草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2018年10月08日
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第 三百八十 回 目


         劇映画  『 ビッグチャレンジ! 』  ―― その七

  (92) 某大学の教室(夜)

  一太郎が他の学生たちに混じって、熱心に講義を聴いている。十数人の学生の大半が社会人である。

 一太郎のモノローグ「 I 社の中堅で、幹部候補生の一人である課長代理の日高和記氏は地味で、目立た

ない存在であるが、人知れず努力を積み重ねて来た苦労人である」

  一太郎の隣席で、一心にメモを取る日高。

 モノローグの続き「私は二流の高校を、辛うじて卒業だけはしていたが、身についた専門の知識は無に

等しい、何もない状態だった」



 日高「仕事と職業の違いが、少しずつ解ってきましたが、職業の本質について大事な点を、御説明頂き

たいのですが」

 一太郎のモノローグ「専門の、生きた知識を身につけたいと意欲を燃やす日高の、強い情熱に引きずら

れるような形で、社会学を一から学ぼうと、この大学の通信制に入学し、こうして一週間のスクーリング

に出席しているのだ」

  (93) 同・廊下

  授業が終了して、教室から出て来る一太郎と日高達の学生・

 日高「疲れましたか?」

 一太郎「いえ、疲れは感じません。逆に、時間が速く過ぎ去ったようで、久しぶりに充実して、楽しい

気分です」

 日高「それはよかった。共に学ぶお仲間が出来て、私も嬉しいです」



  一太郎と日高が話しながら歩く。

 日高「ただ惰性で学習すると言うのですか、例えば、親とか教師から強制されて勉強するのではなく、

こうして自分の意志で何かを学ぼうとするのは、実にたのしいものですね」

 一太郎「本当にそうですね」

 日高「なかなか理解してもらえないのですがね、今の話…」



  若々しい雰囲気の二人のシルエットが、夜の世界に弾んでいる様である。

  (95) J M C のオフィス(数か月後)

