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恐竜境に果てぬ第1章第2節その1


恐竜境に果てぬ第1章第2節その2


恐竜境に果てぬ第1章第2節その3


恐竜境に果てぬ第1章第3節その1


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2003.12.15
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カテゴリ: 怪談
小泉八雲と来れば怪談である。この人の正式な怪談は、例えばその一つに「怪談・奇談」という名で文庫本として出版されているものを買って長くとっておいたが、なぜか今は紛失している。
手許にわずかにあるのは、中一の頃買った偕成社刊のジュニア向け「怪談」という一冊である。

もとよりこの人と有名な著作を知る人は少なくないと察するが、私が心ひかれたのは「雪女」、「耳なし芳一のはなし」の類いではない。子供向けとしては珍しいと思った「和解」という一話である。

なお、大人向けと思われる「怪談・奇談」には、「鈴の音」といったろうか、いかにも亡霊談らしき趣で語られるやや凄まじい内容のものがあるが、この「和解」も、子供心に、あとになってややゾッとし、何とも言えぬ余韻が消えなかった(訂正/「鈴の音」ではなく、「破約」または「破られた約束」です。検索で複数、ていねいなサイトが現われます)。

前置きを長くするより、まずあらすじを書いたほうがよかろう。
昔、京に住むある侍が遠国(おんごく)に仕官するにあたり、女房を離縁して去る。任地で新しい妻をめとり、やがて任を終えるが、その頃になって、新しい女房の情(じょう)のなさ・わがままなどに気づき、同時に別れた前の女の情の細やかさに今更ながら気づき、にわかにいとしくなって、この女を離別し再び京に帰ることに決める。

もう、ほかの男に嫁いで幸せに暮らしているかも知れぬ、あるいは独り淋しくなどと、様々なことを思ううち、矢もたてもたまらなくなり、昔起き伏しを共にした己れのわび住まいを訪ねる。
既に日はとっぷりと暮れて、中に人の気配も感ぜられぬが、それでもと思って、かつて女房が夜なべをよくしていた部屋のふすまに近寄ると、何と女は相変わらずあんどんの陰で縫い物をしている。

女は以前と変わらぬ笑みをたたえながら、男を優しく迎える。男は女に詫びるが、女は恨みがましいこと一つ言わぬどころか、どうかもう自分を責めないよう頼みさえし、戻ってくれたことに喜び感謝するばかりである。


目を覚ますと既に日が差し込んでいた。
何気なくあたりを見回して驚いたのは、己れがまともな畳の部屋には寝ておらず、布団も何も敷いてないむき出しの床の上に横たわっていたことだ。

夢でも見たのかと横にいる女房を見るとぐっすり眠り込んでいる。その寝姿をのぞき込んだ男はきゃっと叫んだ。女房と見えたものは、わずかに白骨とおどろな髪の毛だけが残っている女の死骸であり、そこには一枚の経かたびらをまとっているのみだった。

男はしばし戦慄したが、それはやがて深い絶望感へと変わり、女房がたどった運命を知りたいと、よそ者のふうを装って、人に尋ねた。
曰く。「あれは侍の女房がおった家だったが、その侍が都を去るとき離縁し、女房はそれを苦に病んで、とうとう病みついてのう。広い都に身寄りのあるはずもなし、世話をしてくれる者もないによって、とうとう去年(こぞ)の秋、早死んでしもうた」。

以上の話は小泉八雲の著作「明暗」の中の一作であることをのちに知った。先に私は「子供心に戦慄を覚えた」と書いたが、長じて実物の女を知った時、これを思い出した。女の情念とはあの小説に描かれたものだったかと思い知った気がしたのだ。子供にこのような感情を早くに与えるこの物語を編集した「偕成社」を見事だと思った。子供への妥協がない。

おなじみ「東海道四谷怪談」のさわりを言えと問われたら、伊右衛門にはかられ毒薬を飲まされて面相一変し、凄い形相で髪すきを行なうあたりから、つぎつぎたたる場面をざっと語れば足りる。だがこの怪談は冒頭から何やら無気味な予感を与えて、子供には凄すぎる。

