記憶の淵に沈みゆくもの

記憶の淵に沈みゆくもの

2004.08.04
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類

パパさんのいきなり決まった転勤。
大慌てでいろいろと準備をしているのだが、
困ったのが引越し屋が引き受けない、熱帯魚のいる水槽。
本当に悩みに悩んだ挙句、ウチに貰ってくれないかと相談に来た。
しかし、このお宅のちびちゃんたちが
生まれたときからずっと見ている鯰(海外物)である。
貰ってしまうわけには、いかない。
いつか戻ってくるまで預かります、ということになった。

その置き場に実は困っている。
Mさん宅はマンションの中部屋。
東側と西側に全く窓がない。
たいしてウチは、東側に窓がある。
その分、棚などを置くスペースが、
Mさん宅と比べると極端に少ないのだ。
散々悩んだが、やっと置き場が決まり、
そこに水槽を置くための棚を買いに、今日は出かけた。

片割れは以前から、熱帯魚を飼いたかったらしい。
水槽を預かる話を、あっという間に一人で決めてしまった。
別にそれはいいのだけれど
水温のチェックとか面倒だぞ、と少し思う。
Mさんパパは結構細かく
鯰を飼うのに必要ないろいろなことを教えてくれた。
それを聞くと余計に思う。

運良くというか、なんというか。
預かる魚は草食性。
他の熱帯魚も飼えると知って、片割れは大喜びだ。
きっと預かったら早速なにかしら入れるんだろうなと
想像できてしまうほどのはしゃぎよう。
それもまあいいけどね、と思うのは
柚木崎が片割れに対して甘いからかもしれない。

水槽の重さなどを考えて、
購入したのはスチールシェルフになった。
自分で作るのが面倒と言えば面倒だが、
耐過重が70kg以上必要と言うのとなると
こういうタイプのものになってしまう。
ある程度がっちりしたもの、となると。
ちょっと前にテレビ台をこのタイプのものに変えたら
片割れはかなり気に入ったようで
最初からこれしか考えてなかったような節がある。

置けるサイズと水槽のサイズを考慮に考慮して。
やっと選んだ一つのスチールシェルフ。
買える前にやっぱりペットコーナーが見たいということで
二人してペットコーナーへと足を運んだ。

大々的に売り出しているのは、やはり犬である。
人気のチワワなどの小型犬からラブラドールの子犬まで。
ガラス越しには子猫もいる。
柚木崎は基本的に動物好きなので
どうしても最初にこのコーナーで引っかかる。
ここでしばらく見てるから、と伝えると
片割れは嬉しそうに魚のコーナーに歩いていった。
やっぱり見たかったんだ、ネオンテトラ。

ふと視線を感じて目を遣ると
ガラスゲージの近くに囲いがしてあって
その中に綺麗な顔立ちをしたボーダーコリーがいた。
少し大きくなりすぎたので、安売りしている。
賢そうな目がこちらをみていた。
綺麗に色分けされた黒と白。
まるで仮面をかぶっているかのようなその顔立ち。
かなり長くの間、柚木崎はその子に見惚れていた。

やがて一組の夫婦がこの子に近づいた。
嬉しそうに尻尾を振って愛想を振り撒く犬。
男性のほうは、かなりこの子を気に入っていて
どうやら奥さんを説得するために連れてきたようだ。
耳に入ってくる話し声を総合すると、そんな感じ。
しかし、奥さんのほうはあまり乗り気でなく
やはり小型犬の子犬がいいと揉めている。
しばらくそうやって揉めていたが
折れたのは旦那さんの方だった。
とても残念そうに、寂しそうに
じゃれ付いてくる犬の頭を撫でて
何度も何度も振り返りながらその場を去っていった。

その人がいなくなってしまったら
ボーダーコリーは寂しくなってしまったのだろう。
すねたように体を丸めて伏せてしまった。
その視線は、またもや柚木崎と合う。
傍に座り込むと、鼻先をゲージ越しに押し付けてきた。
そんな拗ねた顔をするなよ、と笑いながら
その鼻先を撫でていたときのことである。