  出勤して来た一太郎に、課長が声を掛けた。

 課長「日本君、ちょっと…」

 一太郎「はい、また部長がお呼びですか?」

 課長「いや、その部長とも相談して決めたのだが、今回の新人研修会の講師を、君に任せようと思うの

だが」

 一太郎「私で宜しいのですか」

 課長「何を言うのだ。今や君は我が社のエースだよ。過去半年間の実績は、文句なく歴代の記録を塗り

替えるダントツのナンバーワン。自信を持ちたまえ、自信を!」

 一太郎「有難うございます。講師の件は謹んでお受け致します」

 課長「うん、頑張り給え」

  その時、周囲の同僚達の間から拍手が起こった。心の底から嬉しい一太郎である。

  (96) フラッシュで ――

  新人研修の講習会で講師役を務める一太郎。

  年間 NO. 1の売り上げ実績で、社長から表彰される晴れがましい一太郎。

  (97) 田園地帯を行く列車

  その列車の座席に並んで腰を掛けている一太郎と桜子の姿がある。

  (98) ローカル線の駅前

  バスに乗り込む一太郎と桜子。

  (99) × × 旅館・玄関ロビー

  一太郎と桜子を出迎える従業員たち。

 従業員「日本様、お待ち申し上げて居りました」と、二人を奥の方に案内する。

  (100) 同・特別室

  従業員に案内されて来た二人であるが、

 一太郎「あの、私共はごく普通のお部屋を予約した筈ですが」

 桜子「何かの手違いでは…」

 従業員「女将から日本様ご夫妻をこちらに御案内致すようにと、申し付かって居ります」

  顔を見合わせて、怪訝な面持ちの二人である。

 従業員「後程には女将が御挨拶に参りますので、どうぞお召し替えなさって、お風呂で汗などお流しの

上で、ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」

   ―― 時間経過。風呂を済ませて寛いでいる二人。部屋の外で、

 声「ごめん下さいませ」

  入って来た女将がにこやかに挨拶する。

 女将「本日は当旅館にお越し頂き、誠に有難う存じます。私は当旅館の女将・梅澤智恵で御座います」

 一太郎と桜子「お世話になります」

 女将「間もなく別室でお食事の用意が整いますので、係の者に御案内致させます。それまでの間、もう

しばらくお待ちくださるように、お願い申し上げます」

 一太郎「おのーォ、付かぬ事を申し上げるのですが、私共は通常の料金で宿泊をお願いしている筈なの

ですが」

 女将「はい、左様に心得て居ります」

 桜子「この様に立派なお部屋は、料金の事は別に致しましても、私達夫婦には似附かわしくはないと、

先程から二人で話していたのです」

 女将「御心配をお掛け致しまして、相済みません。後程、その理由も含めまして詳しく御説明させて頂

きます」

  その時、係の人が来て女将に何か耳打ちした。

 女将「お食事の用意が出来ましたので、御案内致します」

  (101) 同・宴会場

  女将に案内されて、一太郎と桜子の夫婦が入って来て、上座に着席した。すると、続いて入室して来

たのは一太郎の先輩の、例の老社長である。慌てて居住まいを正す二人に、

 先輩社長「やあやあ、そのままで結構です(と、いつもとは打って変わって愛想のよい社長である)。

日本御夫妻のご結婚二十五周年を祝して、乾杯と行きましょうか。それでは女将」

 女将「畏まりました」

  (102) × × 旅館のある村へ向かう山道(同じ頃)

  日本美雪の運転する車が走る。助手席には二男の正次、そして後部座席には長男・健太が居る。

 美雪「もう直ぐよ、十分程で旅館に着きます」

 正次「お父さんとお母さん、きっと驚くね。そして、喜んでくれるよ」と、後ろの座席を振り返った。

健太も嬉しそうな表情である。

  (103)元の旅館・宴会場

  先輩社長の音頭で乾杯が行われる。

 一太郎「先輩、いや、社長さん、どうして御存知だったのでしょうか、私達のプライベートな事を」

 先輩社長「いや何、先週お宅の社長と偶然或るパーティーで同席してね。その時、君が目出度く社長賞

を獲得した事。その賞金で夫婦で初めての旅行に行くらしい事を、耳にしたのだ」

 桜子「御挨拶が遅くなりました。日本の家内で御座います。夫が日頃から一方ならぬお世話に預かりま

して、本当に有難う存じます」

 先輩社長「いやいや、お世話などとはとんでもない。日本君とは偶々同郷でして、子供の時分からの

附き合いという事もあって、心安立てに迷惑ばかり掛けています」

 一太郎「(隣の桜子に)僕が曲がりなりにも頑張って来られたのは、みんなこの先輩の愛のムチの

お蔭なのだ」

 先輩社長「愛のムチか、最近では流行らなくなった言葉だな」と頭を掻いている。

 女将「先ほど御質問の御座いましたお部屋の件ですが、(と、頃合いを見計らっていた女将が、笑みを

湛えながら言葉を継いだ)私共の旅館は菱田様(と社長の方をこなして)に長年の間御贔屓・御愛顧頂い

て居ります。昨日、御来館の際に係の者が 歓迎・日本様御夫妻 の看板を用意しているのに目を留めら

れまして。全く奇遇と申しますか、御縁が御座いましたのでしょう。菱田様と日本様が旧知の間柄と分か

りました」

 一太郎・桜子「そうだったのですか」と互いに顔を見合わせた。

 女将「はい。菱田様からお申し出が御座いまして、費用は全額当方が負担するので、あのお部屋を御二

人に提供するように、という事で御座いました」

  (104) 同・玄関前の道

  美雪の運転する車が到着した。待ち受けていた従業員が、三人を横の従業員専用口の方へ案内する。

  (105) 同・元の宴会場

 一太郎・桜子「有難うございます」、口々に礼を言い、深々と頭を下げる夫婦。その時、新たに入って

来た係の者が、

 係「失礼いたします。女将さん、一寸」と、部屋の外に女将を呼んだ。直ぐに戻って来た女将、

 女将「嬉しいお知らせがあります。ただ今、お子様方が御到着です」

 一太郎・桜子「家の子供達がですか?」

  俄かには信じ難い表情の二人。女将が隣の部屋との仕切りの襖を開けると、美雪達三人の姿があっ

た。

 桜子「まあ、あなた達……」、本当に嬉しいのである。一太郎も感動している。

 先輩社長「これは誠に結構! 我々はこれまでと言うことに」と、事情を察して席を立ちかける。女将

も、

 女将「後は、御家族水入らずで」と退席しようとする。

 一太郎「ちょっとお待ち下さい。先輩、そして女将さん」と二人を呼び止めた。続けて、

 一太郎「君達も一緒に話を聞いてもらいたい」、隣室の美雪達に言った。席に直った女将、菱田、そし

て桜子にも語り掛ける一太郎の沁みじみとした声。

一太郎「大分昔の出来事なので、今では誰も知る人はない。いや、その当時にしても同じことだった。一

人の青年と、笑顔が神々しいほどに美しい、若女将との間の、小さなエピソードです」

  女将は今、漠然と何かを思い出し掛けている。

 一太郎「これに見覚えはありませんでしょうか、女将」

  一太郎は、さっきから掌に握り締めていた小さな守り袋を、差し出して見せた。

 女将「……(手に取ってみて)思い出しました。それではお客様は、あの時の――」

 一太郎「そうです。自殺騒ぎを起こして、その上に無銭宿泊という客とは言えない、惨めなこの私

に…」

  (106) 回想(二十数年前)

