草加の爺の親世代へ対するボヤキ

草加の爺の親世代へ対するボヤキ

PR

プロフィール

草加の爺(じじ)

草加の爺(じじ)

サイド自由欄

カレンダー

フリーページ

2025年06月17日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
浦人共は舌を巻き、坊主もどきの倅(せがれ)め、いや、こたつは只物ではない。王子様からお尋ね

の親王とやらんに間違いなし。からめよ、縛れよとどよめいたのは危ういばかりの次第であるよ。

 長者も不審を立てて、如何様、年にも足らずに斯様の事は何として覚えたのか。先ず、何者であ

るかと問ったところ、五位の介が押っ取って、いや、名もない土民であるが、彼は幼少時から都の

学者に奉公致していたのだが、生まれつき覚えがよくて、一度聞いては一生忘れない器用者、却っ

てそれが仇となって小癪者だとて人に憎まれており候と、実しやかに申したのだ。

 長者は悦び、是も仏の縁であろう。何と我にくれまいか。奉公次第で後には引き上げてもくれよ

う、とあったので、もとから姫の誼(よしみ)もあり幸いであると、五位の介は有難き御詞です。と

もかくもと承知したのだ。



鐘を山路の木遣りで引き上げよと命じた。

 承って候と、如何に方々、この山路が諸行無常と音頭を挙げたならば、是生滅法と付けて引け、

生滅々巳と言う時には寂滅為楽と唱えて引け、引けや、引けやの声の内、邪法の雲は正法(しょう

ぼう)の風に消えつつ高砂の尾上の鐘はおのずから帆をかけた舟の如くに、既に鐘楼も作り、過去

の罪障も消えるようだ。

 私は罪深い人間だが、不思議に薪やまきの様に割られたり砕かれたりしないで、鐘の撞木のよう

に自分で自分の身を削るような辛い勤め奉公をする身であるよ。

 今か、今かと待つ宵は遅く来る鈍な戯男(たわれお、みやびお)は遅く来ても、睦言(むつごと)切

れて暁(あかつき)の、男にもう帰れと告げる鐘が険しげに鳴れとは誰に頼まれたのか。それも、恨

むも昔であって、今は鳴るとも響こうとも、ままよおのれが尾上の松、鐘の供養に参るのであろ

う。



ある中でも宮仕え程辛い物はなく、主に売ったる身と思えば昼は日がな一日手足が乾く隙もなく、

働けば働く程に休めとは言わずに、誉めそやされてあの女子(おなご)は律義者(りちぎもの)で達者

で、心のまめな豆者よと煽(おだ)てられて、豆腐売りが通るぞ、そりゃ夕飯を、ようように仕舞っ

て洗足すれば、はや入相(夕暮れ)の鐘が鳴り、鉄漿(おはぐろ)を付ける隙があればよいが小隅によ

って眠ろうとすると夜食を作れと言う。夕飯からまだ間もないとは思うのだが、主人と病には勝て



 擂り鉢に当てるすりこぎの太さは太くても、恰好だけは男の陽物に似ていて、人に物を思わせて

見掛け倒しだと投げ出せば、それが当たって掛け灯台の土器(かわらけ)が欠け、主人は元の方が益

