月夜茶会

月夜茶会

2008.09.23
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●桜井美奈子の日記より

 昼休み。
 水瀬君が考え込んでいた。
「どうしたの?」
「うん。これ拾ったんだけど」
 水瀬君が手にしているのは、銀色の輪―――指輪だ。
 宝石も何もないけど、精緻な彫刻が施されていて、かなりキレイ。
「結構高いんじゃない?」
 宝石とか貴金属には疎い私の目にも、それが「高い」ことはわかる。

「使い道がないし……捨てちゃおうかなって」
 水瀬君は、そう言うのだ。
 信じられない。
「もったいないじゃない。何?シルバーでしょ?これ」
「ううん?銀なら僕が持てない。これプラチナだよ?」
「もっと高いじゃない」
 触っていい?
 水瀬君に許しを得て、私も手にしてみた。
 触った途端、何かピリッとしたショックが走ったけど?
「水瀬君、これって?」
「うん。何か呪いがかけられているのは確か」

 どこの世界に呪われた指輪を女の子に渡すバカがいるの!?
「やっぱり、捨てた方がいいかな」
「鋳潰したら?呪いも消えるんじゃない?」
「プラチナは融点高いから鋳潰すの難しいんだよねぇ……しょうがないか」
 水瀬君は机の中に、指輪をしまいながら呟いた。

「人に売ったらダメ!どこか、迷惑にならないところにでも埋めちゃないさい!」
「……せっかくお金になるのに?」
「そういうもんじゃないっ!」
 ……水瀬君、最近、セコい。


 私が瀬戸さんに話しかけられたのは、4時限目の体育が終わった時、更衣室でのことだ。
「お願いがあります」
 開口一番、瀬戸さんはそう言った。
「5時限目は幸い自習です。水瀬君を教室の外へ連れ出してください」
 意味がわからない。
「私に授業をサボれと?」
「そうです」
 ちょっと待って欲しい。
 5時限目の佐藤先生は出欠席の管理にはうるさいんだ。
 自習とはいえ、サボったことが知れたら。
「水瀬君はすでに協力を取り付けています」
「ど、どうやって?」
「言うこと聞いてくれなきゃ怒ると言ったら二つ返事です」
「……」
「桜井さんも、お願いします」
「……あ、あのね?」
 水瀬君は暴力で、
 私は何で動かすつもり?
 断って置くけど、私は報道を志す者。
 当然、暴力やお金に屈するつもりはない!

「先のコミックマーケット78、BL系壁際サークルの新刊を全部」

 やっぱり、友達の頼みだもんね。任せて瀬戸さん!

「言ってくれると思いました」

 私達は、ダイヤより固い握手を交わした。



 五時限目が始まる直前、水瀬君と私は教室を抜け出して図書館の奥、資料室にいた。
 閉架図書の棚が並ぶ奥のさらに奥。
 こんな所に部屋があること自体、ほとんどの生徒は知らないだろうって場所だ。
 机1つと棚、それとパイプ椅子、体育倉庫から盗んできたのは明白なマット。
 後は冷蔵庫と、その上に雑然とお茶の道具が並んでいるだけ。
 本当に殺風景な部屋だ。

「よくわかんないんだよね」
 そんの部屋でお茶を入れてくれながら、水瀬君は首を傾げた。
「普段なら、授業サボると怒るクセに」

「そう……だよね」
 瀬戸さんは仕事でもマジメで売っている清純系だ。
 どんなに忙しくても、時間さえあれば授業はちゃんと受けるし、居眠りしてるところなんて見たことがない。

 そのマジメな瀬戸さんが、私達にサボれときた。

 何故?

「桜井さんでも、おかしいと思う?」

「当然」
 私はお茶を受け取りながら頷いた。
「よりにもよって、その相方は私よ?私と一緒にサボったなんて知ったら瀬戸さん、斧かチェーンソーでも持って水瀬君を探し回るでしょ?」

「……考えただけでゾッとする」
 水瀬君はお茶に口を付けながら言った。
「このお茶が末期の水に思えるくらい」

「でしょ?切り刻まれて富士の樹海か、コンクリ詰めにされて葉月湾か」

「……僕の死体をどう処理するかは考えなくていいよ」
 水瀬君は小声で言った。
「大体、その程度で済めば……どれほど……」

「心当たりはないの?たとえば、5時限目に教室にいてもらっちゃ困る理由とか」

「……うーん」
 水瀬君はまたも首を傾げた。
「理由なんて、思い浮かばないけどなぁ……」

 ああでもない。こうでもない。可能性を探した挙げ句、
 この部屋におびき寄せて私達を爆死させるつもりかもしれない。
 爆発物が仕掛けられている可能性は?
 ううん。毒ガスかも。
 細菌兵器の可能性は?
 そんな話になって、二人でおっかなびっくり部屋の中をあちこち調べ始めた頃だ。

 ピーピーピー

 携帯の呼び出し音に二人して飛び上がって驚いた。

 し、心臓、止まるかと思った。

「ご、ごめんね?」
 水瀬君が慌ててポケットから携帯を取り出す。
「……あれ?」

「どうしたの?」

「おばあちゃんからメールだ」

「?」

「……へぇ?おばあちゃん。メールなんて使えたんだ……あ」

「何かあったの?」

「あの指輪の呪いの意味、わかった」

「へっ?」

「……うわ。どこの誰だろ。こんな意地の悪い呪い作ったの」

「何?そんなにイヤな呪いなの?」

「うん。女の子限定で」

「女の子、限定?」

「うん……男ならどうでもいいような、でも、女の子なら100%を敵に回せそうな呪い」

「……指輪?」

 あれ?
 そういえば、綾乃ちゃん。
 お昼に何していたっけ?
 ご飯食べ終わって、水瀬君が机で指輪を見ていた時……。

 そう。

 教室にいた。

 つまり―――

「水瀬君っ!」
 私は怒鳴った。
「と、とんでもないことになったかも!!」


 キーン
 コーン
 カーン
 コーン

 5時限目の終了を告げるチャイムが鳴ったのは、まさにその時。
 私達は、大慌てで教室に走り出した。






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最終更新日  2008.09.23 17:09:09
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