  × × 旅館近くの丘の上に首うな垂れて立つ一太郎に、背後から静かに歩み寄る女将。

 一太郎「(気配に気づいて振り返り)本当に、ご迷惑を――」、後は言葉にならない。

 女将「お客様はお若いのですから、まだまだ明日という大きな未来があります」

  自信無げに立つ一太郎に、

 女将「これ、母の形見なのですが、中にあすなろの木の種がはいっているだけの、唯のお守りです。

宜しかったら役に立てて下さい」

 一太郎「僕にですか……、あすなろ の種なのですね」

  一太郎は唯々嬉しくて、自然に頭が下がるのだった。

  (107) × × 旅館・元の宴会場

 女将「そうですか、役立てて頂けたのですか。私も嬉しいです」

  女将は懐かしそうに、今では古ぼけているお守りを手にしている。

 一太郎「苦しい時、挫けそうになった時、何度この大切なお守りに勇気づけられた事か。明日こそは、

あす(明日)なろう……、もう一度、チャレンジしよう。いや、何度でも挑戦し続けよう。そして必ず

 明日(あす)なろう、と」

  その場に居合わせた誰もが、桜子も、子供三人も、そして菱田社長も感動している。

 菱田「いやァ、実によいお話を耳にしました。まさに現代の美談ですナ」

  女将も、心を打たれていたが、

 女将「素晴らしいお話を御披露頂き、有難う存じました。私共はこれにて退席致します。後は御家族

水入らずで」と、目顔で菱田を促して席を立った。その後ろ姿に、

 桜子「色々と、温かなお志、お心配り、有難う御座います」、まるで拝む様に言った。それまでお給仕

をしていた仲居たちも、「何か御用が御座いましたら、お声を掛けて下さいまし」と部屋を出た。

  そして、隣室に控えていた美雪が、正次が、最後に健太が両親の周りに集まるのだった。

  ―― 時間経過。食事を終えた親子五人が、笑顔を交えながら歓談している。

 桜子「それにしても健太は、よく頑張ってここまで来てくれたわネ」

  照れながら、美雪を見る健太。

 美雪「少し強引かなとも思ったけれど、丁度そういうタイミングだったのかも」

 一太郎「美雪こそ、良く来てくれたね。少なくとも三年は家に戻らないって、電話で母さんに言ったそ

うだから」

 美雪「自信がなかったのよ。決心が挫けるのが不安だった。でも、もう大丈夫。それに、電話を聞いて

いた果樹園のオーナーが、うちの車を貸すから弟さん達も誘って、行ってきなさいって、言って呉れた

の。だから、来れたの」

 正次「あのォー、僕だって少しは頑張ったのですけど…」、ちょっぴりおどけた調子で、言った。

 美雪「ああ、そうそう。あなたも確かに頑張りました。お兄ちゃんを励ましたり、方向音痴のお姉ちゃ

んの助手として、道を訊いたり、地図を調べたりしてくれました」

  更に和やかな雰囲気に包まれる家族五人であった。

  (108) × × 旅館近くの観光名所(翌日)

  日本家の五人が、仲睦まじく散策している。

 一太郎のモノローグ「この旅行を契機に、我が家のメンバーは益々結束と絆とを強めることとなった。

取分け私の仕事運は、完全に上昇気流に乗ったようであった」

  (108) 高層ビルの谷間

  一太郎が颯爽と歩いている。冒頭とは違い車道側を、胸を張って、その顔は自信に満ち満ちている。


                              《  終わり  》


  エンド・ロールの背景として―

  ◎ 次々と営業拒否に遇う一太郎の困惑と、意気消沈振りのフラッシュ。場面色々。

  ◎ キャリア学習サポート21の公開研究会で、日本(ひのもと)式セールス術について発表する一     太郎。

  ◎ 大学の教壇に立ち、講義する一太郎。

  ◎ 桜子と町で買物をする一太郎。

  ◎ 郊外の緑豊かな景色の中を、家族五人が仲良く、ハイキングしている。etc.


                                                                                                    ( 以 上 )





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最終更新日  2018年10月08日 19時24分22秒
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