草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年09月11日
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第  四

 唐土の便り今やと待つ、それではないが、松浦潟、小むつが宿の明け暮れは唐の姫宮相住みを、

あたり隣も浮き名立て、唐と日本のしおざかい、ちくら者かと疑えり。 夫も今は国性爺と名を改

め数万騎の大将軍と聞くからに、我も心の勇み有り。若衆出立に様を替えて撫でつけ鬢(びん)のお

おたぶさ、翡翠の大づと(大きなたぼ。後ろに大きく張り出した髪)ふっさりと禰宜の息子か、膏

薬売りか、女とはよもや見えない、水浅黄の股引を引き締めて、羽織を着て、朱鞘木刀(きかたな)

真紅の下げ緒、花の口紅、雪の白粉、菅笠深くはぎ高く、足元軽い濵千鳥、浜辺伝いを日参の印を

待つ、松浦の住吉や、神前にこそ着きにけり。

 充満御願と祈誓をかけ手を合わせると見えけるが、ひらりと抜いたる居合の早業、神木の松を相



太刀捌き、かげろう・稲妻・獅子奮迅、足取り(足の運び)、手の内(手の業)、四寸八寸身の開き

(きわどい所で身を躱す事)、踏み込んで打つ入り身(相手の手元に入り込むこと)の木刀、枯木の松

片枝をずっぱと切って落としたのは、今牛若とも言ってよい。

 いつの間にかは栴檀女、森の影から走り出て、なうなう、小むつ殿、毎日毎日、時を違えず変わ

った風俗、今日と言う今日は跡を慕って見つけましたが、誰に習ってこの兵法(ひょうほう)、器用

なことやとの給えば、いや、師匠はなけれど夫の打ち太刀(太刀打ち)、習おうより慣れようとの事

唐土の便り心もとなく、御迎えの船は参らずともお供して渡ろうと、この明神に吉凶を祈り候えば

これ見賜え、木刀にてこの松の木が真剣の如くに斬れたのは、神が納受のしるしと申し、商い船の

便船時節も良く候と申し上げれば、それは嬉しい、頼もしい、片時(へんし)も早く戻してたべと、

御悦びは浅からず。

 御心安く思召せ、総じてこの住吉と申すは舟路を守る御神であり、神功皇后と申す帝が新羅(し



 昔唐土の白楽天と言う人が日本の智恵をはかろうとこの秋津洲(あきつす)に渡り給い、目前の景

色を取り敢えず青苔衣を帯びて岩ほの肩にかかり、白雲帯に似て山の腰を廻ると詠じ給えば大明神

が賤しい釣りの翁と現じて、一首の歌の御答、苔衣、着たる岩ほはさもなくて、きぬきぬ山の帯を

するかな。と、詠じ給いし御歌で、ぎっと詰まって楽天は此処から本土に帰ったとか。

 国を守りの御神のその歌は、苔衣わが身にうけて旅衣いざとて二人は、打ち連れて舟路はるけく



          栴檀女 道 行

 唐子髷(からこわげ)には薩摩櫛、島田髷(しまだわげ)には唐櫛(とうぐし)と、大和もろこし打ち

混ぜてさしもならわぬ旅立ちや。

 船と陸(くが)とで行く道は笠捨てられず、懐(ふろころ)に枕を畳む、夢畳む、千里を胸に叩き込

む。女心の強弓も男ゆえにこそ、引かれていく。

 我は古郷を出る旅、君は古郷に戻る旅、双葉に見せて栴檀女、小むつがいさめを力にして大明国

へと思い立つ、心の内こそ遥かなれ。

 親と夫を持っている身は何か歎きは有るだろうが、有明の月さえ同じ月ではあるが、なう、二人

見慣れし閨の中、名残は数々多くある。

 大村の浦の浜風、ひと村雨はさらさらと晴れても晴れぬ我が涙、袖に包んで袂で拭う。鏡の宮に

影とめて泣かぬ人とや見るそれではないが、見る目の浦、振りさけ見れば久方の日も行く末の空遠

く、帰るさ何時ぞ、天津鴈さそえやさそえ、わが夫(つま)も二十五筋の琴の糸、結び契りし年の

数、いざ、すがかきて(謳わずに琴や三味線を掻き鳴らすこと)、箱崎の松ならぬ待つと聞くならば

我も急ごう。磯べ伝いに寄り藻掻く海士の子供が打ち連れて、はじき石なご、又ちょうか半、三つ

四つ五つ数えては、幼な遊びも睦まじく、七瀬の淀を行く水も、昔の影やかくれんぼ、鬼の来ぬ間

と歌ったのも、濡れて乾かない旅衣、もろこし船を待つ、松浦(まつら)川、湊も近い、千賀の浦風

に、そなたの潟を見給えば、磯に手ぐりのくりや川波にゆらるる釣り舟に、びんずら(みづら、古

代の男子の髪の結い方、髪を真ん中から左右に分けて両耳の辺で束ねる。後には主として少年の髪

の結い方となる)を結った童子一人、網は降ろさないで釣り竿の糸と言う糸を睨んで見ている。

 なうなう、おちご、我々は唐土へ渡る者だが程よい所まで乗せてくれないかと声を掛けた。

 あら、何でもない事、一人は唐土人、一人は筑紫人、女性の身にして唐土に渡るとは恋しき人が

居るのであろう。二千里の外(ほか)古人の心、三五夜中ではないけれども影を漏らさぬ月の船、と

くとく召され候えとはや、指し寄せる水馴(みな)れ竿、不思議の縁と打ち乗りて焦がれて、漕がれ

