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図書館で何気なく借りた「デザインの知恵」(須永剛司)を読みました。多摩美術大学に情報デザイン学科を立ち上げた方で、現在は公立はこだて未来大学の特任教授をされているようです。「いいデザイン」というと、たとえばフェラーリのかっこいい車とか、おしゃれな洋服とかが頭に浮かびます。しかし、情報デザインはそれらとは違います。本書の冒頭に「情報デザイン」の説明があるのですが、正直なところ、この部分がわかりにくかったです。私なりに理解した範囲でまとめてみました。まず、情報デザインは須永の言うところの「言葉の道具」と密接に結びついている概念です。道具というと、鉛筆とかノコギリのようなものが浮かびますが、「言葉の道具」はそれらと違い情報のやり取りのために用いられるSNSやカーナビのようなものをさします。鉛筆やノコギリのような道具は、使い手が文字を書くとか、木を切るといったことに使われます。デザインによってそれらの機能が生み出されているのですが、道具を使う人にとっても変化しうると須永は説明しています。鉛筆でいえば、線や文字を淡々と書くこともあれば、スケッチで影をつけるためにサーッと斜めにすべらせたり、ドットをたくさん打ったり、といろいろな使い方があるということでしょうか。そうすると、作り手の想定しているデザインに対して、使い手にとってのデザインのあり方は異なっているということになります。情報デザインについても、須永はデザインの作り手と使う側との関係を強調しています。カーナビであれば、目的地をどのように入力して、その後の案内によってどう誘導されてゆくのか、情報の受け手との関係がデザインの基盤になるのはよくわかります。スマホが多くの機能をもつようになり日々の暮らしで情報を求めるようになりました。そんな現代ではたしかに情報デザインが非常に重要になっていますね。 本書の後半では実例を挙げて、情報デザインをつくりあげるプロセスや、発展性について説明しています。「一つの答えではなく多様性を求める」、「まずは実際に試してみて、その関わりの中で洗練させてゆく」というアプローチが、デザインの分野では基本となるようです。現在の自然科学ではこれとは正反対のアプローチをすることが普通です。まず、各研究者は「正しい答え」に到達しようとするでしょう。たとえば「ある薬が効くか効かないか」を研究している科学者が、「実験をして効いたり効かなかったり、いろいろな結果になったけれど、この多様性が素晴らしい」と学会で発表したら袋叩きにあいますね。また、自然科学では、実際に試してみる前に論理的に道筋を絞って実験計画を練ってゆくプロセスも重視されます。なるべく無駄な費用や労力をかけたくないためです。情報デザインを洗練させるアプローチでは、あるゴールにたどりついても別のゴールがないかと次々と考え始めるのだそうです。そのプロセスの中でよいものを探してゆくのですね。また、まずは作品を作ってみて、それが良いかどうかを試行したり、その体験からよりよい別の作品に改良したりするということです。もちろん自然科学にすべてあてはめることが良いわけではないですが、短時間で結果を出すように効率を強く求められる今の日本の研究環境だと、新しいアイディアは生まれにくいと思いました。本書に近い考え方の本として、少し前に読んだ太刀川英輔の「進化思考」も面白かったです。建築などを手掛けるデザイナーなのですが、生物の進化と同じプロセスを利用してより多様な考えを生み出すことを提案しているのです。生物の中には、機能的に洗練された仕組みがたくさんある一方で、一体どうしてこんな形になったのか謎に満ちた種も多くいます。しかし、そういう多様性が面白さや美しさ、気づかなった機能につながってゆくのでしょう。堅くなった頭をやわらかくしてアイディアを発想してゆきたいですね。
2025.03.30
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土曜日ですが、とても寒い一日でした。こんな日は、逆に町に出る人が少ないのではないかと思い、午後からふらっと恵比寿の東京都写真美術館で開催されているロバート・キャパの写真展を観に行ってきました。「戦争」がテーマです。第一次大戦、スペイン内戦、日中戦争、第二次大戦、イスラエルの建国、ベトナム戦争・・・とキャパがそれぞれの現場で危険にさらされながら撮影した写真の数々が展示されています。中には、戦争というテーマを見なければ、まったく戦争の影を感じさせない写真もあります。しかし、そのすぐ隣りにはおびえた目をした子供たちの姿や、捕虜となった兵士たちの姿など、まさに戦争の現場を感じさせる写真もあります。戦争の中でも日常の生活を送ろうとしているのか、戦争自体が日常の風景になっているためなのか、いずれにしてもテレビニュースから流れてくる映像を見るよりも、むしろ戦争の現場にいる感覚を持ちました。5月11日まで。今日は空いていましたが、事前にインターネットでチケットを買っておくのがよいようです。なお、新宿や池袋にも寄りましたが、すごい人出でした。天気は悪いですが春休みの週末なので、皆さん町に出るのですね!