ガツ、ガツと厭な音を立てながら
男の子が一人、近づいてきた。
何事だろうと目を遣ると
自分の体を目隠し代わりに使い
子犬や子猫が寝ているガラスゲージのガラスを
握りこぶしで殴りながらやってくるのである。
薄ら笑いを浮かべたその顔はまだ幼い。
その幼い顔に似合わない、厭な感じの薄ら笑いを浮かべて
飛び起きたり体を震わせる子犬子猫を見ているのだ。
周りの大人が視線を遣ると、
何事もなかったかのようにガラスにへばりつく。
表情も愛らしい子どものそれに変わる。
が、また視線がなくなると薄ら笑いになるのだ。
そして、ガツ、ガツと始める。

背筋が寒くなった。
なんだこの子は?
撫でていたボーダーコリーも警戒しているのか、
少し手のひらの下の体が固くなった。
落ち着かせるように撫でながら、
視界の中に薄ら笑いの彼をおさめる。
なんか、厭な予感がする。

下のほうの子犬には足で蹴りを
上のほうの子犬、子猫にはこぶしで
まるでいじめるように音を立てては通り過ぎてきた彼が
柚木崎が前に座るゲージの脇に来た。
見上げる柚木崎と、見下ろす彼。
しばしの睨み合い。
…何事もなかったかのように通り過ぎて、
ボーダーコリーのゲージ越しに、対面した。

明らかに警戒しているボーダーコリー。
柚木崎も、厭な予感がしたのでコリーから手を離した。
伏せたまま落ち着きなく視線をさまよわせるコリー。
柚木崎が彼を視界に入れたまま、少し視線をずらした瞬間。

ボーダーコリーは痛々しい悲鳴をあげた。

視界の端で見てしまった。
少し小さめのゲージ。
コリーの背中は彼の目の前にあった。
柚木崎が視線をわずかにそらしたとき、
彼は迷わず薄ら笑いを浮かべて
その背中に思いっきり人差し指を突き刺したのだ。

悲鳴をあげて飛び起きたボーダーコリーは
反射で彼の指に向かって歯を剥き出し
噛み付こうと唸り声を立てようとした。
が、はっと我に返ったように一瞬でその動きを止めると
彼から離れて柚木崎にぴったりと擦り寄り
指を突き立てられた背中をなめ始めた。
あの悲鳴、かなり痛かったはずだ。
彼を見ると、きょとんとした顔をしている。
そう、犬が痛がると思っていなかったといわんばかりの表情。
ボーダーコリーは彼をにらんでいる。
背中の傷をなめながら。
その視線はとても鋭く彼を射抜いている。
が、彼は呆然としたまま動かない。

お前、今この子をいじめたろ?
ゲージ越しにそう低く声をかけると、びくりと体を振るわせた。
大人の視界をなめるんじゃない。
お前の行動は、視界に捉えてみていたと低くいうと
おびえたような目つきで見上げてきた。
柚木崎が立ち上がったからである。

この子が賢い子でよかったと思え。
反射で噛み付いていてもおかしくなかった。
でも、この子は噛み付かなかった。
なんでか判るか?
とっさに、噛み付いたらお前が痛いってやめたんだよ。
犬だって猫だって、動物全て、痛みを感じる。
体にだって心にだって。
お前はいま、この子の体と心に痛手を与えた。
それを判っているか?

そう低い声のまま聞くと、
彼は明らかにがたがたと震えだした。
口の中でもごもごと訳のわからないことを呟いて
慌てたようにその場を逃げ出す。
その背中を、ボーダーコリーがずっと見ていた。
えらかったなお前、とボーダーコリーの頭を撫でると
まるで「痛かったの」といわんばかりの鳴き声がくぐもった。

それにしても。
なぜ親が一緒にいないのだろうといつも思う。
子ども一人でふらふらと店の中を歩き回る姿をよく見かける。
座り込んで絵本を読んでいたり
動物たちのゲージの前にへばりついていたりといろいろだが
今回のようなこともよく見かける。
鎖でつながれたオウムの尾羽をむしる子ども、
低めに設置された、上があいたゲージに入ったウサギの子どもの
耳を引っ張って悲鳴をあげさせる子ども。
なぜ、親は見ていないのだろうか。
小さな子どもはすぐどこかに行ってしまう。
それはとてもよくわかる。
が、これはあまりにもひどすぎはしないか。
自分だけじゃなく、ひどいことをされれば誰だって
動物だって痛いのだということを
きちんと教えてあげて欲しいと思う。
可愛いばかりではいけないのだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2004.08.12 12:22:09
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

柚木崎

柚木崎

Calendar

Favorite Blog

chiro128 chiro128さん
燕燕の毎日。 燕燕1129さん

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: