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最近、マスコミの報道姿勢が話題にのぼっている。例えば、「週刊新潮」の朝日新聞阪神支局襲撃事件に関する記事、日本テレビの「真相報道バンキシャ!」が放送した岐阜県庁の裏金に関する証言。いずれも誤報だということで決着している。さらに、BPO(放送倫理・番組向上機構)は、NHKが放送した「問われる戦時性暴力」に関し、放送前にテレビ局幹部が政府高官や与党有力政治家に面談し、その後に改変を現場に指示することを批判する意見書を公表している。 NHKのケースは裁判にもなった。2007年1月に東京高裁が言い渡した判決によると、松尾武放送総局長や野島直樹国会担当局長が国会議員などと接触、「その際、相手方から番組作りは公正・中立であるようにとの発言がなされた」ため、「松尾総局長らが相手方の発言を必要以上に重く受けとめ、その意図を忖度(そんたく)してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、直接指示、修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。」 裏付けのない話を報道するべきでないと批判するのは簡単だが、そうした報道姿勢は常態化している。警察や検察の発表やリークを裏付けのないまま垂れ流し、スポンサーである大企業の利益にかなった内容の「報道」を続けているのがマスコミの実態だ。NHKの場合は権力/支配層の意向に反する内容の番組を作ろうとしたため、問題が起こっただけであり、民放にしろ、新聞にしろ、雑誌にしろ、端から「自主規制」で排除され、そうしたテーマの話は編集会議で議論されることもないだろう。 マスコミは「スクープ」を追い求めているというが、権力/支配層からクレームがつくような内容の報道は避けようとする。「スクープすれば褒められるが、あとでトラブルになると社内で孤立し、立場は一気に悪くなる」ので、権力犯罪には目をつぶると話してくれた某大手マスコミの編集者がいる。「コメンテーター」としてテレビによく出演している知人によると、最初に放送局側から言われたことは、「問題発言はしないでほしい」だった。 私の個人的な経験から言わせてもらうと、マスコミは組織的、構造的な問題を嫌がる。例えば、1980年代に大手証券や都市銀行が絡んだ組織的な不正が行われていると話すと露骨に嫌な顔をする記者が少なくなかった。1990年代の前半、情報機関による世界規模の通信傍受や情報収集が問題化したとき、日本でもこの問題を取り上げるべきだという私の提案を受け入れるメディアは存在しなかった。2002年にはイラクへの攻撃を批判することはタブー視されていた。 砂漠の国イラクとジャングルの国ベトナムは違うのでアメリカ軍は簡単に勝てると主張する人もいたが、アメリカ軍の中枢、統合参謀本部の内部には、イラク戦争がゲリラ戦になり、泥沼化すると予測する将軍がいた。戦争のメリットがないということで、石油産業につながる政治家の中からも戦争に反対する声が聞こえてきた。当時、イラク、そしてイランを攻撃するべきだと叫んでいたのはネオコン/シアコン、つまり親イスラエル派だ。私も開戦は避けるべきだという趣旨の原稿を書いたのだが、相手にされなかった。 イラクに対する先制攻撃が実行される前、アメリカの大手メディアが偽情報を撒き散らし、日本のマスコミもその片棒を担いだわけだが、誤報だと明確になってもきちんと訂正せず、謝罪もせず、責任を取ろうとしていない。開戦直前、インターネット上でも「戦争カルトの信者」が興奮状態だったことを思い出す。暴力で問題を解決するという点で、彼らの発想はゴロツキと似ている。ジョージ・W・ブッシュ大統領を担いでいたネオコンも同類。そのネオコンはイラク戦争の前、偽情報に基づく群集心理のコントロールを試み、成功した。嘘と暴力はセットになっている。
2009.04.30
豚インフルエンザや某タレントの酔っぱらい騒動もあってか、小沢一郎の秘書逮捕を忘れた人もいるようだが、この問題はまだ解決されていない。企業がカネを出すのは見返りを期待しているからだと声高に言う人もいるが、それは最初からわかっていることである。そうした献金が政治を歪めていることも事実だろうが、そうしたシステムが容認されてきたことも事実だ。多くの人が指摘しているように、この問題と秘書逮捕の問題を混同するべきではない。 警察、検察、そして裁判所が国家システムの一部である以上、権力層/支配層と結びつくのは必然であり、法律が彼らに都合良くできているのは言うまでもないこと。その法律を権力層/支配層にとって都合良く運用するのも当然だろう。戦前も戦後も大きな変化はない。 実際、彼らは法律を自分たちに都合良く恣意的に解釈し、治安を維持するため、つまり自分たちに都合の良い体制を守るため、目障りな組織や個人を攻撃してきた。「体制の打倒」を掲げる団体だけでなく、戦争に反対して平和を求めたり、人権を大切にしろ、環境を破壊するなと主張する人々も捜査当局の恣意的な法律解釈で攻撃されてきた。ただ、最近は攻撃のターゲットが「左翼」だけでなく、かつては体制派と見られていた人たちにも広がってきていることは確かだ。それだけ現体制が揺らいでいることを示している。 そうした警察、検察、裁判所の体質が戦前から戦後まで変化せず、続いていることを教えてくれるのが「横浜事件」である。雑誌「中央公論」の編集者など60名以上が治安維持法に違反した容疑で特高警察に逮捕され、30名以上が有罪判決を受け、そのうち4名が拷問で獄死している。釈放直後に獄中の心神衰弱が原因で死亡している人も何人かいた。 事件は1942年に始まる。外務省と密接な関係にある世界経済調査会の川田寿が妻の定子とともに逮捕されたのだ。1930年にアメリカへ渡った際、共産党関係の活動をした疑いだったのだが、その交友関係から同調査会の益田直彦が1943年1月に、高橋善雄が同年5月に逮捕され、さらに満鉄関係者へ捜査の手は伸びていく。 その一方、1942年には雑誌「改造」に掲載された論文「世界史の動向と日本」を書いた細川嘉六が検挙され、捜査の過程で写真が発見される。細川の著作『植民史』の刊行記念で催された会食の際に撮影されたもので、細川や満鉄の関係者のほか、中央公論や改造など出版関係の人たちが写っていた。特高警察はこの会食を「共産党再建準備の謀議」だと「想像」し、会食の出席者を逮捕していく。 特高警察のトップは内務省の警保局長だが、1943年に局長となったのが町村金五であり、同じ年に内務次官となったのが唐沢俊樹。戦後、町村も唐沢も国会議員に選ばれている。事実上、横浜事件をでっち上げ、拷問で4名を殺害した責任者はこのふたり。このふたりが戦後、国会議員に選ばれたことも戦前と戦後の連続性を示している。なお、現在、自民党に所属している町村信孝は金五の息子だ。 横浜事件には裁判所も深く関与しているため、この事件に裁判所も触れたくないのが本音だろう。だからこそ、事件を解明する道へは進まず、「免訴」で逃げたのである。小沢一郎の秘書逮捕と横浜事件を結びつけることを拒否する人たちもいるだろうが、権力システムの動きに注目するならば、同じ流れの中で起こっていると言わざるをえない。
2009.04.28
メキシコとアメリカの国境線地域で「豚インフルエンザ」に1000人以上が感染、100人を超す死者が出ていると報道されている。WHOも「緊急事態」だと認定しているのだが、このショックは権力層にとって好都合な「目眩まし」として機能しつつあることも否定できない。経済システムの破綻が明らかになってから自分たちの強欲さを庶民に知られ、怒りの矛先を向けられ、体制の崩壊もありえる事態になっていただけに、好都合だということだ。「神風」が吹いたとも言えるだろう。 アメリカをウォッチしている人なら覚えているだろうが、1990年代の前半にニュー・メキシコのあたりで12名の先住民が原因不明の「奇病」で死亡したことがあった。そのときに注目されたのが先住民保留地。ヨーロッパからの移民に先住民の大半は殺されたのだが、わずかに生き残った人たちの子孫が押し込められている地域だ。ここは一種の自治が認められていて、捜査機関は簡単に踏み込めない。そこで、情報機関の一部は極秘の工作や研究の拠点として利用、ロサンゼルスの東にもそうした保留地が存在している。 勿論、奇病と先住民保留地とを結びつける証拠があるわけではなく、単なる「噂話」の域を出ないのだが、その保留地でトラップ・ドアを組み込んだコンピュータ・システムが全世界で売られ、武器が製造されていたことは報告されている。秘密工作の拠点としても利用されていた。こうした保留地の役割は「イラン・コントラ事件」の調査で明るみに出たのである。 世間では、この手の疑惑は自動的に「トンデモ話」だとされることになっている。その典型例が「エイズ」に関するもの。1980年代から「生物兵器説」が流れているのだが、これは荒唐無稽な話であり、ソ連の情報機関が流した偽情報だと「善良なる知識人」も主張している。 しかし、1969年に開かれたアメリカの下院予算委員会における公聴会で国防総省の国防研究技術局の副局長は、伝染病からの感染を防ぐための免疫や治療のプロセスが対応困難な「伝染性微生物」が1974年から79年の間に出現すると予告していた。エイズの出現を予言していると注目されている証言はこれだ。この発言は日本の国会図書館でも確認できるが、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)にも書かれているので興味があれば一読を。 こうした出来事があったことは事実だが、豚インフルエンザが人間に感染するまでのプロセスは明らかになっていないことも確か。ただ、体制崩壊におびえる権力者たちが今回の騒動を最大限、利用しようとすることは間違いない。
2009.04.27
