草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年08月01日
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○ 浅草国際通り近くの、小さな割烹料理店(別の日の深夜)

 店での仕事を終えたばかりのみどり達が、桜田 鮎の歓迎会を催す為に集まっている。

みどり「お疲れのところをご苦労様です。今夜は桜田さんの再デヴューを歓迎する有志の集まりに参加し

ていただき有難う御座います。明日はお店の定休日でもありますし、元気のある方はこの後、カラオケな

どへも行こうと考えて居りますので、一番電車の走る朝までどうぞお付き合い下さい。尚、お店の方から

寄付を沢山頂戴しておりますので、参加費は無用です。お酒がダメなお方は美味しい食べ物を、お腹一杯

に召し上がって下さいな」

   パチパチと拍手の音が湧いた。

みどり「それでは桜田さん、鮎御姐さん、一言ご挨拶をどうぞ」



の気持ちで頑張りますので、宜しくご指導お願い申し上げます」

 再びパチパチと拍手の音。参加者の前に手早く料理やビール、お酒などが並べられていく。おチョコを

手にしたみどりを見て、ベテラン仲居の中村昌代が声を掛けた。

昌 代「あら、 G M はお酒をお召し上がりになられたのですか」

みどり「最近は控えていたのですが、昔は鮎さんとちょくちょく、居酒屋に行ったものです」

   周囲の仲居たちが口々に、「そうだったのですか」、「知らなかったわ」などと驚きの声を発して

いる。

みどり「それから私から一言だけ、この様なお店では G M は禁句にしますよ、みどりさんと呼ぶように

して下さい」

 鮎 「みどり御姐さん、今晩はとことん飲みましょう」

みどり「結構ですよ、今夜は最高に気分がよいですからね」



 十人余りいたグループが十二時を過ぎた今は五人程の人数になっている。その中に、新人ふたりの顔も

ある。

 鮎 「あっ、みどり御姐さん、一寸また仕事の話をしても構いませんかしら」

みどり「ええ、どうぞご遠慮なく、何なりとお話ください。アルコールが入った時には、お互いに無礼講

スタイルで行きましょう」



 この言葉で、新人の二人は同時にギクリとなって、手にしていた酎ハイのグラスをテーブルの上に置い

た。

 あゆ「率直に申し上げますが、正直なところ最初は少々迷惑な気分でいたのです。例えば、こちらの中

村昌代お姐さんのようなベテランがいらっしゃるのだから、その方が遥かに良いだろうと思ったりもし

たものですから……」

みどり「そうですね」

昌 代「そうでしょうか、私は新人の教育係には不向きなのです。自己流で固まっていますから」

みどり「そうは思っていませんよ、私は」

昌 代「左様ですか」と返答に窮している。

   新人の二人は、鮎が一体何を言い出すのかと気懸りでならないのだ。

 鮎 「でも、お二人と仕事を一緒にしてみて、分かったことがあるのです」

みどり「何でしょうか」

 鮎 「初心忘るるべからず。私が教える事よりも、このお二人から教えられることの方が多かったので

す、遥かにです」

 新人二人は顔を見合わせている。

 鮎 「勿論、彼女たちには私を逆に教育しているという自覚はないのですが」

みどり「素晴らしいわ、鮎さん。やっぱり店長が執念を燃やして復帰を望んだだけの値打ちがあるもの。

私、二度目に貴女に惚れ直しましたよ、こんなお婆ちゃんで申し訳ないのですが」

 鮎 「まあ、みどり御姐さんたら、お顔だけでなく、お口の方もお上手だったのですね」と、笑う。

が、その表情が泣き顔の様に変化した。「私、本当に幸せ者です。お姐さん、今後共に宜しくお願い致し

ます」と殆ど泣いているような桜田 鮎である。

みどり「鮎さん、こちらこそ、本当に宜しくお願いしますね。この娘達のことも含めてですよ」と優しい

笑顔を新人二人に向けた。

○ カラオケの店(同じ深夜)

 ここでは新人二人が主役のように振舞っている。中村昌代も二人に張り合うようにマイクを積極的に手

にしようとする。穏やかで平和な表情を保っているみどりと鮎も、時々マイクを手にする。そして楽しい

時間が過ぎてゆく。

○ いまはん本店・特別ルーム(数週間後)

 ある種の特別な緊張感が室内を支配している。みどりがいつも通りにキビキビした動きでサブに付いた

鮎と二人の新人達をリードして、六人の男女の客を接待している。

○ 特別ルーム近くの水屋

   ユキエと詩織が声を低めて会話している。

ユキエ「一体、どういったお客様たちなのかしら」

詩 織「私たちには見当もつかないわね」

ユキエ「大体、みどり G M に鮎御姐さんがサブに付いたお座敷なんて滅多に無いそうよ。二三日前から

その話題で持ち切りでした、サービス部内では」

詩 織「とにかく名誉なことだって聞いたから、昨夜は私殆ど眠れなかった」

ユキエ「私もよ。なんだか足元が覚束なくて」

 と、ひとりの男性客が個室を出て来て、

男性客「あのッ…」と、周囲を見回している。

ユキエ「お手洗いで御座いますか。はい、こちらの奥で御座います」と素早く応対した。続いて、みどり

と鮎が相次いで部屋から出て来た。

みどり「すき焼きとしゃぶしゃぶと、ステーキを丁度お二方ずつご注文です。二人はお部屋に戻ってお飲

み物の追加など、それぞれのお客様から伺って下さいね」

二 人「畏まりました」と、弾かれたように動き始めた。

みどり「鮎さん、精肉部の方へ足を運んで、確認の方をお願いしますね」

 鮎 「畏まりました」と、地下へ向かうエレベーターへと向かう。

 さっきの男性客が用を済ませて、トイレから出て来た。

みどり「お客様、足元にお気をつけ下さいませ。ちょっとした段差がございますので」

 客 「有難う、御姐さん」

        ―― 時間経過

 今はもう緊張感は消えて、銘々が一様に感に耐えたと言った満足げな様子で、テーブルの上の料理に箸

を運んでいる。 そして、みどり達四人の従業員も普段通りのホスピタリティ精神を発揮しての接待に終

始しているのだ。

ナレーション「(みどりの声で) 最後まで、店長は私に対してさえ、このお客様達の素性を明かしてはく

れませんでした。しかし私も、鮎さんも、長年の直感でおおよその正体を見抜いていたのです。業界内の

食通達が私達の仕事ぶりも含めて、実地検分に訪れたに相違なく、店長の口ぶりからは 花丸つきの五重 

丸 をいまはん本店は頂戴した模様でした」





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最終更新日  2021年08月01日 11時12分28秒
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