草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年06月06日
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王子は大きに怒りをなして、根太(ねだ、床下の横木)も折れよとどうどうと踏み、衣を引き除ければ両人

はあっと魂切り起き上がり、涙も汗も身を浸し震いわななきおわします。

 是、花人、汝がたっとむ仏道には邪淫戒とて妻ならぬ妻は忌むと聞いているが、珍しの仏法や、仏者も

破る邪淫戒を王子が保って益もなし、汝が寝たる暖まりに丸も床に入るべきに、我が見る前にて今一度し

っぽりと寝て見せよ、と大太刀寛げて逃げれば切らんとする気色なり。

 親王も姫君も立もやらず居もやらず、そろりそろりとし去りのく。

 どっこい、どっこい、動いて見よ、さ程に寝ることが叶わないならば、思い込んだる妹背の中、定めて

命は惜しくないだろう。三途の衾(ふすま)死出の床、長い来世で寝るならば、枕を土壇(土で築いた壇。首

を斬る場所)に二人の首を並べてやろうか。



ら)を鷲が見入っている鋭い眼差し。危うさ、辛さ、恐ろしさ、譬えて言う術もない。

 ええ、見れば腹が立つぞよ、さあ、来たれと二人を左右に引っ掴み駆け出そうとした時に、甲斐甲斐し

い若侍が一人真一文字に飛び来たり、王子を取って投げ退けて、親王と姫君を押し囲い枯木立ちに突っ立

って、大音を上げて、我を誰と思うか、玉世の姫の譜代相伝の御家人、半挿(はんぞう)天王の後胤、葛結

(かづらゆい)の親王の末孫で樽井の小樽と申す。大剛の物桶有とは定めて音にも聞いているであろう。

 早く帰れ、帰らなければ、三年竹の八つ割にて汝が五体に七つ輪を入れて、頭から爪先まで槍鉋を見知

らせてなし物桶(魚の腸などを塩漬けにしておく桶)にしてくれん。言われぬ(余計な)王子の手桶立て、身

が前では置いてくれ。おけおけおけや、と罵ったのは甲斐甲斐しくぞ見えたりける。

 王子は騒がず、むむ、彼奴はまことの武士(もののふ)ではない。いづくの下司の推参者(無礼者)とはっ

たと睨めば、やあ、下水桶とは誰のことだ、御分(あなた)がその盥(たらい)程の目を剥けば、こっちには

水風呂桶の目を持ったと、くわっと見開きねめ廻し、こりゃ、親王様も姫君も某がお供する。指でも指せ



 王子は下郎と侮って手差しもやらず太刀の柄(つか)もひしけてのけと、鍔元を寛げて瞬きもしない面色

(めんしょく)は浅紫の額の筋、眼(まなこ)の内は八角(険しい目つきを八角眼と言う)の池の氷に紅葉葉の

ちりちり血筋、血走って隙間もがなと睨み寄る。

 久馬も先を取られまいと、歯が根を鳴らし(歯ぎしりすること)、拳を張り、頭(こうべ)の汗が湯煙るの

は枯野の霜の霜がれて朝日に煙る如くであり、後に引こうとする気配もないのだった。



 はああ、ものものしい奴ばらだな。鬼神と言われた王子に盾突く某が己ら如きに恐れようか。すし(生意

気な、出過ぎたの意)桶臭い奴らだと、かんらかんらと笑ったのだ。

 物を言わせるな、打ち殺せ、承ると飛んでかかるのをひっぱずして、下手に入ってむんずと抱き、上を

下へとねじ合ったのだ。

 その隙に王子と宿祢は隙間なくぴったりと寄り添って親王と姫君を引っ立てて行く。

 やれ、人はいないのか、あれを止めよと、組合ながらも呼ばわれば、琴屋・鏡屋・烏帽子折・数珠引

き・煙管屋・塗師屋・檜物屋・指物屋・薬缶屋なんどに至るまで所在(仕事上で得意とする道具)の得物を

引っ提げ引っ提げ、打ち漏らすまいと追いかけた。

 久馬平は土丸と揉みに揉んで組合っていたが、土丸、相手を四つ手に引き結んで目よりも高く差し上げ

て、えい、と言って打ち付けた。空中でひらりと跳ね返り、今度は土丸の小足を取って大地にどうと打ち

付け馬乗りにしっかりと乗り、一息ほっとついたのは心地良い手柄である。

 かかる所に百嶋は宮を奪って引き返せば、勝舟は玉世の姫を肩に引っ掛け立ち帰り、互いに主君を取り

交わし、思えば外道の所為(しょい、仕業)であったが知らないで危うい同士戦(いくさ)、怪我はないか過

ちはなかったか、主従安穏、珍重、珍重、去りながら、かくまで外道がはびこる上は、都の住まいが気遣

われる。姫君については本国に早々お供致されよ。