今回は、日本の現状について考えてみた。 日本では労働に見合った対価も,能力に見合った対価も支払われていない。能力を引き出し、発揮するためのチャンスすら庶民は奪われつつある。結局、何らかの「閥」や家の財力で特権的なポジションを得られるかどうかで社会的な地位、そして報酬は決められる。このシステムが日本を破局へと向かわせているのだが、不公正、不平等なシステムの恩恵を受けている支配層は意に介さない。 巨大企業や官僚組織を観察していると、能力のある人間は出世しない。これは私の個人的な意見ではないだろう。何らかの形でそうした組織を調べている人は異口同音に言う。要するに、上司に胡麻を擂るだけの人間が出世していく。上司にしてみても、能力のある部下は早晩、自分のライバルになる。潜在的ライバルは早めに潰しておこうとする。 それでも、企業が余裕を持って社員を抱えている時代は、能力のある人間がいたのでよかったのだが、「合理化」や「リストラ」でそうした人々が追い出されると、残るのは無能な人間だけ。それでも優秀な下請け企業群が健在ならば、そこに仕事を押しつけて利益だけは自分たちで独占するという芸当もできたのだが、中小企業が今のように疲弊してくるとそれも難しい。 1970年代のオイルショックで企業の業績が悪化した後、少なからぬ大企業の経営者はエンジニアの採用を大幅に減らし、中には採用を取りやめた企業もあった。エンジニアは一人前になるまでに10年程度は必要だと言われているので、10年後にエンジニアがいなくなるぞという警告があったのだが、愚かな経営者たちには危機感がなかった。そしてエンジニアが不足することになる。 その当時、「合理化」と称して生産活動を維持するギリギリの水準まで人員を削減したのだが、その結果として「過労死」が問題になる。その水準からさらに「リストラ」で人員を削減したならば、当然のことだが、生産活動を維持できない。そこで「非正規雇用」を拡大させたのだが、その結果として日本社会を維持することが困難になっていることは言うまでもないだろう。 そうした歪みの「緩和装置」として機能してきたのが医療機関なのだが、それにも限界があり、医療システム自体に歪みが生じてしまった。そこで、日本の支配層はマスコミを使って医療機関を攻撃、大企業が生み出した歪みは直接、社会に影響を及ぼすようになって無残な社会保障の実態が表面化している。 1980年代から「規制緩和」と「民営化」が叫ばれるようになり、「小さな政府」つまり社会保障システムの破壊をマスコミも宣伝するようになっていたが、その当時、ある天才的な相場師(マスコミに登場するような偽者ではない)はこんなことを言っていた。「福祉とは社会的な弱者を救済するシステムなのであり、カネ儲けできるはずはない。もし、福祉をビジネスにするならば、それは必然的に詐欺になる。」 また、同じ時期に某大手証券の部長は「日本からアメリカへ資金が流れるパイプが作られようとしている。これができたら、資金の流出を止めることは不可能になる」と懸念していた。 最近、「貧困ビジネス」が話題になっているが、現在の日本はその相場師が予言したような形になっている。中曽根康弘政権が種を蒔き、小泉純一郎内閣が花開かせた不公正で非情な社会システムで日本は沈没しそうなのである。この状況を改善させるためには、労働に見合い,能力に見合った対価を大企業が支払わなければならない。 最近、アメリカの軍事負担を軽減するため、ソマリアへの派兵を突破口にして「集団的自衛権」を行使できるようにするべきだと再び叫び始めた政治家もいる。郵政民営化や金融機関の再編で資金をアメリカへ移動させようとする動きも続いている。破綻したアメリカのシステムを支えるために日本人の資産を使ってはならない。
2009.04.26
23日に衆議院の本会議で「海賊対処法案」が可決された。ソマリア沖に派遣されている海上自衛隊の活動に根拠を与えるのだというが、その実態はアメリカの軍事力を保管する役割を拡大していく一里塚にすぎない。そもそもソマリアの状況を悪化させた最大の責任者はアメリカ政府だということを忘れてもらっては困る。 本コラムでは既に指摘している話だが、もう一度簡単にソマリアで「海賊行為」が多発するまでの流れを振り返ってみる。 ソマリアが戦略的に重要な場所に位置していることは地図を見れば一目瞭然である。インド洋から紅海を経てスエズ運河を抜け、地中海へ入るための入り口に面しているため、このルートを確保したい人、組織、あるいは国は自分の支配下に置きたいと考える。このルートが封鎖されると船は南アフリカの喜望峰を回らなければならなくなるからだ。 ソマリアはイスラムの影響下にある国で、アメリカの親イスラエル派でもあるキリスト教系カルト(原理主義者)から見ると「異教徒の国」でもある。つまり、戦略的な意味合いだけでなく、宗教的な面からもソマリアを制圧したいという欲望がアメリカには存在している。 例えば、1993年にアメリカ軍が軍事介入した。その時、首都モガディシュで激しい戦闘が繰り広げられ、アメリカ軍のヘリコプターが撃墜されて20名近い米兵が戦死、ソマリア側は数百名が殺されている。このときの話を映画したのが「ブラックホーク・ダウン」だ。 この戦闘に特殊部隊「デルタ・フォース」のウィリアム・ボイキン中将も参加しているのだが、後に彼はモガディシュで「奇妙な暗黒の印」を見つけたと公の場所で話すようになる。「邪悪な存在、暗黒のつかいルシフェルこそが倒すべき敵なのだと神は私に啓示されました」というのだ。 この発言が注目された理由は、ジョージ・W・ブッシュ大統領が彼を国防副次官に据えたからである。このイスラムを敵視するカルトの狂信的な信者はイラクで掃討作戦を指揮するようになる。イスラム教徒を殲滅しようと考えていた人間が指揮する軍事作戦がどういう事態を招くか、言うまでもないだろう。 ソマリアへの直接介入に失敗したアメリカは現地の反イスラム勢力を利用することにする。イスラム勢力と戦う武装組織にCIAは秘密裏に、毎月10万から15万ドルを渡していたのだ。資金はジブチに駐留中していた米国防総省のJCTF(統合連合機動部隊)を介して渡されていた。 しかし、この作戦は失敗してイスラム勢力がソマリアを支配するようになる。これが2006年当時の状況。そこでエチオピア軍が登場し、イスラム勢力を首都から一掃することに成功した。が、予想されたように、これは戦術的な撤退にすぎなかった。アフガニスタンやイラク、あるいは日本軍に攻め込まれた中国でも採用された戦術である。 その結果ソマリアは混乱し、「海賊行為」が増えたわけだが、そうした状況を作り出したのはアメリカだということを再確認しておく。その後始末に日本も参加しているのだ。政治力も経済力もなくしていたアメリカだが、ブッシュ政権の時代に軍事力の脆弱さも露呈した。「海賊対処法案」が可決された日に自民、公明両党が「衆院憲法審査会」の定数や議決要件を定める「規定」案提出の動議を衆議院の議院運営委員会に出したのは象徴的だ。改憲を急ぐ理由は、郵政民営化を強行しようとする理由と重なる。
2009.04.24
あまりイスラエルのことばかりを書きたくないのだが、いろいろな出来事が立て続けに起こるので、もう少しつきあってほしい。 ガザへの攻撃は何ら国際法に違反していないとイスラエル軍は自らが作成した報告書の中で主張している。国連施設を破壊し、医療関係者や医療施設を攻撃し、アラブ系住民の住居を破壊し、白リン弾も使用して1300名以上の住民を殺し、4000名以上を負傷させたイスラエル軍は道徳的な水準が高く、作戦は倫理的だとエーウド・バラク国防相は言ってのけた。 すでにイスラエルの残虐行為は様々な形で明らかにされ、国連もガザ戦争の調査を予定している。イスラエル軍はこれまで何度もアラブ系住民に対する破壊と殺戮を繰り返してきた。今回のガザ侵攻がはじめてではない。イスラエルに対する非難の声があがっている一因はメディアを介さずに情報が流れるようになったことに加え、イスラエルの立場が弱くなったことが影響している。1980年代に入り、欧米の「旧支配層」とイスラエルや新保守のような親イスラエル派の利害が衝突するようになり、ジョージ・W・ブッシュ政権の暴走が両勢力の対立を決定的にしたのだ。 イスラエル軍による「戦争犯罪」を調べるために編成された独立調査団を率いるのは南アフリカの判事リチャード・ゴールドストーンで、そのメンバーは4名。その中にはパキスタン、イギリス、アイルランドの専門家が含まれているのだが、このチームによる調査に協力しないとイスラエル政府は繰り返している。自分たちの行為に自信があるならば協力すればいいはずだが、そうはいかないだろう。 イスラエル政府はパレスチナのアラブ系住民を壁の中に押し込め、兵糧攻めしてきたことは前にも指摘した通り。さらに、様々な形で挑発を繰り返して反撃を誘い、ひとりでも「イスラエル人」が犠牲になれば全面攻撃を仕掛け、徹底的な破壊と殺戮を展開するというパターンを繰り返してきた。 そうした攻撃でイスラエル軍はアラブ系住民の住居を徹底的に破壊する。住居を破壊することで生活を立て直すのに何世代も必要になり、抵抗のエネルギーを削ぐことができるとイスラエル政府は考えているようだ。ベトナム戦争でアメリカ軍は村民を殺すだけでなく、共同体を破壊しようとしていたが、考え方は似ている。
2009.04.23
アメリカ下院のジェーン・ハーマン議員とイスラエルとの関係を示す盗聴記録の存在が浮上している。イスラエルのスパイ事件の裁判を中止させるように動いたというのだ。ハーマン議員とイスラエルとの関係については2006年に発覚しているが、司法省は調査を止めていた。 さて、そのスパイ事件とは、イスラエルのロビー団体AIPACを舞台としたもので、国防総省の分析官だったローレンス・フランクリンがこのロビー団体へ機密情報を流し、その情報がイスラエルへ伝えられたと言われている。AIPACのスティーブン・ローゼンやキース・ワイツマンも逮捕されている。 フランクリンはダグラス・フェイス国防次官の下で働いていた人物で、ネオコンとも深い関係にあった。当時の国防副長官はポール・ウォルフォウィッツであり、国防長官はドナルド・ラムズフェルドである。つまり、AIPACのスパイ事件を掘り下げていくと、アメリカのイスラエル人脈や戦争人脈との全面衝突にもなりかねない。 FBIに傍受された電話による会話の中で、ハーマンはAIPACの起訴に関して政府高官と話し合う意志を示し、その代償として親イスラエル派からの寄付と下院情報委員会の委員長に就任する手助けをしてほしいと求めているのだという。もし、この取り引きが成立してハーマンが情報委員会の委員長になっていれば、彼女はアメリカの機密情報に接する機会が増えていただろうが、そうなってもイスラエルとの関係が切れるはずはない。 AIPACのスパイ事件で被告側の弁護団はジョージ・W・ブッシュ政権を動かしていた政府高官、つまりウォルフォウィッツやフェイスのほか、コンドリーザ・ライスやステファン・ハードリーを召還する予定らしいが、それだけでなく、被告が流したとする機密情報の提出を求め、アメリカに損害を与えたことを証明するように求めるはずである。 こうした要求はこの種の裁判でよく使われる手法。もし、アメリカの情報機関が行ってきた「不適切な行為」が漏洩情報の中に含まれていた場合、情報の公開は困難になり、裁判の継続は厳しいものになる。被告がイスラエル関係の人間でなければ情報の公開を制限して厳罰に処すこともできるだろうが。 イスラエルにとって、裁判よりも頭の痛い問題は報道かもしれない。アメリカのメディアは腰が引けているのだが、ヨーロッパではイスラエルにとって都合の悪い話も報道されることがある。そのためか、BBCの監督機関であるBBCトラストは同放送局の中東関連の報道に問題があると表明している。イスラエルを批判する内容の報道が気に入らないようだ。 先日、ジュネーブで開かれた「人種差別反対世界会議」にはイスラエル批判が飛び出すことが予想されたためにアメリカなど9カ国が欠席、イギリスやフランスなどの20カ国以上のヨーロッパ諸国がイラン大統領の演説が始まった直後に退席している。支配層の世界ではイスラエルの影響力はまだ強いようだ。 しかし、演説中に代表が退席しなかったノルウェーでは、ガザへの軍事侵攻で戦争犯罪があったとして、何人かの法律家がイスラエルのエーウド・オルメルト前首相らを訴えようとしている。草の根で広がっているイスラエル批判は消えそうにない。
