草加の爺の親世代へ対するボヤキ

草加の爺の親世代へ対するボヤキ

PR

プロフィール

草加の爺(じじ)

草加の爺(じじ)

サイド自由欄

カレンダー

フリーページ

2025年09月09日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
甘輝は飛びし去って、おお、御不審は御尤も。全く某無法にあらず、狂気にも候わず、昨日、韃靼

王より某を召し、この頃日本より和藤内と言うえせ者(くだらぬ者)、小乏下劣(小乏下劣)の身をも

って智謀軍術たくましく、韃靼王を傾け大明の世に翻さんとこの土に渡る。 彼の討っ手は誰なら

んと数千人の諸侯の中からこの甘輝を選り出され参議将軍の官に任じ、十万騎の大将を給わった。 

和藤内をわが妻の兄弟と今きくまでは夢にも知らず、きゃつ日本に伝え聞く楠とやんらが肝胆を出

で(智謀の奥義を悟り)、朝比奈・弁慶とやんらが勇力有りとも、我はまた孔明の腸(はらわた)に分

け入り、樊噲・項羽の骨髄を借って一戦に追って追いまくり、和藤内の月代首をひっさげて来たら

んと広言吐きし某が一太刀も合わせずに矢の一本も放たずに、ぬくぬくと味方すれば、五常軍甘輝

が日本の武勇に聞きおぢするものでなし、女にほだされ縁にひかれて腰が抜けて弓矢の義を忘れた



し。恩愛不憫の妻を害して、女の縁に引かれない義信の二字を額に当て、さっぱりと味方せん為

に、やい、錦祥女、とどめる母の詞には慈悲心が籠る、殺す夫の剣の先には忠孝がこもる。 親の

慈悲と忠孝に命を棄てよ女房と理非を飾らない勇士の言葉、おお、聞き分けた、身に叶った忠孝、

親に貰ったこの体、孝行の為に捨てるのは惜しいとも思わない。と、母を押しのけてつっと寄り胸

を押し開ければ引き寄せて、見るも危うい氷の刃、なう、悲しやとかけ隔て、押し分けようにも詮

方なく、退けようとするが手は叶わず、娘の袖に喰いついて引き除ければ夫が寄る。 夫の袖を咥

えて引けば、娘は死なんと又立ち寄る。それを又口にくわえて唐猫が塒(ねぐら)を替える如くに

て、母は眼もくれ、身も疲れ、わっとばかりにどうと臥し、前後不覚に見えたので、錦祥女が縋り

付き、一生に親知らず、終に一度の孝行なく、何で恩を送ろうぞ。 死なせてたべ、母上と口説き

歎けばわっと泣き、なう、悲しい事を言う人や、殊に御身は娑婆と冥途に親三人、残り二人の父母

は産み落とした大恩あり。 中にひとりのこの母は、哀れ見かけず恩もなく、うたてや継母の名は



に殺したと、わが身の恥ばかりではない、遍く口々に日本人は邪見なりと国のなを引き出すのはわ

が日本の恥ぞかし。 唐を照らす日影も日本を照らす日影も、光に二つはないけれども、日の本と

は日の始め、仁義・五常(仁義礼智信)情けが有る。 慈悲もっぱらの神國に生を請けたるこの母

が、娘殺すのを見物して、そも生きておられようか。願わくばこの縄が日本の神々のしめ縄と顕

れ、我を殺し、かばねは異国に晒すとも、魂は日本に道引き給えと声を挙げ、道も有り、情けも有



涙に暮れていたが、ややあって甘輝は席を打って、はっあ、是非もなし、力なし。母の承引が無い

上は、今日よりは和藤内とは敵対、老母はこれに留め置いて、人質と思われるのも本意(ほい)では

ない。輿車を用意して所を尋ねて送り返し参らせよ。 いや、送るまでもなく、この遣り水より黄

河までよき便りには白粉を流し、叶わぬ知らせは紅粉を流す約束で、迎いにおいでが有る筈。 い

で、紅粉を解いて流そうと、常の一間に入ったのだ。 母は思いに掻き暮れて、思うに違う世の中

を立ち帰って、夫や子に何と語り聞かせたらよいか。と、思い遣る方無く涙の色、紅より先の唐

錦、錦祥女はその隙に瑠璃の鉢に紅粉を溶き入れ、これぞ親と子が渡らぬ錦中絶えて、名残は今ぞ

と言う、夕波の泉水にさらさらさらと、落ち瀧津瀬の紅葉はと浮世の秋を堰下し、共に染めたるう

たかたも、紅くぐる遣り水の落ちて黄河の流れの末、和藤内は岸頭に蓑打ち被き座を占めて、赤白

二つの川水に心をつけて見守る川面、南無三宝、紅粉が流れる。 さては望みは叶わないか。味方

もせぬ甘輝に母は預けて置かれぬ。踏み出す足の早瀬川、流れを止めて行く先の堀を乗り越え、塀

を飛び越え、籬・透い垣踏み破り、甘輝の城の奥の庭、泉水にこそ着いたのだ。 まずは母は安

