草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年10月01日
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スナック (夜)

   講師の春子を囲んで、今日の講習会の反省会。と、言っても無礼講で、フリートークの宴

会なのである。春子の隣には、まだ緊張した面持ちの一太郎が居る。

春子  営業の真髄は、物やサービスを売るのではない、自分という人間を売るのだ。これが、

私自身が師と仰ぐお方から教えられた事です。その為には結局、自分を磨くしか方法がない。そ

れも、各自が銘々の流儀で、ですね。やるっきゃないのですよ!

一太郎  自分を磨くのですか…、自分の流儀で…。

春子  ええ、日本さんの場合には、特に御自分に自信を持つことが、何よりも必要なのではな

いでしょうかねえ、結局の所は。



の連続でしたから、私は。

春子  私も同じですわ。今でも失敗やミスばかりで、いつも冷や汗を流していますの。いえ、

決して謙遜しているわけではありません。

一太郎  営業の神様と呼ばれているお人が、ですか?

   一太郎には、全く解せないのであった、実際のところ。

春子  人様は、お世辞半分で褒めてくださいますが、でも、自分では満足できた事など、これ

までにただの一度もなかったのです。どう説明したらよいのか、説明に窮してしまうのですが、

要するに、良い意味での開き直りが大事なのではないかと…、つまり、自分には目下の所ではこ

れしか出来ないのだから、仕方がない。と言うか、心の中で両手を合わせながらも、最大限の誠

意を尽くしてみる。すると、不思議なもので、自然と道が開けたりするのです、はい。いや、決

して私の手柄などではないのですがね。



一太郎  自然に道が開けてくる…、謂わば、人事を尽くし切ったからですね。

   春子は少し照れたように、

春子  人事を尽くし、全身全霊を捧げ尽くそうと努力し、日々精進し続けている、修行の身で

すの、私は。

一太郎  素晴らしいです。一つ一つのお言葉が身に染みて、感銘を受けます。



   顔を見合わせて、心の底から愉快そうに笑う二人である。

       ―― 時間経過 ―ー

   春子が目顔で、一太郎にカウンターの向こう側にいるバーテンダーの存在に注意を促し

た。彼は終始殆ど無言で、接客している。カクテルを作り、レモンの薄切りを入れただけの冷水

を差し出したりして、客にサービスしているだけのようだが、そのさりげない仕草が、見る者が

見れば一種の名人芸になっていることが知れる。

       ―― 時間経過 ――

   マイクを手にしてカラオケを歌う者あり、スナック店の全体がひとつに融和して、盛り上

がりをみせている。と、止まり木の傍らで一人黙々と飲んでいた一人の客が、一太郎に語り掛け

てきた。

客  あなたはカラオケ歌わないのですか?

一太郎  僕は音痴ですから…。

   見ると、相手は派手に女装した男である。

おかまの客  カラオケって、音痴とか、歌が上手だとかは、関係ないみたい。

一太郎  そうですか。

おかま  私なんかは、声が良すぎるし、プロ並みの歌唱力だって、逆にギャラリーから嫌われ

るみたい。

一太郎  是非、一曲お願いします。

   相手は上機嫌で、哀しい女心を吐露する曲(例えば、『雨に咲く花』とか『恋人よ』など)を

歌い始めているが、ド下手である。しかし、始め妙に白けた様な雰囲気が広がった後で、俄然客

達の心が一つになり、やがては和やかな空気感が漂い始めた。時々、拍手なども起こっている。

じっとその様子を見守っていた一太郎の心の中で、何かが突然に弾けた ――。

   前の 辻待ちの易者の 所 (同じ夜)

   一太郎が来ている。

易者  他人の事や未来の出来事が、そんなに分かるのなら、自分の事を占って、幸せになった

らどうだ。そんな事を人は無責任に放言するのだが、そうは問屋が卸さないないのじゃよ。

一太郎  何故ですか? 自分の事は自分が一番理解している筈ではありませんか。

易者  一面の真理というやつじゃな、それは。

一太郎  一面、ですか?

易者  左様、貴男、御自分の顔を見ることが出来ますかな。

一太郎  鏡を見れば、簡単に見られると思いますが。

易者  それが落とし穴なのじゃよ、君。

一太郎  落とし穴…、どんな意味ですか?

易者  小学生でも解る原理じゃよ。即ち、鏡に写るのは左右が逆の虚像であろうが。しかもじ

ゃ、その鏡にも色々とあって、自惚れ鏡には美人やハンサムが、安物には冴えない表情や、醜い

面相が浮かんでいたりする。そうじゃろうが、あっ。

一太郎  確かに、その通りかも知れません。

易者  当たるも八卦なら、当たらぬも八卦と言う。そもそも易学は古代中国から伝わる知識の

集大成と言える。それは要するに、シルクロードなどの交通路を通って太古のオリエント文明の

精華たる学問も取り込んだ、謂わば全人類の叡智の結晶と称して間違いない。しかしながらじ

ゃ、解釈学でもある以上は、どうしても人間の感情や気分などの夾雑物、つまり不純なる夾雑物

が介在することになってしまう。そこが厄介な、複雑怪奇な迷路を孕んでもいて、人をしばしば

惑わす要因となっておるのじゃよ、ぶっちゃけた話がじゃ。

一太郎  成程、そうですか…。

易者  俗に、岡目八目と言うじゃろうが。当事者よりも傍観者、要するに第三者の方が冷静で

客観的で正しい判断が出来る道理を、簡明に表現したものですなあ。それに加えてもう一つ――

一太郎  もう一つ、ですか…?