2009.04.22
ジュネーブで開催された国連の「人種差別反対世界会議」をボイコットした9カ国はイスラエルとアメリカのほか、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランドだったが、イラン大統領が演説をしているときに退席した国の名前も判明した。イギリスやフランスのほか、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、ギリシア、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、キッツ・アンド・ネイビスである。 キッツ・アンド・ネイビスは西インド諸島にある英連邦王国のひとつだが、そのほかはヨーロッパの国々。そうした中、退席しなかったヨーロッパの国、ノルウェーをアメリカの法律家、アラン・ダーショウィッツは攻撃している。ノルウェーの外相はイラン大統領の演説を批判していたのだが、退席しなかったのが反イスラエル的だということのようである。 さて、このダーショウィッツはハーバード大学の教授で、イスラエルの熱烈な擁護者として有名。イスラエルのパレスチナ人弾圧を激しく批判している学者、ノーマン・フィンケルスタインをデポール大学から追い出すため、各方面に働きかけたことでも知られている。ちなみに、フィンケルスタインの母親はマイダネク強制収容所、父親はアウシュビッツ強制収容所を生き抜いた経歴の持ち主。言うまでもなく、本人も「ユダヤ系」である。 ダーショウィッツが攻撃している相手はフィンケルスタイン以外にもいる。南アフリカのアパルトヘイト政策(人種隔離政策)と戦ったデスモンド・ツツを「人種差別の偽善者」だと罵倒したのである。現在、イスラエルはアパルトヘイト国家とも呼ばれているわけで、ダーショウィッツがツツを罵るのは当然かもしれない。ツツにとっては名誉なことだろう。 イスラエルがアパルトヘイト国家と呼ばれる一つの理由はアラブ系住民を隔離している巨大な壁にある。こうした壁の建設に抗議する平和的なデモが17日にヨルダン川西岸にあるビリンで行われたのだが、その参加者がイスラエル兵に射殺された。 イスラエル側は「暴力的なデモだった」と主張しているが、銃撃される前後の様子がYouTubeで公開され、その嘘が明らかになってしまった。少なからぬ子供が参加した穏やかなデモだったことは映像から見る限り、明らかだ。これがイスラエルである。
2009.04.21
マスコミがプロパガンダ機関なら、学校は洗脳機関。両機関とも支配グループにとって国民を操る重要な仕組みである。その学校で「教員免許更新制」なるものが導入されようとしているが、この制度も国民を操作するため、権力に批判的な教員を排除することが目的だと理解するべきだろう。 勿論、教育が支配システムの一部である以上、権力層にとって都合の良いことを学校で教えるのは当然で、洗脳されたくないならば、学校を全面的に信頼してはならない。所詮、学校はそんな程度の存在であり、学習は自らが行うべきなのだ。 1960年代の後半、日本でも大学紛争が激しくなる。ベトナム戦争が泥沼化、安保条約の改定が目前に迫り、大学内部の不正も発覚してのことだ。が、1970年代に入ると様相は一変する。この闘争に参加した多くの学生が卒業前に素早く「転向」、おとなしく就職している。 要するに、本気で戦っていた学生は少数にすぎなかったのだろう。が、表面だけでも体制に刃向かう多くの学生が存在したことは支配グループにとって脅威だったはず。そこで、1970年代に入ると政治家や官僚の学校に対する介入が強まり、教育内容の締め付けが厳しくなっていく。彼らが採用する教員を思想で選別しようと考え、コネで選ぼうとしても不思議ではない。その延長線上に大分県の教員採用をめぐる事件がある。 大分県の場合、長年にわたって大分経済同友会が面接官を出していた。ここにも日本における教育行政の実態が現れている。企業出身の面接官が企業にとって都合の良い人物を好ましく思うのは当然のことで、企業の論理が教育の世界に持ち込まれることになる。 言うまでもなく、企業とはカネ儲けを目的とする組織である。証券取引所に上場している株式会社の経営者は自分たちの報酬を膨らませ、大株主を儲けさせるためなら会社を破壊することも厭わない。社会システムの崩壊など気にもしない。学校は「カネが全て」という人間を生み出す装置になってしまうということだ。 勿論、こうした厳しい締め付けが行われているのは、庶民が通う公立の学校。国立大学の付属や一部の有名私立は「自由な校風」が生きていて、管理は緩い。少し気の利いた親で金銭的に余裕があるならば、国立や私立へ子供を通わせようとするだろう。 権力に刃向かわない人間を作ろうとした結果、自分で考える力のない人間が増えてしまった。それが現在の状況。学力の低下は国策によってもたらされたのである。言うまでもなく、「教員免許更新制」や学力テストで学力が高まることはない。日教組も関係ない。 大分県で問題が表面化したのも「コネ採用」路線が行き詰まったことを示しているわけだが、さらに教員の大量退職という問題もある。不安定な立場の非常勤教師を増やすといっても限度がある。つまり、教員の新規採用を増やさなければならない状況になってきているのだが、支配グループにとって最大の問題は、自分たちにとって都合の悪い教師を排除する仕組みをどのように作り上げるかということだろう。そこで登場したのが「教員免許更新制」である。現在の学校に支配グループが恐れるようなタイプの教師はほとんどいないと思うが、それでも万一の場合に備え、教員を排除する仕組みだけは作っておきたいはずだ。 すでに、教育や報道、つまり洗脳やプロパガンダの影響は日本中に及んでいる。既存のメディア、つまり新聞、雑誌、放送だけでなく、インターネットの世界でも人々の視野は自国の外へ広がらず、歴史にも無頓着である。戦前は教育や報道のうえに宗教があった。つまり、「天皇教」を国民に叩き込み、カルト的な手法で庶民を操ったのだが、その影響は今でも残っている。体制内部の「空気」を呼んで成り行きに任せるだけの人間が増えれば、日本の破滅が待っている。
2009.04.21
ジュネーブで開かれている「人種差別反対世界会議」でイランのマフモウド・アフマディネジャド大統領が演説、ヨーロッパやアメリカから送り込まれた移民がパレスチナを占領して人種差別政府を樹立したと主張した。 イラン大統領の演説が始まると「西側諸国」の代表30名ほどが退席して抗議、その中にはフランスやイギリスも含まれていた。イスラエルやアメリカの意向を受けて、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといったアングロサクソン系の国やドイツ、イタリア、オランダ、ポーランドは会議に出席していない。会議をボイコットしたのはこの程度の国にとどまったとも言える。 イランの大統領は「イスラエル」という国名を使わなかったようだが、人種差別政府がイスラエル政府を指していることは明らかだろう。パレスチナからアラブ系住民を武力で追い出した上でイスラエルが作り上げたという事実は否定できない。その後、アラブ系住民を差別、弾圧、殺害してきたことも否定できない事実だ。 パレスチナ人とイスラエル人の軍事力を比較すると、イスラエルが圧倒していることは言うまでもない。イスラエルは世界有数の核兵器保有国でもある。事実上、パレスチナ紛争はイスラエルが一方的に攻撃しているのだ。そして現在、イスラエル政府は巨大な壁の中にアラブ系住民を押し込み、兵糧攻めにしている。これをアパルトヘイト政策と呼ぶ人もいるが、強制収容所に限りなく近い存在にも見える。 覚えている人も少なくないだろうが、かつて、「西側」の有力メディアはアフマディネジャド大統領の発言を誤訳して非難したことがある。つまり、「エルサレムを占領しているこの体制は歴史のページから消え去るだろう」という予言的な発言を「イスラエルは地図から消し去られるべきだ」という攻撃的な内容に変えて報道、脅威を煽ったのである。イスラエルが人種差別国家だということを否定できないため、この誤訳を持ち出してイスラエルを擁護、イランを攻撃する意見もあるが、これは話にならない。 未だに「反セム主義」や「反ユダヤ主義」という呪文をイスラエルや親イスラエル派は使っているようだが、イスラエルはシオニストが作り上げた国であり、「ユダヤ」はシオニストが隠れ蓑に使っているにすぎない。シオニストはナチスの犠牲になったユダヤ教徒を冒涜しているとも言える。そもそも、セム族の中にはアラブ人も含まれている。シオニストについてはすでに触れているので、今回は割愛する。 今回の会議にはイスラエルやアメリカの意向を受けて欠席した国や、イラン大統領の演説中に退席した国が存在するのだが、こうした会議でイスラエルの実態が議論になること自体が大きな変化を感じさせる。
2009.04.20
