じゃくの音楽日記帳

じゃくの音楽日記帳

2011.02.23
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ちょっと日にちがたってしまいましたが、チョン・ミョンフン&N響によるマーラー3番のことを書いておこうと思います。

2月11日、12日 NHKホール
指揮:チョン・ミョンフン
管弦楽:NHK交響楽団
メゾソプラノ独唱:藤村実穂子
女声合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊

マーラー:交響曲第3番


まず初日(2月11日)。僕の席は1階のかなり左寄りの前の方です。このホールは巨大で横長なので、この席からだと舞台の全貌はほとんど把握できませんでした。それで演奏終了後に確認したところ、オケは、コントラバスが12台!(ここNHKホールで2008年にチョンがN響でブルックナー7番を振ったときも、同じく12台でした。)そしてさらに驚くべきことに、ティンパニが舞台奥の上手側に2セット、舞台下手の手前に2セット、合計4セット用意されています。これは異例です。(スコアの指定は2セットです。)それからチューブラーベルは普通に舞台の下手奥、ハープのそばに設置されていました。

演奏開始に先立って女声合唱の入場がありました。舞台奥の雛壇の上に、横に長く並んで、着席しました。ほぼ同時平行でオケも入場しました。

そして演奏開始。冒頭ホルンの主題が、途中(第7小節あたり)から豪快なクレッシェンド!のっけから驚かされました。それから、トロンボーンのモノローグの途中(多分第194小節)の大太鼓などの打撃が、かなり強烈で、悲劇的のハンマーを思い起こしたほどでした。そういうふうにちょっと尖った部分がところどころ見られましたが、テンポは、遅い曲想のところがかなりゆっくりめで、ともかく細部に注意を払った、丁寧な演奏です。この丁寧さは、以前聴いたチョンの3番(2005年東京フィル)と同じ印象です。しかし遅めで通すのではなく、楽想によってはある程度早めに変化させていました。オケは、トランペットがやや不調だった他は、さすがにN響、安定感があります。

第一から第三楽章までは、楽章間に短めの休止しかとらず、緊張感が保たれたままどんどん進んでいきます。

第三楽章が始まりました。きっちりとした演奏ですが、のびやかさが乏しく、ときとしてうるささを感ずることがあり、何だか森というよりも町工場の喧騒を、時々連想してしまいました。。

そしていよいよポストホルンが響き始めました。1階の左前方で聴いている僕のところに、右方の高いところ遠くから、聞こえてきます。僕は最初、舞台上手のドアを開けてその奥の方で吹いているのかと思いました。しかし音はどうも、もっと後ろの高いところから聴こえてくる感じです。そして僕の席から見えるテレビカメラの1台が、舞台に向けていたカメラの方向をぐるっと大きく変えて、客席の後ろの高い方を撮影していることに気がつきました。なるほど、客席後方のドアを開けてその外で吹いているのかな、と思いました。それにしても相当に遠くから聴こえてきます。 昨年9月の札響の3番 と同じようなかなりの距離感があります。その音色からは使用楽器はポストホルンではないと思われますが、演奏は非常に素晴らしく、この遠距離系のポストホルンをしばし堪能しました。

そして曲は進み、第三楽章の最後近くで、演奏途中に独唱者と児童合唱の入場がありました。これまで繰り返し書いてきたように、声楽陣の入場方法は僕にとっては重大なポイントですので、別の記事であらためて書こうと思います。

第三楽章が終わって、短い休止のあと第四楽章が始まりました。藤村さんの歌唱は、 昨年秋のベジャールのバレーの伴奏として行われたメータ&イスラエルフィルとの演奏 のときと同様に、とてもドラマティックな表現で、オペラの独白をみているようで、意味内容に深く迫っていく強い意志と緊張感がありました。こういうアプローチはかなりユニークですが、さすが藤村さんと思わせる説得力があり、すばらしかったです。

第四楽章が静かに消えていくと、アタッカで、第五楽章。チョンは、児童合唱を起立と同時に歌わせるという方法を採っていました。そして3小節ほど遅れて女声合唱が起立。この児童合唱と女声合唱の起立のタイミングは、 昨年秋のヤンソンス&コンセルトヘボウ と同じやり方です。第五楽章も、藤村さんの深い歌を中心に、いい演奏でし た。

