草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年07月30日
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○ いまはん本店・従業員通用口(数日後)

  みどりが通用口を入って来ると、それを待ち兼ねたように声を掛けたのはレジ係の倉持はな(47歳)

である。

は な「みどり御姐さん、じゃなかった、G M (ジーエム)とお呼びしなければいけなかったですね、済み

ません」

みどり「構いませんよ、他に誰も居ませんし、私達だけですから」

は な「有難う御座います。実は折り入って増子 G M にご相談致したい事が御座いまして、お待ちして

いたのです」

みどり「珍しいことですね、倉持さんに悩み事があったなんて。いいですよ、此処での立ち話も何ですか



は な「有難う御座います」

○ 近くの喫茶店

 みどりとはなが窓際の席に向かい合って座っている。

は な「手短にお話申し上げます。増子さんも御存知の懐石部の白石 忠のことなのですが、ここ数日来

仮病を使って店を休んでいるのです。私の親友の息子で、性格も良いし、腕も師匠格の親方が太鼓判を押

すような、将来有望な青年なのですが、調理場内部の揉め事に巻き込まれた様子で…」

みどり「白石さんなら、懐石部門のチーフも褒めていますよ、いつも」

は な「それで、超御多忙でいらっしゃる G M にこんな個人的な問題をお願いしたら、店長さんからき

っとお叱りを受けるに違いないのですが」

みどり「私達のお仕事は、全体のチームワークが最も大切なことですので、決して個人だけの問題ではあ

りません。私に出来ることでしたら、何なりとお力添えさせていただきます」



○ 横浜・港が見える丘公園(翌日)

 一人の青年がさっきから所在無さげに、ベンチに腰を下ろしたり、立ち上がったりを繰り返し、誰かを

待っている様な格好である。

 声 「白石君、遅れて御免なさい」

  清楚な洋服姿に日傘をさしたみどりの姿が背後にあった。



みどり「とんでもありません。こちらこそ、急に無理をお願いしたのに、会って下さって有難う。お礼を

申します」

 忠 「お礼だなんて…、元々、問題を起こしてお店側に迷惑をおかけしているのは、このボクの方なの

ですから」

みどり「(視線を遠くに遣りながら)いつ見ても美しい眺めね、心が洗われるような素敵で、平和な気分が

する。考えてみれば、これも白石君のお蔭ね」

 忠 「そんな(恐縮している)」

みどり「船を目にすると、私、亡くなった父親のことを思い出すの……。若い頃から遠洋漁業・捕鯨船に

ずっと乗っていて、一年の大半を海の上や外国の港で過ごしていた」

 忠 「(も、港の方へ視線を向けて) …… 」

みどり「白石君、中華料理はお好きかしら」

 忠 「(頷く)」

みどり「中華街に行きましょうよ、私がご馳走しますよ、特別に」

  忠はニッコリと笑みを見せた。

○中華街のメイン通り

   仲の良い親子の様に歩く、みどりと忠。

○ 小体な中華料理店の中

 片隅のテーブルに着いているみどり達。

みどり「美味しそうなお料理ね。遠慮なく召し上がれ」

 忠 「はい」と、稍、緊張が解けた表情。と、

みどり「私、今日はお休みを頂いているので、お酒を頂こうかしら。白石君もどう、一杯いかが?」

 忠 「えっ、御姐さん、お酒を飲まれるのですか」

みどり「私、本当はお酒強いのよ。酒豪と呼ばれたこともあったの、若い頃はね。でも、お店の皆さんに

は内緒よ、ここだけのヒミツ」と、笑う。つられて忠も屈託のない笑顔を見せている。

○ いまはん本店・調理場(数日後)

   夜の宴会の確認のために顔を出したみどりに、懐石部のチーフ料理長が声を掛けてきた。

チーフ「 G M 、ご苦労様です。宜しくお願い致します。段取りよく準備致します」

みどり「こちらこそ宜しくお願い致します」

 持ち場に戻ろうとしたみどりに、

総料理長「増子さん、いつも色々とお世話様です。お蔭さまで(と、奥の白石 忠の方を目顔で示しなが

ら)彼奴(あいつ)も職場復帰して、役目を果たしてくれています。本当に G M には何から何までご面倒を

おかけして相済みません」

みどり「そんな風に仰って頂くと私も気が楽になります。少し出過ぎた事だったかも知れないと、内心で

反省していたところでしたから」

総料理長「出過ぎたなどと滅相もない。一同心から感謝致して居ります、なあ」と、近くの板前達の方を

見返る。板前達が一斉に頭を下げて感謝の意を表明した。

みどり「有難う、皆さん」

  そう言い置いて、軽やかな足取りで地下の調理室を出るみどり。

○ いまはん本店・女子従業員控え室

 慌ただしく相次いで駆け込むように出勤して来た土田ユキエと神林詩織の二人。その新人二人を控え室

の中央で既に和服に着替えて待っていた、気合十分な桜田 鮎。

二 人「お早う御座います」

 鮎 「お早う御座います」と、静かに挨拶を返した。そして銘々に自分流に和服に着替えている二人の

様子を見守っている。   ―― 時間経過    二人を引き連れて、これから接客の行われる個室に

向かう桜田 鮎。

○ 三階の個室

  鮎を先頭に入って来る三人の仲居たち。二人の新人に大まかな客の配置と段取りなどについて説明を

加える鮎。

 鮎 「今日は私が以前に格別に御贔屓にしていただいていたお客様が、特別に大切なお客達をお連れす

るので宜しく頼むと、再デヴューの私を名指しで指名して下さったのです。みどり G M からあなた方二

人をアシスタントにと、これも異例のご指名がありました。増子みどり G M は私にとっては神様のよう

な尊敬する大先輩です。そのお言葉がなかったら、私はベテランの御姐さん方を付けて下さる様に、申し

出たでしょう。あなた方お二人にとっても試練ですが、私にとっての一大試練なのです。ご協力を宜しく

お願い致しますね」

 と、静かだが真剣そのものの声音が、新人二人を圧倒する。

     ―― 時間経過

  十名近い客たちが顔を揃え、既に料理が運ばれ始めている。

年嵩の客「それでは乾杯を致したいと存じます。恐縮で御座いますが、皆様、御唱和をお願い申し上げま

す。そして隣におります、若輩者ではありますが、次期社長を私同様にお引き立て頂きますよう衷心より

お願い申し上げます。それでは皆様方の益々の御健勝を祈念致しまして、乾杯!」

一 同「かんぱーい」と唱和した。

 傍らに控えていた鮎が見本を示すように、先代社長の側に寄り、酌をし、次に、その指示に従って顧客

筋の連れ達にお酒を勧めて回る。新人二人も固くなりながらも、愛想のよい笑顔を絶やさずにお酌をし、

料理を運んでいる。

客の一人「御姐さん、焼酎は何かありますかな」

詩 織「御座います」

 幾分ぎこちない態度ではあるが、無難に対応している・

もう一人の客「御姐さんは和服が似合いますね。普段も和服で過ごされているのですか」

ユキエ「いいえ、お店に居る時だけです」

別の客「そうでしょうな、家の娘なども専らジーンズと T シャツですからな」

次期社長「そう言えば、お嬢様が御婚約なさったとか」

その向かいの客「ほう、お耳が早い。さすがですね、お若いのに」

次期社長「(頭を掻きながら)お褒めに預かって恐縮で御座います」と、相手に手で料理を示し、箸を付け

るように促す。座は次第に、和気藹藹たる雰囲気に包まれて行く。





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最終更新日  2021年07月30日 17時40分00秒
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