今日(20日)からジュネーブで開かれる国連主催の「人種差別反対世界会議」の再検討委員会にアメリカ政府は参加しない。イスラエルにとって都合の悪い議論に加わりたくないということのようだ。 昨年、イスラエル軍はガザ地区に軍事侵攻、非武装のアラブ系住民を多数殺害しただけでなく、国連施設も破壊した。現在、世界的に戦争犯罪でイスラエル軍を裁くべきだとする意見も湧き起こっているのだが、そうした雰囲気が会議にも反映されることは避けられず、アメリカ政府としては逃げるしかなかったのだろう。 言うまでもなく、軍事侵攻の前からイスラエル政府はアラブ系住民の居住地を「壁」で隔離し、生産活動を困難にしただけでなく食糧の流入を厳しく規制してきた。つまり、兵糧攻めしてきたのである。戦争で最も残虐な戦術はこの兵糧攻め。ミサイルや銃による殺戮だけが問題なのではない。こうしたイスラエルの政策をアメリカは擁護してきた。 バラク・オバマ大統領は「ハード・ネオコン」の共和党候補や「ソフト・ネオコン」のヒラリー・クリントンに比べ、イスラエルとは距離があるのだが、それでもイスラエルから自由であるわけではない。実際、組閣を見ても親イスラエル派に配慮していることがわかる。 オバマ大統領が大統領主席補佐官に任命したラーム・エマニュエル下院議員は大統領と同じでシカゴを基盤にしているのだが、イスラエル市民としての一面もある。彼の父親はメナヘム・ベギンのイルグンに加わっていたが、この組織はシオニストの武装グループであり、IZL(イルグン・ツバイ・レウミ)の通称である。筋金入りの親イスラエル派だということだ。クリントンを国務長官に据えたのも、イスラエルへの配慮かもしれない。 ところで、イスラエルとはシオニストの国である。シオニストとは、シオニズムを信じる人々であり、シオニズムとはエルサレムにある丘「シオン」(ソロモンが神殿を建てたと言われている)へ戻ろう、つまりパレスチナに「ユダヤ人の国」を建設しようという運動を意味している。 近代シオニズムは、ハンガリーのブダペストに生まれたセオドール・ヘルツルが1896年に始めたとされているのだが、その200年以上前、1620年にメイフラワー号でヨーロッパからアメリカ大陸へ渡った「ピルグリム(巡礼者)・ファーザーズ」の中にもシオニストはいた。勿論、ピルグリムとはプロテスタントの一派、つまりキリスト教徒である。 ちなみに、このピルグリム・ファーザーズは自分たちこそがアメリカを開拓する使命を神から授かった人間だと信じ、先住民は野蛮で未開の「サタンの息子」だと考え、先住民を大量虐殺してアメリカの基盤を築いた。イスラエル建国の話とよく似ている。そう言えば、特定の集団をある地域に移住させ、先住民を追放するという手法はナチスも採用していた。 ユダヤ系の学者ノーマン・フィンケルスタインも指摘しているように、現在、ガザ地区やヨルダン川西岸で武力衝突が続いている最大の原因はイスラエル建国の際、予定した土地を占領できなかったことにある。占領できなかった土地から住民を追い出せないと考えたのか、今では巨大な塀で隔離しているわけだ。ナチス方式から南アフリカ方式へ切り替えたとも言えるだろう。 シオニストがアラブ系住民の追い出しを本格化させるのは1948年4月に入ってから。国連安全保障理事会がパレスチナ停戦案を採択した3日後、4月4日にシオニストは先住民を追い出すため、「ダーレット作戦」を始動したのだ。この軍事作戦の中で、デイル・ヤシン村に住むアラブ系住民254名を虐殺している。「殺されたくなければパレスチナから出て行け」というメッセージだったわけだ。 実際、このときに多くのアラブ系住民が逃げ出して難民化した。作戦が始まる前にアラブ系住民は約140万人いたのだが、そのうち42万3000人がガザやトランスヨルダンに移住、85万4000人が難民キャンプでの生活を始めている。この間、アラブ諸国は事実上、アラブ系住民を見殺しにしていた。アラブ諸国とイスラエルが軍事衝突するのはイスラエル建国の翌日、5月15日からである。 こうした流れの中、国際連合調整官でスウェーデン人のフォルケ・ベルナドッテ伯は軍事衝突を終息させようと乗り出し、パレスチナ難民の帰還を認めようとした。そのベルナドッテ伯は9月17日、フランス人のアンドレ・セロー大佐とともに、エルサレムの近くでシオニストに暗殺された。最初からイスラエルは国連を尊重などしていない。イスラエルを放置した状態で「人権尊重」など空疎な言葉遊びである。アメリカはラテン・アメリカやアジアでも自分たちの利権にとって障害となる人々を虐殺してきた。 実は、イスラエルが建国された当初、アラブ系住民はシオニストとユダヤ教徒を分けて考えていた。敵はユダヤ教徒でなくシオニストだと理解していたのである。が、アメリカなどがシオニストによる残虐行為を黙認、その一方でアラブ系住民の犠牲者が増え続けた結果、アラブ系住民の憎しみはユダヤ教徒全体に広がってしまった。問題を複雑化した責任が自国にもあるということをオバマ大統領は認識する必要がある。
2009.04.20
ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代にアメリカ政府高官だった6名を、スペインの検察当局は拷問の容疑で起訴しようとしていたのだが、同国の検事総長はそうした捜査を行わないと言明した。違法行為があったならば、アメリカで裁かれるべきだと主張しているのだが、実際は政治的な配慮で人権の侵害に目を瞑ろうとしていると見られている。 スペインの法律では、拷問、戦争犯罪、あるいは凶悪犯罪の場合は国境を越えて法律を執行できると定められている。実際、スペインの検察当局はチリに君臨していたオーグスト・ピノチェトの起訴を試み、ロンドンで拘束するところまでは成功している。 ピノチェとはヘンリー・キッシンジャーを後ろ盾にして、CIAの支援を受けて軍事クーデターを実行、多数の反体制派を国の内外で殺害した独裁者。ピノチェト時代、チリでは100名近くのスペイン人も行方不明になっている。 さらに、1976年から83年にかけてアルゼンチンで展開された『汚い戦争』にもスペイン当局はメスを入れようとしていた。アルゼンチンではスペイン市民320名も犠牲になったと言われている。こうした虐殺の背景には、ラテン・アメリカの軍事独裁政権が築いた暗殺ネットワークも関係していた。 ブッシュ政権の時代にスペインとアメリカとの関係は悪化、バラク・オバマが大統領に就任したことを受けてスペイン政府は両国の関係を修復しようとしているのだろう。が、検事総長の発言は人権侵害や戦争犯罪に反対する人々を失望させた。 戦争犯罪ではイスラエルも注目されている。同国軍によるガザ侵攻で非武装の住民や国連の施設を攻撃するなどイスラエル軍は残虐行為を繰り返したと報道されている。国連も乗り出しているのだが、イスラエル政府は戦争犯罪の調査に協力しないと言明している。一兵士の行為はイスラエル軍の中枢につながり、政府の責任も問われることになりかねないわけで、当然の反応だろう。 これまでイスラエル軍の残虐行為は大きく取り上げられることが少なかった。「人権擁護団体」も含め、見て見ぬふりをしてきたのだが、ブッシュ政権を支えていた親イスラエル派のネオコンが暴走してからイスラエルの立場は微妙になった。スペインの検察当局が摘発しようとしたアメリカ政府の高官6名もネオコンである。 イスラエルはグルジア政府の内部にも食い込み、南オセチアへの奇襲攻撃に関与した疑いがある。そのグルジアでは政府に対する抗議活動が激しくなり、同国の近くではNATO軍が軍事演習を計画、ロシアを刺激している。 過去を振り返ってみると、1980年代にイスラエルは朝鮮からカチューシャ・ロケット弾を大量に買い付け、イランに転売していることを思い出す。ネオコンは朝鮮に対して先制攻撃を加えようとしたと言われているが、その一方でイスラエルと朝鮮にはビジネス上の関係がある。拷問にしろ、ガザ地区での戦争犯罪にしろ、中央アジアの緊張にしろ、朝鮮にしろ、キーワードは「イスラエル」である。
2009.04.17
バラク・オバマ大統領がアメリカをファシズムに導くという主張は言うまでもなく、間違っている。何しろ、ジョージ・W・ブッシュ政権によって、アメリカは既にファシズムの領域へ踏み込んでいるからである。前政権がアメリカをファシズム化したという事実を認めたくない手合いの妄言だということだ。 ブッシュ政権がある種の容疑者、あるいは捕虜に対して組織的な拷問を繰り返してきたことは否定できない事実である。「拷問」の定義を自分勝手に変えてみたところで、この事実は揺るがない。 「テロとの戦争」で拘束したイスラム教徒に対して「敵戦闘員」という「御札」を貼り付け、捕虜や容疑者としての権利を認めないだけでなく、暴力的な取り調べを行い、殺してしまったケースもあるとされている。そうした中、バラク・オバマ政権は拷問の証拠を隠滅するのではないかとする声が聞こえてくる。 実は、スペインの検察当局がブッシュ政権の高官6名、つまり司法長官だったアルベルト・ゴンザレスをはじめ、ジェイ・バイビ-、ジョン・ユー、ウィリアム・ハインズ、デイビッド・アディントン、そしてダグラス・フェイスを起訴しようと動いている。拷問などの証拠が残っていると、本当にアメリカの元政府高官がスペインで起訴される恐れがある。オバマは「ブッシュ的なるもの」を否定する人物として大統領に選ばれたわけだが、支配体制側の人間であることは動かせない。支配体制を揺るがせるようなことは阻止することが要求されているはずだ。 勿論、アメリカ国内でも特別検察官を任命してブッシュ政権の違法活動を調べるべきだと主張するする人々がいるのだが、権力システムという厚い壁が存在し、その実現を阻んでいる。ブッシュ政権が実行した違法行為は拷問や拉致だけでなく、憲法の規定を無視した盗聴、家宅捜索、拘束などもあり、どこまで事件が広がるかわからない。オバマ大統領を担いだ権力層のメンバーにとってもデリケートな問題だ。内部抗争が一線を越えると権力システムを崩壊させる可能性もある。 法律を無視した盗聴、捜索、拘束が横行しても「テロ」を防げるなら結構だという人もいるようだが、アメリカでは戦争に反対し、平和を求めている人たちがターゲットになっている。自分たちの利権を維持、あるいは拡大するために不都合な人間や組織を排除する口実として、かつては「アカ」、1970年代からは「テロリスト」というラベルを彼らは貼っているだけのことである。 ブッシュ政権の政策を否定しているはずのオバマ大統領でも越えられない一線がある。下半身のスキャンダルなら大金をつぎ込んで調べても、権力システムの闇を暴くことは許されない。その事実を有力メディアは無視する。何しろ彼らも権力システムの一翼を担っている。「リベラルなメディア」?そんなもの、アメリカにも日本にも存在しない。「左翼メディア」など幻影にすぎない。
2009.04.16
