月夜茶会

月夜茶会

2008.09.23
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 5時限目で終わりの今日。
 クラスのみんなが荷物をまとめて教室から出ていこうとしていた。

「綾乃ちゃん!?」
「瀬戸さん!?」

 ……クラスに飛び込んだ時には遅かった。

 自分の机に座ったまま、うっとりとした目で瀬戸さんが見つめるのは―――

「あ……あああっ!」
 水瀬君は卒倒寸前。

「つ……つけ……ちゃった?」


「悠理君―――いただいちゃいました」

 本当に細くてしなやかな指にはまっていたのは―――あの指輪だ。

「本当は、悠理君にはめてほしかったのですけど……」

「……あ」

「指輪は本来の意味で私がいただきます。桜井さん?恨みっこなしですよ?」

「べ……別な意味で恨まれそうなんだけど」
「私は……恨みはしないわ……その、気の毒がるけど」

「?」


 全て、何が悪いかといえば―――

 学校に指輪を持ってきた水瀬君が悪い。

 そういうことになる。




 瀬戸さんがまず考えたのは、自分に水瀬君がプロポーズしてくれるという(瀬戸さん限定で)人生の幸せ絶頂イベント。
 でも、水瀬君が指輪を私に平気で渡したことでそれは打ち消された。

 次に考えたのは、水瀬君が私にプロポーズする。

 それはそれで私も困る。
 私にだって心の準備というか、結婚までは清いおつきあいでいたいし、何より卒業まで結婚は約束だけで十分幸せだし、その……って、私、何言ってるんだろう。


 最後に思いついたのは、「別なオンナにプロポーズするつもりでは?」ということ。
 瀬戸さんは断固、これを阻止しようとした。
 軽機関銃では火力が弱い。
 もっと強力な火器がいる。
 瀬戸さんは自らの武装の弱さを嘆き、現有戦力で最も有効な戦果を挙げる方法を考えた。

 とにかく、プロポーズを阻止する。

 どうする?

 プロポーズのアイテムを奪う。

 これだ。

 本来なら、プロポーズされるのは(自称)婚約者の自分だ。
 だから、この指輪の本当の所有権も自分にある。
 所有権が自分にあるなら、奪おうが何しようが私の勝手。

 それが瀬戸さんの論法であり、行動原理だったんだけど―――


「ど、どうしたんですか?」
 私達は、瀬戸さんをさっきの部屋へ連れ込んだ。
「ゆ、悠理君?あの……ベッドがそんなマットというのはちょっと……それに、オジャマ虫も」

 ……言ってくれるわ。相変わらず。

「綾乃ちゃん」
 水瀬君は、どこからか一升瓶を取り出し、コップに並々とお酒を注いだ。
「気付け薬の代わり。まずはぐいっと」

「そ……そうですか?あの……初めてはやっぱり痛いということですね?それで、コレにみせつけてやると?わ、私、露出の趣味は……でも、いい気味ですから、恥ずかしいですけど、協力します」

 こ……殺してやろうか。このド貧乳アイドル。

「問題は、その指輪……なんだけど」

「あっ」
 瀬戸さんははにかみながら指輪をさすった。
「宝石が就いていないことなんて、私は気にしません。大切なのは心です」

「……」
 逆に水瀬君が一升瓶をラッパ飲みした(こらっ!)。
「瀬戸さん……その指輪なんだけどね?」

「わ、私のものですっ!」

「欲しければあげる……そう言いたいけど、その指輪はね?」
 水瀬君、覚悟を決めたらしい。



「―――実は、呪いがかかっているんだよ」



「呪い?」

「そう」

「ああ!」
 瀬戸さん、ポンッと手を叩いた。
「幸せになれるっていう!?」


「……一部が、体の一部がね?」
 瀬戸さんを無視する形で、水瀬君が言った。
「成長するのを阻害する呪いがかかっているの」

「―――えっ?」

「とりあえず―――かけつけ一杯」

 ……あ、ああっ!
 瀬戸さん、そんな一気飲みしなくても!

「……な、何が、どう……そ、阻害されるんですか?」

 水瀬君が、心底辛そうな顔をして自分の体の一部を叩いた。




 ……大変だった。

 うそです!
 そんなのあんまりです!
 どうして私が!?

 わんわん泣いて泣きまくる瀬戸さんをなだめすかしてやっと家に帰ったらもう10時過ぎ。
 瀬戸さん、すごい泣き声なんだもん。まだ耳がキーンってする。
 気分転換にお風呂。
 服を脱いで、鏡に映った自分の体を少しだけ眺めてしまう。

 ……そうか。

 私は少し自信がある。
 対して瀬戸さんが全く自信がないどころじゃない部分に視線がいく。
 女の子にとってそれはショックだろうなぁ……。


 本当に気の毒だと思う。
 きっかけは自業自得だけど、これはあんまりと言えばあんまりだ。
 ……
 まぁ。私から言わせてもらえば、今のまま一生いてもいいんじゃない?
 どうせそれ以上悪化はしないんだろうから、瀬戸さんの場合。
 それが、本当に正直なところだ。


 水瀬君は、そんなモノを拾った責任をとる形で、呪いの解除方法を見つける約束をしていたし。
 ……失敗したら責任とって婚姻届にハンコを押すっていう約束もさせられた以上、水瀬君には意地でも解除に成功して欲しい。



「美奈子ぉ」
 廊下からお母さんの声がする。
「明日、早いんでしょぉ?」
「うん。6時には起こして。電車あるから」
「一人で取材旅行なんて大丈夫?あの水瀬君って男の子でも」
「水瀬君は忙しいの」
「泊まりだったらお父さんは反対するけど、お母さんはあんたの味方よ?……どうなの?本当のところは」
「お母さんっ!」

 湯船につかって、ゆっくり考える。
 明日は仕事。
 河内時雨の慰霊碑写真に収めて、聞き込みやって……。
 はぁ。
 忙しいなぁ。

 いけない。
 終わったら、瀬戸さんに励ましのメール送らなくちゃ。

 文面は……こんなんでいいか。

 瀬戸さんへ。
 おっぱいの成長がとまる呪いにかかって、ショックだと思うけど(ザマみろ)
 気にする必要ないよ(それ以上貧しくならないんでしょ?)
 瀬戸さんは瀬戸さんだもん(貧乳は貧乳だからね)
 水瀬君も頑張ってるし(迷惑って言葉、知ってる?)
 私も応援するから(解除に失敗することをね)
 だから、頑張って!(さっさと諦めて水瀬君の前から消えろ!)

 ……こんなところか。
 カッコの中は何か?
 関わっちゃいけないことって、世の中にはあるのよ。
 そういうこと。
 わかる?







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最終更新日  2008.09.23 17:09:50
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