しだ。先の季(前の出代わり)から夜深に起きて今宵も月を見れば八ッ(午前二時頃)だが、夜中の鐘

は鳴らないのか、憎い、辛い、腹が立つ、鳴らない鐘ならば割れてしまえ、砕けて散れ。と、鐘を

憎まない夜半(よわ)もない。

 それさえあるのに暁は、まちっと寝ようと思う間に阿呆鴉めががあがあは、何時知らずで烏羽玉

のまだ夜深いと思っている間に、耳に突き抜く夜明けの鐘、是は寝る間もないと、あら、憎い、憎

いとむくろ腹(むかっぱら)、むくむく起きに鐘の鳴る報を睨みつけて、敵のように怒りをなして、

早いにつけ遅いにつけ、鐘を疎んだ其の罪は五逆罪にも勝るであろうよ。

 聞けば、この尾上の浜に有難い突き鐘が現れて、唐土(もろこし)の尊い聖が供養なされたと聞き

及んでいる。

 私も鐘の供養に参ろうと思い候。月は程なく入り潮の、月は程なく入り潮の、烟のように霞んで

寄せて来る沖の波が美しく見える小松原、木陰を漏れる初雪が積もってまだらになっている。

 その残雪よりも重い着古した木綿の着物、その褄ではないが、夫をも持たずに甲斐のない命、何

時までかこの状態で生きながらえるのか、長々しい山鳥の尾ならぬ、尾上の松にぞ着いたのだ。

 供養の場(にわ)には垣を結い渡して、御簾と屏風、幕の内側では人の気配がする。

 まだ早かったと悦んで、簀戸(すど、竹などで編んだ戸)に入ろうとすると、折からさよ姫が出合

わせて、これこれ今日の供養には女の参詣は禁制でこそ候。あら、無沙汰(不注意な)僧達よ。そこ

を退きなされと押し出して、編戸(簀戸と同じ)をはたと押し立てた。

 いや、なう、鐘の供養に参ったのじゃ、女だからと言ってな厭いなさるな。よし、禁制ならば禁

制でありましょうが、そう言う御身も女ではありませんか。

 いや、みずからはこの内に夫を持っているので苦しからず。外の女は叶わないのですと言う。

 何、この内に夫が有ると。坊主が女房を持つとは勿体なや、信心も冷めたけれども女が女に言い

負けてすごすごとは戻れれない。是非にも中に入って聴聞致そうと、我づくになれば相手はなお入

れまいと阻止し、片方は入ろうとする。入野の鹿垣も揺らぐばかりの押し合いになった。

 藤太入道が走り出て、人が見ているぞとさよ姫を幕の内にと入れたのだ。

 これ、申し、法師様、御秘蔵様を見ましたが美しさは何とも詞に出来ません。女同士さえ気の毒

な。あんなおか様を持ちながら、あったら御身を墨染に惜しい事ですねと仰せける。

 あら、忌々しい、大道心の清僧が妻を具してよいものか。愚僧の朋輩の妻であるぞ。と言ったと

ころ、さては朋輩様の連れ合いでしたか、仕合せそうで羨ましい。我らは常の俗よりもただ坊様が

愛しくて、あはれ、一期の思い出に頭の丸い坊様を愛しがり、愛しがられたい。そいて私は情が深

いのですよ、こうした供養の所へも頭の丸い御人が何でもなく入らせて下さいます。と、唆しては

気を持たせる。