不法滞在を理由としてフィリピン人一家が強制退去を命じられた。中学生の娘は日本生まれの日本育ちで、話せる言語は日本語であり、身についた文化は日本のもの。つまり、日本が故郷なわけで、追放される意味は重い。子供だけは1年間の在留特別許可を受けたようだが、言うまでもなく、問題は解決されていない。 この両親は1992年から93年にかけて偽造旅券で入国している。法を犯したのだから国外に追放されて当然だとする意見もあるが、その背景を考えると同意はできない。1980年代の後半から日本へ「出稼ぎ」にくる外国人が増えた。不法入国、不法滞在も少なくなかった。 低賃金労働を受け持ち、日本経済を支えてきたのはそうした人々であり、彼らがいなければ中小企業の経営は成り立たなかったはずだ。もし、日本が法治国家ならば、移民に関する法律を整備して労働者を受け入れるべきだったのだが、合法的に入国した人間を追い出すことは困難。だからこそ、不法入国、不法滞在を大目に見ていたのではないか? 1990年になると「出入国管理及び難民認定法」が改正され、日系ブラジル人が日本に入国するための法的関係が明確化されたが、それだけ違法な状態で働く労働者が増えていたことを示している。今回、話題になっているフィリピン人夫妻が入国したのはそれから間もない頃だった。 その日系ブラジル人が昨年あたりから大量解雇されている。大企業が生産規模を縮小するため、不必要になった彼らをお払い箱にしているわけだ。非正規雇用の労働者と同じように、使い捨てにされている。当然、その前から不法入国、不法滞在の労働者は捨てられ始めていたはずだ。2006年にフィリピン人家族の母親の不法滞在が発覚したのは偶然でないような気がする。 日本の支配層は非正規雇用の労働者もフィリピン人一家と同じように国外へ追放したいかもしれない。戦前、ラテン・アメリカに日本人を「移民」させ、中国を侵略して土地を強奪、占領して農民を送り込んだように。今でも「棄民政策」は続いている。
2009.04.14
インターネット上では以前から指摘されていることなので「何を今さら」と言われそうだが、民主党に潜伏している「小泉派」をマスコミは盛んに後押ししている。郵政民営化の推進にしろ、軍事力増強にしろ、アメリカの権力グループにとって好都合な政策を打ち出しているのだが、現在の与党、つまり自民党/公明党が次の総選挙で負けた場合の準備を本格化させているのだろう。 アメリカでは1980年代から「規制緩和」と「民営化」を推進してきたが、ジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官、ドナルド・ラムズフェルドは軍隊の民営化、外部委託を推し進めた。つまり、兵士をリストラし、「高額兵器」を購入して軍需産業を助け、傭兵ビジネスを育成したのだ。戦争ビジネスのカネ儲けを助けたわけである。この「戦略」が機能しないことはアフガニスタンやイラクでの戦争で再確認されたのだが、「平和ボケ」した日本の「戦争オタク」は反省していない。その象徴的な存在が「ミサイル防衛」だ。 勿論、戦争ビジネスだけが戦争を必要としているわけではない。新保守はイスラエルの立場からライバルのイスラム諸国を攻撃したがり、神保守は宗教的な理由からパレスチナで「神と悪魔との最終戦争」を夢想している。両者の共通項は「イスラエル」だ。 1990年代の初頭から新保守は軍事力を前面に出した世界制覇戦略を打ち出していた。経済力が衰退しているアメリカが優位に立っているのは軍事力だけだという理由からのようで、東アジアのような潜在的なライバルを軍事的に潰し、中東和平を否定し、イラクからサダム・フセインを排除し、アメリカからイスラエルを自立させようと彼らは考えていた。 ブッシュ・ジュニアが大統領に就任し、2001年9月11日の事件で主導権を握った彼らはアフガニスタンやイラクを先制攻撃し、国内をファシズム化するのだが、結局のところ、経済的な破局を早め、アメリカの世界における立場を弱めただけだった。 ブッシュの後を引き継いだバラク・オバマ大統領は軍事予算の削減を打ち出し、軍縮にも前向きの姿勢を示しているが、その穴を埋めるため、日本には軍事予算の増額を要求すだろうし、破局寸前の財政を立ち直らせるため、日本は負担を要求されることになるだろう。新保守/神保守の政策によってダメージを受けたアメリカが日本を利用しようとするのは自然の流れである。 自民党や民主党の「小泉派」は新保守/神保守に隷属、日本社会を崩壊寸前まで追い込んだのだが、アメリカで親分が勢いを失っても「日本から搾り取る」という彼らの役割は継続されることになる。新保守/神保守から主導権を奪い返した旧保守にとっても「小泉派」は使える存在ということ。 日本のマスコミは新保守の影響を強く受けている。1980年代に入ると、官僚を中心とする日本の支配システムはアメリカから強く批判されるようになる。歴史的に日本の大企業は優秀な中小企業群に支えられてきたのだが、これをアメリカは「ケイレツ」と名づけて攻撃してきたのである。 確かに、日本の大企業は中小企業や労働者に適切な対価を支払わず、自分たちだけが肥え太るシステムの中で温々と生きていた。が、あくまでも「生かさぬように、殺さぬように」だった。それが中曽根康弘政権から始まり、小泉政権で花開いた「新自由主義路線」は、中小企業群を食いつぶして「ケイレツ」を破壊、使い捨てにされる労働者は会社への忠誠心を失い、技術の継承システムだけでなく労働者の生活を破壊した。 自民党/公明党が政権の座から引きずり下ろされる可能性が高まった現在、民主党内部の「小泉派」に党の主導権を握らせようとする動きが出てくるのも自然だろう。そうした「中曽根/小泉路線」をマスコミは支えている。マスコミにしてみると、民主党の「小泉派」を支援するのは当然のことかもしれないが、そのことによって自分たちの信頼が揺らいでいることを自覚しているのだろうか?
2009.04.12
日本経済は沈み続け、復活の兆しは見えていない。政府/与党は約15兆円の2009年度補正予算を含む「新経済対策」を打ち出したものの、言うまでもなく、日本の沈没をとめることは困難だろう。何しろ金融破局の原因である構造的な問題は放置したままであり、富裕層/権力層や大企業に滞留している資金を解放する意志は感じられないからである。 しつこいようだが、経済活動を成り行きに任せておくと、富は富裕層/権力層、つまり特権的な立場にある人や組織に集中していく。日本のように、大企業がプールすることもあるが、富が富裕層/権力層に流れるという点で本質的な差はない。 貨幣経済が発達すると、富の移動スピードが速くなり、すぐに行き詰まってしまう。そうした状況から脱するためには、侵略などによって外部から富を持ち込むか、滞留している富を強制的に社会へ還流させるしかない。かつて、ヨーロッパの強国が植民地を建設したのは富を奪うためだった。 言うまでもなく、侵略/略奪を実行する暴力装置が軍隊である。アメリカ軍の伝説的な軍人、スメドレー・バトラー少将はかつて、戦争を「押し込み強盗」になぞらえたが、全くその通りである。略奪しない、あるいは略奪できない戦争は体制を弱体化、場合によっては崩壊させる。第2次世界大戦後にアメリカは経済的に繁栄するが、ドイツや日本が略奪した財宝を横取りできたからである。このことを忘れてはならない。 しかし、経済が「グローバル化」した現在、富裕層/権力層に侵略という逃げ道はない。現在、ヨーロッパは規制を強化して富の集中を緩和させ、体制の延命を図ろうとしているのだが、アメリカは特権階級が富を独占するシステムに固執している。 この収奪システムを維持するため、アメリカの新保守は潜在的なライバルを軍事力で押さえ込むという戦略を1990年代に打ち出している。彼らが最重要地域と考えていたのが東アジア。新保守/神保守に担がれたジョージ・W・ブッシュ大統領が「中国脅威論」を展開していたのは自然の流れだった。 東アジアの潜在力を押さえ込むための手段として戦乱を考えるいたとするならば、日本と朝鮮の対立はアメリカにとって願ってもないこと。両国が東アジアの軍事的な緊張を高めれば、アメリカに出番が回ってくる。アメリカ、日本、朝鮮は新保守にとって理想的なトライアングルである。ただ、この戦略はアメリカの旧保守は反対しているので、そう簡単に開戦できそうにはないが。 アメリカが経済破局に直面している現在、アメリカの富裕層/権力層は日本を経済立て直しの踏み台にするしかない。日本は「カモ」として目をつけられているわけだ。その日本の富裕層/権力層はアメリカに隷属、庶民からいかにして収奪するかということしか考えていない。しかもそうした富裕層/権力層を支持している庶民が少なくない。 日本の少なからぬ庶民が胡散臭い人物を好むことは否定できないだろう。例えば細木数子のような人物だ。2006年にジャーナリストの溝口敦は、細木に関する連載記事を「魔女の履歴書」というタイトルで「週刊現代」に書いた。TBSの「ズバリ言うわよ!」やフジテレビの「幸せって何だっけ」で人気を集めていた彼女の実態を暴いたのだ。 日米関係を調べている過程で、私も細木と小金井一家の堀尾昌志とに関する「噂話」を聞いことがあるのだが、そうした話も含めて溝口は事実に基づいて明らかにした。私の情報源のひとりだった元暴力団幹部によると、ヤクザをテーマにする記事や本を書いているライターの中で、溝口はヤクザからカネを受け取らない希有な存在で、信頼できる人物。そうした姿勢の人物だからこそ、細木に関する記事も書けたのだろう。 この女性は暴力を背景として、「金は三欠くに溜まる」を徹底的に実行してきた。カネこそが全てだというわけだろう。そうした強欲な人物にテレビ局や一部の出版社はかしずき、多くの読者や視聴者が支持した。番組の視聴率は高く、著作が売れているという事実は日本の現状を象徴している。そうした人たちが戦争を始めたらどうなるか、言うまでもないだろう。 細木を支持する人たちと小泉純一郎に熱狂した人たちは重なるのではないかという気もする。キャッチフレーズを繰り返し、怪しげな話を断定的に語り、聴衆に考える余裕を与えず、信じ込ませる。「予想屋」の手法と同じだ。自分にとって好都合で心地良く聞ける話なら嘘でも受け入れ、進んで騙されようとする人間が日本には多いということである。「騙されたものの罪は、只単に騙されたという事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも雑作なく騙される程批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切を委ねるように成ってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任等が悪の本体なのである。」(伊丹万作、「戦争責任者の問題」、映画春秋、1946年8月)「『騙されていた』と言って平気でいられる国民なら、恐らく今後も何度でも騙されるだろう。いや、現在でも既に別の嘘によって騙され始めているに違いないのである。」(前掲書)