2025.03.29
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上野の西洋美術館で開催されている「西洋絵画、どこから見るか?」を観てきました。ルネサンスから印象派まで・・とサブタイトルがついているので、広く浅く、あまり絵画のことを知らない層向けの展覧会かと思っていました。詳しい人にとっては実際に、そうなのかもしれませんが、私にとっては十分に解説が難しかったですね。サンディエゴ美術館と国立美術館のコレクションにより、それぞれの時代背景や人物、風景の描き方の変化をみてゆくという内容でした。宗教画でも、人物を強くデフォルメしていたり、強い明暗でドラマチックにしていたり、とてもやわらかいイメージにしたり…といろいろなバリエーションがあるのですね。とても作者や絵の名前と組み合わせては覚えきれませんが、そんなふうに「さまざまな絵」というのを楽しみました。平日とはいえ、春休みかつ桜の開花で上野公園は混雑していました。しかし、特別展はそれほど混雑もなく、ゆっくり観られました。出品点数がとても多い気がします。それほどゆっくり観たわけではないのにたっぷり2時間半はかかりました。
2025.03.26
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<<完全にネタばれを含みます>>アカデミー賞を取ったANORAを観てきました。ストリッパーの女性が、大金持ちの御曹司と恋に落ちるストーリーですが、そのままうまくいくはずもなく、波乱が待っています。ロマンスあり、コメディあり、アクションありと、とても楽しめました。主役のマイキー・マディソン、激しい浮き沈みのある性格を表情豊かに演じていました。素晴らしいです。しかし、いくつかのサイトで観客の評価はかなり分かれていました。「主人公にまったく共感できない…」という意見があります。そうかもしれません。とくに男の目線で描いている感は否定できないですね。それでも私がこの映画を評価するのは、人間の汚さとか、ずるさ、どうにもできない貧富の差とかを出しつつ、救いがラストシーンにあることです。ニューシネマパラダイスが好きなのですが、その最後の感覚に近かったですね。ANORAが最後に惹かれた相手がロシア人だったことも、私にとって納得できたところでした。今ほど関係が悪くなる前、ロシア人たちと一緒に寝泊まりして仕事をしたり、飲んだりしたことがあります。彼らは日本でのイメージほど悪い人たちでもありませんでした(もちろん悪い人もいるでしょうけど)。ふだんは無骨で寡黙なのに、お酒が入ると陽気になったり、さりげない優しさを見せたりするのです。また昼に仕事をすると、とんでもない馬力を見せたり、整備士でもないのに車が壊れたら自分で部品を交換して直したり…。そんな私のロシア人男性イメージに、映画に出てきた彼がぴったりはまっていたのでした。なお、R18指定で性的なシーンが多く出てきます。気まずくなる関係の人と一緒に行くのは避けた方が無難でしょう。
2025.03.15
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以前に袴田巌さんの冤罪について書きましたが、ふたたび冤罪のニュースがありました。福井県で1986年に起きた女子中学生の殺害事件です。顔を中心に何十回も刺されていたという凄惨な事件でした。半年後に容疑者として逮捕されたのは近くに住んでいた前川彰司さんです。しかし、実際には中学生と面識もなくまったく無実だったのですが、収監されていた暴力団関係者が自身の罪を軽くするために誘導されて嘘の証言をしたことが逮捕の原因でした。あとは他にも証言を誘導された人がいたこと、現場で発見されたという毛髪数本(これも本当に出てきたものか怪しいです)の鑑定結果で、有罪となり7年間服役しました。自白せずに一貫して無罪を主張してきましたが、長らく再審も認められませんでした。しかし、裁判官の中にきちんとした方がいたのでしょう。検察に証拠の開示を迫って確認したところ、証言の中に明らかに事実とは異なる内容があることがわかりました(証言者が事件当日に放映されていたというテレビ番組が事件の1週間後のことだった)。検察がこれまで隠していたのはその自白が証拠として誤っているのを知っていたためです。メンツを守るためなら冤罪で人生が壊される人がいてもかまわないのでしょうか。別の冤罪の記事もありました。1974年に兵庫県西宮市の知的障がい児施設「甲山学園」で園児2人が亡くなった事件について現代ビジネスの記事です。