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2026.02.21
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『沈黙』遠藤周作(新潮文庫)

 ……いやー、実に久しぶりに本作を再読しました。
 初めて読んだのは、多分、高校生くらいの時じゃなかったのかと思います。学校推薦の高校生必読図書か何かで知って。

 今回読もうとして、家にあった新潮社の純文学書下ろしのシリーズ、箱入りのあの本で読もうとしたら、思ったより字が小さかったので、……んー、と、ちょっと迷いまして、結局文庫本をアマゾンの古本で買ってしまいました。このほうが携帯に便利だしー。

 で、読んだのですが、読む前に思っていたのですが、とにかくめっぽう「重い」お話なんだよな、と。殉教の話ですから、罪もない民百姓が拷問を受けたり殺されたりする話ですから、重いのも当たり前でしょうが、しかし高校生の時の私は何を考えながら読んでいたのかな、と。そもそも内容の理解はできていたのかな、と。

 まー、そんなことを言えば、今回の読書でも、わたくしは本書を十分理解できたのかは、やや不安であります。ただ、読む前に重いお話重いお話、と「気合」を入れて取り掛かったわりには、結構面白く読めたように思いました。

 それは、話の展開はもちろん重いままでありますが、それを描く文体が、結構軽めのものだと思ったからであります。
 いえ、「軽め」と書いてしまえば語弊があります。平易・簡素な文体であります。

 前半は書簡形式になっていて、初めて日本に密入国した司祭が本国の教会関係者に向けて送る手紙という形をとっています。だから基本は、未知の状況を見聞き経験したままに報告しています。比喩などの修辞をさけた、この事実提示型の文体が、ドキュメンタリーの文体のような感覚で、興味深くぐいぐい読ませていきます。

 中盤以降は三人称文体に代わっていますが、ここでも語り手は事実提示型に近い文体を変えていません。やはり修辞をさけ、描く対象の価値判断をしません。
 ただ、展開がいよいよ重い部分に入ってきていますから、描く自然や極貧の人々の生活が、テーマと連動した象徴性の高いものになっています。例えばこんな感じ。

 灰色の砂がなだらかに拡がり入江に続き、空は曇っているので海は鈍い褐色を帯びている。浜を噛む単調な音は司祭に、モキチとイチゾウの死を思い起させる。あの日、海には絶え間なく霧雨が降り、その雨の中を海鳥が杭のそばまで飛んでいた。くたびれたように海は黙り、神もまた沈黙を守りつづけていたのだ。

 ……というような、手抜き読みのできない密度のある文章になっているのですが、しかし、この引用部にもある、最大のテーマである「神の沈黙」が、神学的な難解さで深まっていくわけではないというところに、筆者の小説製作上の大きな工夫があり、私はいたずらな難解さから救われていると感じました。

 それは終盤に入って(ロドリゴとフェレイラの論争あたりから)、宗教論というよりも、異文化交流の困難さの話になっている、筆者はこういう引っ張り方で難解なテーマを平易に語ろうとしている、と思ったことです。

 これは、私のような宗教的に無知(まー、それ以外の物事全般にもわたくしは無知なのですがー)な者にとってはとても理解しやすかったです。少しずつ形を変えながら、この異文化交流の困難さの記述は、終盤に向けても点在しています。短い部分をいくつか抜き出してみます。

 自分はあの連中への憐憫にひきずられて、どうしようもなかった。しかし憐憫は行為ではなかった。愛でもなかった。憐憫は情欲と同じように一種の本能にすぎなかった。

 デウスと大日と混同した日本人はその時から我々の神を彼等流に屈折させ変化させ、そして別のものを作りあげはじめたのだ。言葉の混乱がなくなったあとも、この屈折と変化とはひそかに続けられ、お前がさっき口に出した布教がもっとも華やかなときでさえも日本人たちは基督教の神ではなく、彼等が屈折させたものを信じていたのだ。

 日本人は人間とは全く隔絶した神を考える能力をもっていない。日本人は人間を超えた存在を考える力をもっていない。(略)日本人は人間を美化したり拡張したものを神とよぶ。人間と同じ存在をもつものを神とよぶ。だがそれは教会の神ではない。

 どうにもならぬ己れの弱さに、衆生がすがる仏の慈悲、これを救いと日本では教えておる。だがそのパードレは、はっきりと申した。切支丹の申す救いは、それと違うとな。切支丹の救いとはデウスにすがるだけのものではなく、信徒が力の限り守る心の強さがそれに伴わねばならぬと。

 いかがでしょう。
 私は、日本における他のクリスチャン作家と、遠藤周作との隔絶した違いの源がここにあると思います。特に、この日本人を主対象とした人間存在の弱さというテーマは、本作ではキチジローに集中的に象徴されて描かれています。

 本作品の最終部に「切支丹屋敷役人日記」という、それまでと打って変わってとても読みにくい数ページがあります。何が書かれてあるのか、私の読解力ではよくわからなかったのですが、二度読んでみて、どうやらロドリゴとキチジローが、晩年、近い暮らしをしていたことが描かれているように理解(誤読?)しました。
 私はなんだか、ほっとしました。
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Last updated  2026.02.21 16:05:20
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Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  
シマクマ君  さん
 いつも読ませていただいてます。あのせつは、本当に申し訳ありませんでした。
 岡本亮輔「キリスト教入門の系譜」(中公新書)という最近の本に遠藤周作の話もありますよ。さほど面白いわけではありませんが、参考になるかもですね。 (2026.02.22 13:12:34)

Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  
analog純文  さん
 シマクマ君さんへ。
 おや、思わぬお方からのうれしいお便り。あのせつは、恨みましたよ。(笑)
 本書は、あの会のものではありませんが、細々とあの会も続いています。
 私の読書報告の中にもいくつか入っています。
 シマクマさんのブログも拝見させていただいています。映画もぼそぼそと見ているので、シマクマさんのと重なったりして感想の違いが面白いです。(『遠い山なみの光』映画の感想をもう一つのほうに書いてるんですが、これは私としてはシマクマさんの感想を意識して書いたものです。御笑覧いただければうれしいです。)
 いろいろお考えがおありになるのでしょうが、読書を中心とした意見交換ができる場の接点が、また少しずつでもいろんな形でも、実現できればうれしく思います。ではまた。 (2026.02.23 06:46:10)

Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  
シマクマ君  さん
純文さんへ
 あたたかいお返事ありがとうございます。ホッとしました。
 ボクは映画を見ることと本を読むことだけの日々です。ブログを読んでくださる方がいらっしゃることが心の支えです(笑)。純文さんと、もう一度語り合える場ができればとてもうれしく思います。 (2026.02.23 13:02:00)

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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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