2009.04.10
ペルーの最高裁特別刑事法廷は、元大統領のアルベルト・フジモリに対して禁固25年の判決を言い渡した。軍の「左翼ゲリラ掃討」作戦で8歳の子供を含む15名を1991年に殺害した「バリオスアルトス事件」、そして1992年に学生ら10名を誘拐のうえ殺害した「ラカントゥタ事件」などの責任を問われ、「間接主犯」だと認定されたわけだ。 一連の事件を主導したブラジミロ・モンテシノスは国家情報局の顧問。フジモリの側近で、「影の大統領」とも呼ばれていた。モンテシノスは1970年代からCIAの協力者として活動、つまりアメリカの手先として活動していた人物で、軍部には信頼されていなかったと言われている。 1996年12月、ペルーの日本大使公邸が「MRTA(トゥパク・アマル革命運動)」に襲撃され、占拠されるという事件が起こっている。「天皇誕生日祝賀レセプション」が開かれている最中で、大使や館員だけでなく、ペルー政府の要人、各国の代表日本企業のペルー駐在員など約600名が人質になっている。 占拠の翌日、フジモリとモンテシノスは武力突入を検討しはじめ、フアン・ルイス・シプリアーニ大司教の協力を得て、翌年の4月に特殊部隊が突入し、最高裁判事だったカルロス・ジュスティ、突入部隊の隊員2名が犠牲になり、ゲリラのメンバー14名は全員が殺害された。少なくともゲリラの一部は投降後に殺されている疑いが持たれている。この突入作戦にはアメリカ、イギリス、そしてイスラエルが協力していた。 イスラエルは1980年代からペルーに接近している。白人政権下の南アフリカがイラクと交流を深めたことにイスラエルは反発、両国の関係は悪化したのだが、そのためにウラニウム、チタン、モリブデン、重水、トリチウムなど核兵器のために必要な物質を入手する別ルートを開発しなければならなくなったのだ。そこで目をつけたのがペルー。 ペルーの中でもイスラエルが必要とする希少金属などを産出する地域はセンデロ・ルミノソ(輝く道)と名乗る左翼ゲリラの支配地だったが、ゲリラを指揮していたアビマエル・グスマン・レイノソの父親はドイツ系ユダヤ教徒で、コネクションを築くことに成功した。 後にペルー政府はセンデロ・ルミノソに対する掃討作戦を強化するが、日本大使公邸の人質事件が影響している可能性はある。ともかく、センデロ・ルミノソの衰退により、ペルー政府は「原子力利権」を手にしたことは間違いない。フジモリもその手駒として動いていたのだろう。
2009.04.08
朝鮮が「飛翔体」を打ち上げたことに対し、日本やアメリカの政府は「安保理決議に違反している」と主張、日本のマスコミも興奮気味に朝鮮非難を繰り返している。そうした中、ラスムッセンの世論調査によると、アメリカ人の57%は朝鮮に対し、軍事的な報復を行うべきだと考えている。アメリカのメディアは日本のマスコミほど扇情的ではないのだが、それでも庶民は好戦的な姿勢を見せている。どうやら、アフガニスタンやイラクを先制攻撃した経緯や、その結果を反省していないようだ。 振り返ると、ジョージ・W・ブッシュ政権がスタートして間もない頃、ホワイトハウス内の新保守/神保守は「中国の脅威」を宣伝、2003年には朝鮮への軍事攻撃を計画していたと言われている。この年の春、空母カール・ビンソンを含む艦隊が朝鮮半島の近くに派遣され、また6機のF-117が韓国に移動したほか、グアムには24機のB-1爆撃機とB-52爆撃機が待機するなど緊迫した状況だった。 このときは、アメリカの旧保守が開戦を阻止したようだが、「第二次朝鮮戦争」を望む声が消えたわけではない。実際、今回の打ち上げに際し、新保守のニュート・ギングリッチはイランや朝鮮を「電磁パルス」で攻撃するべきだと発言している。 新保守のシンクタンク、PNACは2000年に「米国防の再構築」と題された報告書を発表し、その中で潜在的なライバルとして東アジアを警戒していた。アメリカが優位にあると考えられる軍事力を使い、そうした潜在的なライバルを倒すべきだと主張していたのだ。 新保守は1990年代からイラクのサダム・フセインを排除し、国を破壊する計画を公然と掲げていた。同じように、東アジアの破壊を目論んでいたと考えざるをえない。日本人の中には、「第二次朝鮮戦争」が起こっても日本は被害を受けないと信じている人もいるようだが、「平和ボケ」にもほどがある。 かつて、日本は日清戦争で巨額の賠償金を手に入れ、日露戦争の際、庶民はロシアから賠償金を取れと言って「日比谷焼き討ち事件」を起こしている。戦争を起こせば「特需」で儲かると思い込んでいる人もいるようだが、次の戦争では日本に負担が求められるだけでなく、日本が戦場になる可能性もある。朝鮮半島から押し寄せるだろう難民の対策もできていないだろう。とにかく、日本にとって東アジアの軍事的な緊張が高まることは避けなければならないのだが、マスコミは戦争気分を煽るだけだ。 2003年の攻撃計画をアメリカの主流派、つまり旧保守が反対した最大の理由は、彼らが東アジアへ多額の投資をしているため。この地域が戦争で破壊されては困るのだ。旧保守側のメッセンジャーとして大統領にものを言ったのは、ジョージ・H・W・ブッシュ、つまり大統領の父親だったとも伝えられている。 ところで、東アジアを火と血の海にしようとしている新保守/神保守はイスラエルを第一に考える勢力だが、そのイスラエルも国連決議を無視してきた。1967年以降、アメリカという後ろ盾がイスラエルの横暴を許してきたのだ。ブッシュ・ジュニア大統領などは昨年5月、イスラエルの国会で「イスラエル人は選ばれた民であり、アメリカは永遠に支える」と発言している。正気だとは思えない。 昨年、イスラエルはガザを攻撃して非武装のパレスチナ人を虐殺、国連の施設まで破壊している。この戦闘で使用された白リン弾は高温で肉を溶かしてしまう特徴があり、一般的には化学兵器と見なされている。2006年のレバノン攻撃に続き、今回も対人兵器として使われた。イスラエル軍のガザ攻撃を戦争犯罪だと非難する人もいるが、当然だろう。現大統領のバラク・オバマはパレスチナ問題の解決に前向きだと言うが、彼の意志だけでアメリカの政策が決まるわけでないことも事実だ。イラン攻撃の可能性も消えていない。
2009.04.07
社会を循環する資金が枯渇している。こうした状況を打ち破る最善の方法は、滞留している資金を解放して社会に還流させることである。富裕層/権力層は庶民の貯金に目をつけ、マスコミを使って貯金を使わせる環境作りをしているが、最大の滞留資金は富裕層/権力層の手にある。日本でも最近、重役が巨額の報酬を受け取るようになってきたが、企業の金庫を財布代わりに使うという伝統が消滅したとは思えない。だからこそ、経営者は引退したがらないのだろう。 富裕層/権力層の場合、将来に備えてカネを抱え込んでいるわけではない。溜め込んだ資金は「余資」であり、投機市場に流れていた。つまり、富裕層/権力層が不公正なシステムを利用して溜め込んだ資金を社会に還流させると、投機市場の資金が減少することになる。富裕層/権力層にとって好ましくない展開だろうが、庶民の生活を正常化するためには絶対的に必要な政策である。 社会に循環させる資金をどこに求めることになるかは、株価を観察することで、ある程度、推測できる。最近の「日経平均株価」を見ると、8000円を切ったところで何とか踏みとどまり、若干上向きになっている。ここ半年くらいの値動きは不自然で無理をしているように見えるのだが、ともかく下げ止まり、短期的には上昇傾向にある。常識的に考えると、1万円台の前半には到達するだろう。そこで調整のうえ、値上がりするのか、あるいは値下がりするのかは政府の政策次第だろう。2年後に1万3000円を突破していれば相場は完全に回復したということになるだろうが、6000円まで下がっている可能性もある。 庶民へ「つけ」を回すことに成功したとマーケットが判断した場合、相場は上昇する。相場が値上がりすれば銀行など株券を大量に保有している企業、団体、個人(要するに富裕層/権力層)は助かるだろうけれど、庶民には地獄が待っている。富裕層/権力層が続けてきた博奕の尻ぬぐいを庶民が行うことになり、庶民はカネをさらに搾り取られることになるからである。 そんなことをしていると、日本以外ならば、暴動が多発する可能性が高まり、ある程度は自分たちの資金を社会に還流する必要があるとする意見が富裕層/権力層の内部でも強まることだろう。そうした場合、どこから、どの程度の規模で還流させるのか、資金を偏在させるシステムにメスを入れるのかという問題が出てくる。アメリカやイギリスがタックスヘブンやヘッジファンドの規制に消極的な理由は言うまでもないだろう。 アメリカで破綻企業の重役たちが多額のボーナスを受け取っていたことが発覚、問題になった。この出来事が象徴するように、富裕層/権力層、特に米英人は溜め込んだカネを吐き出そうとはしていない。利益は自分たちが懐に入れ、損は庶民に押しつけるという揺るぎない信念を彼らは持っている。言うまでもなく、日本の権力者たちは米英を後ろから追いかけている。 欧米では暴動が多発するような事態を避けるため、「従順な庶民」から奪った資金を自国の庶民に流そうとするかもしれない。つまり、日本の庶民を「カモ」にするということである。 日本の過去を振り返ると、大多数の庶民は権力に従順である。その一方で、弱者に対しては冷酷な面があり、自分たちが搾り取られた分を弱者から回収しようとする。かつて日本軍がアジアを侵略できたのは、庶民が「利権」のにおいを感じて賛成したからで、同じことが近い将来に起こらないという保証はない。日本の庶民は権力者に騙されたという意見もあるが、「進んで騙された」のではないか? 戦後、日本国憲法のおかげで日本人は戦争に直接参加しないですんだ。アメリカ軍に協力してきたことは事実だが、「赤紙」で戦場に引っ張られることはなかった。その反面、「平和ボケ」から「戦争カルト」の信者が増え、殺し殺される戦争に憧れる人も増加している。歴史的に戦争の本質は「押し込み強盗」にすぎないが、グローバル化の進んだ世界では事情が違う。侵略して略奪するということは困難になった。戦争で儲かるのは軍需産業や傭兵ビジネスであり、庶民はカネと命を取られるだけだ。