 この検非違使は都に残ってしばらくは王子を守護致そう。久馬平は我が君を四国の方にお供せよ。おっ

つけ後から追いつこう。

 任せておけ、さあ、桶屋の出発だぞと、土丸を取って引き起こし、首を掻き切って負い奉り、ただ今罷

り立つ、龍田越え、夜半に紛れて落ちて行った。

 外道を一人滅ぼすのは、仏千体供養するのに匹敵するとか。殺生が却って忍辱(にんにく、外から受ける

恥辱や障害に耐え忍ぶこと)の信心、慈悲心・菩提心(正覚を求める心)・大善根(大きな善果が得られる所

業)の種を植えて、子孫の末までも竹の園生(そのふ、皇族)が栄える代こそは、久しいのであるよ。


            第  二

 同じ世になお在りながら会うことは、八重の潮路のあなたなる佐渡が嶋の流人で五位の介諸岩(もろい

わ)と言う者が有る。

 彼は元来が花人親王の後見(世話役)であり、検非違使の勝舟の弟であるが、先年、色道の虚名(無実の

噂)で勅勘を蒙り、この嶋に流し放たれたのを、当国の郷侍・松浦(まつら)の庄司の情を受け、辛さは同じ

世の中に名を下部(しもべ)に引き換えて鍬(くわ)取りの京雀と呼ばれて、領内の離れ嶋石地(いしぢ、石の

多い土地)を開き、畑を打つ。土民も業をする、菅蓑(すがみの)を着て命を繋ぐ縄の帯、昔の弓矢太刀

刀、今日は取り換える鍬の柄の、長くはない世を徒に新嶋守(にいしまもり)に成り果ててしまった、身の

習いこそ不憫であるよ。

 季節を忘れない草木の葉も秋になれば紅葉して錦のようだ、故郷に錦を着て帰ると言うがそれは誰のこ

とだ。自分にはその望みもない。姿は案山子に似ているが、見慣れ、会い馴れ、友なれて、降り居て漁る

雁(かりがね)も、今は恐れる気色もなくて伴ない懐く優しさよ。

 五位の介は空を振り仰いで独り言、こはいかに、あの一叢の雲の色こそは心得ぬ。正しく王城に立つ雲

である。天子のまします所ではなくて、この嶋に此の雲気が顕れるのは不思議であるよ。はああ、いぶか

しいぞと見守っている所に、追っても立たない雁(かりがね)が蘆(あし)のそよぎで驚き、残らず一度にぱ

っと立ち、雲居遥かに飛び去ったのだ。

 いよいよ不審が晴れずに、蘆辺をかき分けて磯辺を見ればいづくからとも知れない、白波に小船が一艘

ただよって都育ちの女房と、殿上人とお思しきが濡れたる袖を絞りかねて、包み兼ねている涙の様はこの

世のものとも見もわかず。

 いかさま、これは七夕の年に一度を堪えかねて、又取りこしの天の川と渡る舟か、化け物かと思えど思

案に落ちないのである。五位の介は鍬と振り上げて、是々、先ずおのれらは何者ぞ、この所は離れ嶋、流

人ならで余の舟が来る所ではない。

 さては、海賊ばばん舟(中国・朝鮮を荒らした日本の海賊船。もと、八幡の旗を立てた)よな。又は往還

の護摩の灰か泥棒か、一々に打ち殺し鍬のついでにこの嶋に埋めてやろう。待っておれ、おのれらと舟に

乗り移ろうとする所を、なう、暫くお待ち下され、更々左様の者ではない。都方から西国に身を浮舟の梶

を絶え、横切る風に吹き放されて命からがらにこの嶋に止まったもの。苫漏る月の行く末をのう、哀れみ

て下されと打ち口説き、頼む詞のひっぱなし(端、はずれ)は愛くるしくて魅力ある。泣いて言うのさえ恋

を感じさせる。

 五位の介もそうでなくてさえ都が恋しい時であり、心が自然に浮かれて、むむ、都人であるよな。色の

よい若衆と御婦人がたった二人の乗合舟、血気盛りの恋風の追手に得手に帆を上げて、舟の底が抜けなか

ったのはまだお幸せ、お幸せ、色気に餓えていたこの嶋であるからお若衆でも女郎でも、我らもちっと

さらば便船申そうかと、乗ろうとすると、ああ、是々、御罰を受けて後悔致すな、忝くもこれは主上の御

弟宮の花人親王様であるよとあれば、はっあ、さては我が君なりけるか。と、鍬をからりと投げ捨てて頭(

こうべ)を地に伏せ涙を流し御懐かしやとぞ敬ったのだ。

 親王は舟から陸に上がらせ給いて、そも、汝は何者なるぞと仰せられた。御見忘れは御理(ことわり)、

是はいんじ頃(以前)に勅勘(ちょっかん)を蒙り、この嶋に流された五位の介諸岩の成れの果てであります

る。そう申しも果てないうちに親王は、さては汝は古の五位の介であったか。みずからは幼き頃に見た面

影はないぞよ。我とてもこの浅ましい姿を見よ。いかなれば主従がかくまで成り下がってしまったのか。

