温故知新

2006.01.19
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商売。

様々な人が、様々な感覚で、自分の店のドアのカギを開けているんだな、
ということを実感できた出来事があった。

私の住んでいる地域には、『こどもまつり』なるものがある。
地域の保育園や学童などが合同で大きな公園を貸し切り、
新聞に折り込みチラシを入れて、それはそれは大々的に行う。
各園には、この『こどもまつり』遂行のための人員が割かれ、
桜もとうに散った初夏に行われるというのに、本格的な冬将軍の前から準備をしはじめる。

年に1回なのだから、単純に、30年近く、こうやって催していることになる。

その歴史の重さに圧倒され、ついつい、
折込チラシのための広告の新規開拓を自ら買って出てしまった。
一日経って冷静になり、熱に浮かされた自分を恨んでもすでに時遅し。
私の手元には、広告を取るための資料や手紙などが山とあった。

広告、と言ったって、B4の大きさに『こどもまつり』の記載が表面にされている裏面を幾つにも区切って、
そこに名前やら営業時間やらが記載してあるような代物。
自分自身を振り返っても、こういったチラシの裏を、しげしげと眺め見た記憶はない。
こんなところを1コマ3000円で、果たして、買ってくれる店はあるのだろうか。

店に入る前からドキドキと足取りも重く。
頭の中でまとめていたハズなのに、いざ、話しはじめたら自分でも、

質問されようものなら大パニック…

こんな状態で、普段から気にいって通っている店や、
子供関係の店などなどを回っているうちに、
人間って成長するもので、なんとなくコツが分かってくる。

何より助かったのは、相手の方が、この件に関してはプロ、ということだった。

この辺りは大学が多いので、大学祭のお願い、などなどなど。
ド素人の私に比して、相手は何度もこういった話を受けていた、ということだ。

そうやって、3000円の枠を3件。5000円の枠を1件。
新規に開拓することができた。
ノルマがあるわけではないのだが、
私も『こどもまつり』の長い歴史の1ページに協力できたか、と思うと嬉しいし、
下世話な話、顔が立ってホっともした。
が、何よりも、そのお店の人の想い、みたいなものに触れられたことが面白かった。

3000円の枠3件のうち1件は、豆を焙煎して販売している珈琲屋だった。
よく通っているし店長をはじめ顔馴染みではあるが、子供関係とは言えないので、
コーヒーを買ったついでに世間話程度に話したら、すぐにオッケーしてくれた。
原稿を用意する店長と従業員の話を盗み聞くと、
「適当でいいよ、どうせ誰も見ないって」
と笑っているではないか。
なるほど。
ここは、この3000円で、私の口コミを買ったのだ。
保育園へ帰って新規開拓できた旨を話せば皆の話題にのぼり、
そこから、ちょっと行ってみよう、という人が出るだろう。
近所で話題になれば、私はこの話を周囲にきっとするだろう。
そこからも、話はつながっていくハズだ。
何より、私という顧客は深く感謝し、ここにまた足を運ぶだろう。
店長は、子供を二人、すでに成人させた年配の女性。
店は3年前からと歴史は浅いが、贅沢品にも関わらず月に一度のセールには並ぶこともある。
その成功の裏を垣間見られた気がした。

3000円の枠のもう1件は、子供用のリサイクルショップである。
話をはじめると心得たように、
枠の大きさを確認し、それが絶対に変わらないことを確認し、
何部をどの地域に、どんな新聞に折り込まれるかを確認した。
私がしどろもどろになっていると、
「こういったことには相場があって、相場以上のものだったらお願いするよ」
と、言って、相場や実際どうだったかの話をしはじめた。
私はここで、ポイントカードが1周し、2枚目のポイントカードも半分ほど貯まった位の買い物をしてきたが、
なんだか今まで買った物が色褪せていくような気がした。
全て相場を吟味し自分に有利なもの、ということが、
商売をしていく上で重要だ、ということは分かる。
が、リサイクルショップに対して、物を大切にすることは地球にも家計にも優しいし、
何か宝探しのような気持ちで、
常に「得した、得した」と勝者の気持ちで袋を手に提げて帰ってきた私にとって、
「実はお前は常に敗者だったんだ、わっはっは」と笑われた気持ちになってしまった。

断られる、と思っていなかった店に断られたこともあった。
娘が好きなパン屋さんで、日記にも以前書いたおばちゃんの店だった。
娘の保育園がたまに大量発注していることもあって、
おそらくはもらえるだろう、と、思っていた。
が、話しはじめた瞬間、見たこともない険しい表情になり、話し終わることもなく断られた。
こういう話は発注をもらっている学校関係からいっぱいあって、
一人に出したらキリがないし、
こんな広告は誰も見ないし、効果があるわけがない。
「力になれなくてゴメンなさいね。」
と、言ったおばちゃんは、その言葉とはかけ離れた、気分を害された被害者の顔を見せていた。
私は何度も謝って店を出た。

確かに美味しいお店だが、当たり外れも大きい店だった。
人工着色してゼラチンで固めただけの昔ながらのゼリーやバタークリームのケーキ。
明らかに前日売れ残ったと思われる固いパンを買わされたことも何度かあった。
たった、一度。
こういった出来事があっただけで、今まで封印してきた嫌な思い出がどんどん出てきてしまう。
こうなってしまうのは、きっと、私だけではないだろう。

流行から遅れた、母息子二人で営んでいる町の片隅の小さなパン屋さん。
そこに留まっているには、それだけの理由がある、それが分かった。
悲しいのは、何よりもおばちゃんが自分の店を守ろうと思って、良かれと思って、
そう発言したのであるし、今までもそうしてきたことである。
お店のお客さんと仲良く世間話をすることも。
昔のレシピを頑なに守ることも。
売れ残ったパンを、固くなっても売ることも。
店に飾り気がないことも。
そして、目先の3000円という現金を守ることも。

誰も悪くはない。
だからこそ悲しいのかもしれない。

一方で、こんな店もある。
5000円の1件は自然食品の店で、一人でも多くの人の目につくことが出来たら、と、
大きい枠を契約してくれた。
3000円の1件は無農薬野菜と玄米のレストラン。
チラシが折り込まれる地域からは少し外れた場所にあるにも関わらず、快諾してくれた。
この2箇所は、違うオーナー、違う場所にあるのに、同じことを私に語ってくれた。

広告の効果でたくさんの客が入ることを期待してはいない。
今、子供の食が壊れてしまっていることが悲しい。
アレルギーやアトピーの子供たちが、一人でも、これをきっかけに私の店を知ってくれて、
おなかいっぱい食べることができて、
その姿を見て親御さんが安心してくれたら、と。
その一人のために払うお金である。

私は頭の下がる思いがしたし、実際に何度も頭を下げた。
こういった店に並んでいる品物は、きっと店長が吟味に吟味を重ねて選んだ安全なものだ、と、
安心して買うことができる。
こういった店で出される食事は、高くても、きっと本物の調味料と、本物の無農薬野菜を使って、
心をこめて作ってくれたものだと安心して高いお金を払うことができる。

色々な店の、色々な想い。
こんなことでもなければ、きっと分からなかっただろう。
これからはこんな視点も合わせて店を見ることが出来たら、良質な店が見つけられるかな、
と、思ったりもした。

が、とりあえず強く心に誓ったこと。

それは、
もう2度と安請け合いすることは止めよう、だ。






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Last updated  2006.01.19 14:09:10
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