フリーページ
(聞き手・松島佳子)
――憲法は武力行使をどう定めているのか。
「9条の前提として98条2項があり、前文がその意義を示す。前文は憲法全体の趣旨や理念を示したもので、『なぜ憲法に従って統治すべきか』を説明している。戦前の大日本帝国憲法は『神様の子孫である天皇が定めた』ことを憲法に従うべき理由としたが、戦後の日本国憲法は『国民主権の原理により定められたこと』を憲法の正統性の根拠にする」
「国内向けの正統性を示すのとは別に、国外向けに正統性を示すことも大事だ。前文は『国際協調主義』を示し、これを受け、98条2項に国際法を遵守すると書いている。ここまではどこの国でも当たり前だ。その上で9条は、過去の大戦を反省し、侵略を行わず、平和主義を実現することをうたっている。9条は侵略の反省を踏まえ、『国際法で認められた範囲よりも、武力行使の幅を狹めた規定』と解釈されている」
――国際法と憲法はどう関係するのか。
「国際法のルールは憲法の前提にある。現在の国際法は武力行使を原則禁止しており、行使が認められるのは国連の安全保障理事会が決議した場合と、個別的自衛権ないし集団的自衛権で正当化される場合だけだ。日本政府は『日本への武力攻撃があった場合、防衛のために必要最低限度の武力行使は例外的に許容される』という立場で、個別的自衛権の行使を認めている。一方、集団的自衛権は、国際法上は主権国家として行使が認められているが、9条によって禁じられている」
――日本が平和を構築するために、9条はどんな役割を果たしてきたのか。
「二つの役割を果たしてきた。まず、 国外での紛争に武力を行使させなかったことが、法的に一番大きな役割とされている。9条がなければ、ベトナム戦争で米国や韓国と一緒に地上軍を派遣し、イラク戦争でも米国や英国と共に空爆するなどしていただろう」
「もう一つは理念の部分。戦争や武力行使は何らかの自己拘束をかけないと拡大しがちだ。例えば1970年代、冷戦下にあった米ソの緊張が緩和し、核軍縮が進んだ。具体的な脅威が想定しにくい時代には、あらゆる事態に備えようとかえって軍拡が進むことがある。そういうときでも 日本は『備えは必要最小限でなければならない』と防衛費を国内総生産(GDP)1%にとどめ、武器輸出も禁止してきた。それらが9条に具体的に書いてあるわけではないが、政府も国民も『自己拘束が必要』というルールを作ってきた」
――自己拘束は今も効いているのか。
「効いている。今回の米国やイスラエルによる武力行使は国際法違反だろう。米国もイスラエルも正当な自衛権を行使していないとなると、それらの国と共に武力行使をすれば国際法違反の侵略になってしまう。日本政府を国際法の遵守に向かわせたのは、武力行使に極めて慎重な国民の意識で、それを象徴するのが9条なのだろう。ロシアも米国も憲法に国際法を守ると明記しているが、遵守しているとは言い難い。平和主義の条文は存在するだけで効果を発揮するのではなく、『条文を真剣に受け止めるべきだ』という認識が浸透して初めて機能する」
――立憲主義を支える仕組みとして9条が果たしてきた役割はあるか。
「戦争をしないことが立憲主義の前提にあるというのはその通りだ。平気で戦争をする国は統治が乱暴になり、人権は弾圧されるようになる。戦争は、外国に兵隊を派遣して爆弾を落とすだけでできるものではない。反戦運動やデモを抑圧したり、徴兵しやすいように職業選択の自由を制限したりするなど、国内のあらゆる権利や自由を制限して戦争を遂行する。立憲主義と戦争は非常に相性が悪い」
――国際社会が「法」から「力」による支配へと傾きつつある。
「現状を認識するのは大事だが、『国際秩序を回復させるのは無理』と諦めるべきではない。認識と放置は別だ。私たちの選択一つ一つが重大な意味を持つことを認識し、正しい情報を入手し、日本、米国、イスラエルが行っていることをきちんと評価することが重要だ。私たちの選択が10年後、20年後の日本の姿につながっていく」
<きむら・そうた> 東京都立大教授、憲法学者。著書に「憲法という希望」(講談社現代新書)、「自衛隊と憲法 第3版 危機の時代の憲法改正11の論点」(晶文社)など。
昭和100年記念式典(22日の日記) 2026年05月22日
立憲主義の蹂躙、今も(20日の日記) 2026年05月20日
対米追従から脱却を(19日の日記) 2026年05月19日
PR
キーワードサーチ
コメント新着