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3万人を超える「あと1球」音頭が、一気にため息に変わった。1-0でリードの9回2死二塁。伊藤将はフーッと息を吐いた。フルカウントから牧へのラストボール。チェンジアップが高めに浮いた。ダイビング捕球を試みた中堅近本のグラブの先で打球ははずみ、同点適時打。土壇場で試合は振り出しとなった。
「1点差の緊迫した試合で、全体的に粘る投球はできたと思う。ただ、9回、なんとかあのピンチを抑えて勝ち切りたかった…」
9回4安打1失点。昨季プロ初完投を含む3勝を挙げたDeNA打線に的を絞らせなかった。ただ、先発投手として胸を張れる内容でも、納得はいかない。「ああいう場面で抑えきれるように、次の試合に向けて準備して臨みたい」。投げ終えた直後、ベンチでは何度も顔をしかめた。
打って投げて。野球の醍醐味(だいごみ)を体現した。5回2死一、二塁。左腕石田の外角カットボールにバットの先で食らいついた。左前にポトリと落ち、プロ48打席目で初適時打、初打点となった。千葉・横芝中の軟式野球部時代には投手で1番打者。横浜高2年時には、夏の甲子園で前橋育英の高橋光成(現西武)から左前適時打を放った。打撃センスはある。何より、かつてプロゴルファーを目指し、オフにベストスコア80の息子とゴルフ勝負しても負けない、父正宏さん(53)の血を引いている。「振ること」は体に染みついた得意分野。ここ一番でそれが出た。
1-0完封投手の決勝打となれば73年、ノーヒットノーランを達成した江夏豊のサヨナラ弾以来、49年ぶりだった。あの1球で抑えていれば…。矢野監督は「もちろん責めることはないし、あそこは将司に任せようと思った。将司の仕事っていうのはしっかりやってくれた」とかばった。悲劇の9回から1時間43分後、チームはまさかの5点差で敗戦。天国から地獄-。これ以上ない悔しさを糧に変えるしかない。
ニッカン





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