2015年01月14日
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アニメブームの節目で迷走した怪作
宇宙戦艦ヤマト完結編
Final Yamato


■ 監督 西崎義展/ 勝間田具治
■ 声の出演 富山敬/ 麻上洋子/ 納谷悟朗/ ささきいさお/ 仲代達矢(語り)


-INTRO-

1997年12月2日 宇宙戦艦ヤマトプロデューサー西崎義展氏が
覚せい剤不法所持で逮捕されるというニュースに激震が走りました

加えて1999年2月1日、同5月12日
今度は銃刀法違反で逮捕されるという

アニメブームの立役者となり 現在のサブカルチャー文化誕生の道筋を作った
近代史における歴史的天才プロデューサーの転落する報道の数々に

ヤマトファンのみならず 日本中が衝撃を受けるのでした


そんな世の中に更に追い打ちをかける様に
西崎義展氏に対し 『宇宙戦艦ヤマト』の著作者の確認を求めて

漫画家 松本零士氏が原告となり 世に言う『宇宙戦艦ヤマト裁判』が起こり

それを期に ヤマト関係のありとあらゆる複雑化した利害関係とそれによる訴訟と
ヤマトブランドを背景にした打算に及んだ転落劇が次々と報道され

日本発世界へ配信された熱狂的ブームの 霜が降りる様なその着地点に
誰もが一つの時代の終焉を 見て取ったのでした



松本零士氏が起こしたヤマト裁判は
誰がヤマトの原作者であるのかを 法定で争った訴訟というよりは

数々の不祥事を起こした西崎氏から 利害関係で揉める関連企業から
ヤマトをファンの手に戻す為の

松本氏の ある種の使命感に起因した 決起の訴訟という主旨は
想像に難く無く おそらくそうであろうと思われるのですが

この裁判は2002年に 松本氏の全面敗訴という判決が下り
2003年に 西崎氏と和解という形で終了します


この裁判は 常識的に考えれば

番組発案者である西崎氏が 原作者である事は
まず間違い無い中で行われた 敗訴の可能性が高い訴訟でした

松本氏の訴訟に至った理由は
恐らく自分に期待するファンの声に答えて ファンの支持を受けての

少なくとも松本氏がそう感じての決起だったと思われますが

時代は流れ かつてのファンも社会の中核を担うまでに至り
それぞれが世の中の仕組みを熟知し 事の本質を理解するまでに成長しており

ヤマトに関しても 松本氏の貢献が大という意見には意義は無いとしても
原作者は西崎氏であるという 現実的視点での考えが多くで占められと思われ

非常に稀有で天才的な作家性を持ち マンガブームの立役者となった
歴史に残る漫画家ではあっても

漫画家ならではの仕事に掛ける意固地なまでの頑なな姿勢と
強固なまでの自己の世界観を持つ作家にありがちな 世間に対する疎さから

時代が世紀を渡り ネット社会へと移り変わるその刹那
新たな価値観と思考の並列化が実現され 世の中が大きく変化する中で

奇しくも同時期に
郵政民営化において総選挙で大敗を喫する反対派議員達同様に

本人が意外に思う程に世間の支持を得られて居ない事実を読み切れ無かった事が
後の「999裁判」の様な形で 空回りする事となる要因を作る事となったと

思えてならない出来事でした


所でこの裁判は
単に原作者として人格権を有するのは誰なのかを争っていたものであり
ヤマトの著作権については
すでに96年に譲渡契約を東北新社と結んでいた後の事でした

その為 西崎氏との和解に関しても あくまで
訴訟上の和解では無く裁判外での当事者同士の和解に過ぎないとしております

つまり、この裁判の主旨とは 宇宙戦艦ヤマトをこの先制作した場合
著作権とは全く関係の無い
原作の所に誰の名前を付けるのか を争っただけの訴訟だった

ただそれだけという事になるのです


「人間は見かけでは無く中身である」と自身の作品の中で説き
日本中の読者に多くの夢と希望と勇気と感動を与えてくれた松本氏が

なぜ信念とは真逆の
見せかけに過ぎない「名」を掛けて泥仕合を演じて見せたのか
「実」は取らずして「名」を重んじた所の 空虚な着地点を求めたのか

『映画版 銀河鉄道999』 でのレビューでは

『999裁判』に対して あえて批判的な解説をした当サイトではありますが
松本氏を巡る様々な思惑が見え隠れして
真実は 当事者にしか分から無い事なのだと思います

それら思惑はともかくとして
もし、松本氏の耳に届く範囲内として

他ならぬ ファンの私達の言葉によって
この様に松本氏を追い詰める様に駆り出させたとしたのなら

これ以上 悲しい事はありません・・・


△▼△▼△

という訳で今回は、ヤマト最終作として制作された
『宇宙戦艦ヤマト完結編』をご紹介します

それでは今回も始めましょう


-STORY-

巨大な楕円軌道を描きながら地球に迫ってきている惑星アクエリアス
水の惑星であるアクエリアスの接近は、地球に大規模な水害をもたらす恐れがあった
一方、銀河の中心部では星同士が衝突し、崩壊するという異常事態が起こっていた

