記憶の淵に沈みゆくもの

記憶の淵に沈みゆくもの

2004.11.09
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一人の上司が訪ねてきた。
今年の4月から新たにスタッフとして加わり、
直後に結婚。
3ヵ月前に妊娠が発覚した上司である。
もともと柚木崎とは気が合うのか、
色々な話をする間柄だ。

その上司がめずらしく
紅がはみ出ているのにも気付かないほど
気持ちが荒ぶっている。
妊婦さんにこの状況はよくない。
そう思い、まずは椅子を勧め、
話を聞きながらいれた薫りの良い紅茶を差し出した。

新人だからか、この上司は少し軽く見られている。
そういうのは柚木崎はとても嫌いだ。
柚木崎と同じ立場の同僚のなかにも
自分のほうが先輩なんだからと
あからさまに態度にする輩もいる。
仕事上の関係で、
下の立場なのに先輩だからというのである。
なにか間違えているとしかいいようがない。

それはさておき。
今回この上司が
聞いてほしくて駆け込んできた内容は。
セクハラ、である。

口にした本人は、こう最初に切り出したそうである。
「これはセクハラの意味ではないんだけど」と。
こう言ったという時点で、
本人はセクハラに値する内容だと認識していることがわかる。
さらに続けて、
「妊娠してるんだよね?
 無理が出来ない身体なんだから、仕事辞めたら?」

聞いているうちに腹が立ってきた。
あまりの言葉に頭の中が真っ白になってしまって、
言い返せなかったのが悔しいと
いまにも泣きだしそうな上司を、
どう宥めようか悩んでしまった。

言った本人がどう思おうと関係がない。
言われた当人が『セクハラ』だと思ったなら。
それは立派なセクシャルハラスメントである。
今回のこれは、明らかにセクハラ行為であり、
言った本人がどう言い訳しようと、事実は事実である。
職場のセクハラ委員会に報告してもいいのだが、
事を荒立てるのも、いいのか悪いのか
判断がつかなかった。
今の上司の立場の問題があるからだ。

一番上の上司にこのことは話したほうがいいと言うことが、
今の段階でいえることのベストと思われた。。
そう話すと、涙目で訴えてくる。
柚木崎の先輩にあたる人に、
そんなことをしたら
あなたの立場が悪くなるだけだからやめなさいと、
一人で黙って抱え込んでしまうのが一番いいのだと
そう言われたそうなのである。

柚木崎はそうは思わない。
誰かが言うべき時にきちんと言わなければ、
いつまでもこういった態勢はかわらないのだ。
自分だけではない。
他の誰かも、同じような被害にあうのである。

泣き寝入りをする必要はないこと、
柚木崎が一番上の上司に話したほうがいいとアドバイスしたことを
きちんと筋道立てて説明したほうがいいと
いろいろ対策を練った。
報告をすることを決意した上司は
がんばるから、と気合いを入れてでていった。
顔色は、来たときより格段に良い。
きっと支持して、後押しをしてほしかったのだろう。

この話を自宅でしたら、片割れが大層怒ってしまった。
柚木崎の立場が悪くなるのも心配だが、
こんなことを平然といってのけるスタッフが許せないと
ひどくご機嫌斜めになってしまったのである。
またもや宥める側に回ってしまった。
仕方がない。
あとは、一番上の上司が
自分が引き抜いた人だからという偏見を持たずに
きちんと話を聞いてくれることを願うばかりである。





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Last updated  2004.11.10 19:52:51
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