第3話 感じよくやれば、それでいい
休憩中、新人が缶コーヒーを飲みながら言った。
「毎回、感じよく接するのって難しくないですか?」
「難しい日もあるな」
「先輩でも、機嫌が悪い日はあります?」
「あるよ。
人間だからな」
「でも、お客さんには見せないんですよね?」
「なるべくな」
新人は、少し納得できない顔をした。
「それって、無理に愛想よくしてるだけじゃないですか?」
「それでいいんだよ」
「表面的でもいいんですか?」
「いいよ」
秋雄は、残っていたコーヒーを飲み干した。
「心の底から感じのいい人になる必要はない。
お客さんが乗っている間、感じよくやればいい」
「なんだか、嘘をついてるみたいです」
「お客さんに、自分の内面を披露する仕事じゃないからな」
「内面を披露する仕事じゃない……」
「疲れていても、最初に挨拶する。
聞かれたことには穏やかに答える。
乱暴な運転をしない。
降りる時まで態度を崩さない」
「それが接客ですか?」
「接客だよ」
秋雄は、空になった缶をゴミ箱へ入れた。
「お客さんだって、運転手に心から好かれたいわけじゃない」
「そうなんですか?」
「嫌な思いをせず、安全に目的地へ着きたいんだよ」
新人は、自分の缶コーヒーを見つめた。
「じゃあ、無理に面白い話をしなくてもいい?」
「頼まれてもいない自分語りもしなくていい」
「黙っていてもいい?」
「感じよく黙っていればな」
新人が笑った。
「それなら、僕にもできそうです」
「機嫌は自分の荷物だ。
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