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2017.06.19
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カテゴリ: 観照 [再録]
橋弁慶山
室町通を上がり、蛸薬師通を東に入ると、そこは橋弁慶町。             [撮影時期:2013年7月]
宵山では町家(町会所)の二階が開けはなたれて、注連縄が張られ、牛若丸と弁慶の人形が正装の姿で並べて飾られています。

牛若丸の頭ののど木に「永禄六年六月吉日七条大仏師 康運之作造」と墨書されているそうです。1563年、室町時代です。康運は鎌倉時代初期の仏師運慶の6代目の子孫にあたる人。この仏師は芦刈山の尉殿の頭も造っているとか(天文6年銘)。 (資料1)




そして1階には、 壁廻りに前掛、胴掛 がずらりと並べられ、 黒漆塗で五条橋を模したきらびやかな橋と欄縁が座敷に
巡行日には、橋の細部を眺めることができませんので、宵山でこういう形で見られるのが愉しみなのです。

               橋や欄縁の飾り金具を間近に眺められるのはいいものです。
               鴨川にちなんだのでしょう、波と千鳥の高浮彫の精巧なもの。

この山は謡曲「橋弁慶」から取材しされ、弁慶と牛若丸が五条橋の上で戦う姿です 。当時の五条大橋は、現在の松原橋の位置になるのです。現在の五条大橋の位置は、豊臣秀吉の京都大改造による結果です。まあ、今はこの五条大橋の西側、広い道路の中央分離帯の場所に、御所人形での弁慶・牛若丸像が建てられてはいますが・・・。



巡行当日は四条通で橋弁慶山を見ることができました。

牛若丸は五条橋の欄干、擬宝珠の上に二枚歯の高足駄の前歯ですっくと立ち、橋の上に弁慶が仁王立ちして戦う場面です。そのため通常山に備えられる山籠も真松もありません。見送、見送掛の衣桁ももちろんありません。 山の上を舞台とした風流の趣向を見せた時代の形式を今に伝えるものです。

古来からこの山はくじ取らずという慣例で、後祭行列としては、くじ取らずの先頭、北観音山(曳山)に続く二番目と決められています。

現在の前掛は昭和58年から富岡鉄斎原画の「椿石図」綴錦、胴掛は円山応挙下絵とされる「賀茂祭礼行列図」が使われています。 (資料2)

浄妙山
一つ北の東西の通りが六角通で、室町通から東に入ると、骨屋町。ここに浄妙山があります。
               
町会所はビルで1階に浄妙山の飾り席が設けられます。
全体はこんな風に展示されています。

こちらは平家物語の宇治川の合戦がテーマとなっています。
一来法師が三井寺の僧兵筒井浄妙の頭上を飛び越える一瞬のシーンを山の上に再現するという趣向です。
飾り席の一番奥に2体の人形が並んでいます。背後には宇治川合戦の屏風が立てられています。側面には、胴掛や宇治橋の一部を模した欄干・橋、その前には波濤文が彫刻された欄間が置かれています。この欄間が水引となります。



筒井浄妙坊明秀

巡行当日。四条河原町にさしかかった浄妙山。一来法師は左手だけで固定されているのです。橋にささった矢が合戦の雰囲気を醸し出しています。
この場面、実は同じ三井寺側の僧兵なのですが、一番乗りしたい一来法師が前に居て戦う浄妙坊が邪魔になるので、浄妙坊の甲の手先に手を置いて肩をおどり越えていこうとしているのです。 (資料1)

現在使われている胴掛は、宇治川にちなんだもの。
香雪美術館所蔵、桃山時代の 長谷川等伯を一躍有名にした「柳橋水車図」原画をもとに造られたもの (昭和58・59年製作)です。
以前は、19世紀初期にイギリスでつくられたもの「エジプト風景図」が使われていました。

         前掛は平成19年に新調されたもので 長谷川久蔵原画「桜図」
これは 2012年 に撮ったもの:四条通での巡行と町内に戻る途中の山

後掛は、長谷川等伯原画の「楓図」です
この「桜図」「楓図」は平成18・19年に智積院所蔵の障壁画を原画として新調されました。
以前は、この町内に住んでいた本山善右衛門がつくったという雲龍文「かがり織」が使われていました。

