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カテゴリ: Book Review
「ハーモニー」(伊藤計劃、ハヤカワ文庫JA)を読む。

先日読んだ​ 「虐殺器官」

舞台となっているのは、核戦争を含む世界的な大混乱<大災禍(ザ・メイルストロム)>後の世界。医療技術の革新的な進歩によってあらゆる病気が駆逐され、基本的に老衰と事故以外で人間が死ぬことはない。ある年齢に達するとWatchMeという医療装置を体にインストールすることで健康状態を常に把握し、異常があればメディモル(家庭用の薬品生成器みたいなもの)が薬を出してくれるし、カウンセリングなどの治療もお節介なほどに受けさせられる。一見、優しさと慈愛に満ちたユートピアなのだが、何故か若年層の自殺率だけが高いという世界。

そんな世界を生きる3人の女子高生が、見せかけだけの優しさに疑問や反発を覚えて自死することを選択。メディモルを不正操作して作った栄養摂取を拒否する薬を口にするも、死ねたのは1人だけ。生き残った1人はその後、WHOの螺旋監察官となるが、今度はそこで世界同時大量自殺事件が発生。そしてその謎を追っていくと、かつて自死したはずの少女の存在が浮かび上がってくる…。

本作のテーマとなっているのは人間の意識とか意志というもの。この世界では自分の体は自分のものではなく社会的なリソースであるという法規だったり空気だったりが存在する。<大災禍>の反省から生命というものを何よりも尊重する。つまり、生命を維持するために徹底的に病気を駆逐し、生命を脅かすものは自傷であれ他傷であれ許されない。そんな禁忌を破って発生した大量自殺。「調和(ハーモニー)」に満ちた社会を作ろうとしたはずなのに、災禍は繰り返されてしまうのだろうか?それともこれを乗り切った先に真の調和的社会があるのか?もしそうならその姿はどんなものか?まぁとにかく深い。

その深い話をサラッと読ませてしまうところも凄い。いろんなところからの引用もそれを可能にしている一因かと。例えば、メイルストロムからしてDQ7の呪文名だし(ってその前にポーの小説のタイトルにもあるが)、冒頭には「涼宮ハルヒ」そっくりな自己紹介の台詞(をかぐや姫に絡めている)、「ナウシカ」の「蒼き衣をまといて金色の野に…」のくだり、盟友・円城塔の「オブ・ザ・ベースボール」の一節、「エヴァ」を思わせる「VOICE ONLY」の表示などなど。

以下、気に入ったところの引用。

「神に見捨てられるなんて、最高にかっこいいと思うけどな」

人間っていうのは、欲望と絶望のあいだで針を極端に振ることしかできない、できそこないのメーターなんだよ。ほどほどができない。鳩にだって意志はあるもの。意志なんて、単に脊椎動物が実装しやすい形質だったから、いまだに脳みそに居座っているだけよ。

それが進歩なのよ、とわたしの裡に住まう御冷ミァハが言う。
人間は進歩すればするほど、死人に近づいていくの。
というより、限りなく死人に近づいてゆくことを進歩と呼ぶのよ。

殺さず殺されるべきか殺して生きるべきか、それが問題だ。





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Last updated  2019.01.20 08:29:30
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