 藤太も上手に仕掛けられて、待ちなさいよ、談合して来ようと走り入って、これ、五位の介よ、

某(それがし)が在俗の思い者が参ったのだ。一人などは苦しからじ。聴聞させてくれないか。

 いや、一人が、二人、三人たりとも、それは苦しくはないけれども沙門の思い者とは、破戒の僧

よと申しける。

 むむ、然らば御分(ごぶん)のさよ姫は何とする、これはひが事、某は敵の為に衣をこそ着ている

が頭巾の下まで剃りはせぬ。我は頭を剃り、反橋の板橋ではないが、痛わしや、見ず知らず、聞か

ぬ、顔をば咎めないと簀戸を開いて通したのだ。

 互いに見たことが有るだろうか、面影のそれかと、夫は忍ぶ草、女房の方は私はどうして忘れた

り致しましょうの忘れ草。比翼の鵲(かささぎ)ではないが、五位の介をと見つけてからこれはと泣

いて抱き付き、振り放されてかっぱと伏し、寝ながらも裾をしっかりと取り、逃げようとして引い

て廻るのだが、離さずまろび、引き摺られ、声をはかり(限り)の叫び泣き。目も当てられぬいたわ

しさ。

 思いがけない五位の介は、是狂人め、武士の妻とも有るべき身で見苦しい振る舞い。諸人の見る

目もあることだぞ、見苦しい、見苦しい、帰れ、帰れと言えば、女房は涙に咽びながら、ええ、見

苦しいとはそなたのことよ。人にこそよれ、五位の介、諸岩と言われた弓取りが偽りを言って今も

よくも人らしく女房に顔が向けられますね。御身が流人となり嶋にての苦労の程は雁の翼の文毎に

聞きましたが私の力では貢ぐ方法がないので、なう、悔しや、唐土にはあったでしょうか、日本で

はまだ例のない傾城と言う物にだまし売られて、室の津の室君と言われたのを、わが身の事とは知

り給わないでしょう。よしや因果の仮の業、夫の名をも我が名をも穢さじ、捨てじ、汚さじと、そ

もや勤めの始めから、相手の男は何千何百やら、数も限りも知らない、その白露の下紐を解いたこ

とはない。されども働きが悪いとも、床のあしらいが悪いとも浮き名(悪い噂)を立てずに一日も客

を落とさない辛抱は皆誰の為でしょう。

 それのみか、着衣装腰の廻りまであれをがな、我が夫にこれをも嶋の我が夫(つま)にと、他人の

衣類を見るのもよくない事をする元になって、盗みをしないというだけで盗み同然の事までして求

め出して、雁の翼が重くなるまでに送った物は数が知れない。

 されども色にも出だされず、寝た間ばかりを我が物と体を楽にして自由に嘆くのが楽しみであ

り、一度は逢おうと思っていた所に、これこの雁(かりがね)の名残の文、世を見限って自害して今

日死ぬるとの文章を見てからは、はっと気も落ちて昼も涙、夜にも涙、起き臥し、立ち居、行き戻

り涙も枯れて(衰え果てて)、里の住居を追い出され、伴う者は雁の鳥類ながら伴泣きに泣き、死ん

でしまったこの羽も、夫婦の仲の形見ぞと持ちし片羽は思い羽の、片羽はよそにもじり羽の(ねじ

れた羽、夫が他の女に心を向ける意)鳥類程の根性をせめて持っても見よかしと、小柄(こつか)