2009.04.06
日本社会は破局を迎えようとしている。経済システムは機能しなくなり、社会保障も破壊されつつある。大企業は下請け企業や労働者に適正な対価を支払おうとせず、「リストラ」と称して気楽に解雇する。技術の継承に興味を持たず、労働環境を悪化させた結果、次世代を育てる基盤が崩壊、国の存続すら危ぶまれる状況になっているのである。 そうした状況を生み出した大きな要因は「外資」にある。こうした資金は金儲けのために世界各国を移動、その国に根づこうとはしない。長期的な視野で産業や企業を育てることに興味はなく、利益や資産を食いつぶすだけである。社会の一員になることはなく、搾り取れなくなれば、ほかの国へ移っていくだけだ。 日本にもこうした波が1980年代から押し寄せ、1990年代に本格化したのだが、「持続不可能な経済政策」の実態を日本の庶民も最近になって気づき始めた。日本を動かしている人々、つまり与党、官僚、大企業の経営者、アメリカ資本にとって好ましくない雰囲気が出てきたのだ。こうした権力グループのプロパガンダを担当してきたマスコミへの風当たりも強まり、「マスゴミ」とも呼ばれるようになった。これからも甘い汁を吸い続けようとしている彼らにとっては緊急事態である。 そうしたとき、予想通り、野党のスキャンダルが浮上した。最近では朝鮮(注)が「ミサイル」を打ち上げると大騒ぎである。きちんと事実を伝えればいいのだが、まるで日本にミサイルが撃ち込まれるような勢いでマスコミは連日報道、日本が抱えている大問題など忘れてしまったかのようだ。これまでも何度か「困ったときの朝鮮頼み」という出来事があったが、今回も日本の利権集団は「朝鮮のミサイル」へ必死にすがっているように見える。 日本にミサイルを撃ち込むと朝鮮の権力者が決断するのは、自分たちの体制が壊滅することを覚悟したときだろうが、ミサイル防衛システムが「張り子の虎」にすぎないとしても、日本にとって脅威なのは特殊部隊による原子炉に対する攻撃。何しろ、日本海側には多くの原子力発電所が存在している。 朝鮮側は衛星を「ロケット」で打ち上げると言っているのに対し、日本側は「弾道ミサイル」だと叫んできた。「ロケット」と「ミサイル」とでは印象が大きく違うが、両者に本質的な違いがないことは言うまでもない。「ミサイル」と呼ぶこと自体に敵対的、挑発的な意味が含まれているわけで、東アジアの緊張が高まることを避けたい人たちは、快く思っていないことだろう。 日本が衛星を打ち上げたときにも欧米には日本が大陸間弾道ミサイルを手にしたと言う人がいた。東海村の核燃料再処理工場が動き出し、プルトニウムを大量に隠している日本は核武装まであと一歩だと言われたものである。あまり騒ぎすぎると、日本に跳ね返ってくる可能性もあるのだ。 アメリカの情報機関では、日本が核武装を計画していると信じている人は少なくない。「自主開発」させないかわり、アメリカの管理下で開発させようとしていると疑う人もいる。アメリカ政府が東海村のRETF(リサイクル機器試験施設)に移転した技術の中に「機微な核技術」と呼ばれる軍事技術が含まれていると指摘されたことも疑惑を深めた。 過去を振り返ってみると、朝鮮は中国やロシア(ソ連)とつきあっているだけではないことがわかる。特に、統一教会やイスラエルとの関係が深い。1990年代に朝鮮へ統一教会の資金が流れ込んでいたと報告しているのはアメリカのDIA(国防情報局)で、同教会はブッシュ家へも多額の資金を「講演料」として提供していた。キリスト教原理主義者に資金援助したこともある。 また、1980年代には朝鮮が保有していたカチューシャ・ロケット弾をイスラエルは大量に購入し、イランに転売している。そのイスラエルも衛星を打ち上げているが、世界に対する脅威という点では、朝鮮よりも世界有数の核弾頭保有国であるイスラエルの方がはるかに深刻である。(注)本コラムでは今後、「朝鮮民主主義人民共和国」の略称を「朝鮮」、「大韓民国」の略称を「韓国」とする。
2009.04.05
1975年から79年にかけてのカンボジアはポル・ポト派(クメール・ルージュ)の支配下にあった。この時代に5万人から15万人が処刑され、飢餓や病気で死んだ人を含めると犠牲者の数は100万人以上に達すると言われている。この「虐殺」を裁く特別法廷が3月30日に始まったのだが、真相が明らかにされる可能性は小さい。何しろ、この出来事にはアメリカ政府が深く関与しているからである。 アメリカ政府がカンボジアに対して大規模な空爆を始めたのは1969年3月のこと。戦争状態にない国を秘密裏に爆撃したのである。政府内部にも反対の声はあったのだが、ヘンリー・キッシンジャーに押し切られてしまった。投下された爆撃の規模は第2次世界大戦で使用された爆弾の総数を上回るといわれ、その後の餓死や病死の大きな原因になった。 当時、ノロドム・シアヌーク国王はアメリカによる爆撃を激しく非難しているが、アメリカのマス・メディアは無視した。ただ、ニューヨーク・タイムズの記者が「ベトコンや北ベトナムの軍事物資集積所や基地」をアメリカ軍が攻撃しているとする記事を書いたくらいだ。 アメリカの攻撃を正当化する記事だったのだが、キッシンジャーは許せなかった。爆撃していること自体が機密事項だったからである。国防長官に電話してリークを責め、FBI長官に電話して記者の情報源を調べるように命じている。そして政府職員とメディア関係者に対する盗聴が始まった。ロン・ノルがクーデターを実行してシアヌークを追放するのは問題の報道があった翌年のことだ。 一連の爆撃は当然のことながらアメリカやその傀儡であるロン・ノルに対する反発を国民の中に生み出し、ポル・ポト派の勢力拡大につながった。ポル・ポト派時代の餓死や病死だけでなく、処刑にもアメリカ政府には責任がある。 1979年にポル・ポト派政権が崩壊してヘン・サムリン政権が誕生するのだが、アメリカは中国とともにポル・ポト派を支援している。これがアメリカ流。つまり、ポル・ポト派の悪行を暴こうとすると、アメリカの悪行も浮かび上がってしまう。 考えてみれば、ソ連と戦っている間はアル・カイダを「自由の戦士」として支援し、今では「テロリスト」と呼んで先制攻撃とファシズム化の口実に使っている。アメリカの権力者には信念も哲学もなく、欲望にしたがって行動しているだけだ。 虐殺ということなら、アメリカの情報機関と特殊部隊が1967年から実行した「フェニックス・プログラム」と呼ばれる秘密作戦を忘れてはならない。米上院の公聴会でCIA長官は2万0587人の住民を殺害し、2万8978人を投獄したと証言しているが、別の推計では約4万1000人が殺されたという。作戦の目的はベトナムの村落共同体を破壊し、恐怖心を植えつけて抵抗運動を弱めることにあったとも言われている。恐怖を呼び起こすようなショッキングな事件で大衆の心理をコントロールできると彼らは信じているようだ。 2001年9月11日に航空機がニューヨークの高層ビルに突入すると多くの人々はショックを受け、アメリカ政府の暴走を止められなかった。アフガニスタンやイラクに先制攻撃を仕掛け、国内では憲法を無視した治安対策が強行されていったのだ。つまりアメリカはファシズム化した。その際、国土安全保障室(後に「省」へ格上げ)が設置されたが、その中枢にはフェニックス・プログラムの出身者が含まれていた。「テロとの戦争」は「テロリストの戦争」という側面があると言わざるをえない。新自由主義とファシズムは重なって見える。
2009.04.04
ロンドンでGー20の会合が開かれるのに合わせ、数千人規模の抗議活動が展開された。多くの逮捕者を出し、原因は不明だが、ひとりが死亡している。会議では深刻な不況からどのようにして脱するかを議論したそうで、2010年までに5兆ドルの財政出動やIMFの資本力強化、ヘッジファンドの規制などが決まったという。 現在の経済状況は資本主義システムの本質的な矛盾が原因であり、過剰生産の調整で解決することは困難だろう。G-20の参加者にとって有効な解決策は、自分たちや仲間の利益を生み出す仕組みに反することになる。会議の後に株式相場が上昇するということは、権力層の富や富を生み出すシステムは守られたことを意味し、庶民にとって好ましいことではない。庶民の立場からすると、株価のさらなる暴落を前提とした経済政策を考える必要があるということだ。 1970年代の初頭、リチャード・ニクソン米大統領はアメリカ経済の行き詰まりを認識し、デタント(緊張緩和)へ舵をきろうとしたのだが、政治的、経済的、思想的、あるいは宗教的に冷戦を必要としていた勢力に敗北してしまった。そこに登場してきたのがシカゴ大学のミルトン・フリードマン。富の集中を肯定、「弱肉強食」のレッセフェールに近い主張を展開する経済学者で、その理論はチリの独裁者からはじまり、アメリカ、イギリス、日本などへ広がった。1980年には中国も導入し、ソ連が消滅した後はロシアの権力者も飛びついた。自分たちの利益になることを理解したからであろう。資本主義経済の行き詰まりを「暴走」で突破しようとしたように見える。 後発ではあるが、ロシアでも日本より速いペースでフリードマン的な経済政策が実行され、一握りの富豪を産む反面、庶民は地獄へ突き落とされた。日本が進んでいる道を理解するためには、ボリス・エリツィン時代のロシアで何が起こったかを調べるべきだ。当時の出来事に興味があるならば、アメリカの雑誌「フォーブス」の編集者だったポール・クレブニコフの本『クレムリンのゴッドファーザー』を読むように勧めたい。なお、「編集者だった」と過去形で表現したのは、2004年にクレブニコフがモスクワで射殺されたからである。 さて、資本主義システムは富の集中を肯定するわけだが、そうなると資金が一部に滞留することになり、社会に循環する資金は枯渇して経済活動は停滞する。滞留した資金は投機市場に流れて「バブル」が膨らむ。これが「カジノ経済」なわけだが、それによって膨らんだ「資産」は幻影にすぎない。投機市場へ資金が流入し続け、誰も売らないなら幻影は消えないだろうが、そんなことはありえない。早晩破綻することは明らかだった。 そうしたゲームの終盤になると、目前が利くプロは「カモ」を探す。損を押しつける素人を捜し始めるのである。1980年代に日本では石油や魚などを帳簿の上だけで転売する「コロガシ」が流行った。