易者  左様。人間には元来、プレイヤー型とアドバイザー型とが存在する。さしずめ貴君など

はプレイヤー型の代表のようなお人ですな。只、貴方の場合は…。

一太郎  (相手の言葉を遮って) 私の場合―

易者  迷いに、迷って居りますな、先日も、今日も。

一太郎  はい、仰る通りです、仰る。今現在も迷っています、どうしたら良いのやら、さっぱ

り分からない。どうしたら宜しいでしょうか?

易者  迷いの雲や霧は、追い払うに如(し)くはありません。猪突猛進、行動するべし。御自分の

人生です、一度きりの人生、御自分の意思で決断し、それを果敢に実行に移す。断固として行動

する、結果を徒に恐れていてはいけない。如何かな?

一太郎  はい、よく解かりました。

   深く、深く頷いている。

   近くの 一杯飲み屋 ( 夜 同じ頃 )

   鬼田幸三と倒産した中主企業の経営者が隣り合わせで飲んでいる。

鬼田  あなた、大分ピッチが速いですな。

元経営者  ヤケ糞ですよ、いくら飲んでも酔わないのですよ。

鬼田  さっきから呂律がよく回りませんから、随分酔っていると思いますよ。

元経営者  世の中は本当に不合理ですよ。私の様に従業員の誰からも尊敬され、愛されもして

いた良心的な経営者が突然に倒産の憂き目に遭い、どこかの阿漕ぎな社長の会社は T O B とかで

大企業にのし上がっていくのですから……。

   この人は泣き上戸らしく、途中から泣き声になっている。

鬼田  全く、理窟に合いませんな。俺みたいにハンサムで頭脳明晰な男が、女性運が悪くて未

だに独身。その上によく働くのに、今だに梲(うだつ)が上がらない。その一方では、ドジでノロマ

で醜男(ぶおとこ)が身分不相応に、超が付く飛び切りの美人と結婚している。本当に納得できませ

んなあ、この現実……。

   と、こちらも涙声になっいる。

元経営者  こう見えても私の家系は名門中の名門でして、天才や秀才が数え切れない程に輩出

しているのです。

鬼田  僕の実家は、地方の農家なんです。所謂、水呑み百姓。大都会に憧れて、両親には無断

で家を出て、苦労の連続でした。自業自得とは言いながら、ですね。

元経営者  若い頃は人望がありまして、勿論人並み外れた才覚も有していたので、二十代半ば

で小さいとは言え一国一城の主となり……

   お互いに相槌は打つものの、自分の言い分だけを口にしているだけ。

鬼田  コネもなければ学歴もない。これといった技術を持っているわけでもない。ないない尽

くしの裸一貫。自分で振り返ってみると、自然に涙が出るくらいの、奮闘努力の毎日でした、実

際の話が。

   元の 易者の 所

   先程から、その周辺を行きつ戻りつしていた一人のサラリーマンが、意を決した様に一太

郎の背後から声を掛けてきた、

サラリーマン  あのォ、誠に申し訳ないのですが、そろそろこの僕に順番を譲って貰えません

でしょうか。

一太郎  あっ、これはどうも。どうぞ。

   と、直ちに席を譲った。そして所定の見料を支払おうとする一太郎を手で制しながら、

易者  いや、結構です。近い将来の出世と躍進を祝して、今回は拙者からの御祝儀としておき

ますから。

   一太郎は恐縮して、何とはなく、その場を去り難い気持ちである。

サラリーマン  転職すべきなのか、それとも今の職場でじっと我慢すべきなのか…。

易者  大いに迷っている。

サラリーマン  そうなんです。

易者  転職先の当てはあるのですか?

サラリーマン  一応はあります。

易者  現在の会社に、何か問題でもありますかな?

サラリーマン  特に、これと言って問題と言う程の問題はありません。

易者  ほうっ、しかし悩んでいる…?

サラリーマン  実は、これなんです。 ( と、右の掌を、易者の前に差し出した ) 誰かに訊

いたのか、それとも易学関係の雑誌の記事を読んだのか、その辺は不確かなのですが、天下を取

るという珍しい手相が出ているものですから。

易者  成程ね、確かに珍しい手相をお持ちですな。

   そう言うと、それまで近くに佇んで、二人の遣り取りを聞くともなく聞いていた一太郎

を、手振りで近くに寄るように合図した、一太郎が近くに寄って覗くと、サラリーマンの右手の

手の平には中指から手首の中央にかけて、一筋のはっきりとした線が刻まれている、

易者  易や手相と言うものには、時代や国によって当然ですが読み方や、解釈に相違が出て来

ますな。成程、強運には間違いないのですが、人に依っても意味合いが著しく異なっている。

サラリーマン  そんな物なのですか。それで、僕の場合にはどうしたら宜しいのでしょうか、

ご教示下さい、お願いします。

易者  貴君が此処へ来る前に相談した、その方面の専門家、えーと、何とか言いましたな…。

サラリーマン  キャリアカウンセラー、ですか?

易者  そうです、そのお方もきっとこう言われた筈です、即ち、最後は本人が御自分の意志で

決めるべきだ、と。

サラリーマン  はい、確かに、そう言っていました。その通りです…。

   と、頻りに感心している。 この二人の会話を凝っと聞いている一太郎である。





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最終更新日  2021年10月01日 17時30分38秒
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