立て続けに園児2人が行方不明となり、浄化槽から死体で発見されました。警察は容疑者として保育士の女性を逮捕しました。遺体の発見時に動揺をみせたというだけで逮捕され、その後は自白の強要と捜査官の誘導などでストーリーをつくってしまったのです。実際には、浄化槽のふたをあけて入れるようになっていたため、園児たちが時々中に入って遊んでいて起きた事故だったようです。莫大なエネルギーをかけた再審を経て無罪が確定したのが1999年、この間に保育士のアリバイを証言した園長らも偽証罪で逮捕されるなど、いったん作ってしまった事件のつじつまをあわせるためには権力はほんとうに恐ろしいことをしてきます。警察もそうですが、さらに検察や裁判所が過ちを犯すとそれを正すのは容易ではありません。少し明るい兆しは、ネットの普及でこういう冤罪事件のことが国民に知られやすくなったことでしょう。そのためにも、報道関係者が勇気をもって真実を伝えることに期待します。
2025.03.07
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映画館が家から近いということはいいですね。夜11時までのナイトショーでも気軽に観に行けます。そんなわけで、最近観た2本の映画の感想です。(ネタバレありです)「TATAMI」★★(5段階)イランの女子柔道選手が国際試合にのぞもうとしているにもかかわらず、イスラエルとの対戦を避けてほしい国の思惑に翻弄される物語です。実話をベースにしたのだそうで、モノクロのカメラワークや試合のシーンは迫力がありました。しかし、映画の視点が反イラン一辺倒と偏っていて、淡々とストーリーが進んでしまい何も引っかかるものがありません。イラン政府にとってこの選手の出場を避けたい理由が見えてこないのです。選手を指導する女性監督や選手家族がキーになりますが、その背景も心情に迫る演出も少なく、伝わってきません。残念ながらイマイチでした。「愛を耕す人」★★★★こちらも実話がもとになったストーリーです。18世紀のデンマークを舞台に、不毛なヒースの地を開拓しようとする初老の男が主人公。自身の利権を守りたい地主やその地主から逃げ出した小作人夫婦、地域に暮らしていたタタール人の少女など、開拓を進めるうちにいろいろな人々との関わりが起きてゆきます。悪役も含めて、それぞれの役者が実にいい演技をしています。そのおかげで心のふれあいやぶつかり合いが生き生きと感じられました。いい作品でした。
2025.03.06
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Amazonプライムで地獄の黙示録(ファイナルカット)を観ました。(40年以上前の作品なので問題ないかもしれませんがネタバレを含んでいます)小学校時代に大ヒットした映画で、兄が観たがったため叔父夫婦に連れられて私も一緒に劇場で観ました。調べてみると、そのとき劇場で上演されていたのは30分ほど短いバージョンのようです。それでも2時間以上はありました。3年生か4年生だったと思いますのでほとんど理解できませんでした。おそらく叔父も見かねたのでしょう。途中でいったん外に出て喫茶店で何かを食べさせてもらったのを憶えています。そんなわけで戦闘シーンと最後にウィラードがカーツ大佐と話す気味の悪いイメージだけしか頭に残っていませんでした。ファイナルカットは劇場公開版より30分くらい長いバージョンで、フランシス・コッポラ監督がもっともよい仕上がりと考えているバージョンだそうです。さて、理解できる年齢になって観た印象は…。カーツ大佐と出会うまでに描かれていたシーンから、ベトナム戦争の不毛さやウィラードが狂気に進んでゆくプロセスはよく理解できました。しかし、最後のカーツ大佐と交わされる会話はとても難しかったです。立花隆の解読「地獄の黙示録」とコッポラの妻、エレノア・コッポラによる地獄の黙示録撮影全記録を図書館で借りて読んで、少しわかってきました。コッポラ自身が悩みに悩んでいろいろなシーンをとりため、それを組み合わせて作っていたのです。一貫したわかりやすい流れでつくられたものでない上に、それぞれのシーンの背景にもいろいろな思想やアメリカ人にとっての伝統的な知識などが必要な内容もあるので、とくに日本人には理解しにくいものなのでしょう。ただ、最初から最後までの全体を通じてみると、映画としてはやはり面白いと思いました(単純な感想!)。
2025.03.06
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