『平家物語』には、「橋合戦の事」の項に次のように記されています。
 ここに乗円房の阿闍梨慶秀が召し使ひける一来法師といふ大力の剛の者、浄妙房が後に続いて戦ひけるが、行桁は狭し、側通るべきやうはなし。浄妙坊が甲の錣に手を置いて、「悪しう候、浄妙房」とて、肩をづんど跳り越えてぞ戦ひける。一来法師討死してげり。 (資料3)
これは、源頼政父子が後白河法皇の第二皇子以仁王 (もちひとおう) を奉じて、平家打倒源家再興を企てた治承4年5月の乱における宇治川での戦いです。平等院に逃げ込んだ頼政を平家の軍勢が追いかけて行き、橋合戦を行ったときのエピソードなのです。浄妙坊・一来法師は頼政側です。
余談ですが、宇治の木幡の丘陵地には、頼政道と称される道があり、平等院には平等院で自刃した頼政の墓があります。 (資料4)

最後に、海北友雪筆「祇園祭礼図屏風」(京都市指定有形文化財)を部分図として引用します。

財団法人八幡山保存会が所蔵されている屏風です。江戸時代の明暦年間(1655~58)に海北友雪が描いたものだそうです。
屏風の金雲で区切られた上段には祇園祭後祭の山鉾巡行、下段には神輿3基の還幸祭が描かれています。

この部分図の右側が橋弁慶山です。それに続くのが八幡山。
この図をご覧いただくと、当時の山が「舁山 (かきやま) 」であり、人々が山をかついでいたのがよくわかります。山の飾り付けも変化してきているということも。

こちらの図の右側が鯉山です。まさに激流を登る鯉の状況ですね。そして、それに続くのが浄妙山です。こちらもかなりシンプルな飾り付けです。 (資料2)
三番手は鷹山と記されています。明応9年の資料に鷹山の名前が出ていますので、かつては存在した山なのです。 (資料1)

時代とともに、山鉾が徐々に豪華絢爛の方向に進展してきたということが理解できます。それだけ京の都の町人が経済力、実力を増していったということなのでしょう。
現在も、山鉾町の人々、関係者により、営々とその維持と継承、新しい懸装品の導入などが行われているのです。祇園祭は過去を引き継ぎ、現在の祭として生きています。そして未来をも視野に入れて、伝統の継承が行われているのです。

それ故に、何十年と飽くことなく見続けているんです。その魅力に惹かれて・・・。

つづく

参照資料
1)『祇園祭細見 山鉾篇』 松田 元 編並画  郷土行事の会発行
2)『写真で見る祇園祭のすべて』 島田嵩志著他  光村推古書院
3)『平家物語 上巻』 佐藤謙三校注  角川文庫ソフィア 巻4、p214
4) 以仁王の挙兵  :ウィキペディア 
源頼政の墓地・扇の芝    平等院マップ :「平等院」ホームページ

【 付記 】 
「遊心六中記」と題しブログを開設していた「eo blog」が2017.3.31で終了しました。
ある日、ある場所を探訪したときの記録です。私の記憶の引き出しを維持したいという目的でこちらに適宜再録を続けています。
再録を兼ねた探訪記等のご紹介です。再読して適宜修正加筆、再編集も加えています。
少しはお役に立つかも・・・・・。他の記録もご一読いただけるとうれしいです。

補遺
橋弁慶山オフィシャルサイト-京都祇園祭
山鉾について 橋弁慶山  :「祇園祭山鉾連合会」
山鉾について  浄妙山  :「祇園祭山鉾連合会」
祇園祭   :「京都新聞」 
橋弁慶  曲目解説 :「銕仙会~能と狂言~」
謡曲「橋弁慶」  :「芸楽まつり」
円山応挙  :ウィキペディア
長谷川等伯  :ウィキペディア
柳橋水車図屏風  :「香雪美術館」
長谷川久蔵  :ウィキペディア
一度きりの親子の競演、『楓図』と『桜図』  :「京都で遊ぼうART」
 京都宝物館探訪記 東山随一の名勝庭園と長谷川派の傑作  智積院宝物館・庭園
富岡鉄斎  :ウィキペディア
山鉾の魅力細見・山鉾由来記  :「京都市下京区」
源頼政  :「千人万首-よよのうたびと-」 
賀茂絵画資料デジタルギャラリー アーカイブ画像リスト  京都産業大学図書館

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Last updated  2017.06.20 21:11:27
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