太郎は、山田のどこか照れたような表情を、じっと見詰め続けるのであった。

 山田「日本さん、御自分ではお気付きになっていらっしゃらないようですが、うちの会社だけでなく、

あちこちで隠れたファンが大勢いるのです。評判がとてもよいのです。いえ、決して嘘やお世辞ではあり

ません」

  一太郎は黙って、深々と一礼した。





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最終更新日  2018年10月07日 20時48分53秒
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