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2022.05.25
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テーマ: 読書(8289)
本のタイトル・作者


オードリー・タンが語るデジタル民主主義 (NHK出版新書670 670) [ 大野 和基 ]

本の目次・あらすじ

序 章 デジタルで民主主義を改良する
第1章 開かれた行政府をつくる
第2章 私はなぜ民主主義に関わるようになったのか
第3章 市民参加型の討論を実現
第4章 投票方法のアップデート
第5章 さまざまな問題をどう乗り越えるか


引用


しかしこの「グッド・イナフ」という考え方は常に、将来の世代に対して余地を残します。まだ対話の中に含まれていないけれども、これから徐々に含まれる世代に対してです。


感想

2022年128冊目
★★★★

すっかりファンになったオードリーさん。

台湾が市民参加の盛んなポータルを運用していることに他の本で触れられていたので、「それは衆愚政治に陥るのでは?」と思っていた。
しかし違う。
相変わらず目から鱗がぽろぽろ落ちる内容だった。

台湾は、走りながら考えている国。
不都合がある。困っている人がいる。
じゃあ出来る人がとりあえず始めてみる。
いろんな人が参加する。追加する。削除する。
自然と淘汰されて行く。
そうしてみんなで制度にアップデートをかけていく。

台湾だけ100年くらい先の未来を行っていないか?
そしてそれを可能にする社会的柔軟性(台湾はものすごい実力主義らしく、だからこそオードリーが異例の大抜擢を受けた)。


何よりも、閉塞感のある現代の民主主義において、原初的な理想に立ち返り、それを技術(デジタル)がサポートするという感覚。
市民の不信――お前らはどうせ俺たちを騙しているんだろう――に、政治家の不信――お前らには分からないだろう――を掛け合わせた今の政治。
それをどうすれば解消できるのか?
冒頭で、インタビュアーは「なぜこうした透明性のある相互関係にもとづいた政治が可能になったのか?」と問う。
台湾の政治は、「相互関係」に尽きる。


オードリーが指摘しているけれど、オープンデータは逆に行政府からリスクを取り除くのだ。
情報公開で検閲・編集したものを世に出すと、その編纂者は責を負う。
しかしすべてに透明性を確保し、誰でも見られる状態にしておけば、行政府は死角(それが意図的であれ無意識であれ)についての責任に怯えなくて済む。
オードリーはこれを、「十分な数の目ん玉があれば、すべてのバグは洗い出される」(アメリカのプログラマー、エリック・レイモンドのソフトフェア開発における「リーナスの法則」)と言う。
特定の、少数の誰かの目に頼るのではなく、広く世間にその目を求めること。
そのためにお互いを信頼に足る存在とすること。

台湾では、市民が政治について意見を表明できる独自のプラットフォーム、オンラインの公共インフラ「Join」を運営している。
政策を電子請願し、60日以内に5,000人以上の市民が賛成したら、政府は必ず議題に取り上げ、2カ月以内に検討結果を公表する。
このスピード感が、数年に一回の選挙では追い付かない時々刻々の問題を、政治に反映できる。
そしてこれには、未成年も参加できる。
つまり、実際の有権者とそれ以外が平等に参加できるのだ。

以前、環境問題で、トランプ大統領とグレタさんとの対比で思ったことがある。
実際に政治を運用する彼らは利権に塗れ、自分たちは逃げ切る世代だと知っている。
そうして素知らぬ顔で下の世代に負債を負わせるのだ。
それに声をあげることが何故できないのだろう?

台湾では、プラスチックストローの廃止、学校の開始時間の繰り上げなど、未成年者が問題の当事者として声をあげ、政治に参加している。

それでも衆愚政治に陥らないのは、
・実名と匿名の間の中間の名前(SNSに紐づいたアカウント)を使用
・「賛成」と「反対」のみで「返信」はない
といったデジタルの運用方法に加え、「何が問題であるのか」を徹底的に話し合う姿勢だ。

標準時刻を変える/変えないという議論が拮抗したとき、「なぜそうしたいのか」という核の部分について話し合い、双方が根底にある「台湾をユニークな国にしたい」という思いを共有し、ほかの方法をもってそれに協働する。
すごい。

台湾では、「クアドラティック・ボーティング」という方法も試されていて、投票者が99ポイントを各団体に振り分ける。
1票=1ポイント、2票=4ポイント、3票=9ポイントという方式で投票を行うこのやり方は、「結果しか分からない」という複数式の投票に「その人の次点は何だったのか」という視点を取り入れている。

台湾のクリアなこの政治体制は、過去の教訓をもとに作られた。
今もまだ試行錯誤を繰り返し、永遠に完成しない。
でも、それでいいんじゃないか。
だって問題は次々に起こり、刻々と変化していくのだから。

ひとりの人間が持てる知見には限りがある。
最終的な判断は必要だろうが、それに至るプロセスが歪んでいないとは言いきれない。
時間は有限だ。人的資源も。無意識のバイアスもあるだろう。

私たちは、その重責を負う(あるいは喜んで誤用する)人を、もう信じていない。
「どうせ何を言っても同じだ」と諦め、政治から離れて。
問題が起こった時は責任の所在を行政に見出し糾弾する。
もうそんな不毛な関係はやめにしよう、と台湾の新たな試みは言っているように思う。

私たちは現時点でのベターな判断をしよう。
誰かの声がある。
だからその解決のために、みんなの目と耳と手を貸してほしい。
余白をたっぷり残しておこう。
ベストな判断は、変わる。
一度した決断に固執するのはやめよう。
未来のために、アップデートできる改善の余地を、ゆとりを持っておこう。

走りながら考えよう。
だから一緒に走って欲しい。

なんだか、今の日本の政治は、観客と審判しかいないように思う。
その競技の参加者は、どこへ消えてしまったのか?
皆が椅子を立ち、審判の札を外し、フィールドへ下りたら。
ウォーミングアップを始め、走り出したら。
走れない人を、転んだ人を助けられるようになったら。
何かが変わるに違いない。

選手不在のルールブック作りも。
野次を飛ばすだけの不毛な行為も。
そこではきっと、意味を成さない。

幼い頃にした鬼ごっこを思い出す。
一緒に走りながら、大きな子は、小さな子にハンデをつける。
みんなが楽しめるように。

これまでの関連レビュー

オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学 [ 早川友久 ]
天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード [ オードリー・タン ]




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最終更新日  2022.12.04 00:09:06
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