穏、跳び上がり、戒めの縄を引きちぎって、甘輝の前に立ちはだかって、五常軍甘輝と言う髭唐人

はわぬしよな、天にも地にもたったひとりの母に縄をかけたのは、おのれをおのれと奉って味方に

頼もうと思ったからで、もってうすれば方図もない、味方にならないのはこの大将が不足であるの

か。第一、女房の縁と言い、そっちから願うはずだ。 さあ、日本無双の和藤内が直付けに頼む

ぞ、返答せよ。柄に手を掛けて突っ立ったり。 おお、女房の縁と言えば猶の事ならぬわ。御辺が

日本無双であるならば、我は唐土に希代の甘輝である。女にほだされて味方する勇士にあらず。女

房を去る所もない。病死するまでべんべんとも待たれまい。追い風次第に早く帰れ。但し、置き土

産に首が置いていきたいか。 いやさ、日本への土産に貴様の首をと、両者が抜かんとする所を錦

祥女が声を掛けて、ああ、ああ、これなあ、なあ、病死を待つまでも無し。ただ今流した紅の水上

を見給えと衣装の胸を押し開けば九寸五分の懐剣、乳の下から肝先まで横に縫って刺し通し、朱に

染みたるその有様、母はこれはとばかりにて、かっぱと臥して正体無し。 和藤内も動顛し、覚悟

をきわめし夫でさえ、そぞろに驚くばかりである。 錦祥女は苦し気に、母上は日本の国の恥を思

召し、殺すまいとなされるけれども、我が命を惜しんで親兄弟をみつがずば(助けなければ)唐土の

恥、こうなった上は女に心ひかされたとのひとの謗りはよもあるまじ。 なう、甘輝殿、親兄弟の

味方して、力ともなってたべ。父にもかくと告げてたべ。もう物を言わせて下さるな。苦しいわい

のとばかりで、消え消えにこそなったのだ。 甘輝は涙を押し隠して、おお、でかいた、でかい

た、自害を無にはさせないぞと和藤内の前に頭を下げて、某先祖は明朝の臣下、進んで味方申すべ

きであったが、女の縁に迷ったと俗難を憚っていたのだが、我妻がただ今死を以て義を勧める上

は、心清く御味方いたす。また貴殿をば大将軍と仰ぎ、諸侯王になぞらえて御名を改め、延平王国

性爺鄭成功と号し、装束召させ奉らんと武運が開けるそれではないが、唐櫃の蓋の二重の錦、羅陵

の袂、緋の装束、章甫(しょうほ)の冠、花紋の沓(くつ)、珊瑚琥珀の石の帯、莫邪の剣、金

(こがね)を磨き蓋(きぬかさ)をさっとさしかければ、十万余騎の軍兵ども、憧(どう)のは

た、幡(ばん)のはた、吹き抜き、盾鉾・弓鉄砲、鎧の袖を連ねたのは、会稽山に越王が再び出で

たる如くである。 母は大声、高笑い、ああ、嬉しや、本望や。あれを見や、錦祥女、御身が命を

捨てたので親子の本望を達しましたよ。親子と思えど天下の本望、この剣は九寸五分なれども四百

余州を治める自害、この上に母が長らえては始めの言葉が虚言となり、再び日本の国の恥を引き起

こすと、娘の剣を押っ取ってのんどにがばと突き立てた。 人々がこれはと立ち騒げば、ああ、寄

るまい、寄るまい。と、はったと睨み、なあ、甘輝、国性爺、母や娘の最期を必ず歎くな悲しむ

な、韃靼王は面々の母の敵、妻の敵、と思えば討つのに力が増す。 気をたるませぬ母の慈悲、こ

の遺言を忘れるな。父の一官がおわするので親には事を欠かないぞ。母は死して諫めをなし、父は

長らえて教訓をなすので、世に不足なき大将軍、浮世の思い出これまでと、肝の束ねを人抉り、切

りさばき、さて、錦祥女、この世に心残らないか。 何しに心残らんと言えども残る夫婦の名残、

親子は手を取り引き寄せて、国性爺の出立を見上げ見下ろし嬉し気に笑顔を娑婆の形見として一度

に息は絶えたのだ。 鬼を欺く國性爺龍虎と勇む五常軍、涙で眼(まなこ)は眩めども、母の遺言に

背くまい、妻の心を破るまいと国性爺は甘輝を恥じ、甘輝は又国性爺に恥じて、萎れる顔隠す。 

なきがらおさめる道にべに、出陣の門出だと生死二つをひと道に、母の遺言、釈迦に経。父の庭

訓、鬼に金棒、討てば勝ち、攻めれば取る末代、不思議の智仁の勇士。玉ある淵は岸破れず。龍住

む池は水涸れず。 かかる勇者が出生する国々たり、君々たり。 日本の麒麟はこれであるぞと、

異国に武徳を照らしたのだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2025年09月09日 19時15分28秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: