草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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2021年10月06日
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或る オフィスビル の 入口付近 (数日後)

   人待ち顔で立っている一太郎の姿がある。 と、帰り支度を済ませた顔馴染の受付嬢が足

速に横の通用口から出て来た。

一太郎  あのぉ、日本です。お疲れ様です。

受付嬢  (ニッコリとして) あら、お疲れ様です。

一太郎  一寸、お話を伺いたいのですが、お疲れのところを恐縮です。

受付嬢  はい、どうぞ。どうせ家に帰るだけですから。

   と、非常にフランクで打ち解けた態度である。

   洒落た感じの カフェ



受付嬢  日本さん、よくいらっしゃるのですか、この種のお店。とても素敵。

一太郎  よかった、気に入って頂けて。実は、初めてなのです。

受付嬢  初めてのお店なのですか…。

一太郎  貴女をお誘いするのに何処がよいか、色々と研究したのですよ、立ち話も何ですか

ら。

受付嬢  嬉しいわ。それで、どんなお話でしょうか、私に訊きたい事って?

   と少し改まった態度で訊いた。

一太郎  私に貴女と同じ年頃の娘が居るのですが、その娘が真剣に悩んでいる事を、私も妻も

気付かなかった……。

受付嬢  そうですか。

一太郎  貴女はいつも笑顔を湛えて来客に応対されています。でも、もしかしたら心の中には



ら。

   何を質問されるのかと緊張していた相手の様子が楽になった。

受付嬢  私も 多感な 年頃の娘ですから、色々と気になる事、将来への不安などあります。

私今、親元を離れて、一人で暮らしていますから。女性のルームメートはいますが、お家賃を折

半にするのが目的で、お互いの私生活には干渉しない関係です。寂しかったり、孤独を感じた



一太郎  でも……?

受付嬢  でも、そんな悩みが全部無くなってしまったら、

一太郎  そしたら、

受付嬢  私が 生きている っていう意味が全部無くなってしまう。(ホッホ、と笑い声をはっ

しながら) 可笑しいかしら、こんな言い方。

一太郎  (首を横に振って)いいえ、決してそんな。

受付嬢  私、以前に座禅を体験した時に、そう感じたのです。

一太郎  座禅ですか?

受付嬢  本式のではないのです。会社の研修の一環として、ほんの略式で、三日程でした、鎌

倉の禅寺で。

   一太郎は感心して頷いている。

受付嬢  お給料、もう少し上がらないかな。そんなちっぽけな、けれども切実な悩みを悩んで

いる。それが私という人間の本質なので、それ以外には私という存在は何処にも無いのだ。これ

が私流の悟りです……、お恥ずかしい限りですが。

一太郎  いえ、そんな。

   一太郎は感銘を受けて、言葉が出ないのであった。

一太郎のモノローグ「自分の若い頃と比べて、今の若い人は何と堅実で、しっかりとした考え方

を持って生きていることか――」

   ✖ ✖ 山の山頂 付近

   得意先の一つである E 社の新人と、祝日にハイキングに来ている一太郎。

一太郎  素晴らしい眺めですね。

新人  県内や東京からも日帰り出来るハイキングコースの NO. 1です。

   普段とは打って変わった、清々しい表情を浮かべているのだ。

一太郎  お蔭さまで、命の洗濯ができます。有難う、本当に有難う。

新人  いえ、そんな。お礼を言わなければならないのは、私の方です。貴重な休みの日を犠牲

にして、私の詰まらない愚痴を聞いて下さるなんて、日本さんでなくては出来ない事です。

一太郎  この辺で、お昼にしませんか。一寸早いのですが。

新人  そうですね、今朝は早起きしましたから、お腹がペコペコです。

一太郎  家内が作った粗末な弁当なのですが、独身で、一人暮らしの方なら、コンビニなどの

出来合いより喜ばれるかもしれないって。

新人  実を言うと、昨日からこれが一番の楽しみだったのです。何しろ家庭料理の味に飢えて

いますから。

   一太郎がリュックサックから取り出して広げた手料理に、早速手をつけた。

新人  美味しいです。愛情が一杯に詰まっているって感じです。

   実際、心の底から堪能しているのが解る。一太郎も、ノリを巻いたお握りなどを美味しそ

うにパクついている。

   林道

   楽しげに語らいながら、一太郎と新人の若者の二人が行く。

一太郎のモノローグ「入社して三年目になり、会社を辞めようかどうか迷っている青年は、傍目

には何の屈託もない様に見える、ごく明るい性格の持ち主なのだった」

   下りの坂道

   ハイキングコースの終わり近くの坂を降りて来る一太郎と新人。

一太郎  時間が、あっという間に過ぎて行くようです。

新人  本当にそうですね。

一太郎  今日は本当に貴重な体験をさせて頂きました。有難う!

   立ち止まって挨拶した、

新人  とんでもありません、私の方こそ。何と言ってお礼の気持ちを表現したら良いのか…。

兎に角不思議なのですが、世界が昨日までとは丸で違って見えるような、そんな心持ちなので

す。

一太郎のモノローグ「山歩きを一緒にしたこの日は、我々二人に目には見えないけれど、何か新

鮮で確かな 何か を齎していたのでした」

   大宮の 絵画教室

   廃校になった元の小学校の教室を利用した室内で、アートセラピーを応用した絵画教室の

実習が行われている。講師と生徒が四人である。 外資系の F 社の重役秘書に誘われて、一太郎

も初めての出席で、幾分か緊張気味である。

一太郎  クレヨンを手にするのは何十年ぶりでしょうか。

   一太郎を気遣って席を立って来た秘書に小声で話し掛けた。

秘書  何だか、小学生に戻ったような気分になりますでしょ、場所が場所だけに。

一太郎  そうですね。

   改めて室内を見回す。机も椅子も黒板も、古い小学校の物がそのまま利用されている。

講師  それでは、本日のメインの作品作りにはいりましょうか。

   講師の指示に従って、机の上に前以て準備されていた画材類を使って、作品の制作を開始

する生徒達四人。それぞれが真剣そのもので、目の前の画用紙に意識を集中させている。 教室

の中に、静寂とくつろぎの楽しい時間が流れて行く。

一太郎のモノローグ「出来上がるのは、我ながら稚拙で子供じみた絵……、色も線も、形も、思

ったものとは全然違ってしまう。しかし、何もかも、浮世のことは一切忘却して、絵画の世界に

没頭する不思議な忘我の境地は、全く想像以上に素晴らしかった。何物にも代え難いと思った」

   大宮の 街 (夕方)

   教室帰りの重役秘書と一太郎が並んで歩く。 その表情は心なしか、普段の日には見られ

ない清々しさと爽やかさに輝いているかのよう。絶えて見られなかった表情が確かにそこにあ

る。

秘書  何だか、此の儘では別れがたいような気分ですわ。

一太郎  私もです。

   「軽く行きますか…」と二人一緒に顔を見合わせた。

秘書  奥様に叱られませんか? (と、いたずらっぽい表情)

一太郎  大丈夫です。今日のお礼に、私がご馳走します。

秘書  やったぁ! (子供のように喜んでいる)

   渓流釣り の穴場 (数週間後)

   G 物産の守衛さんの一人と一緒に、生まれて初めての沢釣りに興じる一太郎がいる。

守衛・中村  どうです、当たりは来ませんか?

一太郎  ビギナーズラックと言うのは、釣りの場合には無いようです。

   そう答えたが、何やら楽しげな表情である。

中村  そうですね…、試しに竿を換えてみましょうか。

   愛用の竿の中から選んだ別のを、一太郎に手渡し、餌を付けるなど甲斐甲斐しく一太郎の

世話を焼く。根っからの釣り好きであるらしい。

          ―― 時間経過 ――

   一向に手応えのない一太郎に較べて、中村の方は次から次へと山女を釣り上げて、上々の

釣果(ちょうか)なのである。

一太郎  さすがは名人と言われるだけのことはありますね。

   感心するだけの一太郎であるが、満足げな表情である。

中村  いや、今日は特別ですよ。きっと日本さんがツキを呼んで下さったのでしょう。

一太郎  これは参りましたな。殺し文句の セールストーク まで。私のお株まで取られてし

まっては、丸っきり形無しですよ。

   そう言って頭を掻いて見せたが、気分は爽快の、晴れ晴れした表情である。

一太郎のモノローグ「子供の頃から釣りが好きで、趣味の釣りに生き甲斐を見出している“釣り名

人”こと、守衛の中村さんは、今子供のように無邪気で、穢れのない表情で渓流に向かっている。

中村さんは言うのだ、僕のは魚を釣るのが目的ではない。自然と対話する為に山に来るのだ、

と。その精神だけでも、私は見習いたいと、この日強く心に刻んだ。兎に角、愉快で、疲れが心

地よい記念すべき日となった」





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最終更新日  2021年10月06日 11時09分21秒
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