地球政府は古代進を艦長とする宇宙戦艦ヤマトを調査のために派遣するのだが


-解説-

最後のヤマトという事で スタッフの意気込みは凄まじかった様で
関わった人間の数も尋常では無かったという事ですが

『さらば宇宙戦艦ヤマト』の時の様な
絵柄が統一されない混沌感は作品からは見られませんし

当時の新技術として 現在のCG効果に当たる スキャニメイト と呼ばれる
ビデオ合成技術を多用した 意欲的な取り組みもあって

アニメにおける最先端の作品を提供する自負とプライドをもった制作だった事が
見て取れる仕上がりとなっております


一方で 前作の 名匠 舛田利雄監督による
一般映画として鑑賞に耐えられる奥行きのある造りの演出から一転して

前作の三つ巴のタッグで見せた相互作用によって高められた完成度は見られず

西崎プロデューサーの色とも言える
侘び寂びが色濃く現れた脚本を昇華出来るような
舛田監督の様な作家性と力技が本作には見られず

西崎プロデューサー自身と 東映動画のベテラン監督 勝間田具治氏が演出する
一般映画の論理が介入されない
これまでのテレビまんが的な2次元的閉鎖感による演出の通り一遍の芝居と
ミスディレクションと助長を引き起こした場面が目立った内容となり

ヤマトクルーが人間的で若々しい姿に立ち返った作品と言う演出的意図は
ともかくとして


古代が死んだと早合点し後追い自殺を企てる森雪や
もはや戦闘班長に降格する事を目的としたとしか思えない
作戦失敗をして引責辞任する古代進に

沖田艦長復活という力技に対して
スクリーンの客に向かってスタッフを代表し
演出的にも無為な謝罪をする佐渡酒造など

ヒーロとして描かれて来たキャラクター達の
打って変わった短絡的行動を只々見せられる2時間強で

クライマックスの泣かせる為の大事な場面では
演出意図が観客に伝わらず劇場から爆笑すら起こる一幕もあり


ヤマトが自沈した後 アクエリアスの水面から突如船首を浮上させ
ゆっくりと沈んでいくラストは ドラマティックではあっても

日本人の基質を表した不屈の精神と魂を描いた様な
宇宙戦艦ヤマトという作品の理念とは 大きく かけ離れた

堺雅人に叱咤され土下座を強要される香川照之の演技の様な

まるで咆哮を上げてもがき苦しみ死んで行く 巨大になり過ぎた悪役の怪物の
断末魔の姿にしか見えず


何もかもが間違っているズレた感覚で造られた作品の
闇の部分を見せられた様な鑑賞で 非常に後味の悪い印象を持ちました



理由の一つには 上映時間がゆうに4時間は超える分量の
500ページにも及ぶ膨大な脚本を消化する為

絵コンテ、作画、仕上げと同時進行となった空前の制作体制ゆえの
絵柄の統一やクライマックスシーンのビジュアルのみに全神経が注がれた様な

全体における演出の錯綜が理由に思われましたが

80年代の価値観とは大きく食い違った
戦後数十年を経て鮮やかに蘇り 一時代を彗星の様に輝き駆け巡ったヤマトが
もはや通用しない現実を突きつけられた様な

そんな印象すら残った鑑賞後感となりました



ラストのクライマックスを過ぎた タイトルロールの後の
恐らくカーテンコールを意図した ヤマトクルーが地球に帰還した場面では

挿入歌をバックにまるで特典映像かと思う様な
助長的なイメージ映像が延々と続いた後

35mm初回バージョンでは 賛否両論となった
八神純子『ラブ・シュープリーム』をバックにした
古代と雪のラブシーン(※実際は濡れ場)が挿入され

当時のアニメ作品の様々な常識をくつがえして来たヤマトらしい
果敢な演出的アプローチと言えましたが

70mm 完全版と ビデオリリースでは 世間の評価を折込み
無難な画と差し替えられました


恐らく本作は 全編に渡り 西崎プロデューサーの演出が
最もストレートに描かれた唯一の作品であり

アニメファン 一般客に取っては
最も難色を示す作品であったと思われ

スピルバーグ監督の『1941』 の様な
誰の意見も聞かず好き放題に演った末の壮大な迷走が伺われる

アニメブームの節目を飾る怪作となった一本と言えるのかもしれません





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アニメブームの節目で迷走した怪作

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最終更新日  2015年01月29日 03時36分18秒
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