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カテゴリ: 書評
見出し:選ばれし騎士よ、その手で聖杯を返却せよ。

ローズマリ・サトクリフ著、山本史郎訳『アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉』(原書房)

 ものごとにはすべて器、というものがある。その器が据わるにふさわしい場所がある。そして、器にはふさわしい中身がある。
 器は、それに釣り合わぬ中身を拒絶するし、似つかわしくない場所ではその役割を果たそうとしない。
 聖杯という特別な器と、それにふさわしい中身であるガラハッド卿(それに、パーシヴァル卿とボールス卿)が、これを然るべき“場(物理的にも、象徴的にも)”へと返却する冒険、それが数あるアーサー王伝説の中でも、ブライトサイドとしてのピークであり、栄華の終焉への折り返し地点となっている、この聖杯探求のエピソードである。
 アーサー王の物語は、確かにキリスト教における神の騎士たちの物語として語られてはいるが、この聖杯探求ほど信仰を意識した物語はほかにはない。もし、アーサー王が、キリスト教国の偉大な王の一人であるならば、聖杯探求の冒険に、愛する騎士たちを駆り立てたというのは当然の成り行きであり、また逆に言えば、この聖杯探求の物語から遡って、キリスト教国の偉大なる王・アーサーという像が後の世において造形されていったと言えるかも知れない。
 というのも、ここで探求される聖杯とは、聖書にいう最後の晩餐の際にイエス・キリストが使徒たちと血であるワインを分かち合った杯であり、またイエスが磔刑によって全人類の罪を背負って贖った際、ロンギヌスの槍によって突かれたわき腹より流れ出た血を、アリマテヤのヨセフが受けた杯といわれている。このアリマテヤのヨセフが、聖遺物である聖杯をブリテン島(アヴァロン)に持って迫害から落ち延びた…というもので、聖杯を求める後世の冒険の数々についてはここで触れるまでもないものと思う。
 訳者も指摘しているように、確かに17世紀イギリスの作家ジョン・バニヤン『天路歴程』にあるキリスト者としての信仰を試す試練との遭遇の物語を底に敷いてはいるが、ローズマリ・サトクリフによる聖杯探求の物語は、さらに、ケルト神話や伝説の母型である“探求の物語”のテイストを多分に盛り込んでいる。つまり、信仰を通じて神を知る探求だけではなく、一種の“儀式的な自分探し”(つまり、前者の神に対して後者はパーソナルな世界だ)を組み合わせることで、アーサー王伝説におけるハイライトを魅力的な物語、身近な物語へと巧みに昇華しているのである。
 先に私はサー・トマス・マロリー『アーサー王の死』のリアリズムへの評価を強調するばかりに、マロリー版で聖杯探求のエピソードが割愛されたことを好意的に取ったが、ローズマリ・サトクリフ自身によれば、サー・トマス・マロリーの聖杯探求の物語は魅力的だという。先達に対しての謙遜ではないか。そう思わせるほどに、本書は、サトクリフ・オリジナルと銘打つだけあって、斬新で神秘的な語り口でもって聖杯探求の騎士たちを活写している。



アーサー王と聖杯の物語

著作です: 何のために生き、死ぬの? 。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2008/07/04 03:02:12 PM
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