では本当に恐いのはどちらかと言うと、答えはいずれもであり、いずれも甲乙なき戦慄を与えて秀逸である。ただし、小泉八雲すなわちラフカディオ・ハーンの「和解」は、おどろおどろしさはなく、恐らく愛らしく美しい妻が、自分を捨てた夫をにこやかに迎えて一晩たっぷりもてなし、翌日明るくなった時、不実な夫に、哀れな自分の最期を見せて、男に何かを伝える。

記憶が確かでないが、上田秋成の「雨月物語」にも、これとよく似た話があった。私は映画で見たが、調べてみると、「浅茅(あさじ)が宿」というのがそっくりである。戦乱のさいちゅうに夫の帰りを待ちわびつつ他界した妻が、霊となって夫と会う物語だ。

両者に関連がなく、全く別々に作ったとしたら、「げに恐ろしきは女の執念なり」という論理が出来上がると言っても過言ではあるまい。それにしても舞台設定以外そっくりの筋立てである。
「和解」という題名はそれを見ただけではどんな物語なのか連想できない。読んでびっくりという話である。私には未だになぜ「和解」との題名なのか実はわからない。



私の経験でいうと、我が両親留守の時、待ち合わせを本当にうっかりすっぽかす失敗をしでかした。めったにないチャンスだったから無念の気持ちもあるが、もはや後の祭り。言い訳通らずと思っても、当然済まぬことをしたから、まず必ずその女だけが出ると決め事していた電話をかけたが通じず、次いで女の自宅に直行したが、これまた事情あって玄関の呼び鈴を押すわけに行かなかったから、在宅か留守かを確認する方法を決めてあって、その通りのことをした。

だが留守とわかった。既に夜である。うさ晴らしに友人のところへでも行ったのかと思うしかなかった。力なく、己れの自宅へ引き返すと、玄関に置手紙があって、明らかに怒りの文面がつづってあった。合鍵で入って書置きしたのち出て行ったものらしかった。私の家に来るのは初めてだったから、さすがに遠慮したのだろうと察した。それでも読んでみると、わざと「待てどくらせど来ず、仕方なく帰りますが、再び会う気、ありやなしや」と、文語調で書いた表現は凄みがあった。

両親が留守なので、真っ直ぐ自室へ向かい、開き戸を開けて、机に向かった。今ならパソコンのある机に向かうところだろうが、当時はパソコンどころかワープロさえなかった。その代わり部屋の机に向かって人心地つくのを待つのも習慣になっていた。恋は盲目という。そのせっかくの機会を逃して何をする気にもなれず、机を離れた。

いつしか独り言で「後の後悔先に立たずか。あした改めてあやまろう・・・」と言いながら部屋を出て洗面所へ向かおうとしたその刹那、「待ったのよおー・・・!!」と、隣の日本間から出たその女が、私の背中に手を置いて声色(こわいろ)たっぷりに声をかけた時、恥ずかしいことながら私は「ひゃーっ!!」と悲鳴を上げて、廊下をダダダッと駆け出したはいいが、つまずいて転び、更に腰が抜けた。総身に粟を生ずる恐怖だった。

のぞき込むように近寄って来た女は「何よおーっ、まるでお化けでも見たみたいだったわよ!! 」と再び新たなる怒りを怒っていたが、しばし返す言葉なく、「お前、・・・まさか、いや、生きているよな・・・」と思わず返してしまった。


この舞台設定、時間設定、タイミング、誠に見事だった。小泉八雲の話とは内容が違い、むしろ「四谷怪談」に近いが、なぜか「和解」を連想した。明らかにこの女の仕返しであるが、そのことはひとことも口にせず、当然のことをした口ぶりであるところが恐かった。車も目立たぬところへ置いてあったことをあとで聞かされた。ただし、男と女、しかも相手が女でなければ、これほどゾッとすることはない。もっとも、女になったことはないから、逆のシチュエーションならばどうかまでは想像しなかったが、私の考えで言うと、げに恐ろしきは女の執念なりということである。





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最終更新日  2021.10.25 17:18:11
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