温故知新

2006.02.02
XML
「子育てに育児書がないのは、皆、一緒よ」

『娘の育児書が欲しい』と、ずっと思っていた。
確かに、子供それぞれに個性はある。
だから、育児書と全く同じに育つ子供はいない、と、そういう意味であろう。
が、そうは言っても、指標にはなる。
ハイハイしたら、次は歩く。
1語文を話したら、次は2語文。
なんだかいきなり泣きだしたが、もしかしたら、これが人見知りかなぁ、など。


そういうところは指標にしてきたが、
最も知りたいような部分については、その指標は載っていない。

玩具を取られたら取られっぱなしなのは、個性か、発達遅滞か。
なんだかグチュグチュといっぱい話すのは、きちんと話していることが不明瞭なのか、
それとも、意味のないことが口から出ているのか。
友達と関わっていけないのは、個性か、発達遅滞か、自信の無さか。
今後、手術はどのように推移していくのか。

保育園の保育士さん。
言語治療の先生、数名。
小児科の医師。
耳鼻科の医師。

発達検査の児童相談員。

誰に、どれを相談していいのか。
次第に、何をどのように聞いていいのか、聞き方まで分からなくなってくる。

そんな中。
とうとう『育児書』の1ページに出会えたかのような経験があった。


本を数冊出していて、お話も感慨深くて、とても良い先生なんだけど、
と、娘の保育園の主事に誘われて出席した。
もう昨年になる、11月のことだった。

講演会と言っても、そんな大規模なものではなくて、30人ほどが出席していた。
椅子に座ることなく、大きな身振りと、大きな声と、温かい笑顔と、真剣な眼差しと。
1時間があっという間に感じた、私史上、3本の指に入る、心に残り、且つ、得ることの大きい講演だった。
ここで、その内容を一つ一つ書いていては枚挙に暇が無いので、
私が、「これぞ娘の育児書の1ページ」と思った内容にだけ、
ほんの少し触れたいと思う。

言葉の発達やコミュニケーションの発達(*注)に大切なのは、
まず、そうしたい、と思う、『主体性』を育てることだ。
そして、その『主体性』をのびのびと発揮することができる『集団』を整えること。
そして、今のその子に合った段階の『文化』を与えてあげること。
この3つが整えば、子供は無理なく、自然に伸びてゆく。

例えば、娘の場合。
「1,2,3」と数が言えるようになっても、そこに、数の概念が無ければ何の意味もなさない。
そうではなく、例えば、娘がノビノビと自分を出せるクラスという『集団』で、
おやつの時間に、クッキーを3つづつね、と言われて、自分で取ることになった。
その、「3つ取る」という『文化』がたまたま、娘の興味と合致し、
「私も3つ取りたい」という『主体性』が生まれた、そのとき。
娘は自然と、数の概念を3まで習得することが出来る、と、そんな話である。

もちろん、こんなことは、障碍のない子供であったら、自然とバランスよく習得していく話である。
が、バランスの悪い娘のような障碍児には、こういった発達段階を分析して、
スモールステップを作ってあげる。
まさに、私が、なんとなく頭で考えていたことだったので、飛びついてしまった。

講演会が終わっての質問で、私はどうしても聞きたいことがあった。
親が『集団』を間違えないで選定してあげれば、自然と『文化』はついてくる。
が、『主体性』をどうやって育てたらいいのか。
娘は、まさに、以前、知的障害児を指した表現、『精神薄弱児』という言葉がそのままで、
主体性に欠けるんです…。

なんだか、最後は涙声になってしまった。
理論的に話せなかったと思う。
が、先生は、ゆったりと笑いながら、こう答えた。

障碍のある子供と言うのは、自分では何も出来ない、と、思っている子供が多いんですね。
だから、自信がない。
外遊びがいいですよ。
たとえ、石段一つ飛び降りるだけでも、達成感が味わえる。
自分一人でやったんだ、と自信になる。
そういった小さなことを積み重ねていくうちに、主体性が育っていきますよ。

「焦らないで。」
「△△ちゃんのペースで確実に成長していってますよ。」
そんな言葉以外の具体的な指標をもらえたのは久しぶりだった。
彼の発達理論も、そのためにやるといい、と言った指示も、
私の心にどーんとストレートに入ってきた。

そして、それ以後、そのことにだけ努めて気をつけてきた。
他のことは手を抜いても、
例えば、保育園の帰りに、娘が何かによじ登ることに夢中になって繰り返しはじめたら、
そこだけは気長に付き合うようにしてきた。
その成果があったのか。
最近の娘は、主体性著しく、うるさいくらいになった。
玩具は取られても取られっぱなしだが、
あっちに行く、これがしたい、ここで食べたい、などという事には、
本当に驚くほど、こだわるようになってきた。

そう。
どうして、暦も前のものの11月のことなどを思い出したかと言えば、だ。
今日、些細なことで娘を怒ってしまったからだった。
本当につまらないことで、書きたくないくらいつまらないことで、
手に持っていた、今から封を切ろうとしていた箱ティッシュで頭をはたいてしまった。
火がついたように泣き出す前に、
「ママぁ~」
と、一瞬、不思議そうな顔をして私を見上げた。

ママ、どうして。
ママがやったなんて嘘だよね。
ママ、大好きなママだよね。

そんな風に物語っているように感じたのだ。
今まで、そんな物が分かったような表情や、言葉を発することはなかったのに。
こんな風な娘になって欲しくて、今まで、二人でやってきたのに。
ようやく、最近、芽がではじめて、自信にみなぎった行動が多くなったのに。

手に持っていた箱ティッシュは、裏面にあるミシン目から真っ二つに割れて、
中のティッシュが見えていた。
なんだか、それが私と娘の気持ちに見えてしまって、涙が溢れでた。
娘が私を気遣って、褒めてもらおう、と、自ら歯磨きをしたり、
愛想笑いをしたり、
気をひこうと歌を歌ったり、
顔色をうかがっているのが痛いほど分かって、
いつまでも涙が止まらなかった。


*注
彼は、重複学級といって、難聴のほかに、発達遅滞やコミュニケーション障碍など、他にも障碍がある子供と長年かかわってきた





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.02.03 01:26:03
コメント(10) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

pms

pms

Calendar

Archives

2024.11
2024.10
2024.09
2024.08
2024.07

Comments

ウルフがおー @ Re:私の背中(11/27) 子供が多いのですが、一番下の子に「脱腸…
音楽愛好家@ Re:もう一つの七夕の歌(07/02) かな~り昔(今から30年前)もうひとつの七…
ぁゅみ084 @ Re:私の背中(11/27) はじめまして さきほどはじめました 障…
はなまる@ Re:私の背中(11/27) 大学院合格おめでとうございます。私も発…
kepiko@ Re:私の背中(11/27) pmsさんが、自分らしく自分を大切に生きて…
あきら@ Re:私の背中 信じていると、突然変異がいつか起きるん…
月夜夢. @ Re:大学院進学のための居宅(10/21) あまりにご無沙汰なのでもうお忘れになっ…
あきら@ Re:大学院進学のための居宅 なにか新しい出会いがあるはずだから、信…
えりこ@ Re:大学院進学のための居宅(10/21) 久しぶりにお邪魔しました。 大学院合格…
たかっち。 @ Re:大学院進学のための居宅(10/21) うまくいえないんだけど、もし障碍児じゃ…

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: