バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ: 書評
見出し:絶対に、これは独り言だ、と思った。

鹿島茂著『乳房とサルトル 関係者以外立ち読み禁止』(光文社知恵の森文庫)

 鹿島茂による、所謂薀蓄本である。この人にかかると、卑近なテーマも、ごく日常的な話題も、素通りは許されない。乳房もハンバーガーも、サルトルの『嘔吐』も、映画『シェーン』もラーメンも、同じ地平で語られる。
 私は常々、「知」ないしインテリジェンスというものは、点としての雑学の多少ではなく、線の張り巡らせ方の柔軟さと、それが描く美しさだと考え、また言い続けてきたが、この一見軽薄そうな(失礼!!)本には、まさにそれがあるのだ。一本の線があれば、点たる雑学や知識(つまり、単体では薀蓄としてしか成立しない事柄)が、意外な広がりへとつながっていく。それを読者として鳥瞰すると、そこにはテーマの身近さを忘れさせる豊穣なタピストリーが織り上げられていることに気付く。
 かといって、難しい本では断じてない。楽しい読み物なのだ。ふたたび、テーマはどれも「たかが」であるが、「されど」な奥行きを宿していることに気付かされる。なるほど、「たかが」な点を、「されど」と線に結ぶ一つのドライブは、「なるほど」で済ますことなく、その先に執拗な「なぜ」を投げかけることであったかと初心に返らせてくれる、一冊であった。
 ところで、私は本書をパラパラとめくりながら、これは絶対に独り言の産物だ、と思った。どんな小さなことや、取るに足らないことにも、「なんでかなぁ」とつい首を突っ込みたくなる人間の、あのぼやき。誰に聞かれるでもなく、ましてや誰かに聞かれていることを意識などしない、独り言。私自身が、まさに独り言が服を着て歩いているような人間なのだから、この直感は間違いないと思っていたら、やはり本文の中で筆者によるそのような言及があった。
 ここで膝を打ちたかったのだが、そうはいかなかった。本書の最後に南伸坊氏による本書の解説が掲載されているが、何のことはない、いまこうして書評として書いてきたことも、あるいは私が「したり!!」と膝を打とうと得心したことも、なんとすべてこの解説に書いてあるのだ。
 一言一句もらすことなく、まるで私が書こうとしていたことを言い当てられたかのように、すべてが先に解説されていた。重ねて言うが、一言一句違わないのだ。かつてこれほどまでに、ぴたりと書きたいことを誰かに代弁してもらった、という経験はない。そういう意味で、解説もまた衝撃的な一冊であった。変な話だが、この本について私が書きたかったことに興味がある向きは、実際に本書を手にとって、まず最初に解説を読まれることをお奨めする。(了)


乳房とサルトル

著作です: 何のために生き、死ぬの?





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Last updated  2008/05/14 04:48:55 PM
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