2014.07.24
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 子は親の背中を見て育ちます。
 そして親をヒーローに見たてます。
 自分が知る大人が親だけなら、子供の期待は膨らむばかりです。

 「父さん、カッコイイ!」

 そう子供に言われると、父親は子供の前ではカッコよくありたいと思うわけですが、残念ながら大人の世界には力関係という面倒くさいものが存在します。
 権力に屈する父を目のあたりにしているうちに、父の完璧なイメージが音を立てて崩れていくわけですね。


 みなさんにも似たような経験はありませんか?

 絶対的な信頼を傾けていた両親を、物心ついたときから小バカにするようになったり。
 成長するにつれて体格が逆転して、小さくなった両親が無力に思えてきたり。


 今回は、まさにそんな親子のなれの果てがうまく表現されている映画、『ペレ』[1987年]をご紹介します。



わかりやすいあらすじ


 ときは 19 世紀。
 職を求め、デンマークに移民してきたスウェーデン人親子。
 親子とはいっても、父親は高齢、子は小学生くらいの組み合わせ。
 デンマークでは物価が激安で、ちょいと仕事すりゃ家なんぞすぐ建つさ、と夢語りを始める父親。

 ところがどっこい、デンマークに着くやいなや親子は奴隷のように品定めされ、農夫として働くことに。
 そこからド貧乏生活のスタート。

 絶対に超えられない貧富格差の壁。
 それでもいつかはこの貧乏生活から抜け出してみせると息まく父親。

 ある嵐の日、息子を家にかくまってくれた中年女性。
 夫は海に出たきり、長いこと戻ってきてないという。


 千載一遇のチャンス到来!
 夫の長期不在の寂しさから、夫人は心も身体もスキだらけ。
 欲求不満の夫人を仕留められれば、俺たちはきっと幸せになれる。

 さて父親はこのチャンスを活かしきれるのか?
 そしてこの親子は貧乏暮らしから抜け出せるのか?

みどころ




 親子は牛舎に寝泊まりしているため、映像の中でもハエが元気に飛びまわっています。
 父親は牛舎でウ〇コして、その手で握手しちゃいます(もちろん、そういう生活ぶりを表現するための意図的な演出ですが)。
 登場人物のほとんどが顔も服も汚れていますので、服の汚れぐあいで生活レベルがわかるようになっています。
 観ているだけで鼻の奥にツンとした臭気が漂ってきそうな映像満載ですね。

 全体的な作風として、ロバート・デニーロとジェラール・ドパルデューのダブルキャストで話題となった五時間長編映画『1900年』[1976]に登場する農村地帯の描写に共通点が多いですね(てんこ盛りの牛フンの中に素足を突っ込むところなんか特に)。

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2. 父ちゃんのうそつき!

 息子は働くには若すぎて、農場をプラプラ。
 それが調教師の目に留まり、チ○コ丸出し状態にされてムチで追いかけまわされます。

 息子のあられもない姿を見かけて、一瞬は助けようという素振りを見せる父親。
 しかし、クビが怖くて結局何もしません。できません。

 息子と二人きりになると、父親はイジめた奴を殺してやると口走ります。
 憎きアイツを殺してくれると聞いて息子は大喜び。

 ところが調教師の前ではペコペコするばかりの父親。
 父ちゃん、カッコ悪すぎです。

3. 格差愛

 農場の女と村の名士の息子。
 厳格な父親に辟易しながらも、息子は農場女と逢瀬を重ね、ついに女が妊娠。
 これが親にバレたら大ごとだと、こっそり産んだ赤子を川に沈めて殺害。

4. 村女は見た!ロリコン領主

 大都会コペンハーゲンからやってきた領夫人の姪。
 領主に父性と憧れを感じていた姪だが、彼はそれを誘惑と勘違い。
 長年冷めきった夫婦生活で飢えた身体を持て余していた領主のことなので、予想どおりの展開に。

 ところが、くたびれた村女がその現場を目撃。
 何と彼女も過去に同じ被害に。

 衝撃の事実を知り、怒り狂う領夫人。
 彼女がどうしたかは、観てからのお楽しみということにしましょう^^。

どうでもいいトリビアとプチネタばれ


1. 息子ペレ

 主人公ペレを演じたのはペレ・ヴェネゴー。
 彼の名は、映画の原作小説『勝利者(征服者)ペレ(Pelle Erobreren)』から名付けられたという、まさかの狙い撃ち。

 現在は良い年こいたヲッサンですが、テレビドラマで結構濃厚なゲイカップルを演じているのを見てビビりました。
 ちなみに、ドラマではフィットネスクラブのオーナー役(最初は異性愛者だった)を演じており、そこの会員になったゲイの医者の男と恋に落ちて結婚まで行きます。

 子供の頃は金髪だったのですが、現在は黒髪ですね。


2. 懺悔とペレ

 農場女が産んだ赤子を殺したのは俺だと自白した名士の息子。
 それを咎めたのがなんとペレ。

「それでも父さんは僕を殺さなかった」

 高齢の父親、生前から病弱だった母親の間に生まれたペレ。
 彼の言葉がすべてを物語っていますね。

 金がたんまりあっても命の価値など考えてもみなかった男が、まさか十歳そこそこの子供に説教されることになるとは。
 命の償いを覚悟した男の散りざまは必見です。



 2 時間 40 分という長編大作、淡々としたストーリ展開でありながら、人間の心に渦巻く闇と絶望感のみごとな描写。
 1988 年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞、ゴールデングローブ賞では外国語映画賞受賞、アカデミー賞では最優秀外国語映画賞を受賞したのも納得の、叙景的な世界観、どう見ても演技には見えない演技力のすばらしさです。

 もうここまでくると映画としての娯楽性というよりは、ひと昔前の田舎のドキュメンタリー映像を観させられているような気になってきますね。
 このように、淡々と映像を見せながら視聴者に何かを感じ取ってもらう試みは、タル・ベーラ監督『ニーチェの馬』[2012] に通じるところがあります。



 この作品も個人的にハマったので、気が向いたときにレビューする予定です。


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最終更新日  2014.07.27 19:19:08


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