記憶の淵に沈みゆくもの

記憶の淵に沈みゆくもの

2004.07.28
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宵っ張りの柚木崎宅は、
次の日仕事がないと、午前3時過ぎまで起きていることがある。
片割れがゲームをしていたり、
DVDを大量に連続で見たり。
二人で別々の本を読んでいて、気がついたら朝だったこともある。
たまに人を拾って明け方まで、なんてこともあるが
それは年に一度あるかないかの話。

さすがに次の日仕事なので、
ベッドに潜り込んだのは夜中の1時過ぎのこと。
それでも十分に遅いと思う。
眠ることが好きな柚木崎にしてみれば
やっぱりもう少し早く眠りたいと思う時間である。
せめて日付が変わる前に……とか思いながら眠りについた。

夢の中で、ちびこい男の子が泣いている。
見覚えのない男の子だ。
「おかあさ~ん、どこ~?
 おか~さ~ん。おか~さ~ん」
悲痛な声で呼びながら泣いている。
迷子か? と思いながら近づくと、
男の子は怯えたように後ずさりしてしまう。
近寄れないのだ。
どうした、迷子? と聞くと、大きく頷く。
お母さんとどこではぐれたか分かるか? と聞くと
わかんない、と小さく呟く。
一緒に警察に行こう? と手をさしのべて一歩近寄ると
やはり一歩逃げてしまう。
警察行ってもだめなの、と小さな声。
なんでだめ? 行ってみないとわかんないよ、と言うと
きっと見つけられないよ、と悲しげにささやく。
大粒の涙がぽろぽろと
ちょっと目尻があがった大きな目元からこぼれ落ちる。
なんだか野良の子猫みたいだな、と
思ったところで目覚ましが鳴った。

目覚ましの音で目が覚めて、
しばらくの間はぼーっとしてしまうのが癖である。
5分~10分ほど、二度寝することもある。
まだ回転の鈍い頭で
なんだか妙な夢を見ていたなぁと思っていたら
片割れがいきなり飛び起きた。
一気にカーテンを開いて窓を開け、外を覗き込んだ。
寝室の窓を開けると、隣は24時間営業のファミレスである。
そことのわずかな隙間を覗き込んでいるのだ。
どうした? と聞こうとして、気がついた。
猫が鳴いている。

子猫がいるよ。
そう片割れに言われて、同じように覗き込んだ。
黒っぽいとら猫である。
怯えたような眼差しが、まっすぐにこちらを見ている。
その目を見て、夢を思い出した。
男の子の目にそっくりだったのだ。
まさかね、と思っていたら
その子猫は「な~ん」と鳴いた。
……まぎれもなく、母猫を呼ぶ声。

柚木崎に負けず劣らず動物好きな片割れ。
子猫に向かって「おいでおいで」と声を掛けた。
が、その声にびくりと体を震わせると
小さな体の特性を活かして
隣への金網の隙間を縫って、たちまち姿を消してしまった。
「いっちゃった」と淋しげな片割れの背中を叩いて
しっかり目覚めた柚木崎は、着替えるためにベッドから降りた。

それにしても、夜中に見た夢。
あれは、あの子猫のことだったのだろうか。
そういえば、眠りにつく直前に、子猫の鳴き声を聞いている。
時々浮上する意識が、
子猫の鳴き声を聞いていたような気がする。
……どちらにせよ、母と無事に会えることを願うばかりだ。





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Last updated  2004.07.30 16:44:00
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