ウエスト・コーストといっても、当初のドゥービー・ブラザーズは、南部(サザン)ロック色も濃い。1970年に結成されてからしばらくの間のドゥービー・ブラザーズの諸作は、そうしたアメリカン・ロック形成期の貴重なドキュメントであると同時に、軽快でありながら野性味のあるロック・サウンドを創造していたことを如実に示していると感じる。その中でも、筆者がとりわけ"創造的"と感じるのは、1974年発表の本盤『ドゥービー天国(What Were Once Vices Are Now Habits)』である。
上に挙げたように、本作『ドゥービー天国』の原題は、『What Were Once Vices Are Now Habits(かつての悪習は現在の習慣、の意)』である。グループ名になっている"ドゥービー"(マリファナの隠語)のことを言っているわけだろうが、それに加えて、米国におけるロックそのものの進化を暗示するタイトルのような印象も受ける。 本作のハイライトは4.「ブラックウォーター」である。しかし、全体を通して聴いてみると、「ブラックウォーター」が本作全体のカラーを代表するというよりは、むしろ全体の中で異色であり、極論を言ってしまえば、アルバムの中で若干"浮いた"曲であるとの印象を受ける。つまるところ、「ブラックウォーター」は文句のつけようのない名品で、これはこれで筆者としてもドゥービーの楽曲の中では好きな曲の上位なのだけれども、逆説的ながら、この曲だけで本盤の価値は測れない。
1. Song To See You Through 2. Spirit 3. Pursuit On 53rd St. 4. Black Water 5. Eyes Of Silver 6. Road Angel 7. You Just Can't Stop It 8. Tell Me What You Want (And I'll Give You What You Need) 9. Down In The Track 10. Another Park, Another Sunday