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重松清「疾走」(上)(下)角川文庫この作品をミステリだという意見は聞いたことがない。何しろ、重松はミステリなど一度も書いたことないし、この作品は事件は起きるが、それは重松の「例外」だと捉えられているからである。しかし、この作品には「謎」がある。どきどきするような一級品の「謎」が。重松清はずーと「家族」をテーマに描いてきた。この作品は今まで小説と全然違うという印象を持つ人もいるが、私はいかにも重松らしい作品だと思う。今まで重松の小説に出てくる父親は過剰と思えるほど家族を守ってきた。しかしそれは本当に過剰だったのだろうか。もしも、一人の少年を、人を思いやる心も、年相応の知恵も、少しばかりの勇気も併せ持っている一人の15歳の少年を守るべき家族が崩壊したなら、少年はどうなってしまうのだろう。これはいままでの物語の裏返しの物語である。更に言えば、人はひとりで生きていけるのだろうか。人はなぜ生きているのだろう。なぜ人を殺してはいけないのだろう。そういう重たいテーマを引きずりながら、この作品はずーと主人公の少年シュウジのことを「おまえは……」という過去形の語りがけで綴られていく。この語り手は一体誰なのか。私は三通りの結末を考えていた。最悪と、まあまあと、最良の結末である。結果は皆さんが味わってほしいと思う。
2005年08月17日
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やっと文庫本が出ました。一気に読んだ。解説子が言っているように、この小説に限っては第一作「失踪症候群」第二作「誘拐症候群」を読んでからこの三作目に入ったほうがよろしかろうと思う。設定自体がまるで現代の「仕掛け人」なのであるが、三作目に至ってはまるで仕掛け人VS仕掛け人。というエンタメ性と、最愛の人を殺されたのに、加害者は法の網をくぐりのうのうと生きている。果たして彼らに復讐することは許されないことなのだろうか。重い問いに対して、安易に倫理的な理屈を持ち出して解決しようとしていない。その普遍的な問い。いつもながら、視点が次々と変わることによる、「何かある」と思わせる構成。傑作です。長い間待っていた甲斐がありました。ところで私、この本は三部作で完結したことになっているらしいのですが、わたしはぜひとも四作目を造ってもらいたいと思います。なぜなら主要登場人物で、ひとりだけ過去が明らかになっていない人がいるということがひとつ。失踪、誘拐、殺人、とだんだんと犯罪性が高くなってきたなら、最後まで行かないといけないでしょう。というのがひとつ。今回ひとつの罪の根源に迫ったのだとしたら、次に「敵」として相対するのは「国家」でしょう。だとすれば次の題名は決まりです。「テロ症候群」。(これだけカタカナというところにいまひとつ自信が持てない。かといって「天誅症候群」というのもなあ……)
2005年08月16日
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「電車男」鑑賞。評価は70点といったところか。思ったよりよかった(^^) ただ話があまりにもとんとん拍子に行き過ぎる。もう少し波瀾万丈があったほうがよかったかも。ただ古典的題材をだれることなく見事に料理しているし、いくつか成る程という展開もある。次回作が楽しみ。
2005年06月20日
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二子山部屋騒動というのは、もしかしたら素晴らしいミステリーなのかもしれない。昨日の昼のニュースに貴乃花がアップで出ていてびっくりしたのだが、今朝のニュースを見ていて何が起こったのかはわかった。ほっておいてもあそこの家族のことは目と耳に入ってくるのであるが、ずーと観ていてもどうなっているのかさっぱり分からない、というか、更に分からなくなる。ここにミステリーの相似性を感じる。ひとつは謎が謎を呼ぶということ。国民的人気力士の時代。兄弟の結婚騒動。兄弟の確執。親の離婚。兄の弟を想っての引退?父親の死。事件が次々に起こって、退屈しないエンターテイメントである。ひとつは、一人称の語り口であるということだ。あるときは花田勝兄。お兄ちゃんはずーと弟を立てていたのだが、父親の喪主のときだけは譲れなかった。弟の長いけんかをしてまで、喪主を勤める。最期の半年間は、本当の父と息子になれた。という。あるときは藤田典子母。通夜の席で思いつめたように言う。弟が考えを改めてほしいと。この時点で見えてくるのは弟の異常性。あるときは花田光二こと、貴乃花。自分はずっと我慢して兄を立ててきた、父親の葬式を台無しにしたのは兄とあの母親である。財産分与のこともある。真相はいったいどこにあるのか、そこから浮かび上がる、兄弟の絆とは、親子との絆とはなんなのか、普遍的なテーマが見えてくる。一人称ミステリーの面白さここにきわまれり。ところで、東野圭吾の「手紙」を図書館で借りて、今日から読み出した。現在は全体の四分の一を読んだところ。最初に弟思いの兄が、金をほしさに泥棒に入り、家人に見つかり殺人を起こす、序章だけ兄の一人称。そのあとは残された弟の一人称の物語になる。ここまではたんに兄弟愛の物語のように思える。しかし東野圭吾である。これは絶対ミステリに違いない。この調子だと「秘密」の類のミステリなのかもしれない。99%日常SFかと思うと、最後の一行で推理小説史に残るミステリになった小説である。私は東野ブランドということだけでこの本を借りたのだ。まるきり事前知識がない。図書館の本なので、帯さえない。鍵は一人称タイプの叙述であるということだ。現在の弟の気持ちはいたいほどよく分かるが、彼の回りの人間の「本当の気持ち」は謎のままである。私は今、少し現れては弟の視界から消えていく登場人物たちの「本当の気持ち」を推理しながら読んでいる。「親しげな女の子」「教科書をおいていった倉田さん」「残された遺族」そして手紙を書き続ける兄の「本当の気持ち」。果たして真相はあるだろうか。私はその真相に近づけるだろうか。小説を読むということはきっと「人生を鍛える」ということなのだろう。私の語る一人称の世界はめったに「真相」を現さない。いい小説は細部がリアルだということだ。弟は超節約生活に入るのであるが、先輩の同僚が食事に誘う。先輩は、いざ払う段になると当然のように割り勘にする。お金が足りず、先輩に200円借金する。このときの食事代が非常に痛かった。二度と先輩と一緒に食事に行かない。最近私も節約生活に入ったので、弟の気持ち非常に良く分かる。200円の借金が痛くて痛くてたまらないのである。今週読み終えた作品は「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか」(講談社)「一人前レンジレシピ」(村上祥子)「顔」(横山秀夫)
2005年06月10日
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