さりながら思わずもおことに会うことは地獄の底の罪人が、仏に巡り合った心地がする。と、勿体無くも

諸岩の朽ちた蓑に縋り付いて御声を上げて泣きなさる。

 諸岩も諸共に咽返り、咽返り、御答(いらえ)も申しかね、ややあって、いかなればかようにも落ちぶれ

させなされましか、覚束ないことですと申し上げれば、さればとよ、兄宮山彦の王子が外道を信じ王法(お

うぼう)を傾けんと都を騒がせ、みずからを討たんとなされた故に、汝の兄の検非違使が跡を防ぎ、さてみ

ずからは職人に介抱されて西国方へと思ったのだが、その者さえが病に臥し、是なるはそれが妻で、女な

がらも甲斐甲斐しく夫の代わりに召し具したのだ。

 語るのも言うのも便なさ(浅ましい)よと又もや御涙に暮れなさる。

 五位の介は承り、驚き入ったる御事かな。しかれども某の兄弟が候うちは尊意を安んじおわしませ。た

だ今某が主人と頼んでいる當嶋の主(あるじ)は松浦の庄司とて由有る者の後家の尼公、老女とは申しなが

ら惣領は松浦の兵藤太。殊更におとのさよ姫は某を京者であると心にくくや存じつらん、様々に情を加

え候故に、もしもの時の便りにと忍んで交わす手枕に深い妹背と成り候。

 これ幸いに候えば、一先ずは御供仕り、時節を伺い姫に語り、兄や母を頼むならば一方の役に立ち申さ

んは必定、先ずそれまでは恐れながら都に残る兄弟が尋ね下ったのだと申しなして日々を送り、行く末目

出度くこの憂さを昔語りになし申さんと、御力をつけ奉り、様々に励まし奉った。

 親王は御感ななめならず、嬉しき人に巡り合い頼もしの心やな、下人とはさらに思われず、父天王が今

ここに蘇らせなされた様な気持ちがする。

 忝くも諸岩を伏し拝み、伏し拝み、御落涙こそは頻りなのだ。

 時も移れば秋の日の暮方近い雲井の雁が一列に連れて下っていたが、中に一羽が翼を広げ、五位の介の

前に来て只物を言うような様子である。

 親王が御覧なされて、これはどうしたわけであるかと問わせなされると、そのことですが、この五年の

間夜昼嶋で起き臥し候えば、友と言えるものは鳥翼、中でも雁が根が春は帰ると申しますが秋来るまでは

忘れずに人情が移ることは人間と変わらずに翼に文を結いふくめて海山を越えて往来して、鳴く声を知ら

ない人間の詞をおのが聞き知る事、人に優れているそのしるし、是をご覧候えと翼に付けた一包み、女の

文に櫛鏡、黄金少々封じた物を雨にも湿らさずに持っているのは古語(漢書)で伝えているかりがねの翼の

文を目の前に、今見る事の不思議さよ。と、御手を打たせて給いしが、如何に諸岩よ、これは女筆の散ら

し書き、殊に艶めく贈り物、如何様味な事そうな、聞かま欲ししと笑いなさると五位の介は顔を赤めて、

いやいやいや、いささか恋路には候わず、これは都にて某が添った妻女で、こうして流人となった後も彼

女も身を捨てて播州の傍らに賤の奉公は夫の為、配所での憂さを助けようと言うので雁の便りの折毎に

筆墨料紙の類まで心を込めた贈り物、女心の神妙さ、哀れ天運に適い、勅勘を許されたいにしえの五位の

介の妻ですと、妻ですと言いたい為に帰参は何時かと待っている所に、不憫やこの時が夫婦の縁の切れ目

になってしまいました。それを如何にと申すに、もとこの女は王子の執権伊駒の宿祢の娘で、君の為には

大怨敵、親故に貞女の道を破る奴ではないけれども、七人の子はなすとも女に心を許すなと諺にも言って

いる様に、一つは世上の人口(噂も気になります)、恩愛も執着も情けも恩も、恋も恨みも御大事には替え

られません。不憫ではあっても離別して心涼しく義兵を起こし、一戦を励み申すべし。さりながら、故無

く離別と申したならば、よもや承引仕らじ。末頼み無き世を見限り自害して果てると最後の文をまことし

やかに遣わしたならば、続いて死ぬのは必定、死のうが生きようが歎こうが重ねて参り会えばこそ、偕老

同穴忘れもやらで未来で一人待つのであれば待て、生々世々(しょうじょうせせ)の離別ぞと口では言いな

がら涙は胸に伝い落ちている。





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最終更新日  2025年06月06日 20時07分58秒
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