第五楽章が静かに消えていきました。いうまでもなく、スコアではここもアタッカで終楽章へ、と指定がありますね。静寂の中から、清澄な弦楽合奏が始まる貴重な瞬間です。さまざまな指揮者が、それぞれの工夫で、このアタッカの静寂と緊張を最大限に保とうとします。しかし今回のチョンは、このアタッカの指定を完全に無視しました。第五楽章が終わったあと、独唱者と合唱団を座らせ、さらに少しの休止を完全にとって、それからあらためて終楽章が開始されました。ここのアタッカをここまで完全に無視するのは、ほとんど見たことありません。少なくとも僕の見たプロのオケでは皆無です。極めて異例です。

終楽章の演奏は、ゆったりとした、細部に神経を使って丁寧な、全体としていい演奏でした。最後のティンパニの大いなる歩みのところは、舞台右手奥の2セットに加えて、左手前の2セットも加わり、合計4セットのティンパニが打ちならされました。4人を使いながらも、決して強打はさせないので、深々とした音が大きすぎない音で響き渡り、よい効果をあげていました。

この終楽章はN響もその力を充分に発揮し、全体的にはすばらしい演奏でした。しかし、曲の終盤に、テンポを突如速めてまた戻すという、非常に独特の解釈が3箇所ありました。僕の記憶に間違いがなければ、1箇所目は、練習番号22の7小節目(第212小節)です。チョンは、この1小節だけを突如としてほぼ倍のテンポに速めて演奏し、次の第213小節はすぐもとのテンポに戻し、かつテンポを少し落として粘っていき、続く第214小節からの楽句にはいっていったのです。通常だと、第212、213小節とだんだんと粘ってテンポを遅くしていって、第214小節に入る、という感じで演奏されます。この方法をとったチョンの狙いを推測すると、チョンのやり方(第212 小節を逆にスピードアップする)だと、そのあとの第213小節で実際にはそれほど減速しなくても、聴感上の減速効果が強まります。すなわち大きく減速して全体の流れを弛緩させてしまう危険なしに、ある程度の減速効果を出して、次のフレーズに入る気分を盛り上げる、という効果を狙ったのかと想像します。2箇所目は、練習番号28の7小節目(第282小節)です。やはりこの1小節だけを、突如としてほぼ倍のテンポに速めて演奏するというものでした。ここは音楽の流れで見ると、最初のところとまったく同じようなところですので、同じ効果を狙ったのだと推測します。3箇所目は、いよいよ曲も最高潮の盛り上がりの真っ最中のところ、練習番号30にはいる手前の4小節(第292~295小節)です。この箇所も、突然のテンポアップで4小節を通過して、その後、元のテンポに戻してだんだんと粘っていき(第296~299小節)、第300小節から次のフレーズにはいっていくというものです。長さが4小節と拡大していますが、音楽の流れ的には前2者とまったく同じ流れでのテンポ変化ですので、同じ効果を狙ったのだと思います。

この3箇所の極端なテンポ変化は、きわめて個性的な解釈で、アイデアとしての面白さはありますし、それなりの効果はありましたが、僕としては、非常に作為的、恣意的で、不自然に聴こえました。あえてこのようにする必然性が、僕にはまったく感じられません。マーラーの書いた、自然にうねるように高揚していくこのあたりの音楽の流れが、このチョンの作為によって損なわれ、歪められてしまったように、僕は感じてしまいました。

終楽章は、この点を除けば丁寧で美しくすばらしかっただけに、この終盤での大事なところでの余計な作為が、僕には非常に気になり、聴後の感動が著しく損なわれてしまいました。

チョンが丁寧にスコアを読み丁寧に音楽づくりしていることは聴いていても充分に伝わってきただけに、チョンのマーラー3番には、素直に敬意を表したかったです。しかし、しかし。。。第五楽章から終楽章へのアタッカの無視と、終楽章の終盤での恣意的なテンポ変化。この2点は、他が良かっただけに逆に、僕にとっては致命的な打撃でした。ハンマーのような強烈な打撃。きょうは6番を聴いたのだろうか(^^;)。。。

終演後、カーテンコールが進み、ポストホルンパートを吹いた奏者が登場しました。それがなんと驚くべきことに、札響の首席トランペット奏者の福田善亮氏でした!福田さん、腕を買われて札幌から呼ばれて、助っ人で参加したのですね。福田さんは、さすがというか、当然というか、ご自分の吹かれた楽器(後日確認したところ札響の3番のときと同じC管のコルネットということでした)を持って登場され、盛んな拍手を浴びていました。

ということでいろいろな驚き尽くしのチョン・ミョンフン&N響のマーラー3番、初日でありました。






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Last updated  2011.02.25 00:11:19
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