行く、行方も知らず白波の、凪てのどけき波の面、続いて見える八十嶋を異国の人の家ヅと(土

産、土産話)に教えてはくれないかと頼めば、童子は舟端に立ち上がり、海原はるかに指さして、

いかに旅人、聞き給え。

 先ずあれに続くのは、鬼界十二の嶋、五嶋七嶋中でもあの白い鳥が多く群れているのは白石が

嶋、こなたにけふりの立つ登るのは硫黄が嶋、さて又、南に高く霞がかかっているのは千鳥の嶋で

ある。あれはいにしえに天照る神が住吉の明神に笛を吹かせて舞曲を奏して二神(ふたかみ)が遊び

給いし所だと言うので、二神嶋と申すのだ。

 唐土人ぞと語るのだ。語る間に敷島のはや秋津洲(あきつす)の地を離れ、それより先の嶋々の、

嶋かと見れば雲の峰、山かと見れば空の海、風はなけれどあま小舟、天の島、舟岩、舟の空を走り

往く如くにて山なき西に山が見える。月に先立ち、日に連れて、日の本い出し秋風も立も変わらず

そのままの、まだ秋風に鱸(すずき)釣る松江(ずんこう)の湊に着きにけり。

 人々船より上がり給い、誠におちごが御情座(畳の上を行く)したるようなる船の中、かかる波涛

を時の間に渡し給える御方はいかなる人にてあるやらん。

 人がましやな名もなき者、我日の本に昔より住み慣れたれば住吉の、大海童子と申す者、暇申し

てこのわっぱは住吉に立ち帰り、帰朝を待ち申さんと言う、夕凪の水際なる海人の小舟を漕ぎ戻し

追い風に任せつつ沖の方に出たのだった。沖の方へと出たのだった。

 伝え聞く、陶朱公(范蠡の別名)は句践を伴い、会稽山に籠りいて、種々の知略を巡らして遂に呉

王を亡ぼし句践の本意を達したとか。昔を問えば遠き世のためしも呉三桂が今身の上に知った、白

雲の、山より山に身を隠して太子を育て奉る。

 移れば変わる苔むしろ(山住まい。苔をむしろとしてその上に寝る)、宮前の楊柳・寺前の花、

峰の枯木に立ち替わり、夕べの霧の間には、わが身を以て褥(しとね)として、鸞與属車(らんよし

ょくしゃ、天子の乗り物とそれに従う車)の輦(てぐるま)も蔦の錦に織り替えて、朝(あした)の露

の辺(ほとり)には谷の猿(ましら)の潟に駕(が)し、早や二歳(ふたとせ)は昨日今日、明けるのも

山、暮れるのも山、我が名も君が顔ばせも人目を包む雲水


に、虹の架け橋途絶えして、深山烏や鵼

子鳥、梢に来鳴く鸚鵡さえ、昔をまねぶ声はない。

 水遠くして山長く、根ざさ・茅原・槇(まき)・檜原、峨々と聳える崔嵬(再会)の山路に疲れ行く

末は名にのみ聞きし興花府(こかふ)の九仙山によじのぼり、しばし佇む松風も、馴れてや友と住み

慣れし。

 龐眉(ほうび、大きな眉)白髪の老翁(ろうおう)二人、石上に碁盤を据え、黒白二つの石の数、三

百六十一目に離々たる馬目、連々たる鴈行、脇目もふらぬ碁の勝負。心はささがきの空にかかれる

糸に似て、身は空蝉の枯れ枝となり、浮世を離れて手談のわざ、中間禅の高臺かと太子を石段に移

し参らせて、枯木の株に頤をもたせ、見とれる我も諸共に余念の塵をや払うであろう。

 呉三桂は興に乗じて、なうなう、老人に物を申さん。市中は離れての座隠の遊び、面白し。さり

ながら、琴詩酒の三つの友を離れ碁を打って勝負を諍い給う事、別に楽しむ所ばし候か。

 翁はさして答えもせずに、碁盤と見る目は碁盤であり、碁石と見る目は碁石である。

 大地世界を以て一面の碁盤なすと言える本文がある。心上の須弥山これに有り。大明一国の山河

草木今此処からみると、などか曇るであろう。ひと隅に九十目、四方に四季の九十日、合わせて三

百六十目、一目に一日を送ると知らぬ愚かさよ。

 面白し、面白し。天地一躰の楽しみに二人が向かうとは何事ぞ。陰陽の二つがあらざれば、萬物

整う事はない。

 勝負はさて、如何に。人間の吉凶は時の運にあらずや。さて、白黒に夜と昼、手談はいかに、軍

(いくさ)の法、切って押さえて撥ねかけて、軍は花の乱れ碁や。飛び交う烏、群れいる鷺と譬えた

のも白き、黒きに夜昼も分からずに昔の斧の柄もおのずからとや朽ちぬべし。

 翁が重ねてのたまわく、今日本より国性爺と言う勇将が渡って大明の味方となり、ただ今軍の

真っ最中、これよりその間は遥かであるが、一心の碁情眼力でありありと合戦の有様目前に見せる

べしと、の給う声も山風も、碁石の石にぞ響いたのだ。

 呉三桂ははっと心づき、げにげに、此処は九仙山、この九仙山と申すのは、四百余州を目の下に

見て、峰もかすかにおぼろ、おぼろと、雲かと見れば一霞、麓に落ちる春風の風のまにまに吹き晴

らす。

 空は弥生の半ばであり、柳桜をこきまぜて、錦に包む城郭のありありとこそ見えたのだ。





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最終更新日  2025年09月11日 19時46分48秒
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