当時、本業が行き詰まっていた会社は「財テク」と称してコロガシに参加していたが、最後にカモられたのは、こうした素人企業だった。今回、アメリカは「証券化」などの手法を使い、損を世界に押しつけた形になっている。 もっとも、不景気だからといって、富が消滅するわけではない。消えるのは幻影にすぎない。富がどこに蓄積されているのか、どのようにして蓄積されたのか、そうしたことを調べる必要がある。要するに、ヘッジファンドやタックスヘブンを徹底的に調査したうえで、規制を強化しなければならない。そうした作業をしないまま、金融機関や大企業を税金で「救済」するのは「盗人に追銭」。こうした調査や規制を誰が嫌うかを見るだけでも,今回の恐慌で誰の責任が最も重いかを知ることができる。 調査や規制の強化を求める声に対し、スイスなどのタックスヘブンは早めに譲歩することでビジネスを維持しようとするだろうが、莫大な資産を隠す手助けをしていた銀行に対する庶民の怒りが収まることはないだろう。(日本は例外かもしれないが) 恐慌が表面化する切っ掛けになったのは投資銀行のリーマン・ブラザーズの倒産。その直後に保険会社のAIGも経営破綻したことが明らかになったのだが、この保険会社は第2次世界大戦のころからアメリカの情報機関(OSS)と深く結びついていたと言われている。 OSSの後身、CIAは自身の「地下銀行」を保有、そうした中にロッキード事件で登場したディーク社や東南アジアの麻薬取引に利用したナガン・ハンド銀行、アフガニスタン工作で利用されたBCCIなどが含まれている。AIGもCIAネットワークに組み込まれていた可能性が高いということだ。 そうした「闇」を封印したまま金融機関を復活させるため、アメリカの権力者が日本の郵政マネーに目をつけたとしても不思議ではない。郵政マネーを自由にするためには郵政民営化を計画通りに実施する必要がある。アメリカの権力者やその代理人たちは民営化の見直しなど許せないことだろう。勿論、日本の庶民としては絶対に民営化を許してはならないが。
2009.04.03
海上自衛隊の護衛艦、「さざなみ」(4600トン)と「さみだれ」(4400トン)がソマリア沖に派遣された。日本関係の船舶を「海賊」から護るのだという。この海域で海賊が出没するようになった大きな要因はソマリアの混乱にあるのだが、その原因を作ったのはアメリカ政府にほかならない。 しばしば「アフリカの角」とも呼ばれるソマリアは戦略的に重要な位置にあり、独立が困難な環境にある。インド洋から紅海を経てスエズ運河を抜け、地中海へ入るための入り口に面しているため、このルートが封鎖されると船は南アフリカの喜望峰を回らなければならなくなる。そこで、ソマリアを自分の支配下に置きたいと考える人物、組織、あるいは国が出てくるわけである。 1993年にはアメリカ軍が軍事介入しているのだが、その時には首都モガディシュでの戦闘でヘリコプターが撃墜され、20名近い米兵が戦死、ソマリア側は数百名が殺されている。映画「ブラックホーク・ダウン」は、このときの戦闘を描いている。 この戦闘に参加したひとりが特殊部隊「デルタ・フォース」のウィリアム・ボイキン中将で、ジョージ・W・ブッシュ政権では国防副次官に就任している。ボイキンのボス、つまり国防次官はネオコン(新保守)の大物、ステファン・カンボーンであり、国防長官はドナルド・ラムズフェルドだった。いずれも戦争に積極的な人物だ。 ボイキンによると、彼はモガディシュで「奇妙な暗黒の印」を見つけたという。「邪悪な存在、暗黒のつかいルシフェルこそが倒すべき敵なのだと神は私に啓示されました」と教会で演説する様子が撮影されている。要するにイスラムを敵視するカルトの狂信的な信者なのだが、イラクで掃討作戦を指揮したのがこのボイキン。こんな人物を要職に就け、掃討作戦を任せる政権のカルト性も明らかだ。 その後もアメリカはソマリアでの活動をやめていない。アフリカの角がイスラムの勢力圏に入ることを阻止するため、「イスラム法廷連合」と戦う武装組織にCIAは秘密裏に、毎月10万から15万ドルを渡していた。ジブチに駐留中していた米国防総省のJCTF(統合連合機動部隊)を介して資金は提供されていたと報道されている。 しかし、この武装組織はイスラム勢力に敗北してしまう。2006年のことだ。そこで登場してきたのがエチオピア軍。とりあえず同国軍はイスラム勢力を首都から一掃するのだが、これは戦術的な撤退にすぎず、予想されていたように戦争は泥沼化した。アフガニスタンにしろ、イラクにしろ、ソマリアにしろ、中国戦線で苦しむ日本軍と同じような状況になっているとも言える。アメリカはソマリアを混乱させ、ソマリアの混乱は海賊を生み出し、その後始末に日本も参加しているわけである。 軍事負担の軽減と戦争ビジネスの維持拡大を実現するためには、日本が憲法第9条を廃止して部隊を世界に展開してほしいはずで、今後もアメリカ政府は日本に対して派兵を要求してくると覚悟する必要がある。ソマリアへの護衛艦派遣はその一里塚にすぎない。
2009.04.02
警察、検察、あるいは軍隊が権力システムの暴力装置であるように、マス・メディアはこのシステムにおけるプロパガンダ機関としての役割を果たしてきた。大手メディアが権力システムの実態に迫れるはずはない。テレビ、新聞、雑誌が報道したがらない情報を本コラムは提供していくつもりである。 このところ、日本では「国策捜査」とマスコミによる情報操作が話題になっているが、こうしたことは昔から行われてきたこと。何らかの政治的な運動、特に平和を訴える運動はターゲットになってきた。 アメリカでジョージ・W・ブッシュ政権が誕生すると、日本では田中某が外務大臣を辞めさせられ、辻元某は摘発された。ビラを配っただけでも逮捕された人もいる。その延長線上に小沢某の秘書逮捕はあり、警察や検察は自分たちの権力システムにとって不都合な存在を露骨に排除するようになってきたと考えるべきだろう。当人に不適切な部分があったとしても、公平性に大きな問題があることは否定できない。 日本であろうとアメリカであろうと、権力システムを動かしている人々、つまり権力者にとって都合の良い情報を庶民の頭脳にすり込むことがメディアに与えられた役割なのだが、アメリカでは「ジャーナリズム」という衣を装い、9割の事実の中に1割の偽情報を混ぜてきた。あからさまな宣伝を信じる人は少ないからである。 しかし、ジョージ・W・ブッシュが大統領になって間もない2001年9月11日に航空機がニューヨークの高層ビルに突入すると事態は一変する。この事件をブッシュ政権は最大限に利用し、アフガニスタンやイラクに先制攻撃を仕掛けるだけでなく、国内の監視システムを強化し、憲法を麻痺させてしまった。つまり、ブッシュ政権を支えていたネオコン(新保守)とシアコン(キリスト教原理主義)はアメリカをファシズム化したのだが、その過程で大手メディアは最大限の協力をした。いや、今でもネオコン/シアコンのためにプロパガンダを続け、日本のマスコミはその後を追いかけている。これでは、人々の信頼を失って当然だ。 ネオコンとシアコンにはイスラエルを第一に考えるという共通項がある。2008年の大統領選挙で共和党の候補は「ハード・ネオコン」、民主党のヒラリー・クリントン候補は「ソフト・ネオコン」だと言われたが、実際に当選したのはイスラエルと最も距離のある候補だと見られていたバラク・オバマだった。 イギリスでトニー・ブレアが首相の座から引きずり降ろされたこともアメリカのネオコン/シアコンやイスラエルにとって傷手だったはずだ。ブレア首相の資金源、マイケル・レビが労働党への融資に絡んで2006年7月に逮捕されたのだが、ブレアとレビを引き合わせたのはイスラエルの外交官。1994年にブレア夫妻はイスラエル政府の招待で同国を訪問、帰国して2カ月後にロンドンのイスラエル大使館でパーティーが開かれるのだが、そこでギデオン・メイアーがブレアにレビを紹介したのである。ブレアはブッシュに勝るとも劣らない親イスラエル派だということだ。 ブッシュが退場する前からアメリカやイギリスで親イスラエル派が勢いを失い始めていたが、それにつれてイスラエルを批判する声が世界的に大きくなってきた。昨年12月に本格化したガザ地区への攻撃では非武装の市民や国連の施設を目標にしていたことが明らかにされ、イスラエル軍の責任者を戦争犯罪人として裁くべきだとする主張も出ている。イスラエルを「アパルトヘイト国家」だと呼ぶ人も少なくないが、むしろファシズム国家と表現するべきであろう。巨大な壁でパレスチナ人を閉じ込めて兵糧攻めにしているだけでなく、イスラエルは軍隊を使って殺戮を繰り返しているのであり、ナチスを彷彿とさせる。だからこそ、ナチスの強制収容所を生き抜いた両親を持つ学者、ノーマン・フィンケルスタインはイスラエル政府のパレスチナ人弾圧を厳しく批判しているのだろう。「イスラエル問題」を「ユダヤ人問題」にすり替えることを許してはならない。 ソ連消滅後に誕生したロシアで最初の大統領となったのはボリス・エリツィンだが、この時代に国有財産の「民営化」で大儲けした「実業家」にはイスラエル系の人間が含まれていたと言われている。中でも有名なボリス・ベレゾフスキーもイスラエルの市民権を持っていた。グルジアでイスラエルは武器を提供し、兵隊を訓練し、軍事作戦を教えている。つまり、南オセチアへの奇襲攻撃はイスラエルの代理戦争という側面もあった。おそらく、ロシア軍の反撃で惨敗したのは誤算であり、ショックだったろうが。 ネオコン/シアコンとイスラエルは、アメリカで権力闘争を展開しているだけでなく、イラクに続いていイラン攻撃を計画し、カスピ海周辺の油田地帯やロシアにも揺さぶりをかけている。ベネズエラでクーデターを試みたこともある。全ての試みが成功していたならば、石油の生産に関して大きな影響力を持つことになったはずだが、クーデターは失敗し、ロシアからベレゾフスキーは追い出され、イラン攻撃も実現していない。アメリカの権力闘争でも、優勢とは言えない。 しかし、それでも今後の世界を考える上で「イスラエル」はキーワードになる。「反ユダヤ主義」という「お守り札」を使えば何でも許されるという時代は去った。今でも日本にはイスラエルの情報機関とコネがあることを自慢する「専門家」がいるようだが、イスラエルを信奉、妄信する危険性を忘れてはならない。世界有数の核弾頭保有国であるだけに、イスラエルの動向から目を離すことはできない。
2009.04.01
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