を取って引きほどき、叩きつけ、喰いついた歯茎の血汐、血の涙、墨の衣も染めたのだった。

 五位の介は持て扱い、発心の身になったので、仏の真似をする出家ではない。仏心から血を流さ

せる罪人め、ここを放せと突きのけた。

 何仏でしょう、心の多い仏様、躾をしましょうと抱き付く。

 ええ、にっくい女め、夫に恥を与えるのか。と、したたかに取って投げて、腰も折れよと踏みつ

けて溜息を吐いていたのだった。

 女房はむっくと起き上がり、霰のようなる涙を流し、歯噛みをなして、以前の女よ、それにて聞

け。幾夜か我に仇臥(あだぶし)の憂き目をかけて我が夫の、肌を(はだえ)を荒らす木枯らしの森の

木の葉の枯れるではないが、離れ離れになったのは己が原因だぞ。女であるならばここへ出て来

い。逃げ隠れても二世三世、五生七生、この恨みは尽きないだろう。尽きないし、晴れないし、忘

れない、止まないぞ。と、舌早に泣き、怒り、恨み、侘び、色ある顔(かんばせ)たちまちに目尻目

頭、肉(しし)落ちて涙は滝の如くである。

 諸岩は声を荒げて、畢竟おのれは傾城であるから、飽きた時には懇ろを切る。挨拶を切ったが何

とする。と言えば、いやいやいやいや、御身と我は何時傾城で何処で逢ったか。幼馴染の夫婦では

ないか。夫婦に向かって懇ろの、いや、挨拶を切るとは、むむ、さては夫婦に極まったな。

 おお、事新しい、御身は夫で我は妻。

 むむ、面白し、面白し。気に入らない女房に夫が去るのに言い分などはないぞ。点を打つ(非難

する、そしる)人もない。さあ、夫婦であれば夫が去る。

 むむ、何と我を離縁する。おお、去る、去る、去ろうよ。

 去るほどに、去るほどに、尾上の鐘は突くもの。月が落ちて鳥が啼き、霜や雪が天に満ちて、潮

は間もなくこの浦浪の江村の漁家の愁いに対して人々が眠れば善き隙ぞと、立ち舞うようにして突

かんとしたが、思えば鐘でさえ恨めしいと、竜頭(りゅうず、鐘を釣るために頭部に付けた龍形を

したもの)に手をかけて飛ぶかと見えていたが、引き担いで失せてしまった。

 鐘が落ちたその響きが天地も崩れる程の大きさで、豊国国師の御弟子達が驚き騒ぎ、何事やらん

と尋ね候えば人々は包む術もなく有りの儘に申したのだ。

 国師がお聞きなされて、言語同断、斯様の事を思ってこそ女人禁制とは申したのですよ。総じて

鐘の供養に女人を戒めた因縁はそも、天地がまだ開けていない昔に、東北の隅に当たって悪風を吐

く虎がいた。その名を廣野虎と名付けた。この虎は昼の午(うま)の刻から亥の刻まで悪風を噴き出

して人の生気を奪う悪虎であった。又、西南の隅に飢渇申(きかつしん)と言う猿がいて、子の刻か

ら巳の刻まで毒気を吹きかけて人生を絶った。

 仏は是を悲しみなされて、鐘の響きで虎と猿の悪魔を抑える目的で、その時々の鐘の数を午(う

ま)に九ッ未(ひつじ)に八ッ、申(さる)酉(とり)戌(いぬ)に七六五、亥(ゐ)の刻までに四ッ突けばい

づれも寅に当たったのだ。夜半の子(ね)から九つめ申(さる)当たって丑寅卯(うしとらう)、辰巳(た

つみ)の刻に至るまで、八ッ七ッ六ッ五つ。是も四ッの時の数いずれも申に当たる。

 故を以て寅申二つの悪魔障の響きに恐れて障礙をなす事能わず、かるがゆえにかの魔王は世界の

鐘を絶やそうとして供養の場(にわ)には女人と變化(へんげ)が立ち入って焔を降らし、火焔を吹き

かけて釣り鐘を奪い失うと伝えたる。ばんぼう恐ろしい事ではないかと語り給えば人々は身の毛を

立ててぞ恐れたのだ。

 国師が重ねての給うには、是はそれには引き換えて恋慕の恨み、執着の一念、かくては後生も浮

かび難し、法師の多年の修業もか様の時の為ぞかし。涯分(がいぶん、随分、出来るだけ)祈ってか

の女人をも救い、鐘を鐘楼に上げるべきだ。と、五大明王五龍神の秘法を行い給いける。

 山が尽きて、波に入り、海かえって高砂の真砂の数は尽きるとも仏の誓願は尽きることはない

と、皆一同に声を挙げて東方に降三世明王、南方に軍荼利夜叉明王、北方に金剛夜叉明王を中央

に、大日大聖不動、なまく三曼陀口へんの縛曰羅赧。旋多摩訶口へんの魯遮那、娑婆多耶吽多羅吒

干まん、聴我説者得大智慧、知我心者即身成佛と、誠の道に導く上は何の恨みか、有明の撞き鐘こ

そしは、すはすはと動くぞ祈れただ、すはすは動くぞ祈れ。ただ、引けや、てん手に千手の陀羅尼

(だらに)、不動の慈救(しく)の偈、明王の火焔、黒煙を立ててぞ祈りける。

 祈り、祈られ撞かねどもこの鐘が響き出て、引かなくともこの鐘が躍るとぞ見える。程もなく鐘

楼を引き上げたのだ。あれ見よ、蛇体が現れたのだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2025年06月17日 20時55分04秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: