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カテゴリ: 書評
見出し:ダーク王子、登場。

ローズマリ・サトクリフ著、山本史郎訳『アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉』(原書房)

 三巻シリーズものも、二巻まで読んだら最後まで読まずにはいられないからか。それとも、やはり作品の魅力のゆえか。ローズマリ・サトクリフによるアーサー王物語シリーズ最終巻を読み終えた。
 今回は、まさに宴の終焉、栄華の衰退、おとぎ話、そして夢のような時代の閉幕を綴った、文字通りサー・トマス・マロリー『アーサー王の死』をなぞるような内容である。
 アーサー王若かりし日に、その栄光と輝かしい円卓の騎士たちの集結の約束とともに、やがてアーサー王その人の罪科のゆえに、そのすべてを失うと予言したマーリン。いわば、その残酷な予言の成就をこの物語で追っていくことになる。
 そして、その悪夢の牽引者として、ダークナイト、モルドレッドが登場する。モルドレッドこそ、黒い妖術にかけられてしまったアーサーその人の実姉モルゴースとの不義の子である。
 悲しいかな、いや、むしろ悲しい運命の子であるがゆえに、このモルドレッドの描写が美しいのが、サトクリフ版の特徴である。本当に、怜悧で徹底した邪悪さはかくも美しいのだと感じ入った。それは、ミルトンにおけるルシファーの描写に近い感覚がある。
 対して、栄光はすっかり過去のものとなった騎士たちや、偉大なるアーサー王は、この“皆既日食の遣い”と較べて、あまりに弱く、惨めで見苦しい。成功体験にしがみついて離れられないアーサー王その人が、招くべくして招いた破局に、ロマンティックな憐憫は抱いても同情は出来ない。私をしてそこまで思わせるほどに、それほどしつこい描写や登場があるわけでもないにかかわらず、モルドレッドの、無垢な残虐さが際立ってしまうから、著者のストーリーテリングの素晴らしさには脱帽である。
 この比較が妥当かは別として、しかし、やはりアーサー王が戦った“最後の戦い”そのものいついては、やはりマロリー版の迫力、リアリズムには到底及ばず、むしろあっさりと編集されてしまったような感がある(サトクリフ版の素晴らしさは、ポエティックな描写やテンポのいい映像を見せられるようなドラマティックな展開の作り方とは別に、まさに、壮大な物語のカット&ペースト、つまり編集の巧みさにも魅力があるのだが)。 あえて言うならば、サトクリフ版は、アーサー王の葛藤、“内面における最後の戦い”に重きを置いたような形ではないだろうか。

 そう、訳者も同じことをあとがきに書いているが、サトクリフ版のアーサー王物語で読者が追いかけ、その人間的な弱さに共感したり、華やかさに嘆息したり、成長したり懺悔したりする。その対象は、アーサー王ではなくむしろ、世に最高の騎士と呼ばれた男「湖のランスロット卿」その人なのかもしれない。
 騎士道精神とキリスト者としての信仰、そして等身大の男性、というそれぞれの立場と、それが作り出すパーソナリティに挟まれ、あるいは三つ巴の葛藤を、時に剛毅に、時に感傷的に立ち向かうランスロット卿の目を通じて、我々はこの類稀なる王と騎士たち、そして時代を眺めていることに気付かされるのである。(了)


アーサー王最後の戦い

著作です: 何のために生き、死ぬの? 。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2008/07/09 04:31:05 PM
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